やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

発刊にあたって
 遺伝子関連検査等の先進的検査をはじめ検体検査の結果は,患者診療において診断の確定と治療方針の決定を左右する.そのため,検査システムの精度保証はきわめて重要である.諸外国では法令等により精度管理基準が定められているが,わが国では医療機関内で自ら実施する検体検査の品質・精度管理の基準と規定は定められていなかった.
 そのようななか,ゲノム医療の実現を推進するための議論をふまえて,検体検査の品質・精度確保に係る医療法等の一部改正(法改正)と,それに伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令(省令改正)が2018年12月1日に施行された.法改正の施行に先立ち,厚生労働省令等の法規制の具体案について検討がなされた.医療機関が自ら検査を実施する場合に,すべての医療機関に義務または努力義務として求めるものとして,管理組織に加え,標準作業書の作成,作業日誌の作成と保存,内部精度管理の実施,外部精度管理調査の受検や研修の実施が基準として設定された.また遺伝子関連検査等を実施する場合に追加的に設定する基準として,責任者の配置,内部精度管理の実施,外部精度管理調査の受検,研修の実施に加え,検査施設の第三者認定の検討がなされた.
 わが国の臨床検査の歴史ではじめて,医療機関が自ら実施する検査の品質に関する基準と規制が定められた.臨床検査にとって,大きな変革の時代を迎えたのである.検体検査の品質・精度確保を通して,良質で安全な医療へのいっそうの貢献が求められる.
 一方,その環境・体制整備は十分な状況にない.今回の法令改正では,検体検査の品質・精度確保について医療法と臨床検査技師等に関する法律(臨検法)の一部改正が行われたものの,その他の臨床検査業務に関する既存の法律で規定されている内容にはふれていない.厚生労働省医政局長の通知による疑義解釈において述べられているように,臨床検査業務の遂行においては,たとえば感染症法や個人情報保護法といった多くの法律を併せて遵守することが求められている.
 そこで本書では,検体検査の品質・精度確保に係る医療法等の改正において,検査従事者に必須の知識を整理することとした.まず法整備の概要(検体検査の新たな分類,及び医療機関が自ら実施する検体検査,医療機関が業務委託する衛生検査所における検体検査,遺伝子関連・染色体検査それぞれの品質・精度確保について)をまとめ,続いて検体検査の各領域における精度管理の実際と環境整備,標準作業書と作業日誌・台帳の作成方法,さらには検査業務と関連する法律の留意点について解説いただいた.
 本書は2018年に出版された同名タイトルの「MEDICAL TECHNOLOGY」臨時増刊号が好評につき,書籍化されたものである.書籍化にともない,法改正後の変更点もふまえて一部内容のアップデートを行った.
 これからの臨床検査の新しい時代を生き抜くには,検体検査の精度確保の基礎と実践的な知識のみならず,関連する法律等についても正しい理解と実践が必要である.検体検査の日頃の実践における品質・精度確保のための参考書として,本書を活用いただければ幸いである.
 2020年9月
 月刊『Medical Technology』編集委員会
 東海大学医学部教授 基盤診療学系臨床検査学 宮地勇人
 発刊にあたって(宮地勇人)
01 検体検査の品質・精度確保に関する法整備の概要
 1.検体検査の品質・精度確保に係る医療法等改正の経緯と意義(宮地勇人)
 2.検体検査の新たな分類(丸田秀夫)
 3.医療機関における検体検査の品質・精度確保(大西宏明)
 4.衛生検査所における検体検査の品質・精度確保(田澤裕光)
 5.遺伝子関連・染色体検査の品質・精度確保(宮地勇人)
02 内部精度管理の実際
 1.微生物学的検査(西山宏幸)
 2.免疫学的検査・免疫化学検査(曽根伸治)
 3.血液学的検査(鶴田一人・森 沙耶香・川元康嗣・長谷川寛雄・蛹エ克紀)
 4.病理学的検査(平田勝啓)
 5.生化学検査(小野佳一・矢冨 裕)
 6.尿・糞便等一般検査(菊池春人)
 7.遺伝子関連検査(糸賀 栄)
 8.染色体検査(井戸田 篤)
 9.POCT検査(〆谷直人)
03 標準作業書および作業日誌,台帳の作成法
 1.標準作業書および作業日誌,台帳の基本(関 顯)
 2.標準作業書および作業日誌,台帳の書き方(関 顯)
04 法改正における環境整備
 1.測定者の資格認定制度(三村邦裕)
 2.外部精度管理の現状と課題(高木 康)
 3.施設認定の現状と課題(下田勝二)
 4.先進医療と遺伝子関連検査(登 勉)
 5.標準化とハーモナイゼーション(細萱茂実)
 6.基準範囲と臨床判断値の違いの正しい理解に向けて(康 東天)
 7.難病領域における検体検査の精度管理体制の整備に関する活動(難波栄二)
05 関連する法律と検査業務
 1.臨床検査技師等に関する法律(丸田秀夫)
 2.感染症法(福地邦彦)
 3.廃棄物処理法(下 正宗)
 4.個人情報保護法(中前美佳)
 5.健康保険法(東條尚子)
 6.毒物及び劇物取締法(大島利夫)
 7.労働安全衛生法(池山真治)
 8.医薬品医療機器等法(望月克彦)
 9.医師法(佐々木 毅)
 10.医療法(堤 正好)

 検体検査の品質・精度確保に係る医療法等の補足解説 宮地勇人

 資料
  医療機関,衛生検査所等における検体検査に関する疑義解釈(Q&A)の送付について
  衛生検査所指導要領

 COLUMN
  (1)『遺伝子関連検査 検体品質管理マニュアル(パート2)』(竹田真由)
  (2)ゲノム診療用病理組織検体取扱い規程(畑中 豊)
  (3)がん遺伝子パネル検査(松下一之)
  (4)バイオバンクと国際連携(鶴山竜昭)
  (5)偶発的所見と二次的所見(IF/SF)(藤田和博)