やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
第44回の出題傾向はどんな状況だったか
 平成20年度,第44回理学療法士・作業療法士国家試験の受験者は,作業療法士(以下OT)6,675名,理学療法士(以下PT)9,119名であり,第43回と比較するとOTは約900名,PTは約1,100名増加した.また合格者数はOTが5,405名,PTが8,291名であった.第43回と比較すると,第44回の合格者数は前回よりOTで約1,150名,PTで約1,350名増加した.国試合格率は,OTは81.0%,PTは90.9%であり,第43回と比較して合格率は上昇した.
 OT・PT共に,第43回の合格率は,過去16年間で最低の合格率であった.平成17年度以降の合格率は,低下傾向であったものの90%台は維持していた.それが前回ついにOTは70%台,PTは80%台にまで劇的に低下した.前回の国試合格発表時に際し,厚生労働省は『「受験者レベルには難しすぎる問題」なので合格調整する』とした問題が,OT専門で5問,PT専門で1問,共通分野で6問あった.たしかに,前回の出題は,『X(2)タイプ(2つ選べ):五者択二』問題の出題数が激増しただけでなく,質問内容もかなり深いレベルまで掘り下げられており,臨床経験を要するような問題が多数出題された.その結果が国家試験合格率の低下につながったことは間違いない.この国家試験合格率の劇的な低さが,厚生労働省の国家試験担当者に出題内容を吟味させることになった.また,日本全国のPT・OT養成校の教員,および国家試験受験生に対して「今までのような対策では合格できない」という恐怖心をあおり,今まで以上にしっかりと国試対策を行わなければならないと思わせる結果になった.受験する側(国家試験受験生)は「難易度の高い問題でも解けるようになる」ことを目指し,出題する側(厚生労働省)も「適切な問題内容,難易度が高すぎない問題」を出題することを目指した結果が,第44回の「合格率の上昇」と「合格者数の増加」につながったものと思われる.今回の出題には「不適切問題や問題として受験者レベルには難しすぎる問題,削除問題」などの指摘は1問もなく,また『X(2)タイプ』問題は第43回より15〜18問減っており,OTは59問/200問,PTは57問/200問であった.今回は厚生労働省が問題を厳選し,受験生にとって回答しやすい問題構成にしたことがうかがえる.
 以上のことから,第44回の問題をベースに次回,第45回の国試対策を立てることは,大変有意義なことといえる.単年度で比較すると第44回は第43回より明らかに難易度は下がってやさしくなっているが,5〜10年前の出題形式や問題の難易度と比較すると確実に難易度は高くなり,出題形式も解答を得にくい形式に移行してきている.問題内容は,臨床的で実践力を問う内容であり,症例に関する「患者動作の実写真」「X線画像」「MRI画像」「CT画像」「実測異常心電図」などが数多く出題されている.単純な机上学習では解答できないような難易度の高さである.この傾向は今後も続くとみられ,ますます合格点獲得が難しくなるだろう.
 しかし,本書を十分に活用し,受験対策をしっかりと立てて,着実に一歩一歩学習し続ければ,必ず合格できるであろう.なぜならば本書は,過去10年分の国試問題を細かく分析し,今後の出題傾向を探りながら学習できるように,参考書兼問題集として構成しているからである.ぜひ,本書を上手に活用し学習していただきたい.
合格を確実にするための本書の特徴
 本書は,国家試験に向けてしっかりと対策を立て,基礎から臨床まで十分に学習し,確実に合格を手にしたい受験者のために作成した.本書の特徴を以下にあげる.
 (1)過去問題(第35回から第44回までの10年分・1,000問)を分析し,「出題傾向と対策の要点」を円グラフや棒グラフで表示した.
 (2)各科目をさらに小項目に細分類し,学習項目を絞り込んだ.
 (3)分野ごとに過去10年間の「出題傾向分析表」を提示し頻出問題に印を付けた.
 (4)専門分野における「実地問題=高得点(3点)」にはマークを提示した.
 (5)最重要問題番号を1,重要問題番号を2で提示した.
 (6)基本的に1分野1ページ終了形式(実地問題,図示問題等はイラストが多いため2ページ形式もある)を基本とした.
 (7)問題直下の「必修ポイント」欄には「暗記表」を掲載し最低限暗記しなければならない内容を提示した.
 (8)同じく「必修ポイント」欄には数多くの写真やイラストを掲載し,「視覚学習」「イメージ学習」方式を採用した.
 (9)図表中の「暗記項目」は赤字で提示した.
 (10)問題の右側には「解答記入」欄を設定し,設問文章ごとに解答を記入できるようにした.
 (11)ページ最下段に「解答」欄を提示し,いつでも正解を確認できるようにした.
 (12)参考資料として「かんたんチェックポイント」ページを設け,応用力の育成を目指した.
 (13)巻末に「X(2)対策テスト」「自己評価テスト」100問を付け加え,実力養成を図るようにした.
 (14)「付録」として「第43回〜第44回国試問題」を加え,さらに実力養成を図れるようにした.
読者全員(100%)合格を祈念!
 国家試験に合格するためには,膨大な出題範囲をできる限り深く学習しなければならないため,受験生は分野別にたくさんの参考書や問題集を揃えなければならないのが現状である.それをできるだけ少ない時間で効率よく,しかも国家試験の内容に沿った深さまで学習しなければならない.そのためには国家試験内容に的を絞った参考書および問題集が必要である.
 本書は,限られた時間の中で本気で学習したいと考えている国家試験受験者のために,参考書と問題集を1冊にまとめた国家試験受験対策の最適書として作成した.受験生諸氏には,上述した分析点を十分に把握して,過去問題をそのまま暗記するのではなく,設問中の1問1問に「○・×」を付けながら,「この文章は正しい」「この文章のここが誤っている」と確認しながら学習を進めていただきたい.来る国試に向けて,受験生諸氏が本書をしっかりと活用して有意義に学習されることを願っている.
 書籍編集者一同,受験生諸氏全員(100%)の合格を心よりお祈り申し上げます!!
 はじめに
 第44回PT・OT国試問題の概要
 第44回出題傾向と対策の要点
 合格のための学習テクニック
 得点力アップのために(本書のページ構成)
第1章 内部障害
 1)心疾患
  (1)正常心電図
   かんたんチェックポイント
   異常心電図(1),(2)
  (2)病態別心電図(異常心電図)
  (3)心筋梗塞の作業療法
  (4)狭心症の作業療法
  (5)重症心不全
  (6)エネルギー消費(運動当量:METs)
 2)呼吸器疾患
  (1)慢性閉塞性肺疾患の作業療法
  (2)呼吸器疾患の症状・生活指導・作業療法
 3)糖尿病
  (1) 糖尿病患者の作業療法
  (2)腎透析患者の作業療法
 4)閉塞性動脈硬化症に対するアプローチ
 5)作業療法士の対応
 6)作業療法中のリスク管理
  文献(引用文献,参考図書)
第2章 老年期障害
 1)生理的老化現象と高齢者の運動強度
 2)老年期疾患
  (1) 障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準
  (2)廃用症候群とその対策
  (3)高齢者の感染症
  (4)高齢者の摂食・嚥下障害
  (5)高齢者の骨折・骨粗鬆症と作業療法
 3)高齢障害者の作業療法
 4)在宅高齢者
  (1) グループワーク・デイケア
  (2)在宅高齢者に対する初回評価と車椅子処方
  (3)在宅訪問指導
   文献(引用文献,参考図書)
第3章 脊髄損傷
  かんたんチェックポイント
  筋の髄節支配
  頸髄損傷(四肢麻痺)患者のADL
  脊髄損傷(対麻痺)患者のADL
  Zancolliの分類,Zancolliの分類における損傷レベルと最終獲得機能,呼吸筋の残存
  頸髄損傷(四肢麻痺)患者の移動動作の可能性,頸髄損傷・脊髄損傷の残存高位と可能な日常生活活動
 1)第5頸髄損傷
  残存筋・可能な動作・家屋改造
 2)第6頸髄損傷
  (1) 感覚障害・合併症
  (2)可能な動作
  (3)除圧の方法
  (4)症例問題
 3)第7頸髄損傷
  (1) 可能な動作
  (2)症例問題
 4)第1胸髄損傷の症例問題
 5)脊髄損傷の合併症
  排尿障害(神経因性膀胱),自律神経過反射,対応
 6)脊髄部分損傷・外傷性脊髄損傷
 7)脊髄損傷の機能残存レベル(残存筋・可能な動作)
  文献(引用文献,参考図書)
第4章 上肢切断
 1)上腕切断の評価・作業療法
 2)前腕切断の評価
  文献(引用文献)
第5章 整形外科系障害
  かんたんチェックポイント
  スタインブロッカーのステージ分類,クラス分類,ランズバリー指数
 1)関節リウマチ
  (1) 変形と装具
  (2)症例問題(実地問題)
  (3)関節リウマチの評価と作業療法と生活指導
   かんたんチェックポイント
   末梢神経障害の分類
 2)末梢神経障害
  (1) 腕神経叢損傷
  (2)第6頸髄神経根損傷
  (3)正中神経麻痺
  (4)手根管症候群
  (5)橈骨神経麻痺
  (6)尺骨神経麻痺
  (7)末梢神経麻痺の総合問題
 3)手指屈筋腱断裂(術後)
 4)肩腱板損傷
 5)人工肩関節置換術後の作業療法
 6)上肢の骨折
 7)乳癌(術後)
 8)頸髄症
 9)熱傷と手指の拘縮
  文献(引用文献,参考図書)
第6章 脳卒中片麻痺
  かんたんチェックポイント
  頭部CT所見
 1)頭部CT所見
 2)摂食・嚥下障害
 3)早期(急性期)作業療法(発症後2〜5日経過)プログラム
 4)亜急性期作業療法
  (1)発症後1〜2週経過
  (2)発症後3週経過
 5)回復期作業療法
  (1) 発症後1か月経過
  (2)発症後2か月経過
  (3)発症後3か月経過
  (4)発症後4か月経過
 6)慢性期作業療法(発症後6,8,11か月経過)
 7)麻痺側上肢に対する作業療法(実地問題)
 8)麻痺側上肢に対する作業療法(一般問題)
 9)ADL訓練
 10)基本動作訓練
 11)生活関連動作訓練・現職復帰指導
 12)肩の障害(肩関節亜脱臼,肩手症候群)
 文献(引用文献,参考図書)
第7章 高次脳機能障害
  かんたんチェックポイント
  高次脳機能障害の定義・概要・症状
 1)高次脳機能障害の症状
 2)高次脳機能障害に対する生活指導
 3)前頭葉障害による高次脳機能障害(前頭葉症候群)
 4)後頭葉損傷による高次脳機能障害(相貌失認)
 5)右大脳半球損傷(左片麻痺)の高次脳機能障害
  (1) 半側空間失認・構成失行・身体失認
  (2)症例問題
 6)左大脳半球損傷(右片麻痺)の高次脳機能障害
  (1) 失語症の症状,指導法,対応
  (2)失語症の症例問題
 7)高次脳機能障害に対する作業療法評価
  (1) 病巣部位と評価法との組合せ
  (2)各種検査方法
 8)外傷性脳損傷(びまん性軸索損傷)
  (1) 特徴・症状
  (2)作業療法(評価・目標・指導)
  (3)作業療法(症例総合問題)
 9)髄膜脳炎(記銘力障害)
  文献(引用文献,参考図書)
第8章 神経筋系障害
  かんたんチェックポイント
  神経筋疾患の分類
  パーキンソン病のヤール(Yahr)重症度分類と注意事項
 1)パーキンソン病
  (1) 症状
  (2)作業療法
  (3)ヤールの重症度分類ステージIII〜IV
 2)脊髄小脳変性症
  症状
 3)小脳性運動失調症
  機能評価・検査の目的
 4)小脳障害
  小脳性運動失調症患者に対する作業療法
 5)多発性硬化症(MS)
  症状・作業療法評価・作業療法
 6)筋萎縮性側索硬化症(ALS)
  (1) 症状・ADL指導
  (2)症例問題
 7)ギラン・バレー症候群
 8)多発性神経炎
  作業療法
 9)多発性筋炎・皮膚筋炎
  作業療法
 10)筋ジストロフィー
  (1) 進行性筋ジストロフィーの分類と特徴
  (2)特徴と機能障害(可能なADL)
  (3)ステージ別(ステージ4〜7)作業療法および生活指導
 11)神経筋疾患総合
  (1) 嚥下障害
  (2)疾患と作業療法の組合せ
   文献(引用文献,参考図書)

 自己評価テスト
  (チェックシート,解答シート)
 X(2)対策実力テスト
  (チェックシート,解答シート)

 索引
 付録
  「第43,44回OT国家試験問題」(作業療法 障害別編I)
  「国家試験合格率」(第30回〜第44回)