やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

●まえがき
 リハビリテーションの分野では,脳血管障害後遺症による片麻痺者の機能回復が大きな課題です.ボディダイナミクス入門シリーズでは,第1集「立ち上がり動作の分析」,第2集「歩き始めと歩行の分析」で,力学的視点から健常者の動きを解説してきましたが,第3集で初めて身体に障害のある方の動きとして片麻痺者の歩行を取り上げました.
 本シリーズでは第1集,第2集ともに1人の方の動きを細かく分析して解説するというスタイルをとってきました.本書の企画段階では,片麻痺者の歩行を解説する内容で今までと同じスタイルがとれるかどうか不安がありました.ご存知のように片麻痺者の歩行は個人差がたいへん大きいため,1人の方の動きの分析だけでは十分な解説ができないのではないかと考えました.しかし,実際にデータを計測して分析してみると,1人の方の動きのなかに片麻痺者の歩行に共通した多くの特徴を見つけることができました.
 本書では片麻痺者の歩行中の身体運動について詳しく解説していますが,骨盤や体幹の動き,矢状面以外の身体の動きについては十分な分析がなされていません.また,第II部で扱った短下肢装具では,装具の種類による歩行への影響について十分な解説ができなかった反省点があります.しかし,本書で解説した内容を理解することによって,片麻痺者の歩行の本質がある程度見えてくるのではないかと思っています.歩行を正しく理解することによって,よりよい治療の方策が得られると考えます.本書が片麻痺の障害をおもちの方のリハビリテーションに少しでも役立つことを願っています.
 本書の発刊に際しては多くの方のお世話になりました.第一に,歩行計測とビデオ撮影を快く承諾してくださったAさんのご協力なくしては本書が完成しなかったことはいうまでもありません.計測にあたっては,元横浜市立脳血管医療センターリハビリテーション部長・佐鹿博信先生(現横浜市立大学医学部リハビリテーション科教授)にたいへんお世話になりました.歩行計測とビデオ撮影の際には,横浜市立脳血管医療センター三次元動作解析クリニックの皆様にご協力いただきました.本書付録のCD-ROMのコンピュータ・グラフィックスは,3次元動作分析システムVICON用に開発されたPolygonソフトウェアを使用して作成しました.本ソフトウェアの使用はイギリスVICON Motion Systems社ならびにインターリハ株式会社のご好意によるものです.本書のイラストは,国際医療福祉大学理学療法学科の勝平純司氏にご協力いただきました.これらの方々に対し,ここに感謝の意を表します.
 2005年1月
 山本澄子 江原義弘
 萩原章由 溝部朋文
まえがき
本書の読み方

第I部 片麻痺者の歩行
 1.ビデオでみてみましょう
 2.マーカー位置と関節中心の推定
 3.立位
 4.歩行の基本データ
 5.重心の動き
 6.床反力
  6.1 床反力ベクトルの動き
  6.2 床反力上下方向成分
  6.3 床反力前後方向成分
  6.4 床反力左右方向成分
  6.5 床反力作用点
 7.身体の動き
  7.1 下肢関節角度
  7.2 体幹の動き
  7.3 身体全体の動き
 8.関節モーメント
  8.1 関節モーメントとはなにか
  8.2 立位時の関節モーメント
  8.3 歩行中の床反力ベクトルと関節の位置関係
  8.4 下肢関節モーメント
  8.5 体幹に加わるモーメント
 9.関節モーメントのパワー
  9.1 関節モーメントのパワーとは
  9.2 健常歩行中のパワー
  9.3 片麻痺者の歩行中のパワー
 10.片麻痺者の歩行の特徴
  10.1 麻痺側の立脚初期
  10.2 麻痺側の立脚中期
  10.3 麻痺側の立脚後期
  10.4 麻痺側の遊脚期
第II部 短下肢装具を使用した歩行
 1.短下肢装具の機能
  1.1 足関節まわりの筋の働き
  1.2 短下肢装具の機能分類
  1.3 歩行中の短下肢装具の働き
 2.装具なし歩行と装具歩行
  2.1 ビデオでみてみましょう
  2.2 歩行の基本データ
  2.3 麻痺側の立脚初期
  2.4 麻痺側の立脚中期
  2.5 麻痺側の立脚後期
  2.6 麻痺側の遊脚期
  2.7 体幹の動き
  2.8 短下肢装具による歩行の改善
 3.他の短下肢装具との比較
  3.1 使用した短下肢装具
  3.2 ビデオでみてみましょう
  3.3 歩行の基本データ
  3.4 2 つの短下肢装具による歩行の比較
  3.5 短下肢装具による背屈制動の意味
 4.短下肢装具の機能を使用者に合わせるために

付録1 マーカー位置から下肢関節中心位置を推定する方法
付録2 CD-ROMの使い方
 1.CD-ROMの収録内容
 2.動作環境
 3.「Body Dynamics_3」の操作方法
索引