やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第5版の序

 『基礎運動学』の初版が出版されてから間もなく4半世紀になる.この間にも最近の知見を取り入れつつ,部分的な改訂は加えてきた.今回は全体の構成も検討して,数年をかけて規模の大きな見直しを行った.
 本書は人間の身体運動を理解するための基礎的知識を紹介することを旨として,また運動学は応用科学であることを前提に執筆してきた.身体運動を理解するために,現象としての身体運動を力学,解剖学と生理学へ還元して説明する試み,次いで運動を基礎として動作や行為を構成的に説明することに努めている.運動発達や運動学習では,心理学からのアプローチを主体とした記述が多くなる.この領域は神経科学あるいは脳科学によって説明できる段階に至ってはいないと思うからである.
 初版の「はじめに」で述べた「人間の運動をまず自分の眼で見て,紙とペンで記載できるところに運動学の基礎がある」という立場は,ここでも踏襲した心積もりである.しかし,身体運動の分析にかかわる各種機器の利用が比較的容易となった現在,言語だけでは正確な記述が困難である運動軌跡の説明などには,機器による測定記録を多く採用した.学生や研究生が機器の利用とデータの解釈に慣れることによって,現場における肉眼的観察が正確になることは,私たちの長年にわたる経験である.本書に描かれている運動軌跡,そのほかのデータを熟視することによって,運動分析に優れた技能を獲得されることを期待したい.そこに基礎運動学の出発点があるからである.
 平成12年1月 中村隆一 齋藤 宏
第5版の序
第4版の序
第3版の序
第2版の序
第1版の序
はじめに

1  運動学とは
 1  運動学とその領域
 2  運動学の歴史
 3  運動学の現状と展望
 4  運動のとらえ方

2  力学の基礎
 1  力学と身体運動
 2  身体運動の面と軸
  1) 基本肢位
  2) 運動の面と軸
 3  運動の表しかた
  1) 変位
  2) 速度・加速度
  3) 等速度運動・等加速度直線運動
  4) 等速円運動
  5) ベクトル
  6) 運動の形
 4  運動の法則
  1) 運動の第1法則
  2) 運動の第2法則
  3) 運動の第3法則
  4) 運動量保存の法則
  5) 重力加速度
  6) 落下運動
  7) 質量・重量・力の単位
 5  仕事と力学的エネルギー
  1) 仕事
  2) 仕事の単位
  3) 仕事率
  4) 力学的エネルギー
 6  剛体に働く力
  1) 力のモーメント(回転能)
  2) てこ
   (1) てこの種類
   (2) 力と運動の関係
   (3) 力の作用する角度
   (4) 力学的有利性
   (5) 滑車と輪軸

3  生体の構造と機能
 1  細胞
  1) 細胞の構造
  2) 細胞内での化学反応
  3) 細胞膜の興奮
   (1) 静止電位
   (2) 活動電位
  4) 神経線椎の興奮伝導
  5) 神経線椎の種類
 2  組織
  1) 上皮組織
  2) 結合組織
  3) 筋組織
  4) 神経組織
 3  運動器の構造と機能
  1) 骨の構造と機能
   (1) 基本構造
   (2) 骨の循環系と神経系
   (3) 骨の構成成分
   (4) 骨の発生と成長
   (5) 骨とビタミン・ホルモン
  2) 関節の構造と機能    (1) 関節の分類
   (2) 関節軟骨
   (3) 関節包
   (4) 滑膜と滑液
   (5) 関節円板と関節半月
   (6) 関節運動の表しかた
  3) 腱および靱帯の構造と機能
   (1) 腱
   (2) 靱帯
  4) 骨格筋
   (1) 骨格筋の構造
   (2) 骨格筋の血管
   (3) 骨格筋の微細構造と筋収縮機序
   (4) 筋線維の種類
   (5) 神経筋接合部と神経筋伝達
   (6) 運動単位
   (7) 筋収縮の基礎的性質
   (8) 筋収縮の様態
   (9) 筋の働き
   (10) 筋肥大と筋萎縮
 4  神経系
  1) 末梢神経系
   (1) 体神経系
   (2) 自律神経系
  2) 神経シナプス
   (1) シナプス伝達
   (2) 神経回路網
  3) 中枢神経系
   (1) 脊髄
   (2) 脳
 5  運動の中枢神経機構
  1) 反射運動
   (1) 反射弓
   (2) 反射運動の種類
   (3) 中枢神経系と反射統合
  2) 脊髄反射
   (1) 伸張反射
   (2) 屈筋反射
   (3) 交差性反射
   (4) 脊髄節間反射
   (5) 反射の中枢制御
  3) 姿勢反射と立ち直り反射
   (1) 除脳固縮
   (2) 脊髄動物
   (3) 低位除脳動物
   (4) 高位除脳動物
   (5) 大脳皮質の関与する反応
  4) 姿勢保持と平衡速動反射
   (1) 静止姿勢保持の反射
   (2) 平衡速動反射(平衡運動反射)
   (3) 姿勢保持応答の適応性
   (4) 姿勢保持機構と意図的運動
  5) 随意運動
   (1) 行為・動作と運動
   (2) 閉ループ制御と開ループ制御
   (3) 運動プログラム
   (4) 運動準備状態
   (5) 随意運動の中枢機構
   (6) 運動行動の階層構造
   (7) 中枢神経系に対する運動の影響
 6  感覚器の構造と機能
  1) 感覚の性質
  2) 感覚の分類
  3) 体性感覚
   (1) 皮膚受容器とその機能
   (2) 固有感覚器とその機能
   (3) 体性感覚の伝導路
  4) 平衡感覚
   (1) 卵形嚢,球形嚢とその機能
   (2) 三半規管とその機能
   (3) 前庭神経核の出力系
  5) 視覚
   (1) 眼球運動
   (2) 眼球運動と視覚
 @ (3) 視覚と姿勢,運動
 7  呼吸
  1) 呼吸器
  2) 換気
   (1) 吸息
   (2) 呼息
  3) 肺活量測定と肺気量分画
  4) ガス交換
  5) 呼吸運動の制御
   (1) 呼吸運動の中枢
   (2) 呼吸中枢の中枢性制御
   (3) 呼吸中枢の末梢性制御
  6) 運動と呼吸
   (1) 運動と換気
   (2) 換気増加の機序
 8  血液と循環
  1) 血液
   (1) 血漿
   (2) 細胞成分
  2) 心臓
   (1) 心臓の構造
   (2) 心周期
   (3) 心拍出量の調整
  3) 体循環と肺循環
   (1) 体循環
   (2) 肺循環
  4) リンパ液とリンパ系
  5) 運動時の循環制御
   (1) 筋血流の自己調節
   (2) 神経性制御
   (3) 筋での変化
   (4) 心臓循環系の変化
 9  体温調整
  1) 熱の産生
  2) 熱の喪失
  3) 体温調節の機序
  4) 運動の影響
 10  腎臓と酸塩基平衡
  1) 腎臓の構造と機能
   (1) ネフロン
   (2) 尿の生成
   (3) ホルモンによる調節
  2) 尿
  3) 酸塩基平衡
  4) 運動と腎機能
 11  栄養とエネルギー代謝
  1) 消化と吸収
  2) 栄養素
   (1) 糖質
   (2) 脂質
   (3) 蛋白
   (4) その他
  3) エネルギー代謝
   (1) カロリー
   (2) エネルギー代謝の測定
   (3) 基礎代謝
   (4) エネルギー代謝率
   (5) 代謝当量
  4) 運動とエネルギー代謝
   (1) 効率
   (2) 筋収縮とエネルギー代謝
   (3) ホルモンによる調節
   (4) 運動時の呼吸商

4  四肢と体幹の運動
 1  上肢帯と上肢の運動
  1) 上肢帯と肩関節の運動
   (1) 関節と靱帯
   (2) 上肢帯と肩関節の動き
   (3) 上肢帯の筋
   (4) 肩関節の筋
  2) 肘関節と前腕の運動
   (1) 関節と靱帯
   (2) 肘関節の動き
   (3) 肘関節の筋
  3) 手関節と手の運動
   (1) 手の皮膚
   (2) 手の骨
   (3) 手の関節と靱帯
   (4) 腱鞘
   (5) 指背腱膜
   (6) 手関節と手の筋
   (7) 手のアーチ
   (8) 手の把持動作パターン
   (9) 手の機能肢位
   (10) 手の変形
 2  下肢帯と下肢の運動
  1) 下肢帯と股関節の運動
   (1) 関節と靱帯
   (2) 股関節の動き
   (3) 股関節の筋
  2) 膝関節の運動
   (1) 関節と靱帯
   (2) 膝関節の動き
   (3) 膝関節の筋
  3) 足関節と足の運動
   (1) 関節と靱帯
   (2) 足の筋
   (3) 足のアーチ
   (4) 足の変形
 3  体幹の運動
  1) 頚椎の運動
   (1) 頚椎
   (2) 椎骨動脈
   (3) 頚神経
   (4) 頚部の筋
  2) 胸椎と胸郭の運動
   (1) 胸郭
   (2) 関節
   (3) 胸郭の動き
   (4) 胸郭の筋
  3) 腰椎の運動
   (1) 腰椎
   (2) 関節と靱帯
   (3) 筋
 4  顔面および頭部の運動
   (1) 頭蓋骨
   (2) 頭筋

5  運動・動作の分析
 1  運動学的分析
  1) 方法
   (1) 第1段階:運動の記載と細区分
   (2) 第2段階:関節運動と筋活動の分析
   (3) 第3段階:運動のまとめと評価
  2) 関節運動,筋活動の分析用語
   (1) 準備
   (2) 関節運動のための用語
   (3) 観察された関節運動
   (4) 外力の関節運動への影響
   (5) 活動している筋群
   (6) 筋収縮の種類
   (7) 体運動の種類
   (8) 特殊な筋活動
   (9) 好ましからぬ活動
  3) 運動学的分析の例.腕立てふせ
  4) 運動学的分析に使用される機器
 2  作業・動作の分析
  1) 作業分析
   (1) 作業分析の方法
   (2) 作業分析の例.庭に水をまく
  2) 動作分析
   (1) 動作分析の方法
   (2) 動作分析の例.ペンで文字を書く
  3) 時間研究
   (1) 時間研究の方法
   (2) 時間研究の例
   (3) 作業測定の方法
 3  身体運動能力の検査
  1) 運動負荷試ア
  2) 関節可動域
  3) 徒手筋力検査
  4) 運動発達の検査
   (1) バランス反応検査
   (2) 運動年齢検査
   (3) 起居・移動の検査

6  体力適性と運動処方
 1  体力適性とは
 2  身体運動のエネルギー代謝
  1) 無酸素性エネルギー
  2) 有酸素性エネルギー
 3  運動処方
  1) 運動処方とは
  2) メディカルチェック
  3) 運動負荷試験
   (1) 目的
   (2) 様式
   (3) 最大運動負荷および最大下運動負荷試験
   (4) 実施時の注意事項
   (5) 練習の諸原理

7  姿勢
 1  重心
  1) 人体の重心の測定法
  2) 立位姿勢における重心線
 2  立位姿勢の安定性
 3  姿勢の記載と類型
  1) 構えと体位
  2) 静的姿勢と動的姿勢
  3) よい姿勢とは
   (1) 力学的立場
   (2) 生理学的立場
   (3) 心理学的立場
   (4) 作業能率的立場
   (5) 美学的立場
  4) 姿勢の分類
 4  立体姿勢保持の神経機構
  1) 立体姿勢と筋活動
  2) 立体保持の神経機構
   (1) 重心動揺
   (2) 外乱に対する応答
 5  立位姿勢の異常
  1) 見方の要点
   (1) 立位姿勢
   (2) バランス安定性
  2) 骨関節疾患による異常姿勢
  3) 神経疾患による異常姿勢

8  歩行
 1  歩行周期
 2  運動学的分析
  1) 角度変化
  2) 歩行の決定要因
  3) 歩行時の上肢の運動
 3  運動力学的分析
  1) 床反力
  2) 足底圧
 4  歩行時の筋活動
 5  歩行時のエネルギー代謝
  1) エネルギー消費の測定
  2) 歩行速度と消費エネルギー
 6  小児の歩行
  1) 小児の起立と歩行の発達
  2) 小児歩行の特徴
 7  歩行の神経機構
 8  異常歩行
  1) 正常歩行の変形
  2) 異常歩行の分析
  3) 異常歩行の原因
   (1) 運動器疾患による異常歩行
   (2) 疼痛による異常歩行
   (3) 神経および筋の疾病による異常歩行
 9  走行
  1) 走行の姿勢と力学的原理
  2) 運動学的分析(関節の運動)
  3) 走行時の経済性と疲労
  4) 走行の運動発達
 10  階段と踏台の昇降
  1) 歩行周期
   (1) 昇段
   (2) 降段
  2) 階段昇降の分析
  3) 段差の昇降
   付 車椅子の推進
  1) 推進周期と時間・空間変数
   (1) 押し出し相
   (2) 回復相
  2) 運動学的分析
  3) 運動力学的分析
  4) 筋電図ポリグラフ
  5) 車椅子推進のエネルギー消費と呼吸循環器系の反応

9  運動発達
 1  成長,成熟と発達
 2  運動発達の研究
 3  発達分析の方法
  1) 発達分析について
   (1) 状態像の特徴づけ
   (2) 発達の特徴
  2) 発達分析の手順
   (1) 構造・機能分析
   (2) 順序分析
   (3) 移行分析
  3) 運動発達研究への応用
   (1) 背臥位から立位への動作
   (2) 重力下での協調運動の獲得
 4  中枢神経の発生と運動発達
 5  胎児期の運動発達
 6  乳幼児期の運動発達
  1) 反射と反応
  2) 全身運動
  3) 上肢の運動
  4) 知覚運動機能

10  運動学習
 1  学習とは
  1) 学習研究の諸相
  2) 運動学習とは
 2  運動技能
  1) 運動技能とパフォーマンス
  2) 運動課題
  3) 協応と制御,技能
  4) 運動能力
 3  学習の諸理論
  1) 生得的行動と学習行動
  2) 単純学習
  3) 条件づけ
   (1) 古典的条件づけ
   (2) 道具的条件づけ
  4) 認知的立場の学習理論
 4  運動学習の特徴と諸理論
  1) 2つの記憶系
  2) 運動学習に対する感覚系の役割
  3) 運動技能学習の3段階
  4) 閉ループ説
  5) 開ループ説
  6) スキーマ(図式:schema)説
  7) 運動学習への認知科学的アプローチ
   (1) ACT(アクトスター)モデル
   (2) ニューラルネットワークモデル
 5  運動学習の神経生物学
  1) ニューロンとシナプス,局所回路の変化
 @2) 大脳小脳連関と運動学習
 6  練習と訓練
  1) 練習と訓練,ドリル
  2) 学習曲線
  3) 練習の効果
  4) 動機づけ
  5) フィードバック
  6) 訓練と練習の時間
  7) 全体法と部分法
  8) 学習の転移
  9) 運動技能の保持

文献
付録
 1.人体の骨格
 2.人体の筋
 3.皮膚の感覚神経
 4.四肢の末梢神経
 5.主な筋の神経支配
 6.関節可動域表示ならびに測定法
日本語索引
外国語索引