やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第3版の序
 医師法第17条には「医師でなければ,医業をなしてはならない.」と記載されている.医師のみが行える医業とは医療行為を反復継続の意思をもって行うことであるが,現実には医師以外の医療専門職が医療行為を行っている,行う必要があるということは言うまでもない.そして,「医師の指示の下に」と法律上は規定されているが,その医療行為を行う能力を大半の医師が有していないことも事実である.では,理学療法士や作業療法士,言語聴覚士が行う医療行為が生命に直結していないかと言うと,それは大きな誤りである.リハビリテーション医療を行うことによって,半年の余命を10年以上に延長させるという結果に繋がっている患者は,決して少なくはない.また,摂食・嚥下障害の治療に至っては,生きるか死ぬかの問題に直面していると言っても過言ではない.
 ここで私が伝えたいことは,リハビリテーション医療あるいは医療福祉の分野で活躍する療法士にとっては,専門領域の知識と技術の習得のみでなく,医師と同等の一般医学の知識が求められているということである.とは言うものの,療法士の国家試験を受けるまでの教育期間は3年ないしは4年という短い年月である.医師と同じ分厚い教科書を読破する時間的余裕のある学生は少ないため,短時間で学習可能な教科書が必要となる.本書の初版は明石謙先生が生前に,療法士を目指す学生は臨床医学の常識を知るべきであるとの理念に基づいて企画された入門書で,療法士に最も近い存在であるリハビリテーション科医によって執筆された.
 本書の改訂に当たっては,言語聴覚士にも新たに学んで欲しいという願いから著書名を改題し,全体的により新しい知識・情報の導入と,第9・10章のタイトルを各々「老年医学」「本書に出てくる主な用語」と改め,内容を整理しながらより学習しやすくするなどの工夫をし,改訂版としての再出発を果たした.ここに記載された医学的知識は,臨床の現場において患者さんから質問されるような内容も多く含んでいる.しっかりと学習することで有能な療法士へと成長し,多くの障害者や高齢者に幸せを与えられる存在として活躍されることを期待している.
 2014年1月
 椿原 彰夫

第2版の序
 歴史の浅い本書が改訂の必要に迫られた.理由は脳神経外科が含まれていなかったためである.PT,OTの教育を担当してきた者として勇んで執筆を始めたが2〜3のことに嫌でも気付かざるを得なかった.
 まず1959年に医学部を卒業した私は脳神経外科の洗礼を受けていない.確かに外科学で脳疾患の講義を受けたが,脳の解剖,生理はそれ程詳しく勉強したわけではない.次に当時のインターンで脳の手術を見学したことはない.次に新しい診断法,特にMRIの威力を知るにおよび,態度を改め,何も知らぬ一医学生として脳神経外科学の教科書を読み,さらに別の教科書を通読し,一般医学書の脳外科疾患を勉強するに従い,一昔前に還ったような気分で,学習ができた.したがってこの部分は,臨床の熟練者とは異なり,一初学者の視点で述べてある.なお,倉敷リハビリテーション病院の秋岡達郎先生に脳外科医の立場から御助言を賜ったことを記し,深謝する.
 初版と比較し,新しい部分が加わったので,少し分厚くなり,勉強する所が少なからず増加したが,優れたセラピストとしての基礎知識にはこの程度は必要である.諸君の研鑽を祈ると共に,後に続く者を信じる.
 2002年12月
 明石 謙

第1版の序
 18世紀前半に活躍したイギリスの作家ヘンリイ・フィールディングはその名著で映画にもなった「捨て子トム・ジョウンズの人生」の中で「本を書くものは,さしずめ金さえ出すなら誰でも歓迎する食堂の経営者のようなものだ」と述べている.客(読者)は目的を持って金を払って料理を注文(本を買う)する.気に入らねば料理人や食堂の経営者(本の著者や編者)をボロクソに罵倒するであろう.
 さてこの本である.料理にたとえるならば表題に記したようにPTやOTの学生達はこの本から医学一般に関する学識(栄養)を得ようとするであろう.美味しいか?リハビリテーション医学・神経内科学・整形外科学・精神医学をサーロインステーキやフィレステーキにたとえるならば,一般臨床医学は料理の味の基本として重要でしかもある程度栄養もあるもの,例えばイタリア料理のトマトやニンニク,ラーメンならばスープの味の大元となる豚骨や鳥ガラではないかと思う.PT・OTには前述の4つの臨床科が大切なあまり「医学はこれら4科で成り立っている」と思われては困る.多くの臨床科がありそれぞれが独自の機能を果たしながら同時に互いに助け合って医学や医療が成り立っているのである.
 しかし“一般臨床医学”の国家試験出題率はいたって低い.それでは何ゆえにこの本を企画したか?まず臨床医学についてこの程度のことは常識として学生諸君が知っていなければならない.次に厚生省の示したPT・OT卒前教育カリキュラムに「一般臨床医学」がありその中で「コレコレしかじかを教えなさい」と指示されているからで,その内容は臨床医学各科にまたがり,それぞれの専門家の先生方に講義をお願いするには時間が短か過ぎることで数々の困難が生じていた.そこでPT・OTの養成校で教えたことのある方々有志が集まりこれらの諸科を一冊の教科書としてまとめた.ほとんどの原稿は揃っていたが,編者の都合で出版が遅れてしまったことをこの場を借りて御詫びする.
 この本を企画するにあたり,川崎医療福祉大学の渡辺 進教授にはセラピストの立場から度々有益な御意見を戴いた.末尾ながら深謝する.
 1997年11月24日
 倉敷にて
 明石 謙
 第3版の序(椿原彰夫)
 第2版の序(明石 謙)
 第1版の序(明石 謙)

1 救命救急医療
 (岡島康友)
 1. 心肺蘇生法
  1)気道確保
  2)人工呼吸(口対口)
  3)心マッサージ
 2. ショック
  1)分類
  2)症状と徴候
  3)治療
 3. 呼吸管理
  1)酸素療法
  2)人工換気
  3)気管内挿管と気管切開
  4)その他
 4. 中心静脈栄養
 5. 輸血療法
  1)輸血の種類
  2)血液型
  3)輸血の方法
  4)輸血の合併症
 6. 救急処置
  1)外傷
  2)急性心筋梗塞
  3)不整脈
  4)急性腎不全
  5)DIC
  6)意識障害
  7)てんかん発作
 7. ICUの役割
2 外科総論
 (岡島康友)
 1. 機械的損傷
  1)非開放性損傷と開放性損傷
  2)機械的損傷における症状
  3)機械的損傷に対する治療
 2. 非機械的損傷
  1)熱傷
  2)凍傷・凍瘡(しもやけ)
  3)電気的損傷
  4)化学的損傷
  5)熱中症
  6)放射線障害
 3. 感染性疾患
  1)化膿性炎症
  2)破傷風
  3)ガス壊疽
  4)MRSA
  5)AIDS
 4. 末梢血行障害
  1)閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans:ASO)
  2)バージャー病(閉塞性血栓性血管炎)
  3)深部静脈血栓症と表在性血栓性静脈炎
  4)静脈瘤
  5)リンパ浮腫
 5. 腫瘍
  1)良性腫瘍と悪性腫瘍
  2)悪性腫瘍の転移
  3)腫瘍の治療
  4)乳腺腫瘍
 6. 臓器移植
  1)臓器移植の分類
  2)移植適合性
  3)拒絶反応と免疫抑制
3 脳神経外科概論
 (平岡 崇)
 1. 解剖
  1)頭蓋解剖
 2. 症候と病態
  1)頭痛
  2)精神症状(高次脳機能障害)
  3)痙攣
  4)意識障害
  5)頭蓋内圧亢進
  6)脳ヘルニア
  7)血液脳関門と脳浮腫
  8)脳循環代謝異常
 3. 補助診断法
  1)頭部単純X線撮影
  2)CT(computed tomography:コンピュータ断層撮影)
  3)MRI(magnetic resonance imaging:磁気共鳴画像)
 4. 主な疾患
  1)頭部外傷
  2)脳血管障害
  3)水頭症
  4)脳腫瘍
  5)感染症
4 皮膚疾患
 (椿原彰夫)
 1. 解剖・生理
  1)皮膚の組織構造と役割
  2)皮膚の付属器
  3)皮膚の神経支配
  4)皮膚表面の状態
 2. 症状・病態生理
  1)皮疹の特徴
  2)皮膚疾患の原因と診断
 3. 湿疹・皮膚炎
 4. 蕁麻疹・皮膚そう痒症
 5. 皮膚感染症
  1)膿皮症(pyoderma)
  2)皮膚結核症(tuberculosis cutis)
  3)癩菌感染症(leprosy)(別名:ハンセン病)
  4)梅毒(syphilis)
  5)皮膚真菌症(dermatomycosis)
  6)ヘルペスウイルス群感染症
  7)ポックスウイルス群感染症
  8)パラミクソウイルス群感染症
  9)その他のウイルス感染症
 6. 動物寄生による疾患
 7. 物理的皮膚障害
  1)光線による皮膚障害
  2)放射線皮膚障害(radio dermatitis)
  3)温熱・寒冷による皮膚障害
  4)機械的刺激による皮膚障害
 8. 紅斑症
 9. 紫斑症
 10. 色素異常症
 11. 角化症
 12. 水疱性・膿疱性疾患
 13. 母斑・母斑症
 14. 皮膚腫瘍
  1)上皮細胞系良性腫瘍
  2)上皮細胞系悪性腫瘍
  3)神経堤起源細胞系悪性腫瘍
  4)間葉組織系良性腫瘍
  5)間葉組織系悪性腫瘍
 15. 紅皮症
 16. 中毒疹・薬疹
 17. 皮膚付属器の疾患
  1)脂腺の疾患
  2)汗腺の疾患
  3)毛髪疾患
 18. 内科的疾患に伴う皮膚病変
5 泌尿器・生殖器疾患
 (椿原彰夫)
 1. 解剖・生理
  1)泌尿器の解剖
  2)尿の生成
  3)排尿機構と神経支配
  4)男性生殖器の解剖と機能
  5)副腎の解剖と機能
 2. 診断・検査法
  1)泌尿生殖器疾患の症状
  2)泌尿生殖器疾患の検査
 3. びまん性の腎実質性疾患
  1)糸球体疾患
  2)腎血管性疾患
  3)尿細管間質性腎炎(renal tubular interstitial nephritis)
  4)糖尿病性腎症(diabetic nephropathy)
 4. 腎・尿路の先天異常と通過障害
  1)腎の先天異常
  2)嚢胞性腎疾患
  3)腎盂・尿管の先天異常
  4)膀胱尿管逆流現象(vesicoureteral reflux:VUR)
  5)膀胱の先天異常
  6)尿道の先天異常
 5. 尿路感染症
 6. 尿路結石症
 7. 腎・尿路の腫瘍
 8. 尿路の外傷
 9. 神経因性膀胱
 10. 急性腎不全
 11. 慢性腎不全
 12. 生殖器の先天異常
 13. 生殖器の感染症
 14. 生殖器の結石症
 15. 生殖器の腫瘍
 16. 男子性機能障害
 17. 副腎疾患
6 婦人科・産科疾患
 (伊勢眞樹)
 1. 女性生殖器の解剖
  1)外性器
  2)内性器
  3)乳房
 2. 性機能の生理
  1)性ホルモン
  2)性周期(sexual/estrus cycle)
  3)性機能の年齢的変化
 3. 女性器の炎症
 4. 不妊症(infertility/sterility)
 5. 女性器の腫瘍
  1)子宮内膜症(endometriosis)
  2)子宮筋腫(uterine leiomyoma)
  3)子宮頸癌(cervical carcinoma)
  4)子宮体癌(子宮内膜癌)(uterine corpus cancer:endometrial carcinoma)
  5)卵巣腫瘍(ovarian tumor)
 6. 受精,着床
  1)受精(fertilization)
  2)着床(implantation)
 7. 正常の妊娠と分娩
  1)妊娠(pregnancy)の診断
  2)妊娠に伴う母体の解剖学的変化と生理学的変化
  3)正常分娩の経過と管理
 8. 妊娠の異常
  1)妊娠初期の異常
  2)妊娠中期〜後期の異常
7 眼疾患
 (平岡 崇)
 眼科総論
  1. 眼の構造
   1)眼球
   2)付属器
   3)視神経
  2. 検査法
   1)視力検査
   2)視野検査
   3)色覚検査
   4)眼底検査
   5)眼圧検査
   6)その他の検査
  3. 眼の症候
 眼科各論
  1. 視機能異常・視神経疾患
  2. 外眼部・前眼部疾患
  3. 後眼部疾患
  4. 外傷
  5. 全身疾患と眼
8 耳鼻咽喉科疾患
 (平岡 崇)
 1. 耳疾患
  1)耳の構造と生理
  2)症状・病態生理
  3)聴力検査
  4)外耳疾患
  5)中耳疾患
  6)内耳・後迷路疾患
 2. 鼻疾患
  1)鼻の構造と機能
  2)病態生理・症状
  3)鼻の検査
  4)外鼻疾患
  5)鼻腔疾患
  6)副鼻腔疾患
 3. 咽頭・喉頭の疾患
  1)口腔・咽頭・喉頭の解剖
  2)口腔・咽頭・喉頭の症状と病態生理
  3)咽頭・喉頭の一般的検査
  4)咽頭の疾患
  5)喉頭の疾患
 4. 気道・食道の疾患と音声・言語障害
  1)気道・食道疾患
  2)音声言語障害
9 老年医学
 (出江紳一・平岡 崇)
 1. 高齢者ケアの基本原則
 2. 高齢者によくみられる疾患
  1)正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus:NPH)
  2)偶発性低体温症(accidental hypothermia)
 3. 高齢者において異常な症候を示す疾患
  1)不顕性甲状腺機能亢進症(inapparent hyperthyroidism)
 4. 高齢者における薬物療法
10 本書に出てくる主な用語
 (出江紳一・平岡 崇)
 全身
  発熱
  疲労感
  浮腫
  るい痩
  肥満
  電解質異常
  溺水
  ショック
  異物
  老化
 血液
  貧血
  出血傾向
  リンパ節腫脹
  膠原病
 心血管
  高血圧
  胸痛
  動悸
  不整脈
  徐脈・頻脈
  動脈硬化
  四肢冷感
  チアノーゼ
 呼吸器
  呼吸困難・息切れ
  喘鳴
  咳嗽
  喀痰・血痰
  胸水
  気胸
 神経
  意識障害
  痙攣
  眩暈(めまい)
  頭痛
  しびれ
  言語障害
  振戦
  発達遅延
 筋骨格
  筋肉痛
  肩凝り
  腰痛
  関節痛
  関節拘縮
  関節水腫・関節血腫
 消化器
  嚥下障害
  食欲不振
  胸やけ・げっぷ
  悪心・嘔吐・吐血
  腹部膨満
  腹痛
  便秘
  下痢
  血便・下血
  黄疸
  急性腹症
 基礎医学
  炎症
  瘢痕
  萎縮
  変性
  分化・未分化
  再生
  腫瘍
  転移
  うっ血
  血栓・塞栓・梗塞
  代謝
  免疫・自己免疫
  アレルギー
 結晶誘発性関節炎
  痛風(gout)
  ピロリン酸カルシウム結晶沈着性関節炎(calcium pyrophosphate dihydratecrystal deposition arthritis)

 索引