やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
 昨今,脳卒中リハビリテーションは,臨床面でも基礎医学の側面においても,年々進化を遂げています.筆者自身,リハビリテーション科専門医として駆け出しで仕事をしていた時代に比べて,大きな変化を実感しているところです.
 筆者は,1991年から現在の相澤病院において,脳神経外科部門とともに急性期からの脳卒中診療・リハビリテーションをすすめる機会を得ました.しかし当時は,たとえば皮質脊髄路(垂体路)に病変をきたしたラクナ梗塞の患者さんに対して,運動麻痺の残存を前提にしたリハビリテーションしかできていませんでした.治療に関わるスタッフ(PT,OT,ST)の数,リハビリテーション実施時間の絶対的不足も,当時は歴然としていました.運動麻痺をフルリカバリーさせようとするリハビリテーションデザインをなぜ立案することができなかったのかと,現在も後悔の念を感じることがあります.その後,相澤病院においては,急性期から在宅訪問までの一貫したリハビリテーションを提供する現在のシステムを構築することができ,より望ましい治療成績が達成可能なレベルへと発展しています.
 振り返れば,リハビリテーション医学の研修を開始した頃に,脳卒中の急性期リハビリテーションの知見を最初にご教示いただいたのは,二木立先生(現,日本福祉大学教授)の業績や著作からでした.さらに同時期に,三好正堂先生(現,浅木病院院長)が翻訳されたHirshberg著『リハビリテーション医学の実際』(日本アビリティーズ協会)にふれ,廃用性障害の概念とともに,急性期リハビリテーションの方法論はかくあるべしとの実践的・理論的記述の内容にいたく感銘を受けました.その後,三好正堂先生には親炙(しんしゃ)を受けることができるようになり,Stroke Unit(脳卒中治療専門の一般病棟)に関する論文数で世界をリードしているIndredavikの論文をぜひ読んではとのご教示をいただきました.その後,橋本洋一郎先生(現,熊本市立熊本市民病院神経内科部長)に,代表的業績である脳卒中クリニカルパスの導入に関するご教示をいただくとともに,脳卒中急性期治療と併行して急性期リハビリテーションを進めるべきという立場を共有することができるに至っています.
 脳卒中は三大疾病の一つであり,高齢化とともにその克服が期待されている疾患です.それに対する治療手段としてのリハビリテーションが,これからは急性期にも根付くように,さらに,その継続が保証されるシステムと方法論が広く認識されるよう願うとともに,脳卒中リハビリテーションに関わる医療スタッフのより一層の奮起を期待してやみません.
 いま,急性期の現場では,脳卒中の急性期リハビリテーションによる治療効果を認めてもらう努力が求められています.論より証拠で,眼の前の脳卒中患者さんのリハビリテーションによる改善を,他科の医師やスタッフに見てもらうことができれば,認識は大きく変化するはずです.望ましいシステムが出来上がっていなくても,本書で提示しているmobilizationや早期離床・歩行訓練など,急性期の現場で実践可能なタスクは多々存在します.麻痺を改善させようとするリハビリテーションスタッフの継続的な意気込みや切磋琢磨する創造的な姿勢は,患者さん・家族にも伝わるはずです.相澤病院における現在のシステムは,そうした現場での実践と成果を,丹念に織り上げてきた結果でもありました.
 急性期の現場から,さらにその後の在宅リハビリテーション,あるいは復職を視野に入れた数年に及ぶ援助へと,リハビリテーションを継続させるためにイメージを拡大することが求められています.脳卒中に対する診療報酬改定による180日の日数制限に幻惑されることなく,患者さんの求めているものは何か,いま一度踏みとどまって専門性を主張するスタンスを再確認すべき時期なのもしれません.
 本書は,2005年に発行した『高次脳機能障害ポケットマニュアル』(医歯薬出版)の続編として企画されました.当時から継続して担当し,実践的なマニュアルに相応しい内容となるべくご支援をいただいた医歯薬出版の塚本あさ子さんに深謝いたします.
 2007年5月15日
 相澤病院総合リハビリテーションセンター
 原 寛美
まえがき
1 脳卒中リハビリテーションのあり方
 1-なぜ急性期からのリハビリテーションが必要か
 2-理想的な脳卒中リハビリテーションをデザインする
 3-脳卒中リハビリテーションの流れ
2 脳卒中リハビリテーションに必要な基礎知識
 1-脳卒中の病型と画像診断
 2-脳血管支配別の臨床症状
 3-起こりうる合併症
3 脳卒中のリハビリテーション評価
 1-脳卒中の重症度の評価
 2-運動麻痺(片麻痺)の評価
 3-失調症の評価
 4-高次脳機能障害の評価
 5-嚥下障害の評価
4 脳卒中の急性期リハビリテーション
 1-急性期リハビリテーションの実際
 2-急性期からのクリニカルパスとリハビリテーション職種の役割
 3-患者さんはどのように回復するか
5 急性期から開始する機能回復へのアプローチ
 1-急性期から開始する四肢の運動
 2-早期離床の基準と実際
 3-リスク管理と合併症の管理
 4-急性期から開始する運動麻痺(片麻痺)の改善方法
 5-急性期から開始する失調症の改善方法
6 急性期から回復期で行うリハビリテーション
 1-歩行の獲得方法
 2-関節拘縮・痙縮予防のリハビリテーション
 3-高次脳機能障害のリハビリテーション
 4-運動性構音障害のリハビリテーション
 5-精神症状の治療とリハビリテーション
 6-嚥下障害のリハビリテーション
 7-急性期から開始する日常生活動作(ADL)訓練
7 在宅復帰に向けた支援
 1-患者・家族への指導
 2-自動車運転の援助
 3-復職(一般就労,福祉的就労)の援助
 4-福祉制度の活用
8 退院後のリハビリテーション
 1-外来通院リハビリテーション
 2-訪問リハビリテーション
 3-在宅における自主訓練(ホームエクササイズ)の指導
索引