やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

訳者まえがき(原著第6版)
 本書第6版がボイタ教授の遺稿となった.2000年9月14日,ミュンヘンからの電話で,9月12日ボイタ教授が亡くなられたという訃報に接した.享年84歳であった.この年は,ボイタ法が導入されて25周年にあたるので,京都ヨセフ整肢園で記念講演をしていただこうと準備をしていたところであった.私はミュンヘンに飛んで葬儀に参列させていただいた.葬儀を先導したのは,生前ボイタ教授と親しく,彼の心の支えとなっていた神父であった.彼はボイタ教授の経歴と学問に対する態度とその業績について長い弔辞を読んだ.弔辞の全てを紹介することはできないが,拙訳な本書の理解に少しでも役立つのではないかと思い,以下に彼の略歴を紹介させていただく.
 ボイタ教授は,1917年7月12日に生まれ,1937年にプラーグ大学医学部に入学したが,ナチスの占領と戦争の混乱で1947年に初めて医師の国家試験に合格し医師となった.1954年神経科専門医,1957年小児神経科専門医に合格し,1961年東ボヘミアのツェレニス(Zelenice)の脳性麻痺専門病院に赴任し,ボイタ法の訓練指導を行うようになった.1968年,プラーグのカールプラッツ(Karlplatz)の小児神経科の主任教授となったが,同年,政治的な理由でプラーグ大学主任教授の称号を剥奪されてドイツに亡命し,ケルン大学整形外科イムホイザー教授の下で働くことになった.その後,1975年にミュンヘン小児センターでミュンヘン大学の主任教授であったヘルブルッゲ教授の代理の副センター長を勤め,理学療法部の指導を行うようになった.1974年にはドイツ整形外科学会からHeinrich-Heine賞,1983年ドイツ連邦共和国功労賞,ドイツ医師会のErnst-v-Bergmann賞を受賞,そして1990年にプラーグ大学で講義を再開,1996年プラーグ大学(Karl大学)教授の称号を回復した.1995年には国際ボイタ協会を設立している.
 彼は生涯を通じて臨床神経学者であった.その彼が私のような神経には全く疎い一整形外科医に“神経学は運動学である“と語り,私はその気になって脳性麻痺の診療に引きずり込まれたのである.“神経学は運動学である”といったのは,彼の先生であるプラーグ大学の神経科とリハビリテーション科の主任教授であったヘナー教授である.ドイツそして日本だけでなく世界中で彼の考えが理解困難なのは,神経筋疾患患者を徹底して神経学によって解明しようとした結果,中枢神経系の全ての現象は動機づけからくる運動表現によって解明する以外にないという結論に達したからである.これによって,患者に対するあの観察力と思考過程を修得されたのだということがやっと理解できた.逆にわれわれ整形外科医は,運動学から神経学的に脳性運動障害を治療しようとした.しかし,説明はどうであれ,整形外科医が行っている治療法は整形外科的治療で,それを神経学的に理屈をつけようとしているが,その理由づけはまだ解明されていない.
 ボイタ教授は私に,“小さいことにも注意するほどの馬鹿になれ“とよくいわれた.彼の著書を翻訳していてわかったことは,彼の学問的信条は“学問は整理された(組織だった)経験的知識であり,整理された経験的知識は正確な観察によってのみ獲得することができる”ということである.残念ながら私たちは,もはや彼の臨床的な検査手技そして得られた所見から診断に至る探偵小説を読むような見事な解釈と思考過程を見聞することはできなくなった.彼は,彼自身が解決しなければならないと思っていた多くの疑問を私たちに残してこの世を去った.一つの疑問が解決されてもまた次の疑問が出てくるであろう.疑問を解決することは不可能かも知れない.しかし,疑問を少しでも解決しようとする努力は失いたくない.
 2004年8月
 富 雅男


訳者まえがき(原著第4版)
 第2版の翻訳の次には,第3版の翻訳が出るのが順序である.第3版の翻訳が終わった直後の一昨年11月30日,Vojtaから電話で第4版が出版されたとの連絡があり,章も増え,内容的にもかなり変更が加えられ,さらにドイツ語については,Enke Verlagの女医でロイッター博士が監修したとのことであった.2〜3日して,ドイツ語の4版が送られてきて,Vojtaの言葉通り,増章と内容的にも第3版と少し異なる部分もあったので,医歯薬出版に連絡し,第3版の翻訳の出版は中止し第4版の翻訳をしたいと申し出て,第4版の翻訳の出版にこぎつけた次第である.
 昭和50年に初めて京都の聖ヨゼフ整肢園で,医師とセラピストに対する講習会が開かれ,その後,聖ヨゼフ整肢園で定期的に講習会が開催され,その間,北海道の道立札幌総合療育センターでの2回の講習会開催も含めて,昨年まで計9回の講習会が開かれている.この間,医師の診断講習会あるいはセラピストに対する治療の講習会を受講された先生方が,それぞれ実践と経験を積まれ,Vojtaの診断に対する考え方と治療に対して,いろいろな評価と批判がなされ発表されている.
 一つの方法あるいは考え方というものは,批判に謙虚に耳を傾け,その批判が建設的で適切なものである場合には,それを説明あるいは解釈するために努力することによって初めて次の進歩が得られる.
 ヘッブは「科学は常識に合わないような構想をも取り上げる.常識に合わないのは,それが新しく,そして既存の構想の変革を求めるからである.しかし,それがひとたび受け入れられ,馴染まれて“常識”の一部になってしまうと,それが最初に提出されたとき,いかにばかげたものに見えたかは忘れられてしまう.」と述べている(D.D.ヘッブ著,白井 常ほか共訳:行動学入門.紀伊国屋書店).
 Vojtaの姿勢反応に対する考え方,あるいは反射性移動運動における誘発帯については,今までの常識では説明できない非常識なことであるかもしれないが,科学というものは,まず現象をありのままに見るということからすれば,決して非常識ではなく,Vojta自身も述べているように,それは現在の神経学では説明できないだけである.第4版第1章は,そのような意味で,彼に対する批判に対して彼の見解を総括したものと思われる.しかし,これで問題が解決したのではなくて,さらに次の批判あるいは反論が出てくるであろう.批判とか反論というのは,少なくともその対象に関して関心をもたれているということで,それは次のステップへの重要な糧である.Vojta自身緒言で述べているように,講習会においても絶えずdiscussionを重要視しているのは,discussionの中で彼自身の思考を高めているからのように思われる.それは第4版の第1章そして11章,12章,17章にもよく表されている.
 Vojtaの本の表題が「乳児の脳性運動障害の早期発見と早期治療」となっているために,Vojtaの運動療法は乳児しか適用できないという間違った考え方が流布しているのは残念である.もし彼が,どのような歴史的な経過を経て,反射性移動運動というファシリテーション機構に到達したかをある章に書いてくれていれば,このような間違いは起きないだろうと思うと残念である.詳細は省くが,Vojtaはもともと固定した脳性麻痺治療の経過のなかで反射性移動運動というファシリテーション機構に到達したのであるということだけ申し添えておきたい.そして,昨年Kolnで治療した固定した脳性麻痺の統計がまとまったとのことである.おそらく5版にはそのような統計も発表され,その時には彼の歴史についても触れるものと思われる.
 本版は第2版に比べVojtaが述べているようにドイツ語らしい“ドイツ語”に書きかえられたとはいえ,その独得の表現と拙訳のため言葉や用語に適切性を欠き,理解し難い部分もあると思われるが,すべて訳者の責任で,諸先生方のご批判をいただければ幸いである.
 本書の出版に際し,永年にわたりご迷惑をかけた医歯薬出版株式会社にお詫び申し上げる.とくに本書の出版に際し,当初からご尽力いただきながら,昨年5月23日に若くして急逝された袖山直樹氏の御霊前に本書を供える次第である.そして袖山氏の後を引き継いでご尽力いただいた吉田めぐみ氏に深謝いたします.
 1987年5月
 富 雅男


訳者まえがき(原著第2版)
 脳性麻痺が最初に報告されてから百年余になるが,その大半は治療の可能性がほとんどない絶望的な疾患と考えられていた.わずか十数年前でも,乳児の発達の過程で母親は比較的早期にその異常に気づいている場合が多いにもかかわらず,1歳あるいはそれ以後になってはじめて脳性麻痺と診断され,しかも治療開始は診断よりさらに遅れ,3歳ごろになってやっと開始することもあった.そしてその治療は,固定した脳性麻痺の運動障害や変形の面からのみとらえられ治療法が考案されてきた.その後,人間発達の立場から脳性麻痺を理解し総合的にアプローチしようとする傾向が生まれ,神経生理学的アプローチによる0歳児の診断・治療が発達し,両親も積極的にこれに参加するようになってきた.
 このような時期に,訳者の一人富は西ドイツのミュンスター大学およびケルン大学に留学し,Vojta先生から脳性運動障害に対する早期診断および早期治療の理論と実際を学び,先生の卓越した見識に深い感銘をうけ,Vojta法をぜひ日本に紹介したいと強く希望し,訳者の一人深瀬とともに,京都においてその講習会を開催することをお願いし快諾を得た.そして1975年9月,1977年10月の2回にわたり,「脳性運動障害に対する早期診断および早期治療」の講習会を開催し,Vojta法のすべてを伝えていただくことができた.この講習会では,日本各地からはじめて多くの小児神経科医の参加を得たが,これまでややもすれば整形外科医中心であった脳性麻痺療育に小児神経科医の役割の大きいことを改めて痛感させられた.
 本書の全般を通じて感ずることは,実際の診断と治療において,ややもすれば抽象的な理論の説明に陥りやすい神経学を,視覚によって客観的に把握することができる運動学で理論を展開していることである.換言すれば,外面的に現れた自発運動および反射反応における正確な運動分析によって,中枢神経系の発育状態および障害の診断が可能である.また診断にあたっては,姿勢反応のみならず,従来から行われてきた反射についても詳細な分析がなされ,反射反応そのもののために検査するのではなく,反射反応をもった子どもを通じて,それぞれの反射反応を分析することが重要であることを強調している.
 訓練においては,運動反応を分析する場合に,決して平均的な処理をしてはならず,正確な運動反応を誘発することによってのみ治療が可能であることを強調している.遺憾ながら,わが国ではVojtaの訓練法に関して,手技が簡単で標準化しやすいと報告されているが,どのような訓練法であれ,その“実技“を習得する場合,“見聞”による習得は決して“実技“そのものの習得を意味するものではない.早期治療においては,運動表現以外に伝達手段をもっていない乳児を治療するのであり,時々刻々変化する運動反応を的確に把握し,正しい反応を誘発することは決して簡単ではなく,多様な病像をもった脳性運動障害児の訓練を標準化することは不可能である.正しい反応を誘発するためには,セラピスト自身が患者の手をとって,自分の体で技術を“体得”することである.
 本書は全体を通じて発達運動学の理念で貫かれ,障害をもった子どもを治したいという使命感にあふれており,Vojta法の卓越性はこれまでの脳性麻痺に対する診断と治療の概念を大きく変えるばかりでなく,今後の早期診断および早期治療に多くの示唆を与えるものと思われる.Vojta法の実際は必ずしも容易ではないが,その理論を正しく理解し,正確に実施することがきわめて重要であり,本訳書がこの目的のために,さらにVojta法の発展のために役立つならば望外の喜びである.
 なお,内容および術語の翻訳の不備について読者のご批判をいただければ幸いである.
 最後に,本訳書の出版にあたりご指導いただいたVojta先生,ご援助いただいた京都大学助教授・広谷速人先生,ご協力いただいた滋賀整肢園園長・橋本猛先生,および長年にわたりご迷惑をおかけした医歯薬出版株式会社に心から感謝の意を表します.
 1978年4月
 富 雅男・深瀬 宏


第4版への緒言
 10年前に第1版が出版されて以来,脳性麻痺の診断と治療の問題はなんら変わっていない.しかし,その間,著者らの研究に対して二,三の批判的な声が聞かれ,表現不足について著者らに注意を喚起した.このような表現不足を取り除き,より明確にそしてよりわかりやすく表現することは必要なことである.したがって,著者らは著者らの研究に対する,このような否定的な批判に対して,感謝の気持をもって著者らの態度を明らかにしたい.
 さらに別の理由としては,個人的な面からではない.というのは,治療に対する虚無主義に対して,われわれの立場をより明確に対抗させることはわれわれの義務である.このような治療に対する虚無主義は,小児脳性麻痺は先天的なもので変えることができないものであるという考えが基礎になっていることは間違いない.われわれの見解と逆に,治療ということではなくて,介助という面についてのみ語られている.というのは,もし変更不可能な何物かであるとするならば,一体何が治療されるべきなのか,介助というのは“それが有害でないかぎり何かをしてやる”という標語(モットー)のもとに行われている.
 それによって病的運動発達,すなわち,病的運動への習慣づけが行われているので,病的運動というのは可能性として潜在的にありうるものであるが,必ずしも現れてこなければならないというものではないということを,われわれはなおこれまで以上に,より明確に示さなければならない.
 第3の理由はあまり重要ではない.永い転回点の後,ふたたび徐々に,客観的な症候が真価を発揮するようになってきているようである.現在そのような考えに対して,非常に好都合な時代になっている.というのは,四半世紀の後,危険因子の優位性--最善の原則のなかで頂点に達した--はついに過ぎ去った.したがって,いまや,より客観的症状,すなわち,いやおうなしに神経学的所見に気を配らざるをえない.しかし,危険因子信奉者には,彼らの診断の真空状態のなかで,これまで与えられていたよりも,より明確に,逃げ道を提供しなければならない.確かに,その間,神経学的検査が問われたが,生後1カ月に関する神経学的検査の証言力は,世界中の広い範囲にわたる小児科あるいは小児神経領域の眼には,今日でもまだあまり意味を持っていない.そのためより一層,われわれの解決方法を提供するのが,第4版の課題である.
 私はとくに,Enke出版社のレナーテ・ロイッター医学博士(Frau Dr.med.Renate Reutter)に感謝したい.彼女が,私の本をドイツ語らしい“ドイツ語“にかえ,そして“文の構成”に際し,的確に述べるために多くの新しい表現を提案してくれ,私は喜んでそれに従った.そのために私は,10年以上も経ってから,もう一度,全文を読まざるをえなかった.そして私は,われわれ医師とセラピストの講習会において,これまでの教育学的な経験をもとに,普通用いられている理解しやすい表現を探さざるをえなかった.もし,レナーテ・ロイッター博士のように優れた“原稿審査係の仕事”がなければ,確実に私は相変わらず,非常に古い,拙い表現のままに落ち着いていたであろう.
 Vaclav Vojta


第3版への緒言
 脳性麻痺への危険性や他の運動障害をもった数千の乳児が,正常に座り,立ち,走り,そしてつかむことができるのは,Vaclav Vojta博士の早期診断,早期治療に負うものである.運動障害の危険性のある乳児に関する訴訟が,ドイツ連邦共和国の国境を越えて広がっている.
 Vojtaの診断と治療は,子どもの発達リハビリテーションの確固たる構成要素となり,したがって,最近の小児治療学の構成要素ともなっている.Vojta博士と彼の協同研究者が招待された国内と国外の講習会では,この診断と治療に対して,多大の興味と反響を呼んでいる.
 また,この本の第1版が,オランダ,イタリア,日本(訳注:日本では第2版)において訳され,そしてドイツ語版が不当に扱われていたのは明らかである.
 社会小児学の発達リハビリテーションの領域において,この第3版は,一定の里程標を示している.またこの本に記載された知見によって,生涯にわたる運動障害の危険から,数千の子どもが救われるであろう.
 Theodor Hellbrugge


第1版への緒言
 脳性運動障害は,その種々の特色ある型(痙直,アテトーゼ,失調,無緊張など)で,深刻な家庭的・社会的問題の原因となっている.整形外科学,小児科学,リハビリテーション医学,教育学,心理学の技術をもってしても,子どもに対する治療の遅れは期待される結果をもたらさないことを示している.なるほど,手術的・装具的手段を使って,子どもは多くは起立や歩行ができるようになる.しかし,たいていの症例では,子どもは病的で障害された運動様式をもっている.それは,不幸に襲われた子どもにとって,生涯のハンディキャップを意味する.知能が障害されていれば,治療の遅れはわずかの前進をもたらすだけである.
 社会の関心は不幸な人生をもった子どもたちに集まり,そしてわれわれが身体や精神に障害のある子どものための特殊学校もある特別のセンターにおいて多くの援助を一生懸命行っていることは喜ばしいことである.
 Dr.Vojtaはまったく決定的な方向を示した処置を行った.彼は,危険児についての特別な検査方法によって早期診断システムを発達させた.一部は自分自身が発見した反射を行うことによって,Dr.Vojtaは乳児の生理的そして病的な運動をより一層はっきりさせることができた.彼の方法で,もっとも小さい子どものおのおのの病的な反応の型(たとえばその暦年齢にふさわしくないもの)を知り,そして経過観察によって予後を確実にすることは可能である.反射性腹這いと反射性寝返りにおいて,病的反応を生理的運動型に導くため,すなわち治癒をもたらすための治療手段がわかったことは,Dr.Vojtaによる大きな功績である.そして,非常に小さい子どもの脳性運動障害に関して,世界に広くその真価が認められている新しい事実がある.
 Dr.Vojtaはこの論文で,彼の検査テクニック,病的所見の評価,治療方法そして独自の判断をもって,彼によって達成された結果を記述した.その結果を,すでに出版されている異なった治療方法で研究された他の著者の治療結果と比較することによって,Vojta治療の卓越性が疑いなく明らかになった.
 それとともにDr.Vojtaは,十分高くは評価されていない予防のための重要な貢献を行った.危険児が生涯の運動障害の災いから守られそして守ることができるのは社会医学の領域で注目すべき業績である.
 私の協同研究者のこの卓越した論文の序文を書くことができることは私の喜びであります.また価値あるこの本の普及を希望します.
 G.Imhauser


謝辞
 私の協力者,Dorothea Wassermeyer,Margaret Kessler,Monika Hahlen,そして資料整理を手伝っていただき,写真の現像をしていただいたケルン大学整形外科の写真室のBreuerに心から感謝いたします.
 さらに,Dorothea RoepkeとChristine Schieleに感謝しなければなりません.彼女らには,本来の仕事のかたわら第3版と第4版の原稿をタイプライターで清書していただくという骨の折れる仕事をしていただきました.
乳児の脳性運動障害 原著第6版 目次

 訳者まえがき(原著第6版)
 訳者まえがき(原著第4版)
 訳者まえがき(原著第2版)
 第4版への緒言
 第3版への緒言
 日本語版への序文
 第1版への緒言
 謝辞
 
第1章 乳児期における脳性麻痺
 脳性麻痺への発達の症候学的問題とその流動性
  確実な症候学の廃棄
  症候学は押しやられるべきではない
  筋トーヌスへの逃避
  姿勢の個体発生の始まり
  姿勢の個体発生への始まり
  スクリーニングとしての姿勢反応の利用
  症候性危険児
  目的にかなった治療の前提としての中枢神経系の賦活

第2章 乳児発達診断の基礎
 発達運動学の物差し

第3章 神経学的発達診断
 正常反射と異常反射の対比における姿勢の反応能
 生後1年目の発達段階
  系統発生段階--集合運動段階(1〜6週)
  系統発生から個体発生の段階への移行期(7〜13週または3,4カ月の交換期)
  ヒトの最初の移動運動の準備段階(4〜7,8カ月)
  ヒトの垂直化(立位化)(8,9カ月〜12,14カ月)
  ヒトの前進運動(12〜14カ月)
  得られたデータの評価
  最も重要な原始反射の概観

第4章 発達運動学における姿勢反応
 正常発達相
  I.Vojta反応
  II.引き起こし試行(Vojtaによる変法)
  III.Peiper垂直試行
  IV.Collisによる懸垂試行(Vojtaの変法によるCollis垂直反応)
  V.Collisによる水平懸垂試行(Vojtaの変法によるCollis水平反応)
  VI.Landau反応
  VII.腋下懸垂試行
 姿勢反応の基本的な特徴
  上肢のMoro様運動パターン
  下肢の屈曲共同運動
  四肢の支持機能
  下肢屈曲共同運動の寛解
  四肢の末梢端
  姿勢反応における動的な反応形態
 
第5章 異常反応
  I.Vojta反応
  II.引き起こし試行
  III.Peiper垂直試行
  IV.Collis垂直試行
  V.Collis水平試行
  VI.Landau反応
  VII.腋下懸垂試行
  求心性神経路の多様性

第6章 緊張性頸反射と緊張性迷路反射からみた病的姿勢反応
  Vojta反応
  Landau反応
  Collis垂直反応
  Collis水平反応
  引き起こし試行
  中枢神経系における接続機構の障害

第7章 発達診断における姿勢反射学の意義
 姿勢反応能と反射性前進運動
 脳性麻痺の異常肢位と姿勢反射学
 量的評価と神経学的所見の要約
 姿勢の個体発生の規範における異常性

第8章 中枢性協調障害
 筋トーヌスの評価--診断学的に意義の少ない手段
 正常と病的の間の尺度としての姿勢の反応能
 運動学--運動の神経学
 接続機構の時間的要素
 負の徴候の接続機構
 脳性麻痺検診のスクリーニングテスト
 姿勢の障害の定量化
 中枢性協調障害
 
第9章 新生児期から第III期3カ月の終わりまでに最もよくみられる脳性麻痺の病的運動発達
 第I期3カ月
  第I期3カ月における体幹・頭の保持と起き上がり
  脳神経
  診断における第I期3カ月の意義
  筋トーヌス障害の問題
 第II期3カ月
  第II期3カ月における痙性麻痺の危険性
  上肢
  手根反射
  下肢
  第II期3カ月における痙直性麻痺への発達の概観
  第II期3カ月におけるアテトーゼの危険性
  第II期3カ月における先天性小脳症候群の発達
  低緊張症候群と第II期3カ月におけるその鑑別診断
  第II期3カ月における混合性過緊張症候群
  最初の6カ月間における脳性麻痺の危険性に対する概観
  第II期3カ月における危険性の鑑別診断
 第III期3カ月
  正常と病的発達の鑑別の基本的な指標
  立位化
  病的発達における起き上がり機構の欠陥
  病的運動
  病的運動症候群の流動性
  運動欲求と運動の可能性との開き
  第III期3カ月における痙直性麻痺の発達
  小児痙直性片麻痺
  第III期3カ月における小児痙直性両麻痺の発達
  下肢伸展位固定化の3つのメカニズム
  第III期3カ月における小児痙直性四肢麻痺の発達
  第III期3カ月におけるアテトーゼの発達
  ジストニーの突発運動--臨床的に発生する著明な症状
  第III期3カ月における低緊張症候群
  無緊張性両麻痺
  第III期3カ月における先天性小脳症候群

第10章 反射性に規定された前進運動
 その運動学的内容と緊張性頸反射との関係
  移動運動の原理
 反射性腹這い
  顔面側上肢
  後頭側上肢
  顔面側下肢
  後頭側下肢
  補助誘発帯
  反射性腹這いの協調性複合運動体
  協調性複合運動体
  協調性複合運動体の求心性神経系
  協調レベル
  協調性複合運動体の遠心性神経系
  反射性腹這いと緊張性頸反射の運動パターン
  反射性寝返り
  出発肢位
  誘発刺激--誘発帯
  反射反応
  頭と運動性脳神経領域における活動
  体幹領域--胸郭と腹筋
  腹圧と括約筋
  肩甲帯と上肢
  骨盤帯と下肢
  反射性寝返りにおける起き上がり
  反射性寝返りと緊張性頸反射の運動パターン

第11章 反射性前進運動--運動のリハビリテーションにおける新生児の反射性自動運動
 人工的につくり出された構造物(組織体)
 治療の場に際して
 神経現象の個体差
 運動のなかで意識しているものと意識していないもの
 他動的治療は自発運動を抑制する
 治療に対する立場--発達運動学の結論
 望まれる運動パターンの特性
 運動パターンの起源
  移動運動の原理
 起き上がり--機能手段
 
第12章 二足歩行(独歩)による前進運動に至るまでの個体発生の起き上がり機構
 第I期3カ月における腹臥位の起き上がり,または前腕支持から対称性の肘支持までの起き上がり
 第II期3カ月の起き上がり
  片肘支持
  手掌での起き上がり
  第III期3カ月の開始
 背臥位からの起き上がり機構
  第I期3カ月における背臥位あるいは集合運動の3つの型
  生理的ジストニーと病的ジストニー
  第II期3カ月における背臥位
  第II期3カ月中期における背臥位
  第II期3カ月の終わり
 第III期3カ月における起き上がり,または上方空間への起き上がりの始まり
  斜め座り
  垂直化
  前進運動への衝動
  手・足の運動
  反射性前進運動の促通された部分運動パターンの取り込み
  正常と病的運動からみたファシリテーションの運動パターン

第13章 反射性前進運動による症候性危険児の早期治療成績
  症候性危険児
  危険因子
  症候性危険児
  治療された子ども
  資料の比較
  治癒した199人の分析
  治療期間
  「治療量」に対する危険因子との相関関係
  間接的立証
  治療を必要とした危険児
 結論の要約

第14章 症候性危険児の第2シリーズ 治療結果の分析
  理論的考察
  治療の適応
  再検査
  中枢性協調障害グループにおける治療の必要な頻度
  正常化した子ども
  早期治療で結果不良の症候性危険児
  治療無効な子どもの解説的症例の概要
  脳性麻痺への危険の除去
  早期治療の役割
  脳性麻痺スペクトルの変化
  脳性麻痺への発達を除くための機会はどこにあるか
  脳性麻痺の脅威に対する治療の可能性の限界
  治療開始に対する初診時所見の証言力

第15章 症候性危険児の第3シリーズ
 目標設定
 日本の対照群
 問題提起
 治療の適応
 治療終了
 治療が適切にされなかったもの
 他の症候群
 早期治療にもかかわらず軽症の脳性麻痺に発達したもの
 第3シリーズの成績の要約
 治療の開始時期と治療期間
 中枢神経系の二次的障害の予防は,早期治療の開始と符合している
 第3シリーズの脳性麻痺のスペクトル
 小児脳性麻痺のスペクトルの変化
 新生児学の著効
 スウェーデンの脳性麻痺のスペクトル
 デンマーク,スウェーデンの試み
 危険因子の役割
 危険因子の過敏性と特異性に関する評価
 危険因子の組み合わせ
 原始反射
 早期発見と早期治療の経済性
 
第16章 将来の展望
 日本の調査(富)
 富の調査結果
 脳性麻痺の危険のある症候性危険児の問題に対する結語

第17章 運動のリハビリテーションにおける反射性移動運動による一般的な治療原則
 治療の適応領域の拡大
 研究の仮説としての反射性前進運動
  発達運動学と起き上がりの調節と平衡の調節の出発段階
  筋機能の分化
 中枢神経系の賦活
  全体の運動パターンの神経組織における接続の可能性
 生成機序の異なった同一の運動パターン
  時間的集積による生得的な原基の賦活効果
 中枢神経系における新しい筋活動のエングラム化(記憶痕跡化)
 自発運動における刻印された運動パターンの利用
  ヒトの二足前進運動の先取りされた運動機能
 脳性麻痺以外の他の領域への適応
  末梢神経の運動障害における前進運動パターンの応用
  診断法としての前進運動パターン
  頭部外傷における賦活の効果
  姿勢異常における適用
  治療の習得と経済性
  治療の限界
 要約

第18章 Vojta法の起源
  はじめに
  第1番目の観察
  第2番目の観察
  第3番目の観察
  第4番目の観察
  このような観察に対する解釈
  すなわちそれは自発性のクローヌスであった!
  協調性複合運動体
  第1の経験:子どもがより上手に歩くことができた
  第2の経験:子どもはより上手に話すことができるようになった
  第1ポジション
  頸部伸展の誕生
  頸部伸展--活動している姿勢の一部
  第5番目の観察:腹側の筋肉の賦活
  発達運動学
  手の展開
  足の展開
  反射性移動運動のビジョン
  第1ポジションの展開
  病的状態への急激な変化に対する手段
  移動運動に関する研究の仮説の始まりと支持機能
  負荷は頭によって調節される
  第1のバリエーション(簡単)
  第2のバリエーション
  第3のバリエーション
  肩甲帯軸の運動は明らかに移動運動の性格をもっている
  これらの観察から得られた証言
  肩関節と股関節に何が起こったのか?
  そして後頭側の肩関節で何が起こったのか?
  移動運動の原理の研究仮説から得られた結論
  筋機能の分化
  第6番目の観察:第1ポジションと脊柱の展開
  脊柱の分節の賦活と自動筋
  第7番目の観察:小児脳性麻痺の子どもにおける骨格筋の賦活の経過
  診断基準としての線維性収縮
  第8番目の観察:脊髄領域における自律神経系の反応
  第9番目の観察:脊髄上部における他の自律神経系の反応
  反射性移動運動の原理と正常な個体発生の運動
  反射性移動運動と歩行サイクルの原理
  反射性移動運動の原理と肩の支持機能--筋肉学の小さな出口
  発達運動学の始まり
  発達運動学が示していること
  反射性腹這い--腹臥位からの協調性複合運動体
  四肢の誘発帯
  四肢帯における誘発帯
  脊柱固有背筋に関する注釈
  軸器官における誘発帯
  体幹誘発帯
  胸部誘発帯
  網様体脊髄路
  腹側の筋肉と呼吸との関係
  腹筋の解剖
  分割する腱--腹斜筋の部位による筋力の違いの理論的な帰結
  同じ腹筋間の部位における緊張の違い
  異なった腹筋間の部位における緊張の違い
  腹斜筋の緊張している領域における腹直筋
  反射性寝返り
  反射性寝返りにおける四肢の分化
  支持面
  斜角筋
  支持面の移動
  垂直化と移動運動への志向
  垂直化への欲求
  文献……329 索 引