序
臨床医学の一翼として重要な臨床検査にたずさわる人は,生理学全般についての常識を身につけておかなければならない.臨床検査技師が行う精度の高い検査記録を得るためには,その臨床検査の意義を十分に理解し,より高い知識と技術が臨床検査技師に要求される.
そのためには臨床生理学に精通することであり,その根底としての基礎生理学がある.
生体は分子・細胞・組織・器官のレベルでの機能が密接に関連して機能系を構成し,さらに多様な機能系の調和のとれた相互連関を構成して,はじめて個体としての人間が存在している.
生理学とは一口にいえば,生命現象を研究する学問である.生体の機能や仕組みの要因や現象を知るのが生理学といえる.古くは生気論として,やがて一つの細胞のなかの生命現象を担っているものを分子のレベルから分析することから,分析的・分子生物学的研究方法が追究された.一方,細胞の集合体である個体には,細胞を全体的に統合するものを探求する研究方法が開発され,それらによって「恒常性の維持」の仕組みについての生理学的な要因や現象を研究する学問が探究された.
臨床検査技師となるために,その資格を取るという明確な目標をたて,ひたすらその目的達成を目指して知識や技能の修得に全力をつくす日々であると思われるが,講義や実習に求めるものは問題を解くのに役立つ知識や技能を学び取ることである.
本書には生理学的な要因や現象について,知っておくべき事項を記載してはあるが,それらを記憶するだけに止まらず,それらを科学的に立証し解析してきた先人の研究過程を追うことにも意味があると考えられる.この点については本書を採用された先生方の講義の中から学びとられるよう期待する.
日進月歩の時代の中で,複雑多岐にわたる機能を重視した基礎生理学の基本的・原理的な内容を限られた講義時間中に習得できるようにと,評価の定まった多くの名著にまじえて本書を作成し,臨床検査技師教育カリキュラムの“大綱化”(平成12年4月より施行)の主旨に基づいて,今回新たに図表を差し替えたりして,見直しを行った.不備・不満な点,著者らが気づかずにいる点などをご指摘いただき,さらに内容を改めたいと考えている.読者諸兄のご叱正やご鞭撻をお願いしたい.
2001年春 著 者
生理学の定義
生理学(physiology)とは,生物の生命現象あるいは生活現象のしくみを理論的に研究する自然科学である.生命現象一般を対象とする学問は生物学(biology)であり,形態および構造を主として研究する形態学(解剖学)と,機能を主として研究する生理学とに分けられる.
研究方法の進歩に伴って,生理学は化学的な観点から機能を研究対象とする生化学(biochemistry)と,物理的な観点にたって機能を調べる生物理学(biophysics)とが分科し,生物理学は狭義の生理学を意味している.
生体がつねに健常な生活機能を営むためには,生体の外部環境がどのように変わっても,生体の内部環境をいつも恒常に保とうという働きが生体には備わっている.Walter Bradford Cannonは生体のこのような内部環境の恒常性維持の状態をホメオスターシス(homeostasis)とよんでいる.このようなホメオスターシスの機構に重要な役割を果たしているのは,内分泌機能と神経機能,ことに自律神経機能である.これらが,有機的に複雑に協調しあって調節されて動的な平衡状態を保つ.これは生体に特有な状態とみなされる.生理学の主な目標は,このような生体の内部環境を好適に保つという機序の解明にあるといってよい.
生理学は便宜上いくつかの分野に区分される.すなわち,動物に特徴的とみなされる高度な神経機能,感覚,運動などを生体の高次機能(動物性機能)といい,これに対して動物と植物に共通な生命維持に不可欠な循環,呼吸,消化,分泌,排泄などの機能を生体の基本的機能(植物性機能)と大別することができ,さらに各器官の系統別に神経生理学,感覚生理学,呼吸生理学などと細分することもできる.
臨床医学の一翼として重要な臨床検査にたずさわる人は,生理学全般についての常識を身につけておかなければならない.臨床検査技師が行う精度の高い検査記録を得るためには,その臨床検査の意義を十分に理解し,より高い知識と技術が臨床検査技師に要求される.
そのためには臨床生理学に精通することであり,その根底としての基礎生理学がある.
生体は分子・細胞・組織・器官のレベルでの機能が密接に関連して機能系を構成し,さらに多様な機能系の調和のとれた相互連関を構成して,はじめて個体としての人間が存在している.
生理学とは一口にいえば,生命現象を研究する学問である.生体の機能や仕組みの要因や現象を知るのが生理学といえる.古くは生気論として,やがて一つの細胞のなかの生命現象を担っているものを分子のレベルから分析することから,分析的・分子生物学的研究方法が追究された.一方,細胞の集合体である個体には,細胞を全体的に統合するものを探求する研究方法が開発され,それらによって「恒常性の維持」の仕組みについての生理学的な要因や現象を研究する学問が探究された.
臨床検査技師となるために,その資格を取るという明確な目標をたて,ひたすらその目的達成を目指して知識や技能の修得に全力をつくす日々であると思われるが,講義や実習に求めるものは問題を解くのに役立つ知識や技能を学び取ることである.
本書には生理学的な要因や現象について,知っておくべき事項を記載してはあるが,それらを記憶するだけに止まらず,それらを科学的に立証し解析してきた先人の研究過程を追うことにも意味があると考えられる.この点については本書を採用された先生方の講義の中から学びとられるよう期待する.
日進月歩の時代の中で,複雑多岐にわたる機能を重視した基礎生理学の基本的・原理的な内容を限られた講義時間中に習得できるようにと,評価の定まった多くの名著にまじえて本書を作成し,臨床検査技師教育カリキュラムの“大綱化”(平成12年4月より施行)の主旨に基づいて,今回新たに図表を差し替えたりして,見直しを行った.不備・不満な点,著者らが気づかずにいる点などをご指摘いただき,さらに内容を改めたいと考えている.読者諸兄のご叱正やご鞭撻をお願いしたい.
2001年春 著 者
生理学の定義
生理学(physiology)とは,生物の生命現象あるいは生活現象のしくみを理論的に研究する自然科学である.生命現象一般を対象とする学問は生物学(biology)であり,形態および構造を主として研究する形態学(解剖学)と,機能を主として研究する生理学とに分けられる.
研究方法の進歩に伴って,生理学は化学的な観点から機能を研究対象とする生化学(biochemistry)と,物理的な観点にたって機能を調べる生物理学(biophysics)とが分科し,生物理学は狭義の生理学を意味している.
生体がつねに健常な生活機能を営むためには,生体の外部環境がどのように変わっても,生体の内部環境をいつも恒常に保とうという働きが生体には備わっている.Walter Bradford Cannonは生体のこのような内部環境の恒常性維持の状態をホメオスターシス(homeostasis)とよんでいる.このようなホメオスターシスの機構に重要な役割を果たしているのは,内分泌機能と神経機能,ことに自律神経機能である.これらが,有機的に複雑に協調しあって調節されて動的な平衡状態を保つ.これは生体に特有な状態とみなされる.生理学の主な目標は,このような生体の内部環境を好適に保つという機序の解明にあるといってよい.
生理学は便宜上いくつかの分野に区分される.すなわち,動物に特徴的とみなされる高度な神経機能,感覚,運動などを生体の高次機能(動物性機能)といい,これに対して動物と植物に共通な生命維持に不可欠な循環,呼吸,消化,分泌,排泄などの機能を生体の基本的機能(植物性機能)と大別することができ,さらに各器官の系統別に神経生理学,感覚生理学,呼吸生理学などと細分することもできる.
生理学の定義
I.体液
1-体液とは
[1]体液の分類……3[2]体液平衡
2-血液
[1]血液の機能……5[2]血液成分
3-リンパ液
II.循環
1-心臓
[1]心臓の構造
[2]心臓の神経支配
[3]心臓の機能
2-血管
[1]血管の構造
[2]血流の調節
[3]動脈系循環
III.呼吸
1-呼吸器の構造
2-呼吸器の機能
[1]呼吸器の作用
[2]呼吸機能
[3]呼吸の調節
IV.消化と吸収
1-消化
[1]消化管の運動
[2]消化腺の分泌
2-吸収
[1]胃での吸収
[2]小腸での吸収
[3]大腸での吸収
3-排便
V.代謝および栄養
1-代謝
[1]ガス代謝の測定
[2]基礎代謝
[3]エネルギー代謝率
2-栄養
[1]所要熱量(総エネルギー)
[2]適正食物およびエネルギー所 要量
[3]補助栄養素
VI.尿の生成と排泄
1-排泄とその器官
[1]排泄器官
[2]腎
2-尿の生成
[1]腎の構造
[2]尿
[3]腎小体の機能
[4]尿細管の機能
[5]腎の尿生成機能の調節
[6]利尿
[7]尿排泄による体液性状の調節
3-尿の排泄
[1]尿管 ・膀胱 ・尿道
[2]排尿
VII.体温とその調節
1-体温
[1]正常体温
[2]体温の日差変動
[3]性周期による変動
[4]体熱平衡
2-汗
[1]発汗
[2]汗の効用
VIII.内分泌
1-ホルモン
[1]内分泌系統の代謝調節の仕組 み
[2]内分泌器官
[3]ホルモンの化学的種類
2-内分泌臓器とそのホルモン
[1]下垂体
[2]副腎(腎上体)
[3]膵
[4]甲状腺
[5]上皮小体(副甲状腺)
[6]卵巣
[7]精巣(睾丸)
[8]内分泌機能をもつその他の器官
IX.生殖
1-性の分化
2-男性の生殖
[1]精巣
[2]精子形成
[3]射精
3-女性の生殖
[1]卵巣周期
[2]卵巣機能
[3]受精と着床
[4]妊娠と分娩
X.防御機構
1-炎症
2-免疫
[1]免疫反応
[2]免疫応答機構
XI.生体の恒常性と物質輸送
[1]生体の恒常性
[2]細胞の機能
XII.興奮性形体の性質
1-刺激と応答
[1]刺激と興奮(応答)
[2]興奮の発生と回復機序
XIII.神経の生理
1-神経組織
[1]神経細胞(ニューロン)
[2]神経の変性と再生
[3]神経の興奮伝導
[4]神経線維の種類と伝導速度
[5]跳躍伝導
[6]神経線維の物質代謝
2-シナプス
[1]神経の神経の接合部
[2]ニューロン回路
[3]神経骨格筋接合部
[4]神経-平滑筋および心筋への伝達
3-末梢神経系
[1]体性神経系
[2]自律神経系
4-中枢神経系
[1]反射
[2]脊髄
[3]脳幹
[4]小脳
[5]間脳
[6]大脳基底核
[7]大脳
XIV.感覚の生理
1-総論
[1]感覚の種類と質
[2]受容器
[3]感覚神経の特性
[4]感覚中枢の特性
2-体性感覚
[1]皮膚感覚
[2]深部感覚
3-内臓感覚
[1]内臓感覚
[2]臓器感覚
4-特殊感覚
[1]視覚
[2]聴覚
[3]前庭感覚
[4]味覚
[5]嗅覚
XV.筋
1-骨格筋
[1]骨格筋の構造
[2]筋収縮のメカニズム
[3]収縮の種類
[4]筋の疲労
[5]筋の化学的現象(筋収縮のエネルギー源)
[6]筋の仕事と熱発生
[7]運動単位と感覚 ・運動調整
[8]運動とその調節
[9]筋の電気現象
2-平滑筋
[1]平滑筋の構造
[2]平滑筋の生理学的性質
3-心筋
[1]心筋の構造
[2]心筋の生理学的性質
4-発声
索引
I.体液
1-体液とは
[1]体液の分類……3[2]体液平衡
2-血液
[1]血液の機能……5[2]血液成分
3-リンパ液
II.循環
1-心臓
[1]心臓の構造
[2]心臓の神経支配
[3]心臓の機能
2-血管
[1]血管の構造
[2]血流の調節
[3]動脈系循環
III.呼吸
1-呼吸器の構造
2-呼吸器の機能
[1]呼吸器の作用
[2]呼吸機能
[3]呼吸の調節
IV.消化と吸収
1-消化
[1]消化管の運動
[2]消化腺の分泌
2-吸収
[1]胃での吸収
[2]小腸での吸収
[3]大腸での吸収
3-排便
V.代謝および栄養
1-代謝
[1]ガス代謝の測定
[2]基礎代謝
[3]エネルギー代謝率
2-栄養
[1]所要熱量(総エネルギー)
[2]適正食物およびエネルギー所 要量
[3]補助栄養素
VI.尿の生成と排泄
1-排泄とその器官
[1]排泄器官
[2]腎
2-尿の生成
[1]腎の構造
[2]尿
[3]腎小体の機能
[4]尿細管の機能
[5]腎の尿生成機能の調節
[6]利尿
[7]尿排泄による体液性状の調節
3-尿の排泄
[1]尿管 ・膀胱 ・尿道
[2]排尿
VII.体温とその調節
1-体温
[1]正常体温
[2]体温の日差変動
[3]性周期による変動
[4]体熱平衡
2-汗
[1]発汗
[2]汗の効用
VIII.内分泌
1-ホルモン
[1]内分泌系統の代謝調節の仕組 み
[2]内分泌器官
[3]ホルモンの化学的種類
2-内分泌臓器とそのホルモン
[1]下垂体
[2]副腎(腎上体)
[3]膵
[4]甲状腺
[5]上皮小体(副甲状腺)
[6]卵巣
[7]精巣(睾丸)
[8]内分泌機能をもつその他の器官
IX.生殖
1-性の分化
2-男性の生殖
[1]精巣
[2]精子形成
[3]射精
3-女性の生殖
[1]卵巣周期
[2]卵巣機能
[3]受精と着床
[4]妊娠と分娩
X.防御機構
1-炎症
2-免疫
[1]免疫反応
[2]免疫応答機構
XI.生体の恒常性と物質輸送
[1]生体の恒常性
[2]細胞の機能
XII.興奮性形体の性質
1-刺激と応答
[1]刺激と興奮(応答)
[2]興奮の発生と回復機序
XIII.神経の生理
1-神経組織
[1]神経細胞(ニューロン)
[2]神経の変性と再生
[3]神経の興奮伝導
[4]神経線維の種類と伝導速度
[5]跳躍伝導
[6]神経線維の物質代謝
2-シナプス
[1]神経の神経の接合部
[2]ニューロン回路
[3]神経骨格筋接合部
[4]神経-平滑筋および心筋への伝達
3-末梢神経系
[1]体性神経系
[2]自律神経系
4-中枢神経系
[1]反射
[2]脊髄
[3]脳幹
[4]小脳
[5]間脳
[6]大脳基底核
[7]大脳
XIV.感覚の生理
1-総論
[1]感覚の種類と質
[2]受容器
[3]感覚神経の特性
[4]感覚中枢の特性
2-体性感覚
[1]皮膚感覚
[2]深部感覚
3-内臓感覚
[1]内臓感覚
[2]臓器感覚
4-特殊感覚
[1]視覚
[2]聴覚
[3]前庭感覚
[4]味覚
[5]嗅覚
XV.筋
1-骨格筋
[1]骨格筋の構造
[2]筋収縮のメカニズム
[3]収縮の種類
[4]筋の疲労
[5]筋の化学的現象(筋収縮のエネルギー源)
[6]筋の仕事と熱発生
[7]運動単位と感覚 ・運動調整
[8]運動とその調節
[9]筋の電気現象
2-平滑筋
[1]平滑筋の構造
[2]平滑筋の生理学的性質
3-心筋
[1]心筋の構造
[2]心筋の生理学的性質
4-発声
索引