やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の序

 21世紀を直前にした現在,医療・福祉の領域に変革の波が押し寄せている.特に2000年にスタートする介護保険制度によって,リハビリテーション医療全体,そして作業療法もサービスの形態とその内容の変更を迫られることになろう.
 さて,本書第1版が出版されたのは昭和51年,今から20年以上も前である.当時,作業療法の養成校は5校,そして作業療法士の数も600名程度であった.しかし,平成11年の現在では作業療法の養成校は4年制大学16校(その内,6校が大学院修士,そして2校が博士課程をもつ)を含む97校であり,作業療法士の数も12,000人を数える時代になっている.
 また当時,作業療法の専門書と言えばWillard・Spackmanの『作業療法』(協同医書出版社: 昭和40年),Macdonaldの『作業療法―理論と実際―』(医歯薬出版: 昭和50年)の2冊,いずれも訳本だけであった.
 本書第1版は,日本作業療法士協会会長そして府中リハビリテーション学院の作業療法学科長であった鈴木明子先生の「日本人の作業療法士の手による作業療法の教科書を!」のかけ声のもとに,当時の府中リハビリテーション学院の7名の専任教官が分担執筆することになった.かなり短い執筆期間のうちに,いわば強引に脱稿し出版にこぎつけた本書であったが,当時の作業療法教育に少なからず貢献することができたものと信じている.
 その後,時代が進むにつれ,作業療法の専門書も多く出版されるようになり,本書の改訂もせまられていたが,諸般の事情により改訂が今日になってしまった.
 20年の経過の内に,作業療法の教育をコントロールする「指定規則」のカリキュラムの変遷もあり,また作業療法の臨床活動の内容も多様化してきており,要求される知識・技術も質・量ともに増している.
 臨床活動や基礎教育以上のレベルにおいては時代の変遷に伴い,広範な広がりと分化の道をたどることは必然である.
 ただし,作業療法の基礎的な,あるいは核となる知識・技術そして理念に関しては大幅な変更があるということではなく,一定のレベルが維持されることも必要である.
 全22巻のリハビリテーション医学全書シリーズの中で,作業療法は『総論』と『各論』に分けられ,本書『作業療法 総論』は,まさに作業療法の入門書としての位置にあり,その目的は基礎的な知識・技術そして理念の解説である.
 ただし,第2版の計画,そして執筆から今日まで10年以上経過しており,部分によっては1987年にすでに受稿している章・項も含まれていることをお断りしておきたい.
 今回の改訂では,初版と同一の執筆陣が,その不足分を補い,また必要な箇所に手を加え,初学者の理解がより得られやすい工夫をしたつもりである.
 本書が今後の作業療法教育に大いに利用されることを期待してやまない.
 1999年 初夏
 金 子 翼

第1版の序

 作業療法についての定義づけや,邦文の文献を求められる方に,ずい分これまでにお会いしてきた.どうにかお答えはしてきたものの何か心に引っかかることが多かった.
 理由の一つとしては欧米で学んだこと,見たこと,治療したことを話したために,海外の文化差を意識される方にはまるで宙に浮いた物語りとしてしか感じられなかったのではなかろうかと推察したことである.
 作業療法は実証科学として,広く人間の生活そのものの中から理論を引き出し,概念の構成化を他の理論と組み合わせた上でおこない,現実に応用する順序を経て統合し,初めて理論と実践が誕生するものであるが,作業療法は試験管内では何の意味ももたず,患者,家族,友人,知人,職場,地域社会が対象となるために,時代時代の価値観を含む文化,産業,政治,経済にも影響されている.したがって,わが国の実情を踏まえた答えをするためには,時間を必用とすると感じてきた.
 13年間のOTとしての勤務を通して,変わるものと変わらぬものとがだんだんと焦点が合ってわかってきつつある.少しずつ心のもやもやが晴れていくのである.質問にお答えする側に立っていて,やっと責任を果せそうに思えるようになった.
 作業療法に現在従事している人,何らかのかかわりをもつ人,やがてはOTになってみようとする後継者に対して,心からお願いしたいのは,本書を丸暗記して役立たせるのではなく,まったくの土台として用いて欲しいことである.明日に向かっての進展のための資料の一つとして使っていただきたいと思っている.
 田村春雄先生には,身体障害の作業療法実践上の大先輩・草分け役として,本書には編者としてご熱心な示唆をいただいた.
 東京都立府中リハビリテーション学院作業療法学部の全職員が参加して執筆に当ったが,このように本としての形がつくられたことで,仲間の方々にプレゼントできることを心から喜んでいるものである.
 1976年秋に
 鈴 木 明 子
 第2版の序
 第1版の序

第1章 作業療法とは何か
 1.どんなときに必要か
 2.なぜ必要か
 3.リハビリテーションの流れのなかの作業療法
 4.作業療法の活動分野はどこか
 5.作業療法の過去,現在,未来
  1)作業療法の現在までの展開
  2)作業療法の未来
 6.作業療法士の教育
 (鈴木明子)
第2章 作業療法の歴史
 1.古代ギリシャから欧米を中心にして
  1)古代ギリシャから中世まで
  2)近世ヨーロッパの精神医療
  3)アメリカの精神医学と作業療法
  4)Simonと精神科作業療法
 2.アメリカにおけるオキュペーショナルセラピーの誕生
  1)作業療法士協会創設の7人
 3.先駆者たちの土壌づくり
 4.わが国の作業療法の幕開け
 (鈴木明子)
第3章 作業療法の原理
 1.作業療法と人間の発達
  1)発達の決定因子
  2)発達の原則
  3)発達の規準(norm)
  4)発達課題
  5)成熟と学習
  6)危機的時期と刺激
  7)知覚運動の発達
 2.活 動
  1)治療メディアとしての活動の意味
  2)活動の種類
  3)活動の選択
 3.活動の分析
  1)資材と道具
  2)動 き
  3)心理的・社会的要素
 4.評 価
  1)観 察
  2)面 接
  3)検査と測定
 5.作業療法計画
 (杉原素子)
第4章 作業療法の対象と活動分野
 1.身体障害部門における作業療法
  1)身体障害者に対する作業療法の枠組み
  2)身体障害者の状況
  3)作業療法の対象となるおもな身体疾患・障害
  4)身体障害者に対する作業療法が行われる場
  5)障害の3つのレベルと作業療法の理念
  6)身体障害者に対する作業療法の基本的な考えかた
  7)身体障害者に対する作業療法の役割
  8)作業療法の手段とその利用の方法
  9)作業療法の実際
 (金子 翼)
 2.精神科部門における作業療法
  1)疾患の概要と障害の概念
  (1) DSM IV
  (2) 精神保健及び障害福祉に関する法律による定義
  (3) 障害論
  2)精神医療に関する法律の変遷
  3)作業療法の対象と活動分野
  4)作業療法の目的と役割
  (1) 評 価
  (2) 治 療
  (3) リハビリテーション
  (4) 予 防
  5)作業療法を支える諸モデル
  (1) 適応的遂行モデル
  (2) 作業行動モデル
  (3) 神経行動モデル
  (4) その他
  (5) 日本における治療モデル
  6)作業療法の実際
  (1) 作業療法の流れ
  (2) 評 価
  (3) 情報の統合と作業療法計画
  (4) 治療方法
  (5) 今後の治療活動の展望
  7)作業療法のかかえる問題
  (1) 社会の拒否
  (2) 作業療法の学問的体系化
  (3) 経済的基盤,診療報酬・介護報酬に関する問題
  (4) 作業療法担当職員の充足
 (里村恵子)
 3.発達障害部門における作業療法
  1)小児期の特徴
  2)子どもの正常と異常
  3)障害の種類
  4)評 価
  5)作業療法計画
  (1) 治療目的
  (2) 治療方法
 (杉原素子)
 4.老人部門における作業療法
  1)老 化
  2)老人の特徴
  (1) 身体的側面
  (2) 心理的側面
  (3) 社会・経済的側面
  (4) 疾患・異常状態
  3)リハビリテーションおよび作業療法
  (1) リハビリテーションの対象
  (2) リハビリテーションの原則
  (3) 評 価
  (4) 目 標
  (5) 事故防止および患者管理
  (6) 老人へのアプローチ
  (7) 家族へのアプローチ
 (佐藤 章 )
第5章 治療的接近と指導
 1.導入,動機づけ,オリエンテーション
 2.個別指導と集団指導
 3.コミュニケーションのメディア
  1)患者をはさんでの作業療法士と医師
  2)同情と共感
  3)個人差について
  4)障害の違いによって
 (鈴木明子)
第6章 作業療法に用いられる手工芸とその指導法
 1.作業指導法
  1)準 備
  2)作業活動の紹介と目的の説明
  3)指導方法と指導上の留意点
 (金子 翼)
 2.種 目
  1)モザイク
  2)デコパージュ
  3)マクラメ
  4)七 宝
  5)陶 芸
  6)織 物
 (菊池恵美子)
  7)籐細工(かご編み細工)
  8)銅板細工
  9)皮革細工
  10)木彫・木工
  11)絵 画
  12)園 芸
 (栗原トヨ子)
第7章 日常生活活動の指導
 1.リハビリテーション領域における日常生活活動の概念の発展
 2.日常生活活動の範囲・分類
 3.作業療法の役割と機能
  1)動作の分析
  2)評 価
  (1) ADL評価の目的
  (2) 評価基準
  (3) 予備的情報
  (4) 評価実施上の注意
  3)指導プログラム立案
  4)指導上の原則
  5)他部門との連携
  6)家屋,家庭環境の調整
  7)装具・自助具・福祉用具
 4.各動作とその指導
  1)起居・移動動作
  2)食事動作
  3)更衣動作
  4)排泄動作
  5)整容・入浴動作
  6)家事動作
 (栗原トヨ子)
  7)コミュニケーション
 (里村恵子・栗原トヨ子)
 5.社会的環境
  1)道路,歩道
  2)駅,輸送機関,駐車場
  3)建 物
 (金子 翼)
第8章 身体機能とその代償 上肢機能を中心に
 1.日常生活における上肢の役割
  1)物体の把握・保持機能
  2)物体および体重の支持機能
  3)バランス維持機能
  4)コミュニケーション機能
  5)識別機能
 2.上肢機能に必要な基本的要素
  1)構成要素
  2)機能的要素
 3.機能の代償
  1)考慮すべき因子
  2)補助具
  (1) 義 肢
  (2) 装 具
  (3) 自助具
 (佐藤 章 )
第9章 職業関連活動と作業療法
 1.職業リハビリテーションと作業療法の歴史
  1)アメリカの場合
  (1) 作業療法のはじまり
  (2) 作業プログラムのまばらな成長
  (3) 作業療法士なしの作業評価
  (4) 新しい作業とのかかわりのはじまり
  2)わが国の場合
  (1) 作業療法のはじまり
  (2) 職能療法から作業療法へ
  (3) 職業前作業療法の発展
  (4) 職業前作業療法部門の混乱と低迷
  (5) 職業関連活動における作業療法の新しい取り組み
 2.職業リハビリテーションにおける作業療法士の役割と機能
  1)作業療法の目的
  2)作業療法の対象
 3.作業療法士による職業評価
  1)評価内容
  2)評価方法
  3)評価期間
 4.作業療法士による職業前訓練
  1)職業前訓練の目的
  2)職業前訓練の実際
 5.職業リハビリテーションにおける作業療法の記録
 6.作業療法士と職業関連活動
  1)活動のための留意点
  2)他職種との協同
  3)今後に向けて
 (菊池恵美子)
 7.職場復帰あるいは就労後の指導
 (金子 翼)
第10章 作業療法土の成功と失敗
 1.成功例と失敗例
  1)成功した例
   症例1
   症例2
  2)失敗した例
   症例1
   症例2
   症例3
   症例4
   症例5
 2.作業療法士のマンネリズム
 3.観察,創意,工夫
  1)観 察
  2)創 意
  3)工 夫
 (鈴木明子)
第11章 1人の作業療法士として
 1.まず何からはじめるのか
  1)作業療法開始までの準備
  (1) 個人契約
  (2) 実態調査
  (3) 対象(患者・クライアント・利用者など)の決定
  (4) 責任者との相談
  (5) 予算編成
  (6) 人件費
  (7) 建築上の提案,設備・備品の発注
  (8) リハビリテーションチームの話し合い
  (9) 作業療法開始
  (10) 作業療法時間割の設定上の留意点
  2)作業療法開始から終了まで
  (1) 依頼・処方
  (2) 評 価
  (3) 作業療法目標
  (4) リハビリテーションチームの目標
  (5) 作業療法内容
  (6) 作業療法経過
  (7) リハビリテーションチ-ムの治療経過と目標
  (8) 作業療法終了
  (9) 今後の方針
 2.作業療法室の設計と器材
  1)地域住民サービスとしての施設の位置
  2)作業療法室の設計
  3)作業療法室の器材(設備・備品)
 3.処方箋,依頼箋または指示箋
 4.診療報酬・介護報酬について
 5.記 録
  1)記録の種類
  (1) 治療上の記録
  (2) POMR
  (3) 管理上の記録
 6.報 告
 7.カンファランス
 8.作業療法主任として―組織と管理
  1)作業療法士の役割
  (1) 臨床家の業務内容
  (2) 教育者の業務内容
  (3) 研究者の業務内容
  (4) 管理者の業務内容
  2)作業療法士の職場管理
  (1) 組織管理の諸説
  (2) 管理の複雑さ
  (3) 管理と個人
  (4) セラピストの個性
  (5) 他部門との仲間意識
 9.作業療法士の倫理
 10.作業療法士の教育
 (鈴木明子)

 資料 関係法規
 日本語索引
 外国語索引