やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 本書は,月刊『Medical Technology』2012年7月号(40巻7号)から2014年6月号(42巻6号)に「楽しく解いて好きになる!心電図トレーニングクイズ」として連載された24問のクイズに新たに6問を追加し,30問のクイズ形式の書籍として再構成しました.
 本書は,心電図波形の基本的な読み方をクイズ形式で楽しく学ぶことができる内容になっています.クイズの答えを実際に考えて解く,さらに解説を読むことで,自然と心電図判読のプロセスや方法,ポイントが身につくことを目的として執筆しました.単に心電図について解説するのではなく,心電図判読時に必要な心電図の計測方法,たとえば心拍数,電気軸,STやQTなどの計測の仕方も記載しました.また,鑑別が必要な心電図波形も豊富に掲載しています.
 私が生理検査室で患者さんの心電図を記録しはじめたのは1988(昭和63)年頃です.その当時の心電計は熱ペン直記式で,感熱紙に3誘導ずつ記録していました.まず習ったのが心電図に校正曲線を入れることです.頻拍だと基線(T波の後と次のP波の前)に校正曲線が入らず,タイミングを逸している間に長〜い記録になって苦労したことを覚えています.次に習ったのが心拍数の計測法です.今の心電計とは異なり心拍数は出ませんので,記録しながら心拍数を概算します.先輩技師の計算の速さには驚きました.心電図は台紙に貼って患者さんに渡していましたが,台紙に貼った残りの心電図の切れ端を大事にとっておいて,仕事が一段落ついたらテキストと照らし合わせたり先輩に聞いたりして勉強したものです.その頃は心電図関連のテキストも今ほど豊富にはありませんでしたが,当時の私のバイブルだった『図解心電図学』(金芳堂刊)を何度も読み返した記憶があります.こうして苦労しながら何とか少しずつ心電図が読めるようになりました.
 本書には,これまで私が得た心電図判読のknow-howを盛り込み,学生や検査技師の皆さんをはじめとして,これから心電図を勉強する方々のお役に立ちたいとの想いで書き上げました.ぜひご活用いただけましたら幸いです.
 本書の執筆にあたって,ご多忙のなか監修の労をとっていただきました高知医療センター循環器病センター長の山本克人先生,本書の制作にご協力いただきました高知医療センター医療技術局の西森由加里技師,清遠由美技師,ならびに出版に際して多大なご協力とご尽力をいただきました月刊『Medical Technology』編集部の皆様に感謝します.
 2016年4月
 高知医療センター 医療技術局 谷内亮水


監修の序
 近年,循環器疾患の治療法はめざましい勢いで進歩しており,一昔前では考えられなかった方法が治療に応用されるようになり,ますます専門性が求められるようになっていると思われます.そのようななか,的確な診断のための検査法も飛躍的に進歩し,エコーやCT,MRIなどの画像診断の占める位置が大きくなってきています.しかし,どのような疾患においても,循環器病診断は心電図が基本となることは間違いありません.私の専門としている不整脈の分野でも,治療法としてカテーテル・アブレーションが広く普及しており,最近は3次元マッピング装置を用い,画像診断を駆使しての焼灼が一般的になりつつあります.しかし,治療の前に各症例の心電図をじっくり読んでいないと,痛いしっぺ返しを被りかねません.心電図を読むことは,循環器疾患の病態を考えるうえで,また治療を進めるうえで非常に重要な過程であろうかと思います.
 本書は,臨床検査学雑誌『Medical Technology』に連載され人気を博した「楽しく解いて好きになる!心電図トレーニングクイズ」を編集・加筆して1冊にまとめたものです.大変しっかりとした基礎のもと,診断に導く考え方が示されており,読めば読むほど心電図の面白さ,奥深さが伝わってくる書物となっています.また,本書は問題・解説・解答とクイズ形式で展開されていますが,決して難しい文章ではないことから,比較的すんなりと内容が頭の中に入ってくるものと思われます.さらに,我々が臨床で遭遇する疾患が数多く取り上げられており,本書を1冊持っていれば,どのような場面でもほぼ対応ができるものと思われます.
 さて,本書を執筆された谷内亮水先生とは,もうかれこれ30年をこえるおつきあいとなります.谷内先生は,生理検査の分野で多くの業績をあげられ,特に心臓超音波の分野には大変造詣が深く,すでに素晴らしい教科書も執筆しておられます.今回,心電図に関する書籍の執筆ということで,私も少し協力をさせていただきましたが,谷内先生がこの分野についても非常に造詣が深いということを感じさせられました.このような完成度の高い,密度の濃い書籍をまたも執筆されたことに敬意を表したいと思います.
 本書は,臨床検査技師の方々を対象とする雑誌の連載がもとになっていますが,これから心電図の勉強を始める研修医や看護師の方々,心電図について復習したいと考えているベテランの医療関係者の方々にとってもきっと役立つものと思います.
 本書が心電図を学ぶ皆様のバイブルとして,手元に置いていただける1冊となることを願い,監修の序といたします.
 2016年4月
 高知医療センター 循環器病センター 山本克人
 序/監修の序
Question 1 健康診断にて心電図異常を指摘された47歳,男性
Question 2 心電図異常にて循環器科に紹介された56歳,男性
Question 3 労作時の呼吸困難,全身倦怠感にて救急搬送された78歳,男性
Question 4 呼吸困難にて紹介された75歳,男性
Question 5 動悸にて循環器科を受診した77歳,女性
 COFFEE BREAK 猫と心電図
Question 6 不整脈にて紹介された54歳,男性
 COFFEE BREAK 心電図判読の必需品だった「デバイダー」
Question 7 頻脈で紹介された77歳,女性
Question 8 心電図異常で紹介された66歳,女性
Question 9 動悸を自覚して来院された30歳,女性
 COFFEE BREAK おしゃれな犬は検査が得意?
Question 10 徐脈で紹介された75歳,男性
Question 11 高血圧にて紹介された65歳,女性
 COFFEE BREAK 筋電図の混入
Question 12 呼吸困難にて紹介された60歳,女性
Question 13 動悸,胸焼けを主訴に受診した72歳,男性
Question 14 呼吸困難にて受診した65歳,男性
Question 15 外来にて経過観察中の58歳,男性
Question 16 意識障害にて救急搬送された70歳,女性
Question 17 胸痛で近医を受診し,救急搬送された80歳,女性
 COFFEE BREAK ホルター心電図装着中の急性心筋梗塞発症例
Question 18 心電図異常で紹介された67歳,女性
Question 19 労作時の胸痛にて紹介された80歳,男性
Question 20 心室細動の既往歴のある50歳,男性
Question 21 腎不全にて人工透析治療されている70歳,男性
Question 22 心窩部痛,嘔気を自覚し,翌日も続くため近医を受診後に紹介された50歳,男性
Question 23 失神にて近医に入院中で,Adams-Stokes発作が疑われ紹介された85歳,女性
 COFFEE BREAK もっとも心拍数の少なかった心電図
Question 24 脳梗塞で入院した70歳,女性
Question 25 意識消失しているところを発見され,救急搬送された85歳,女性
Question 26 心電図異常で紹介された60歳,女性
Question 27 胸背部痛にて近医を受診し,血圧低下にて救急搬送された55歳,男性
Question 28 自宅で倒れていたところを発見され救急搬送された90歳,女性
Question 29 肺炎で近医へ入院し,入院時の心電図で異常を指摘され救急搬送された85歳,女性
Question 30 1カ月前より1〜2分の前胸部絞扼感を自覚したため受診した75歳,男性

 ひとくちMemo
  房室接合部調律
  左脚後枝ブロック
  S1S2S3パターン
  QRS波の表現方法
  非伝導性上室期外収縮(blocked SVPC)
  心房細動にみられる心室期外収縮
  心房頻拍(atrial tachycardia)
  不完全左脚ブロック
  電気生理学的検査とカテーテルアブレーション
  極端な左軸偏位の考え方
  2枝ブロック
  心室興奮時間(ventricular activation time,VAT)
  電気的交互脈
  肥大型心筋症の心電図
  補充収縮と補充調律
  冠動脈のAHA分類
  左房調律
  ジギタリスによるST低下
  洞室調律(sinoventricular rhythm)
  2対1房室ブロック
  wide QRS頻拍
  低カリウム血症
  pseudo-ventricular tachycardia
  たこつぼ心筋症
  異型狭心症

 索引