やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監訳者の序文
 “Imaging of the Spine”は2011年に米国のElsevier Icn.から出版された,脊椎・脊髄の画像に関する大著である.総勢44名に及ぶ欧米の専門家から構成された執筆者により,脊椎・脊髄の画像の基礎から臨床まで詳細に記載されており,他書に類をみないほどきわめて充実した内容になっている.1,300点に及ぶX線,MR,CT,エコー,核医学などのデジタル画像が掲載され,各論では,各疾患の疫学,臨床像,病態生理学,病理などが最新の知見をもとに詳しく解説されており,本書を繙けば疾患に関することもすべて学ぶことが可能になっている.また,画像と,術中所見や剖検所見,病理所見とが対比して掲載されているので深く理解することができる.さらに,手術成績や近年多用されているインスツルメンテーションの合併症や末梢神経,仙骨神経叢,新しい手技であるMR neurographyについても詳述され,研究用の9.4テスラのMRによる画像所見も掲載されている.各章の最後には,撮像手技や所見を含めた症例呈示やキーポイント,豊富な参考文献も掲載されており,また症例の画像報告書なども例示されており,画像の読影を行う放射線科医にとって参考になると思われる.
 福岡大学の放射線医学,脳神経外科学,整形外科学の各教室およびリハビリテーション部の協力を得て,各専門分野の翻訳を担当した.放射線科領域の用語には適当な日本語訳がないものが多いため,カタカナ表記とするか,また一般的でないものには原語を併記した.原著においても執筆者が多く,必ずしも用語が統一されていなかったが,日本語版においてはできるかぎり用語の統一に努めた.原著の誤りと思われる箇所は訂正し,訳注をつけた.まだわかりにくい箇所や不適切な訳出も多いことと思う.次回改訂の折に反映させていきたいので読者の方に御指摘いただければ幸いである.
 本書はチュートリアル教育に臨む医学生はもとより,脊椎・脊髄疾患に関わるすべての脊椎外科医,整形外科医,脳神経外科医,放射線科医,神経内科医,リハビリテーション医にきわめて有用な情報を与えうると確信している.
 最後に,翻訳を担当していただいた諸先生方と医歯薬出版株式会社編集部に深甚の謝意を表する.
 2013年8月
 福岡大学病院リハビリテーション部 塩田 悦仁

原著序文
 長年にわたって,脊椎疾患の画像診断は,単純X線や断層撮影が用いられてきたが,近年,先進のコンピュータ断層撮影(computed tomography:CT)や磁気共鳴画像(magnetic resonance imaging:MRI)へと発展を遂げた.「最新の画像」であると考えられたものは,先進の手技から基本的な診断検査,古い不合理な研究へと変化していく.脊椎疾患を発見し特徴づける,より大まかで侵襲的な手技は,より安全で速くより正確な方法に取って代わられている.
 しかしながら,これらすべての変化を通じて,医学的診断の核心は,脊柱と脊髄の解剖,生理学そして病理学のままである.人体は用いられてきた技術よりもゆっくり進化している.したがって,脊椎の解剖,生理学そして病理学は依然としてすべての医学的診断の基礎である.
 役立てるために,画像研究から得られたデータは,患者を治療する臨床医に簡潔かつ効果的に伝達される必要がある.あまりにしばしば,画像の報告は技術的な詳細で一杯になるが,1つあるいは他の経路に患者の治療を向けるために必要な鍵となる病態生理学的データに関する議論は限られている.世代にわたって長く議論されている「誰が,よりよく読影できるか,臨床家か放射線科医か?」という問題は,これらの医師が基本的に異なる2つのセットのデータを読影するとき解決する.画像の有益な解釈は,臨床医が治療指針を決定するのに必要な適切な陽性および陰性データを提供し,また診断に到達しその検査の限界を理解する必要がある放射線科医に詳細な身体データを提供する.
 したがって,以下の章では,脊柱,傍脊柱軟部組織に対する画像手技,脊柱と脊髄の正常解剖,脊椎の加齢変化,脊椎の変性疾患,脊髄の正常血行,脊髄虚血と血管奇形,脊椎外傷,脊髄腫瘍と.胞,脊椎の代謝性疾患,脊椎の炎症と感染,脊髄病理学の術前マッピング,脊髄生理学の手術中のモニタリング,椎体形成と後彎形成術,脊柱管狭窄の除圧と椎間板障害に対する術後合併症などについて述べる.最後の3つの章は,腕神経叢,仙骨神経叢そして手根管での末梢神経除圧について述べる.脊柱の先天奇形は,小児神経画像診断に関する姉妹巻で提示している.
 後続の章において,本書はまた脊髄画像を効果的に分析する方策を提供し,臨床医に中心的所見を伝える1つの方法を解説する例を含み,われわれの研究の「有益な報告」を達成している.
 ますます高度な画像技術は,われわれに,どのように効果的に研究を実行するべきか,どのようにその限界を認めるべきか,そして,健康と病気のある患者の状態を理解するためにどのように解釈するべきか,ますます高度な知識を要求している.したがって,編集者は本書のために,各テーマに精通し,そして簡潔かつ完全に提示できるきわめて熟練した著者を選択した.これらの著者のなかには,とくに神経病理学者を含んでおり,その貢献は神経病理学のわれわれの画像認識の基礎となっている.
 本書は,脊椎疾患の画像診断の簡潔であるが,完全な概説を提供することを目的としている.現在,「現代の」画像を理解するのに必要な脊柱と脊髄の恒常的な解剖と生理学を詳細に記載している.病理学がどのように脊柱に影響を及ぼすかついて説明し,病理学のどのパターンが確実な画像診断を導くかについて概説している.将来の「現代の」画像を解釈するのを補助するであろうと思われる,われわれの選択したデータを故意に含ませている.
 このテキストを研究する際に,そして,テキストを例示する解剖的そして病理学的画像を作成する際にわれわれがそうであったように,読者が脊椎について楽しんで学んでもらうことを望んでいる.さらに,読者がわれわれの知識の欠陥に気づき,彼らによって彼ら自身の研究を進める気にさせ,このようにしてわれわれに加わることが望まれる.
 「過去はプロローグであり,これからがあなたと私の出番です.」ウィリアム・シェークスピア,テンペスト第2幕,第1場,245.254.
Thomas P.Naidich
 訳者一覧
 監訳者の序
 編集者
 執筆者
 原著序文
I 序
 第1章 成人脊椎の撮像技術
  MRIの物理学的原理
  撮像法
   パラメータ・プロトコル
  正常像
  アーチファクト
  個別の使用法
  分析
  研究の現状および今後の方向性
II 傍脊柱構造
 第2章 傍脊柱軟部組織
  解剖
   筋組織 動脈 静脈 リンパ系組織
  機能的区分
  画像
   超音波 CT MRI
  病変
   感染症 腫瘍 外傷 変性疾患 先天性疾患 髄外造血
  分析
III 正常な脊柱と脊髄
 第3章 正常な脊柱:概要と頸椎
  正常な解剖学的構造
   標準脊椎骨 椎体間の関節 分節骨形態学 椎間孔
  画像
   CTとMRI 頸椎検査を解釈して報告するための計画
 第4章 正常な脊柱:胸椎,腰椎,尾骨
  正常解剖
   骨性脊椎分節の形態 靱帯 脊椎硬膜外腔 椎間孔
  画像
   CT MRI 胸椎・腰椎画像読影の戦略
 第5章 正常な脊髄と髄膜
  I 脊髄
   内部構造 脊髄の血管系 脊髄の灰白質 脊髄の白質
  II 髄膜
   歯状靱帯 神経根
  画像
   CT MRI 特殊撮像法
IV 正常な脊椎の老化と変性
 第6章 脊椎の加齢による変化
  椎間板の解剖と機能解剖学
  加齢による椎間板の変化
   新生児 10歳代 20歳代
  加齢による椎体と靱帯の変化
   骨髄 骨棘 黄色靱帯
  椎間関節と鉤椎関節の加齢性変化
   椎間関節 鉤椎関節
 第7章 脊椎の変性疾患
  技術面
   脊椎変性変化を評価することに適用できるMRI技術
  椎間板変性の生化学と生体力学
   椎間板変性の生化学的変化 加齢および変性椎間板の生化学的変化
  椎間板変性の形態学的特徴
   変性椎間板の肉眼的な形態学的変化
  頸椎椎間板変性
  胸椎椎間板変性
  脊柱,椎間関節と靱帯の変性変化
   椎体 鉤椎関節変性 黄色靱帯変性 椎間関節変性
  画像
  分析
V 正常な血管と虚血
 第8章 脊椎・脊髄の血管解剖
  動脈
   分節動脈とその吻合 脊髄の動脈
  静脈
 第9章 脊髄の動脈性虚血
   疫学 病態生理学 臨床像 画像
  分析
VI 脊椎の損傷
 第10章 脊椎外血腫
  脊髄硬膜外血腫
   疫学 臨床像 病態生理学 画像
  脊髄硬膜下血腫
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  分析
   硬膜外血腫(SEH)vs.椎間板 硬膜外血腫(SEH)vs.硬膜外膿瘍
   硬膜外血腫(SEH)vs.腫瘍
 第11章 脊柱の外傷
  環椎後頭骨解離損傷
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  環軸椎脱臼損傷
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  環椎の骨折
   疫学 臨床像 病態生理学 画像
  歯突起骨折
   疫学 臨床像 病態生理学 画像
  外傷性のC2分離すべり
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  下部頸椎の過伸展損傷と過伸展teardrop型損傷
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  下部頸椎の過屈曲損傷
   疫学 臨床像 病態生理学 画像
  椎骨動脈損傷
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  Chance型損傷
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  胸腰椎の骨折
   疫学 臨床像 病態生理学 画像
  分析
 第12章 脊髄損傷
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  分析
VII 脊髄血管奇形
 第13章 脊髄血管奇形
  脊髄硬膜動静脈瘻
   疫学 病理 臨床像 画像 治療法
  脊髄動静脈奇形
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像 治療法
  海綿状血管腫
   疫学 病態生理学 臨床像 病理 画像 鑑別診断
  分析
VIII 脊椎・脊髄の嚢胞と腫瘍
 第14章 脊髄嚢胞性疾患
  類皮嚢胞
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  類上皮嚢胞
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  髄膜嚢胞
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  上皮嚢胞
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  神経腸管嚢胞
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  水脊髄空洞症
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  退行性嚢胞
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  分析
 第15章 脊椎・脊髄腫瘍
  硬膜内髄内腫瘍
   上衣腫 脊髄星細胞腫 乏突起膠腫 神経節膠腫 血管芽腫
   髄内転移性脊髄腫瘍 その他の非常にまれな脊髄髄内腫瘍
  硬膜内髄外腫瘍
   神経鞘腫瘍:神経鞘腫,神経線維腫 髄膜腫 脂肪腫 傍神経節腫
   転移性腫瘍
  硬膜外腫瘍
   内骨腫症 類骨骨腫 骨芽細胞腫 硬膜外脂肪腫症 動脈瘤様骨嚢腫 血管腫
   巨細胞腫 脊索腫 骨軟骨腫 骨肉腫 軟骨肉腫 ユーイング肉腫
   リンパ腫 形質細胞腫 多発性骨髄腫 造骨性転移性腫瘍
   溶骨性転移性腫瘍
  分析
IX 代謝性疾患
 第16章 脊柱に影響を及ぼす代謝性疾患
  骨粗鬆症
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  痛風
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  ジハイドロキシピロリン酸カルシウムとハイドロキシアパタイトカルシウム結晶沈着症
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  Paget病
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  先端巨大症
   疫学 臨床像 病態生理学 画像
  副甲状腺疾患
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  甲状腺疾患
   疫学 臨床像 病態生理学 画像
  Cushing病
   疫学 臨床像 病態生理学 画像
  腎性骨異栄養症
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  くる病・骨軟化症
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  分析
 第17章 脊髄に影響を及ぼす代謝性疾患
  ビタミンB12欠乏
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  笑気中毒
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  銅欠乏性脊髄症
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  全身性代謝疾患における脊髄症
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  分析
X 脊椎における感染
 第18章 脊柱の感染
  化膿性椎間板−骨髄炎
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  化膿性硬膜外/硬膜下膿瘍
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  ノカルジア性脊椎炎
   疫学 臨床像 病態生理学 画像
  結核性脊椎炎
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  ブルセラ属脊椎炎
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  真菌感染
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  嚢尾虫症
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  包虫症
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  住血吸虫症
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
 第19章 脊髄の感染
  脊髄膜炎
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  脊髄炎/脊髄膿瘍
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  ウイルス性脊髄炎
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  HIV脊髄炎
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  特発性横断性脊髄炎
   疫学 臨床像 病態生理学 画像
XI 脊椎の炎症
 第20章 脊柱の炎症
  強直性脊椎炎
   疫学 臨床像 病態生理学 画像
  乾癬性関節炎
   疫学 臨床像 病態生理学 画像
  反応性関節炎
   疫学 臨床像 病態生理学 画像
  関節リウマチ
   疫学 臨床像 病態生理学 画像
  サルコイドーシス
   病態生理学 画像
  透析アミロイドーシス
   病態生理学 画像
  分析
 第21章 脊髄の炎症
  脊髄多発性硬化症
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  急性横断性脊髄炎
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  視神経脊髄炎
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  サルコイドーシス
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  ギラン・バレー症候群
   疫学 臨床像 病態生理学 病理 画像
  分析
XII 手術で考慮すべき点
 第22章 術前画像評価
  変性疾患
   画像診断と痛み 脊柱管狭窄症 椎間孔外神経根障害
  椎間板疾患
   ガドリニウムの使用 椎間板ヘルニアと類似する病態
  硬膜外病変
  硬膜内髄外腫瘍
  髄内病変
   新生物 多発性硬化症 急性脊髄横断障害 亜急性壊死性脊髄症
   AIDS 亜急性連合変性症 放射線性脊髄症
  外傷
  先天異常と脊髄造影法
   嚢胞性髄膜腫 脊髄ヘルニア 脊柱側彎症
  CT血管造影
 第23章 術中神経生理学的モニタリング
  神経生理学的活動のモニター
   感覚系モニタリング 運動系モニタリング 局所皮質活動モニター(脳波)
  手技
   脊髄手術
  血管内手術のモニター
  要約
 第24章 椎体補強手技:椎体形成術と後彎矯正術
  適応
  禁忌
  器材
  手技
   解剖とアプローチ 技術的な面
  論争
  結果
  合併症
  手技後のケアとフォローアップケア
 第25章 脊柱管狭窄に対する除圧術と椎間板疾患手術の合併症
  頸椎手術の合併症
   頸椎前方アプローチの合併症 頸椎後方アプローチの合併症
   プレート固定を伴う外側塊スクリュー使用後の合併症
   頸椎経椎弓根スクリューの合併症 前方後方併用「全周性」頸椎除圧固定術
  腰椎手術の合併症
   概観 成功した手術 胸腰椎手術の一般的合併症
   胸腰椎前方手術に特異的な合併症 胸腰椎後方手術に特異的な合併症
  分析
XIII 腕神経叢と仙骨神経叢
 第26章 腕神経叢の画像
  手技
  正常像
  特殊な使用法
   外傷 腫瘍 胸郭出口症候群 さまざまな異常
  分析
 第27章 仙骨神経叢の画像
  解剖
  顕微鏡所見
  適応
  画像
   筋の画像 理想的画像平面と手技 パルスシーケンス 画像の解釈
   画像状態 MR neurographyの限界 将来の方向性
  新生物/悪性浸潤
   内因性病変 良性腫瘍 神経叢障害をきたす外因性腫瘍
   放射線誘発神経叢障害 種々の原因
  絞扼性障害と圧迫
   梨状筋症候群
  術後神経根症
  外傷
  末梢神経障害
  分析
 第28章 末梢神経の画像:手根管症候群
  解剖
  画像
   超音波 CT MRI
  病変はどのように正常所見を変化させるのか
   解剖学的変異 手根管病変の他の原因 追跡調査
  分析

 索引