やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 AKA技術を学ぶさいには,イメージトレーニングが重要です.博田先生の手技を見て,その動きのプロセスを追いかけてみることです.
 1999年に日本AKA研究会認定の指導医,専門医制度が発足してから,はや4年が経ちます.第1回専門医試験の準備のため,ビデオカメラで撮影した博田先生の手技をMacintoshのデータベースに取り込んだことが,この教材を作るきっかけとなりました.それぞれの手技ごとに繰り返し繰り返し博田先生の動きを見てイメージトレーニングを行いました.おかげで専門医,指導医試験に合格することができましたが,その後ある先生から,せっかく作ったものだから技術教材として役立てたらどうか,というお話をいただきました.
 軽く考えていた私は,手元にあるものですぐにもデジタル教材ができあがると思っておりました.実際,平成13年の第23回日本AKA研究会学術集会開催時には,医歯薬出版の方々のご尽力でDEMO版のCD-ROMができあがっていたのです.しかし,それからがたいへんでした.日本AKA研究会指導医の先生方や日本AKA研究会理学療法士会インストラクターの方々にもDEMO版を見ていただいたのですが,画像が悪く,またほとんどの映像が無音だったのです.手技ごとの解説は文字で載せてありましたが,音がでないというのは致命的でした.それからというもの,自分が蓄えた映像や新たに追加したもの,また他の先生方に分けていただいた映像も含め,一つひとつ映像を選び直し,最新の手技に近いものを選択し,検討するという作業を行いました.音がでない欠陥も,ビデオデッキから最新のコンバーターを介して取り込みをし直すことによって解決することができました.これらのほとんどが地域研修会や指導者講習会などでのスナップ映像です.やや見にくいところもあるかとは思いますが,博田先生の生の声が入っておりますので,イメージトレーニングをするさいに自分が直接指導を受けているように感じられるのではないでしょうか.このように,私が手作業で映像を集める仕事を行ったため,膨大な時間と労力がかかってしまい,発刊がたいへん遅れることになってしまいました.
 さて,AKAは今でも進化途中であり,細かい手技においては刻々と変化が見られます.これは薬剤がより有効でかつ安全性に優れたものに進化したり,手術手技がより侵襲が少なく治癒率の高い方法に変わっていくことに似ています.映像の中にはやや古いものもありますが,基本的に現在も変化がなく,わかりやすいものは採用しました.それぞれの手技の解説は一部「新改訂版 関節運動学的アプローチ最新の技術(博田節夫著,1999)」からの引用もありますが,地域研修会や指導者講習会などで私が博田先生の解説を聞いて注意点として書き加えたものを主に載せてあります.
 さらに,1999年の発売以来,AKAを実際に見て学ぶには唯一のそして最適のビデオ教材である,鶴巻温泉病院院長の土田昌一先生が作られた「AKA実技編」から,収録されている映像をお借りすることができました.初心者の方はこれらの映像から基礎的な手技を覚え,その後研修会での実技指導映像を見て,細かい注意点などを学べばAKAを会得する効率が高まると思います.「AKA実技編」に収録されている映像が加わったことで,「DVD版 関節運動学的アプローチ(博田法)最新の治療技術」はAKAの基礎と応用の両面を学べる教材へと大きく発展しました.この場を借りて,土田昌一先生に深く感謝の意を表するとともに,このデジタル教材が,AKAを学ぶ多くの方々のお役に立てばこれほど嬉しいことはありません.
 最後に,日常の多忙な診療の中で,ご監修をお引き受けくださった博田節夫先生,映像の検討をしていただき貴重なご意見をいただいた千葉県千葉リハビリテーションセンターの佐々木健先生,足尾双愛病院の赤松郁夫先生,映像を提供していただいた臼田医院の臼田正恒先生,楽々堂整形外科の小俣昌大先生,日本AKA研究会理学療法士会の農端芳之先生,真砂恵一先生,永堀造男先生に感謝の意を表するとともに,いっこうに進まない発刊に対してもじっと耐えていてくれた医歯薬出版の方々に御礼を申し上げたいと思います.
 2003年11月 埼玉県 上尾にて
 木桧 晃


刊行によせて

 待ちに待った関節運動学的アプローチ(博田法)(AKA-博田法)のDVDが,木桧晃先生の編集により刊行されました.
 わが国でAKA-博田法が開発されてからほぼ20年が経過しました.海外の運動学の成書には従来から関節運動学の記載がありますが,わが国では,人体の運動学(kinesiology)の中で関節面相互の運動を研究する関節運動学(arthrokinematics)について書かれた成書は,1990年に医歯薬出版から刊行された「関節運動学的アプローチ AKA」(博田節夫編著)を嚆矢とします.
 AKA-博田法は,当初,それまでの運動療法の欠陥を補う方法として開発されましたが,AKAの副運動の治療技術が,関節原性の痛みを引き起こす関節機能異常の唯一の徒手的治療技術であることから,現在では臨床で広く用いられるようになってきています.さらに,構成運動や関節神経学を考慮した徒手療法としても,新たな治療技術が開発されつつあります.
 今回刊行されたDVDは,従来の本やビデオ教材では学びえなかった最新の治療技術の基本から,正しい技術の習得法,陥りやすい誤りについて,博田先生の実際の指導場面を取り入れながら,わかりやすく解説されていることが最大の特長です.
 内容を見ると,副運動を利用した技術として,体幹では椎間関節,仙腸関節,肋椎関節,胸鎖関節の順に11項目,上肢では肩関節,肘関節,手の関節の順に6項目,下肢では股関節,膝関節,足の関節の順に5項目が収録され,構成運動の治療技術としては,他動構成運動と抵抗構成運動でまとめられ,それぞれ肩関節,手関節,肘関節,股関節,膝関節,足関節について収録されています.これらの項目それぞれに,博田先生が講習会などで実際に指導された内容が的確に編集され,解剖から治療技術の細部にわたって学びたい課題が即座に見られ,非常に効率よく利用することができる仕組みになっており,まさにDVDならではの利点といえます.また,AKAの治療を施行するうえでの考え方も盛り込まれ,これまでは,AKA-博田法の理論と技術を身につけるには前掲の成書を読み,技術講習会に参加することがただ一つの道でしたが,このDVDには両者の要素が含まれているといって過言ではありません.
 本DVDは,AKA-博田法に興味を持たれる先生方から指導医レベルの先生方に至るまで,非常に役立つ,すぐにでも臨床で応用しうる技術を獲得できる優れた教材です.パソコンで手軽に効率よく学ぶことができるこのような教材を世に出そうとされた編者のご努力に頭が下がります.と同時に,多くの先生方が本DVDを通じてAKA-博田法を学び,臨床に取り入れることが,障害で苦しんでいる人々の苦痛の緩和,ADL,QOLの改善につながるのではないかと期待するものです.このことこそが木桧晃先生の思いではないでしょうか.
 本年9月に,日本関節運動学的アプローチ(AKA)研究会はわが国唯一のAKA-博田法の研究団体として,国際徒手医学会(Fe´de´ration International de Me´decine Manuelle;FIMM)に入会しました.今後,国際的な交流が生まれ,海外の医師や医療技術者にAKA-博田法を紹介するうえでも,本DVDは大いに利用されることになります.
 2003年11月
 佐々木 健


監修者の序

 博田編『関節運動学的アプローチ(AKA)』が上梓されたのは1990年であるが,その後無菌性仙腸関節炎の治療を安全かつ効果的にするため,技術の改良が急速に進み,現在でもなおいくらかの修正が加えられている.この新しい技術のDVDが,木桧晃先生と医歯薬出版の方々のご努力により完成し,AKAの歴史に新たなページが加えられた.
 本来,関節運動学的アプローチ(arthrokinematic approach:AKA)は関節包内運動の治療技術の一般名であり,海外では特にjoint mobilizationと同一視される.したがって,他の技術と区別するため,関節運動学的アプローチ-博田法(arthrokinematic approach-Hakata method),または略してAKA-博田法(AKA-Hakata method)と呼ぶこととした.
 AKA-博田法は関節運動学に基づき,関節神経学を考慮して,関節の遊び,関節面の滑り,回転,回旋などの関節包内運動の異常を治療する方法,および関節面の運動を誘導する方法であると定義される.博田法の最大の技術的特徴は,関節運動学に基づき滑膜関節のみを個別に治療することと,関節神経学を考慮することである.特に関節神経学に注目した技術はAKA-博田法以外にない.具体的には,副運動技術では関節の機械受容器を刺激しないことが重要で,構成運動技術では機械受容器を刺激する方法と,刺激しない方法を目的に応じて選択することが要求される.これにより,AKA-博田法は徒手的治療法の中でもっとも有効な技術となっている反面,もっとも難しい技術ともなっている.
 徒手的技術を画像で表現するにはおのずから限界がある.AKA-博田法では手および足の位置,力の方向,加える力を最小限にする操作方法は動画で表すことができるが,強さや動きの感触は研修会でしか得られない.それゆえ,画像は技術研修会で学んだことを復習するときや,中級者以上の自己学習時に利用価値が大きいと思われる.
 医療においては高度な徒手的技術は,敬遠される傾向がある.しかし,芸術,スポーツはもちろん,あらゆる技術でプロとアマチュアの差は歴然としており,専門家といわれるまでには長期にわたる絶えざる努力が必要である.AKA-博田法においても専門家への道は平坦ではない.このDVDが技術の習得に資することを願って止まない.
 2003年11月
 博田節夫
【解説書】
監修者の序
刊行によせて
はじめに

■副運動
体幹の関節
 1.C椎間関節 C/T1椎間関節
 2.T椎間関節 T逆方向
 3.L/S1椎間関節 L/S1逆方向
 4.仙腸関節/前上方滑り
 5.仙腸関節/後下方滑り
 6.仙腸関節/上部離開・下部離開
 7.仙腸関節/後上部離開・後下部離開
 8.第1・3・7肋椎関節
 9.第12肋椎関節
 10.第2-7胸肋関節
 11.胸鎖関節
上肢の関節
 12.肩鎖関節(滑り法)
 13.肩(肩甲上腕)関節(前後滑り法・下方滑り法)
 14.橈骨-舟状骨関節
 15.橈骨-月状骨関節
 16.第2手根中手関節
 17.第2中手指節関節
下肢の関節
 18.股関節(離開法)
 19.膝関節(滑り法・軸回旋法)
 20.距骨下(距踵)関節
 21.距舟関節
 22.第2足根中足関節

■構成運動
他動構成運動
 23.肩(肩甲上腕)関節(屈曲・伸展,内転・外転,内旋・外旋)
 24.手関節(背屈・掌屈)
 25.股関節(屈曲・伸展,内転・外転,内旋・外旋)
 26.膝関節(屈曲・伸展)
 27.足関節(背屈)
抵抗構成運動
 28.肩(肩甲上腕)関節(屈曲・伸展,内転・外転)
 29.肘関節(屈曲・伸展)
 30.股関節(屈曲・伸展,内転・外転,内旋・外旋)
 31.膝関節(屈曲・伸展)
 32.足関節