やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 血液像は血液を検査材料とした細胞種類検査にほかならないが,検査としての歴史は古く,今日では5分類に代表されるように自動化も進んでいる.一方,髄液,胸水,腹水などの細胞種類検査は,材料によって出現する特有な細胞や変性像,微生物,結晶,場合によっては多種の腫瘍細胞の出現をみる.この細胞種類検査は,標本上にみられる細胞を一つひとつ同定するという,いってみれば,検査担当者にはある程度の知識と経験が要求される.
 細胞同定を行うにあたり,材料や目的によって用いる染色法は定まっており,血液ではギムザ系染色,細胞診ではパパニコロウ染色,尿沈ーは超生体染色としてのステルンハイマー(S)染色,病理組織のヘマトキシリンエオジン(HE)染色などは代表的である.また,検体によってはさらに特殊染色を施すことも少なくない.
 本書ではメイ・ギムザ(MG)染色のみを扱った.この染色法は乾燥固定を用いているため,塗抹された細胞は剥離することはない.したがって,細胞種類検査を行うには最適な染色法である.そして,“MG染色での細胞形態はこのようにみられる”というのが本書の最大のねらいである.材料としては,穿刺液以外の気管支肺胞洗浄液(BALF)や,連続携行式腹膜透析(CAPD)廃液も扱ったため広範囲なものとなった.
 「総論」では著者がこれまで長年にわたって得たデータも掲載し,「各論」の写真ではそれぞれ検査材料別に分け,とくに腫瘍細胞の鑑別や類似細胞の分別に力を注いだ.また,標本はまず弱拡大で全体像を観察することが基本であるため,あえてそれらも取り上げた.
 本書を利用することにより,MG染色での細胞同定能力を高め,確実なものにしていただきたい.
 本書はB6版サイズで白衣のポケットに容易に収まり,参考書としては気軽に利用できるため,職種を越えて,臨床検査に携わる多くの人々に活用されることを切望するものである.
 出版にあたっては,医歯薬出版株式会社編集部 桃井輝夫氏にお力をおかりした.ここに厚く謝意を表したい.
 2002年 2月吉日
 著者 稲垣清剛
 序

〈総論〉
1 細胞とは
 1.細胞質
 2.核
 3.細胞の分類と形
2 髄液の細胞
 1.髄液(CSF)とは
 2.炎症
 3.腫瘍
 4.頭蓋内出血
 5.細胞数検査
 6.細胞数算定時での細胞同定
 7.出現細胞
 8.標本作製のための検体処理法
3 胸水・腹水・心嚢水の細胞
 1.滲出液と濾出液の鑑別
 2.穿刺液外観表現法
 3.細胞数算定法
 4.出現細胞
 5.標本作製のための検体処理
4 関節液
 1.主な疾患
 2.検査の種類
5 気管支肺胞洗浄液からの細胞
 1.気管支肺胞洗浄(BAL)
 2.細胞数算定法
 3.出現細胞
 4.各細胞に対する臨床的意義
 5.検体処理法
6 連続携行式腹膜透析廃液からの細胞
 1.連続携行式腹膜透析(CAPD)の利点と問題点
 2.細胞数算定法
 3.正常時の細胞数
 4.腹膜炎の診断基準
 5.出現細胞
 6.検体処理法
7 染色法
 1.ギムザ染色法
 2.ライト染色法
 3.ライト・ギムザ染色法
 4.メイ・ギムザ(MG)染色法
8 メイ・ギムザ染色による細胞の見方
 1.好中球
 2.好酸球
 3.好塩基球
 4.リンパ球
 5.異型リンパ球
 6.単球
 7.形質細胞
 8.血液幼若細胞
 9.組織球
 10.髄液腔形成細胞
 11.軟骨細胞
 12.中皮細胞
 13.線(繊)毛上皮細胞
 14.脂肪顆粒細胞
 15.腫瘍細胞
 16.その他
9 細胞種類検査

〈各論〉
1 希釈液による細胞像
 (1)サムソン液
 (2)チュルク液
2 細胞形態の経時変化
3 検体処理と細胞像
4 観察部位と細胞像(引きガラス法)
5 良性細胞(髄液)
6 ウイルス性髄膜炎
7 細菌および真菌性髄膜炎
8 原発性脳腫瘍
9 転移性脳腫瘍
10 浸潤性脳腫瘍
11 良性細胞(胸水・腹水・心嚢水)
12 細菌感染(胸水・腹水)
13 中皮細胞の形態
14 上皮性腫瘍(胸水)
15 上皮性腫瘍(腹水)
16 上皮性腫瘍(心嚢水)
17 非上皮性腫瘍(胸水・腹水・心嚢水)
18 鑑別を要する細胞像
19 化学療法による形態変化
20 弱拡大による細胞像
21 関節液
22 気管支肺胞洗浄液(BALF)
23 連続携行式腹膜透析(CAPD)廃液
24 アポトーシス・ネクロシス

 参考文献