やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監修者のことば
 これまで医歯薬出版株式会社より一連のシリーズとして発刊されてきた「PTマニュアル」は,「循環器疾患の理学療法 第2版」(奈須田鎮雄・武村啓住・大久保圭子著),「脳血管障害の理学療法」(奈良 勲著),「小児の理学療法」(河村光俊著),「地域理学療法 第2版」(伊藤日出男・香川幸次郎著),「関節リウマチの運動療法 第2版」(椎野泰明著),そして「脊髄損傷の理学療法第2版」(武田 功・奥田邦晴・岩 洋著)である.
 このたび,その一つとして「スポーツ理学療法」と題したPTマニュアルを単著として浦辺幸夫氏に執筆いただき発刊の運びとなったことを,お手伝いしてきた監修者としてたいへん嬉しく感じている.本書が構想されてから発刊されるまで長い年月を要したが,たとえ自分の専門分野であるにせよ,単著として一つの書籍にするプロセスには相当の時間とエネルギー,さらに同僚の支援などを要することをわたし自身も体験している.
 理学療法士としての浦辺氏のキャリアは24年である.その間,浦辺氏は一貫して,「スポーツ理学療法」に関連して多岐にわたり研鑽を重ね,臨床体験はもとより研究成果を国内外の学術大会で数多く発表や講演されている.さらに論文や書籍の共著などの業績も多く,「スポーツ理学療法」の世界では秀でた人材のひとりである.
 浦辺氏とわたしは,広島大学医学部保健学科(現在は広島大学大学院保健学研究科)で共に12年間にわたり仕事をしてきた同僚である.浦辺氏の学生教育への情熱は並々ならぬものであり,学部生の卒業研究,大学院生の研究指導においても「スポーツ理学療法」に関連したテーマに関心を抱く学生・院生が研究室に沢山押し寄せている.
 本書は,上記したように浦辺氏のこれまでの「スポーツ理学療法」に関した集大成であり,「第1章:スポーツ理学療法とは」「第2章:スポーツ外傷・障害の概念」「第3章:測定・評価・治療」「第4章:スポーツ理学療法各論」で構成されている.
 近年,わが国においてもスポーツ人口が増加し,とくに長寿社会になったことにともない,高齢者のスポーツ人口も増加している.さらに,障害者スポーツも盛んになり,スポーツ自体は余暇の過ごし方,quality of life,健康増進という観点からもたいへん喜ばしい現象であるといえよう.しかし,過用症候群などは,主に過度にスポーツを行うことの弊害であり,その症状の発生の年齢層や時期に関係なく十分に留意することが大切である.
 最後になったが,スポーツ理学療法,アスレティック・トレーニングなどを修学している学生,すでにそれらの仕事に従事されている関連職種の方々にとって,本書がよきマニュアルになることを祈念してやまない.
 2006年3月
 奈良 勲

序文
 本書は,筆者が理学療法士になるきっかけとなった石川県七尾高校時代の陸上競技の経験,高知リハビリテーション学院で受けた教育,札幌医科大学でのスポーツ医学との出会い,(財)日本体育協会スポーツ診療所での緊張感に満ちた生活,(財)スポーツ医・科学研究所での怪我をした選手達に囲まれて過ごした日々,名古屋市立大学での学友との交流,広島大学での教育・研究・社会活動……などさまざまな経験を通じて学んだことを1冊に集約してまとめたものである.内容的には以下の点に留意しながら執筆した.
・筆者の臨床経験,研究論文,広島大学医学部および大学院保健学研究科で行ってきた講義,さらに講演,学会発表,シンポジウムなどの骨子を中心にして,不足箇所を追加修正してまとめた.
・スポーツリハビリテーションやスポーツ理学療法士(仮称)を目指す方々を読者として念頭においた.
・学生のみならず,大学院生には研究の導入として利用していただけるように配慮した.
・スポーツ理学療法学が目指す理念を掲げ,問題点を明らかにすることで,今後のスポーツ理学療法の発展につながることを期待してまとめた.
・臨床を行うなかで,現在あるエビデンスをできるだけ忠実に踏襲し,さらに持論を加えた.
・英語による表現が一般的なものにはできるだけ英語を付記した.
 理学療法士を目指し,養成校に入るきっかけとして,「スポーツ・リハビリテーションをやりたい」あるいは「アスレティック・トレーナーになりたい」という若い人々がたくさんいるように思う.しかしながら,もっとも身近な理学療法学教育において,「スポーツ理学療法」に触れることなく,結果として夢が夢のままで実現できなかった人々の実状をみてきた.また,臨床の場でスポーツ選手の治療に関与したが,従来の理学療法学の知識と技術とを駆使しても十分に対応できなかったとの話も耳にする.
 広島大学のオープンキャンパスには受験希望の高校生が毎年大勢やってくるが,それらの人々から,「野球をやっていますが,理学療法士になったら広島カープのトレーナーになれますか?」というような質問がたくさんある.筆者は,「スポーツ現場では,きちんとした仕事ができて,自分の仕事に責任のとれる人間性を持ち合わせた人が切望されていますよ」と答える.そのような人々が本書を読むことによって,スポーツ理学療法士やスポーツ・セラピスト,スポーツ・リハビリテーション,あるいはアスレティック・リハビリテーションについてのイメージをもっていただければと願っている.またスポーツ選手のリハビリテーションに携わりたいという希望を抱いている理学療法士や理学療法学科で学ぶ学生さん,大学院生,さらにアスレティック・トレーナーになりたいという人々にぜひ本書を読んでいただき,実際の活動に役立てていただければと願う次第である.本書を読み終えた時点で,「きちんと仕事ができて責任のとれる専門家になる」ことの意味を十分に認識していただけるとすれば,本書が発刊されることになった意義があると思っている.
 本書の構想から発刊までに長い歳月を費やしてしまったが,それは筆者自身の考えを煮詰めていくのに要した時間で,まだ発展途上にあることを自覚している.今後,速やかに改訂して,最善の情報を伝えられる書物にしたいと思っている.多くの読者の皆様からご意見・ご指摘などをいただければ幸甚である.
 最後に,本書の執筆を勧め,スピードアップするように励ましていただいた奈良 勲先生(神戸学院大学教授,広島大学名誉教授),人生の師と仰いできた川野哲英先生(はちすばクリニック副院長),恩師である中屋久長先生(高知リハビリテーション学院長),いつもきちんとした段階的リハビリテーションの効果を提示していただいた小林寛和先生(スポーツ医・科学研究所主任理学療法士),筆者が到底及ばない緻密な物の考え方や資料・文献などの整理の仕方を教わった大成浄志先生(福山平成大学教授,広島大学名誉教授),膝関節治療について多くの示唆を与えてくださった越智光夫先生(広島大学整形外科教授),現在筆者と一緒に仕事に従事していただいている宮下浩二先生(広島大学講師),その他お世話になった数え切れない大勢の先生方に感謝します.学生,大学院生,そして選手にも多くのことを教わったことを付記し,感謝します.
 また,54歳にして脳卒中で急逝した父,郷里七尾で元気に畑仕事を続ける母,遠くから見守ってくれている心強い兄,開拓心旺盛な弟など,人生の前半を支えてくれた家族や友に感謝します.影に日向にいつも筆者を支えてくれている妻,活力を与えてくれている3人の娘にも感謝します.
 2006年3月
 浦辺 幸夫
 監修者のことば
 序文
第1章 スポーツ理学療法とは
 1.スポーツ理学療法とは
  1)評価  2)治療とリハビリテーション  3)スポーツ外傷・障害の予防
 2.スポーツ理学療法の内容
  1)体力の向上  2)運動療法  3)物理療法  4)補助具,装具,テーピング  5)マネージメント  6)栄養,心理面のサポート
 3.スポーツ理学療法士の活動分野
  1)各種スポーツ大会への参画  2)スポーツ理学療法士の活躍の場  3)健康増進と理学療法士の役割
 4.スポーツ・リハビリテーションとメディカル・リハビリテーションの違い
 5.アスレティック・トレーナーとは
  1)アスレティック・トレーナー(AT)の役割  2)(財)日本体育協会公認AT養成講習会  3)公認ATの活動の場
第2章 スポーツ外傷・障害の概念
 1.スポーツ外傷・障害とは
 2.スポーツ種目と発生する外傷の特徴
  1)コンタクトスポーツとノンコンタクトスポーツ  2)受傷機転としてのコンタクト損傷とノンコンタクト損傷  3)スポーツにおける道具や用具の使用  4)地面との衝撃が問題になるスポーツ  5)個人スポーツと団体スポーツ  6)スポーツ外傷の性差  7)スポーツを行う目的による分類
 3.スポーツ動作と身体各部に加わるストレスの分析
  1)下肢の動作  2)腰背部の動作  3)上肢の動作
 4.スポーツ外傷・障害の発生機序の分析
  1)伸張ストレスによる損傷  2)圧縮ストレスによる損傷  3)曲げ(屈曲)ストレスによる損傷  4)回旋ストレスによる損傷  5)剪断ストレスによる損傷
 5.スポーツ外傷・障害の発生要因
  1)トレーニング要因  2)環境要因  3)個体要因  4)その他の分類方法
 6.スポーツ外傷・障害が身体に与える影響
  1)筋力低下  2)関節可動域(ROM)の低下  3)持久力の低下  4)運動感覚の低下  5)心理的影響
 7.スポーツ外傷・障害の多い部位
 8.成長期のスポーツ外傷・障害の予防
  1)成長期のスポーツ  2)成長期にみられるスポーツ傷害
第3章 測定・評価・治療
 1.効果的な評価・治療を行うための戦略
  1)戦略と決定に基づいた治療プロセス  2)評価の進め方  3)疾患についての理解を進めておく  4)評価を治療計画に結びつける  5)目標設定の考え方  6)outcome assessmentの考え方
 2.評価のために検査・測定が備えるべき基本条件
  1)スポーツ理学療法評価の基礎  2)問診ならびに基礎情報のとりかた  3)評価の基本条件
 3.形態測定
 4.疼痛の評価
  1)疼痛の診かた  2)安静時痛  3)叩打痛・圧痛  4)運動時痛  5)荷重時痛  6)スポーツ動作時痛
 5.アライメントの評価と治療
  1)下肢アライメントの概念  2)下肢の運動連鎖とアライメント  3)マルアライメント  4)アライメント評価からアライメントコントロール実施のevidence  5)アライメントコントロールの実際  6)スポーツと姿勢
 6.関節可動域(ROM)の測定とエクササイズ
  1)ROMとは  2)ROM測定の原則と注意点  3)ジョイントラキシティの測定  4)ROMエクササイズの注意事項  5)ストレッチング
 7.筋力の評価と筋力強化エクササイズ
  1)筋力とは  2)筋力測定の意味と重要性  3)筋力測定の各種方法とその意義ならびに特徴  4)一般的な筋力測定法  5)筋力測定の実施法  6)等速性運動測定機器による測定  7)筋力増強エクササイズ
 8.テーピング
  1)テーピングの目的  2)テープの使用法  3)テーピングのevidence  4)ファンクショナルテーピングの実践と応用
 9.スポーツマッサージの実際
  1)マッサージの基本概念  2)マッサージの生理学的効果  3)マッサージの原則・注意点  4)マッサージの基本手技  5)マッサージのポイント  6)肢位別マッサージの実際
第4章 スポーツ理学療法各論
 1.急性期スポーツ外傷への対応
  1)救命救急処置  2)出血への対応  3)急性スポーツ外傷  4)慢性スポーツ外傷
 2.足関節・足部疾患とリハビリテーション
  1)足関節の構造と運動の特徴  2)足関節捻挫  3)その他の足部疾患153  4)具体的なエクササイズ
 3.膝関節疾患の評価とリハビリテーション
  1)膝関節の構造  2)理学療法評価  3)運動療法の原則  4)内側側副靱帯損傷  5)外側側副靱帯損傷  6)前十字靱帯損傷  7)後十字靱帯損傷  8)膝蓋腱損傷  9)半月板損傷  10)膝蓋大腿関節障害
 4.肩関節疾患の評価とリハビリテーション
  1)肩関節の構造  2)オーバーヘッドスポーツで発生する疾患  3)理学療法評価  4)肩関節疾患のリハビリテーション  5)関節可動域の確保  6)筋力強化 214  7)テーピング  8)スポーツ復帰
 5.腰痛の評価とリハビリテーション
  1)腰痛の概念  2)腰痛の評価  3)腰痛のリハビリテーション