やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第3版の序
 “医学の進歩は早い“といわれてきたが,現在では“医学の情報は多い”といわざるを得ない.毎年学会や雑誌には,数多くの発表や研究報告がなされ,インターネットを開くと海外からの情報も日々洪水のようである.これら多くの情報のなかで,何が正しくて,何が将来役に立つかを見極めることが,今を生き抜くために要求される能力である.信原病院では34年間,肩の治療を行い,2003年には260件もの肩の手術を行った.豊富な経験や研究に基づく治療成績が患者の満足度を上げていることはいうまでもなく,決して新しい治療法に飛びついているのではない.従来の方法を改良し,常に進歩しようとする姿勢が大切だと思われる.
 今回の改訂では,前著者の一人,池田 均先生の開業に伴い著者が代わり全面改訂となった.前述のように書くべき情報は星の数ほどあるが,著者の考えで取捨選択させて戴いた.本来,“診療マニュアル“シリーズとしては,入門書として広く,浅く,読みやすくをモットーにしていたように理解するが,今回は日々の診療において遭遇する機会の多い“腱板断裂”や“肩関節周囲炎“,“反復性肩関節脱臼”などの疾患に重点をおいて記述した.また現代人の多くが興味をもっているスポーツやリハビリテーションについても,当院での研究成果と実技などを記載し,より内容を充実させた.そのため,入門書としてはいささか偏った構成となったが,多くの医師が治療するのはまさにこれらの疾患がほとんどなのである.
 また本書では,肩を専門に治療する者にとっても読んで面白いと感じられるように,一部にはかなり踏み込んだ部分まで論述した.日本肩関節学会でも論議が紛糾しそうな内容を信原病院の尺度で著したので,ご意見などあればぜひご一報戴きたい.また誤字,脱字はもちろん,著者の誤った理解などあれば遠慮なくお叱り戴きたい.次回の改訂に繋げよりよい書としていく所存である.
 最後に,図表などの作製を手伝って頂いた研究所の野村君,小林さん,そして図のモデルとして登場して頂いた信原病院の医師の皆様,また著者のわがままな改訂を黙って辛抱し,常に協力していただいた医歯薬出版(株)の編集部の方々に心から感謝の意を表したい.
 2004年6月
 著者


第2版の序
 初版を世に出してからはや4年の歳月が過ぎた.脱稿した当時は内容の不十分さに不安感があったが,予想外に大勢の人たちに愛読して頂いて改訂第2版の運びとなった.心から感謝したいと思う.
 思えば,この数年の間に肩関節への関心は従来にも増して深まったようである.これは世界各国で肩関節の研究グループが次々と誕生しているのをみても明らかであろう.また昨年,本邦の肩関節研究会も日本肩関節学会へと改称され,国際的交流をおこなって着実な発展をつづけている.さらに,発表された論文の数は過去の同期間の数倍にも達しているし,久しく途絶えていた肩関節に関する著書も相次いで発刊されている.これは肩関節疾患の治療に携わる人びとの層が厚くなり,裾野が広がっていることを物語っている.しかし一方では情報過多のために,長年の研究や貴重な経験で得られた知識が人びとに十分に理解される余裕がなく,消化されていないことも事実であろう.
 本書は,肩の機能解剖を理解し,治療法やその効果を判断するための小冊子である.したがって,改訂は最小限に留めたことをお許し願いたい.それでも,バイオメカニクスの項では肩関節内の微小な動き,鎖骨の運動,関節内圧など,臨床面では,石灰沈着性腱板炎に関する新しい見解,腱板疎部損傷ではスポーツとの関連,反復性前方亜脱臼,などについて触れておいた.また,スポーツに復帰するためのトレーニング処方も簡単に追補した.これらの記述が臨床の場で,整形外科医,関連臨床医,理学療法士,医学生諸氏のお役にたてば望外の喜びである.
 最後に,この書の出版に御尽力いただいた医歯薬出版の諸氏に深謝したい.
 1991年5月
 著者


まえがき
 肩関節に関する基礎的知識や疾患に対する治療法は近年,急速に進歩しているといえる.それは,今では一般的となった腱板断裂でさえ20年前には本邦では稀であるとされていた事実によっても明らかである.そのなかでも,バイオメカニクスの進歩は目をみはるものであり,肩甲上腕リズム,肩甲骨の運動,上腕骨の回旋運動の解析,zeropositionの概念の登場など枚挙にいとまがない.このような考え方を基本にして,肩の機能解剖を理解することは,肩関節における異常の発現様式を明らかにしたり,治療法の確立や治療効果を判断するうえで不可欠となっている.とりわけ理学療法士にとっては機能訓練に対する理論的な裏付けとして重要であろう.本書では,ここに重点をおいて詳述したつもりだが,一方ではすべてが解明されているわけではなく未解決の問題も山積している.その一つに不安定性肩関節がある.これについては本邦で最初に発表されたlooseshoulderの概念を重視し,さらに“rotatorinterval”lesionを加えて著者らの考え方をまとめてみた.また近年,スポーツ人口の増加とともに問題となってきたスポーツ障害については,その種類と疾患との関連について述べ,スポーツを指導する人々の参考とした.その他,診断に際して必要なものを要約し,理解しやすい形にして列記した.独断的と思われる記載も部分的に紹介しておいたが,できるだけ平易な文章で親しみやすく肩の凝らない書にしたつもりである.
 最後に,出版に御尽力いただいた医歯薬出版の各位に深謝し,とくに本書の企画時に御尽力いただいた故袖山直樹氏の御冥福をお祈りする.
 1987年3月
 著者
肩診療マニュアル 第3版 目次

 第3版の序
 第2版の序
 まえがき

第1章 解剖と機能
 1.骨
  A.肩甲骨
  B.鎖 骨
  C.上腕骨
 2.関 節
  A.肩甲上腕関節(狭義の肩関節)
  B.第2肩関節
  C.肩鎖関節
  D.烏口鎖骨間メカニズム
  E.肩甲胸郭関節
  F.胸鎖関節
 3.滑液包
 4.筋肉とその神経支配
  A.体幹と肩甲骨の間を結ぶ筋
  B.体幹と上腕骨の間を結ぶ筋
  C.肩甲骨と上腕骨の間を結ぶ筋
 5.靭帯および軟部組織
  A.臼蓋上腕靭帯
  B.烏口上腕靭帯
  C.腱板疎部
  D.烏口肩峰靭帯
  E.関節唇
  F.上腕二頭筋長頭腱
 6.肩の運動
  A.肩甲骨の運動
  B.肩の運動
  C.Codmanの逆説
 7.肩の運動面
  A.肩の運動面
  B.肩甲骨面
  C.ゼロポジション
  D.投球面
 8.肩甲上腕リズム
 9.臼蓋上腕リズム
 10.関節内圧
 11.第2肩関節内圧および肩峰下接触圧
第2章 診察法
 1.問 診
  A.主 訴
  B.病 歴
 2.視 診
 3.触 診
  A.圧 痛
  B.軋 音
  C.機能診
第3章 検査法
 1.関節可動域および筋力検査
  A.関節可動域検査
  B.筋力検査
 2.X線検査
  A.骨 棘
  B.撮影方法
  C.正常単純X線像
 3.関節造影
  A.肩関節造影法
  B.jointdistension
  C.肩峰下滑液包造影
 4.MRII
  A.撮影法
  B.読 影
  C.鑑別法
  D.MRI検査のポイント
  E.三次元MRI
第4章 肩関節疾患
 1.肩関節周囲炎,五十肩
  A.歴 史
  B.定 義
  C.病因,病態
  D.臨床症状
  E.五十肩のバイオメカニクス
  F.検 査
  G.治 療
  H.五十肩の手術的治療
  I.予 後
 2.肩峰下滑液包炎
  A.定 義
  B.症 状
  C.原 因
  D.治 療
 3.腱板炎
  A.定 義
  B.症 状
  C.原 因
  D.治 療
 4.烏口突起炎
  A.定 義
  B.症 状
  C.原因,治療
 5.石灰沈着性腱板炎
  A.頻 度
  B.原 因
  C.臨床症状
  D.治 療
 6.上腕二頭筋長頭腱炎
  A.原因,病態
  B.症状および診断
  C.治療法の選択
  D.保存療法
  E.筆者らの保存療法jointdistension
  F.手術療法
  G.合併症
 7.上腕二頭筋長頭腱断裂
  A.臨床像と原因
  B.症 状
  C.検 査
  D.治 療
 8.上腕二頭筋長頭腱脱臼・亜脱臼
  A.定 義
  B.症状および病態
  C.検 査
  D.治 療
 9.腱板断裂
  A.定 義
  B.病 因
  C.腱板断裂とインピンジメント
  D.頻 度
  E.病 態
  F.longitudinalrents
  G.病 理
  H.骨 棘
  I.診 断
  J.治 療
  K.当院での術式
  L.上腕二頭筋長頭腱の処置
  M.不全断裂に対する腱修復術
  N.後療法
  O.術後成績
  P.特殊な腱板断裂
 10.腱板疎部損傷
  A.定 義
  B.解 剖
  C.腱板疎部と靭帯の関係
  D.機能および動態
  E.腱板疎部損傷の病因に関する考察
  F.腱板疎部損傷とは何か?
  G.診 断
  H.頻 度
  I.臨床症状
  J.X線所見,関節造影,MRI像
  K.病 理
  L.治 療
  M.スポーツ障害における腱板疎部損傷
 11.動揺性肩関節症(動揺肩)144
  A.定 義
  B.分 類
  C.成 因
  D.X線像による検討
  E.診 断
  F.3DMRI所見
  G.治 療
 12.反復性肩関節脱臼
  A.一般的事項
  B.臨床症状
  C.画像診断
  D.治 療
 13.随意性肩関節(亜)脱臼
 14.反復性肩関節後方脱臼
  A.病 態
  B.年齢分布
  C.臨床症状
  D.治 療
  E.動揺肩との鑑別
 15.肩関節拘縮
  A.病 態
  B.治 療
  C.手術療法
 16.骨折および脱臼
  A.鎖骨骨折
  B.上腕骨近位端骨折・脱臼骨折
  C.肩甲骨骨折
  D.外傷性肩関節脱臼
  E.陳旧性肩関節脱臼
  F.肩鎖関節脱臼
  G.胸鎖関節脱臼
 17.先天性疾患
  A.先天性肩関節脱臼
  B.先天性鎖骨形成不全・先天性鎖骨偽関節
  C.先天性肩甲骨高位症
  D.内反上腕骨
 18.炎症性疾患
  A.関節リウマチ
  B.リウマチ性筋痛症・側頭動脈炎
  C.化膿性肩関節炎
  D.上腕骨骨髄炎
  E.その他
 19.その他の疾患
  A.烏口鎖骨靭帯の異常
  B.絞扼性神経障害
  C.神経痛性筋萎縮症
  D.弾発肩および雑音症
  E.神経病性肩関節症
  F.上腕骨頭壊死
  G.麻痺肩に対するBateman法
第5章 スポーツ障害
 1.各種スポーツ障害の特徴
  A.野球,ソフトボール,バレーボールなど
  B.柔 道
  C.ラグビー
  D.スキー
  E.ハンドボール
  F.相 撲
 2.スポーツにおける肩のバイオメカニクス
  A.肩甲骨面での運動とゼロポジション
  B.投球面
  C.投球動作のバイオメカニクス
  D.なぜ投球を行うと肩の障害が起こるのか?
  E.Bennettlesionと機能的不安定性との関係
 3.スポーツ障害肩
  A.腱板疎部損傷
  B.腱板炎,肩峰下滑液包炎,インピンジメント症候群
  C.反復性肩関節脱臼
  D.動揺性肩関節症
  E.スポーツによる腱板断裂
  F.関節唇損傷,SLAPlesion
  G.四角腔症候群
  H.肩甲上神経麻痺
  I.littleleaguer'sshoulder:上腕骨近位骨端線離開
 4.投球障害肩症候群
  A.腱板疎部損傷-棘下筋腱断裂合併症候群
  B.広背筋症候群
  C.肩甲骨内上角症候群
  D.小胸筋症候群
  E.肩甲下滑液包の閉塞による肩関節痛
第6章 理学療法
 1.身体全体を診る
 2.運動療法
  A.患者自身で行う方法
  B.理学療法士が行う方法
 3.物理療法

 文献
 索引