やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監訳者 第2版の序
 正常歩行を理解することは,病的歩行を学ぶ者にとって重要なことである.
 歩行を説明するには運動学と運動力学の2つの表現が使われている.運動学は関節角度,変位,速度,加速度などの歩行パラメーターが使われる.運動力学は床反力,筋や靱帯の力,関節モーメントやパワーなど運動の原因となるパラメーターが含まれる.
 これらを用いた歩行機能の評価によって正常歩行または異常歩行を分析し,鑑別する.
 歩行機能の異常(異常歩行)は,胎児,乳幼児,小児の一連の発達過程のうちどの段階の障害でも,歩行機能の獲得時期の遅延や歩容の未熟性,代償性,異常性といった時期的あるいは量的程度の差と質的要素の違いなど,多種多様の異常性を生じてくる.
 これに対して成人や高齢者の歩行の特徴は,乳幼児,小児期における発達障害や歩行の未熟性といった障害を除いて,運動器の加齢変化と病的変化,そして心因性による障害などがみられるため,その鑑別が重要となる.
 近年,急速に進行する少子高齢化に伴う歩行機能障害(傷害)と,健康維持・増進のためにウォーキングやジョギングそしてスポーツによる障害(傷害)から歩行機能障害(傷害)をきたすチャンスが増加傾向にあるといわれている.これに対応するには歩行に関する基礎知識と用語を理解したうえで,予防や評価,そして治療に関する知識も必要となる.本書では,これについても基礎から臨床まで役立つように編纂されている.第1版の記述に加えて第2版ではさらに加筆され,初心者でも理解できるように平易な記述と,応用範囲も広げ臨床家の皆様にも役立つように編纂されている.本書を座右の書としてご活用くだされば幸いである.
 最後に読者の皆様からのご意見やご批判,ご助言をお願いたします.終りに臨み執筆くださった先生方と,完成まで根気よく付き合ってくださった医歯薬出版の皆様にも心から感謝いたします.
 2012年1月
 武田 功

監訳者 第1版の序
 歩行は三次元の空間における身体の移動の一つであり,人間にとってもっとも重要な移動手段でもある.この歩行に関する書物や文献はよくみかけるが,では「定番」となる書物はとなるとそう多くはないように思える.
 歩行分析に関しては先般,Kirsten Gotz-Neumannの「観察による歩行分析」が月城慶一先生,山本澄子先生らによって丁寧に翻訳されているが,われわれはこのたび,その原著ともいえるMD.Jacquelin Perryの「GAITANALYSIS-Normal and Pathological Function」の翻訳書を,医歯薬出版の協力を得て出版することになった.
 本書は,歩行分析に関する科学的思考のもとに,科学的検証による普遍妥当性を追究した名著でもある.本書が,医師および医学生,そして医療従事者(コメディカルスタッフ)などの教育と臨床の場においても即,役に立つ翻訳書として広く座右の銘となれば訳者らの限りない喜びである.
 本書が上梓されるまでには,原文に忠実に翻訳を行い,全編をとおして文章や記載法をできるだけ統一し,何度も推敲を重ね読みやすくすることに心を砕いてきた.その過程において,読者の理解を助けるために若干加筆した部分もある.今後さらなる正確さを期するためにも,内容,構文上の問題など,読者諸兄姉からの多数のご指摘をいただければ幸いである.
 最後に,本書の翻訳に携わっていただいた先生方と,医歯薬出版(株)編集部の労に対し深甚の謝意を表する次第である.
 2007年3月
 武田 功

謝辞
 観察による歩行分析の体系的な方法の開発は,Rancho Los Amigos National Rehabilitation Center(Rancho)の理学療法の管理職者や指導者たちとの共同の成果であった.このグループの構成員は,プログラム発展の四半世紀の間にとても頻繁に入れ替わったので,名前を列挙せずに「援助していただきありがとう」と述べることしかできないが,その人たちが我々の考え方を理解してくれることを願うのみである.そのなかでも歩行分析プロジェクトに長期にわたりかかわってくれたJacqueline MontgomeryとMaureen Rodgersの援助に対し,とくに感謝したい.
 本書の最終段階での多大な援助に対し,JoAnne K. GronleyとLydia M. Cabicoに特別な謝意を表したい.JoAnneは理学療法士で,RanchoのPathokinesiology Laboratoryの臨床研究部門の参事であるが,過去30年の間,念入りに研究データの質を調べた.Berkley Graphics and Design and of RanchoのLydia Cabicoは,第2版である本書で使用されている大多数の挿絵を作成した素晴らしいコンピュータデザインアーティストである.
 監訳者 第2版の序
  第1版の序
 謝辞
 著者紹介
 Contributing Authors
 序論
第1部 基本
 第1章 歩行周期
  交互の床接地パターン
   歩行周期の区分
   歩行周期のタイミング
   重複歩とステップ
 第2章 歩行の相
  課せられた役割:荷重の受け継ぎ
   第1相 初期接地
   第2相 荷重応答期
  課せられた役割:単下肢支持
   第3相 立脚中期
   第4相 立脚終期
  課せられた役割:遊脚下肢の前進
   第5相 前遊脚期
   第6相 遊脚初期
   第7相 遊脚中期
   第8相 遊脚終期
 第3章 基本的な機能
  身体の区分
   パッセンジャーユニット
   ロコモーターユニット
  ロコモーターの機能
   直立姿勢の安定性
   前進
   衝撃吸収
   エネルギーの温存
第2部 正常歩行
 第4章 足関節−足部複合体
  足部支持パターン
   踵支持(calcaneograde)
   足底支持(plantigrade)
   前足部支持(digigrade)
  足関節と足部の関節
  足関節における歩行力学
   用語
   運動の軌跡
   筋による制御
   力
  足部における歩行力学
   用語と運動
   筋による制御
  足関節と足部の機能的な解釈
   初期接地(0.2% GC)
   荷重応答期(2.12% GC)
   立脚中期(12.31% GC)
   立脚終期(31.50% GC)
   前遊脚期(50.62% GC)
   遊脚初期(62.75% GC)
   遊脚中期(75.87% GC)
   遊脚終期(87.100% GC)
  結論
 第5章 膝関節
  膝関節における歩行力学
   運動
   筋による制御
   力
  膝関節の機能的な解釈
   初期接地(0.2% GC)
   荷重応答期(2.12% GC)
   立脚中期(12.31% GC)
   立脚終期(31.50% GC)
   前遊脚期(50.62% GC)
   遊脚初期(62.75% GC)
   遊脚中期(75.87% GC)
   遊脚終期(87.100% GC)
  結論
 第6章 股関節
  股関節の歩行力学
   運動
   筋による制御
   筋の発生する力
  股関節の機能的解釈
   初期接地(0.2% GC)
   荷重応答期(2.12% GC)
   立脚中期(12.31% GC)
   立脚終期(31.50% GC)
   前遊脚期(50.62% GC)
   遊脚初期(62.75% GC)
   遊脚中期(75.87% GC)
   遊脚終期(87.100% GC)
  結論
 第7章 頭部,体幹および骨盤
  頭部,体幹および骨盤の歩行力学
   運動
   ベクトルパターン
   筋の制御
  頭部,体幹および骨盤の機能的解釈
   初期接地(0.2% GC)
   荷重応答期(2.12% GC)
   立脚中期(12.31% GC)
   立脚終期(31.50% GC)
   前遊脚期(50.62% GC)
   遊脚初期および遊脚中期(62.87% GC)
   遊脚終期(87.100% GC)
  結論
 第8章 上肢
  歩行力学
   運動
   筋による制御
  上肢の機能的解釈
 第9章 下肢全体の機能と両側の共同関係
  歩行周期における下肢全体の機能
   荷重の受け継ぎ
   単下肢支持期
   遊脚下肢の前進
   要約
  立脚期の筋による制御パターン
   遊脚終期
   初期接地および荷重応答期
   立脚中期,立脚終期および前遊脚期初期
  遊脚期の筋による制御パターン
   前遊脚期
   遊脚初期
   遊脚中期
  足部の制御
   荷重応答期
   立脚中期および立脚終期
  正常歩行における相反共同作用
   共同作用1:体重移動(0.12% GCおよび50.62% GC)
   共同作用2:移行期(12.31% GCおよび62.81% GC)
   共同作用3:前方移動(31.50% GCおよび81.100% GC)
  結論
第3部 異常歩行
 第10章 病理学的メカニズム
  形態異常
  筋力弱化
  感覚鈍麻
  疼痛
  運動調節の障害
  結論
 第11章 足関節と足部に関する異常歩行
  床接地時の異常
   前足部接地
   踵接地の遅れ
   足底接地
   底屈位での踵接地
   フットスラップ
  足関節の異常
   過度の足関節底屈
   過度の足関節背屈
   踵接地のみの延長
   早すぎる踵挙上
   踵離地の欠如/踵離地の遅れ
   引きずり
   反対側の伸び上がり
  距骨下関節の異常
   過度の内がえし(内反)
   過度の外がえし
  足指の異常
   過度の足指伸展
   足指の伸展制限
   クロートウ
 第12章 膝関節に関する異常歩行
  矢状面における異常歩行
   膝関節の屈曲制限
   膝関節の過伸展
   急激な伸展
   過度の膝関節屈曲
   反対側膝関節の過度の屈曲
   動揺
  前額面上の異常歩行
   過度の外転(外反)
   過度の内転(内反)
 第13章 股関節の異常歩行
  矢状面で観察される過度の運動
   過度の屈曲
   屈曲制限
   パスレトラクト(過度の引き戻し)
  過度な前額面上の運動
   過度の内転
   過度の外転
  過度の水平面上の回旋
   過度の外旋
   過度の内旋
 第14章 体幹と骨盤に関する異常歩行
  骨盤
  矢状面での骨盤の異常
   骨盤の前傾(恥骨結合部の下降)
   骨盤の後傾(恥骨結合部の上昇)
  前額面での骨盤の異常
   骨盤の挙上
   反対側の骨盤の落下
   同側の骨盤の落下
  水平面での骨盤の異常
   骨盤の過度な前方回旋
   骨盤の過度な後方回旋
   骨盤の回旋制限(前方または後方)
  体幹
  矢状面における体幹の異常
   体幹の後傾(後方への傾斜)
   体幹の前傾(前方への傾斜)
  前額面における体幹の異常
   同側の側屈
   反対側への体幹の側屈
  水平面における体幹の異常
   体幹の過度な回旋
第4部 臨床的な視点
 第15章 臨床事例
  変形
   拘縮
   構造的な形態異常:先天性内反足
   要約
  筋力の弱化
   大腿四頭筋の機能不全(ポリオ)
   股関節外転筋の弱化
   ヒラメ筋と股関節伸展筋の弱化(脊髄形成異常)
   前脛骨筋の弱化(脊髄損傷,馬尾障害)
   腱の機能障害による後脛骨筋の弱化
   要約
  痛み
   変形性関節症
   変形性関節症に与える生体力学上の要因
   関節リウマチ
   要約
  制御機能の障害
   脳卒中
   痙直型脳性麻痺
   脊髄損傷:曲がらない膝関節での歩行
   要約
  切断
   下腿切断
   大腿切断
   大腿切断の膝継手
   要約
  結論
 第16章 小児の歩行分析
  正常歩行の発達
  歩行実験室における小児の歩行分析
  脳性麻痺
   脳性麻痺児が遭遇する問題
   脳性麻痺と歩行の分類
  脳性麻痺に特徴的な歩行異常
   股関節
   膝関節
   足部および足関節
  臨床例:脳性麻痺が歩行に及ぼす影響
   脳性麻痺
  脊髄髄膜瘤
  結論
第5部 高度な移動機能
 第17章 階段昇降
  階段の寸法
  階段昇段
   運動
   筋による制御
   力
   階段昇段の機能的意義
  階段降段
   運動
   筋による制御
   力
   階段降段の機能的意義
  階段の条件に対する環境と人の要因の影響
   環境要因
   人の要因
  結論
 第18章 走行
  走行の用語とタイミング
  立脚期
   運動
   筋による制御
   圧
  遊脚期
   運動
   筋による制御
  速度の影響
  臨床との関連
  結論
第6部 定量的な歩行分析
 第19章 歩行分析システム
  観察による歩行分析
 第20章 動作分析
  電気角度計
  カメラによる動作分析システム
   1台のカメラによるデータ記録
   自動三次元システム
  運動マーカーの指標
   矢状面上の指標
   前額面上の指標
   水平面上の指標
   マーカーの位置情報データの正確さに影響している要因
  RANCHO三次元指標システム
  歩行分析のための基準尺度
  運動データの解釈
  結論
 第21章 筋の制御と動作筋電図検査法
  骨格筋解剖
   筋節
   運動単位
   腱
  筋の機能的な潜在能力
   筋の大きさ
   筋線維長
   筋の大きさと筋線維長が機能的な潜在能力に与える影響
  筋活動の様式
   求心性収縮
   等尺性収縮
   遠心性収縮
  筋電図検査
   筋の活性化
   信号処理
  EMGの解釈
   筋力
   筋活動のタイプ
   収縮速度
   関節の位置
   要約
  異常歩行のEMG分析
   タイミングの異常
   強度の異常
   運動制御の変動
  EMGの機器
   電極
   電極感度
   クロストーク(混線)
   増幅器と信号のフィルタリング
   分析システム
  結論
 第22章 歩行の運動学〜床反力,力,ベクトル,モーメント,パワー,圧〜
  床反力
   測定方法
   垂直荷重
   水平面の剪断力
   ベクトル
  モーメント
  パワー(仕事率)
  モーメントとパワー(仕事率)の機能的意義
  圧中心
  足底圧
  結論
 第23章 重複歩分析
  標準的変動性
   年齢
   下肢長
   自由意思による変動性
  通常歩行の範囲と持続時間
  重複歩-測定システム
   ストップウォッチ
   足部スイッチシステム
   計測機器を備えた歩行路
  テスト手順
 第24章 エネルギー消費
  緒言
   仕事,エネルギー,パワー(仕事率)
   熱量測定法
   エネルギー単位
  エネルギー代謝
   有酸素性(好気性)酸化
   無酸素性(嫌気性)酸化
   有酸素性代謝VS無酸素性代謝
   呼吸商と呼吸交換率
  最大有酸素性能力
   上肢の運動VS下肢の運動
   デコンディショニング
   トレーニング
   持久力
   酸素脈
  代謝エネルギー測定
   定常状態
   肺活量測定
   検査手順/トレッドミルまたはトラック
   病理運動学研究所方式
  安静時と立位時の代謝
  正常歩行
   通常歩行速度の範囲
   通常歩行速度でのエネルギー消費
   速い歩行速度でのエネルギー消費
   男性VS女性
   エネルギーと速度の関係
   酸素費用と速度の関係
   歩行面と履物
   負荷
   斜面歩行
  異常歩行
  関節固定
   足関節固定術
   股関節固定術
   膝関節固定
  骨折
  脊髄損傷
   交互歩行
   歩行運動指標
   装具の必要条件
   歩行補助具
   脊髄損傷のレベル
   長期転帰
  脊髄形成異常
   大振り歩行
   交互歩行
   大振り歩行VS交互歩行
  切断
   義足VS松葉杖
   切断レベル
   血管原性切断
   断端長
   義肢の重量
   両側の切断患者
  関節炎
   股関節
   膝関節
   関節リウマチ
   上肢使用の歩行補助具の影響
   デコンディショニング
  片麻痺(脳卒中)
  膝関節屈曲位歩行のエネルギー消費
  痙直型両麻痺(脳性麻痺)

 略語と頭字語
 用語集
 付録A
 索引