やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の序文

 本書の初版が発刊されてから4年半の歳月を経過した.この間に本書はPT,OT,ST養成用の神経内科学の教科書として,また,リハビリテーションスタッフやリハビリテーションに関心のある臨床医にも広く利用していただくことができた.
 神経内科学はここ数年の間に分子生物学の分野を中心に急速に進歩して,遺伝子や原因の究明が進み,一方,治療面ではevidence based medicine(EBM)が必須の条件として認識されてきた.本書のように教科書として利用されることが多い出版物は,こうした状況を考慮すると,本来なら年ごとに修正と加筆が必要になってくる.
 本書も毎年増刷の際には誤りの訂正を含め若干の手直しは行ってきたが,今回は全般にわたりかなりの改訂と加筆を行って第2版として出版することになった.改訂ないし加筆をした主な箇所は,主要神経症候のなかの精神症状,臨床検査のなかの画像検査,主な神経疾患のなかの脳血管障害,痴呆性疾患,脊髄小脳変性症,運動ニューロン疾患,脱髄性疾患などである.さらに,神経難病の章も修正後に2003年10月から制度改正の行われることが発表されたので,文末にその大要を付け加え,神経疾患のリハビリテーションの章も新しい障害の分類を加えたほか,杉村先生に脳血管障害,末梢神経疾患,ミオパチーのリハビリテーションの項の分担執筆を依頼してこの章を充実させた.
 本邦では最近になって,リハビリテーションをより効率的に施行するため,医療体制の整備と制度改革が行われ,EBリハビリテーションの重要性の認識も進んできている.
 こうした状況下で,神経疾患のリハビリテーションの発展に本書の神経内科学についての記述が少しでも貢献できれば幸いである.

 2003年 初秋
 国立療養所中部病院名誉院長
 介護老人保健施設ルミナス大府施設長
 安藤一也

第1版の序文

 数年前にPTをめざす学生に神経内科の講義を依頼されて教科書を選ぶことになった.神経内科学の教科書は医学生,看護学生用のものはかなり出版されているが,リハビリテーションスタッフをめざすPT,OT,ST養成用のものは皆無であった.
 そこで,自分の講義内容をまとめてリハビリテーションを志向した神経内科学の教科書を作ってみようかと考えた.一人で全部の執筆も大変なので,後輩で名古屋大学医療技術短期大学部・作業療法学科(現在は医学部保健学科作業療法学)の教授に就任していた杉村公也先生にこの話を持ちかけたところ即座に協力してくれることになった.
 そこで,2人の分担項目を決めて執筆にかかったが,諸般の事情で脱稿がかなり遅れてしまった.この間にSTの養成施設もでき,PT,OT養成校も短大から4年制大学課程に昇格した所も増え,神経内科学も分子生物学を中心にかなりの進歩をとげた.
 このために当初の学生用教科書というイメージを発展させ,より広くリハビリテーションスタッフにも役立つ新しい神経内科学書を作成することとし,書名も『リハビリテーションのための神経内科学』とした.したがって,リハビリテーションとの関係の少ない部分は省略するか簡単な記述にとどめ,リハビリテーションの対象とならない疾患は知識として必要と思われるもの以外は割愛した.
 また,参考のために「第5章 神経難病」,「第6章 神経疾患のリハビリテーション」の章を加えた.
 この本で使用している学術用語は主として1993年に日本神経学会から出版された神経学用語集改訂第2版によったが,その後に出版された1997年のリハビリテーション医学用語集,1998年の内科学用語集第5版も含め筆者らがより適切と思った用語を使用した.なお,現在のリハビリテーション関連の出版物に頻用されているものは,それを優先して用いるように努めた.
 本書は安藤と杉村の2人で分担執筆したもので,その分担項目は目次の中に示してある.分担執筆のため記述方法に不統一なところや重複したところが若干あるが,いずれ次の改訂の時に修正したいと考えている.
 リハビリテーションの対象としては神経疾患の頻度は最も高く,リハビリテーションスタッフおよびそれをめざす学生にとっても重要な分野である.本書がこれらの方々に利用され神経疾患のリハビリテーションに役立てていただけることを願っている.

 1999年 早春
 国立療養所中部病院名誉院長
 安藤一也
リハビリテーションのための神経内科学 第2版

第2版の序文
第1版の序文

第1章 神経内科学序論(安藤一也)
 1.神経疾患の特徴
 2.神経内科学と神経内科
 3.関連各科における神経疾患の診療
 4.神経疾患の種類および治療の変遷

第2章 主要神経症候(安藤一也)
 1 運動麻痺
  1.概念
  2.運動ニューロンとその機能
  3.運動麻痺の部位による分類
  4.末梢性麻痺
  5.中枢性麻痺
 2 運動失調
  1.概念
  2.分類
  3.病態生理
  4.症候
 3 錐体外路症候
  1.概念
  2.病態生理
  3.パーキンソン症候
  4.不随意運動
 4 姿勢反射障害と姿勢異常
  1.姿勢反射障害
  2.神経疾患と姿勢反射障害
  3.姿勢異常
 5 痙攣とミオクローヌス
  1.概念
  2.痙攣
  3.攣縮
  4.クランプ
  5.ミオクローヌス
 6 筋萎縮
  1.概念
  2.神経原性筋萎縮の症候
  3.筋原性筋萎縮の症候
  4.廃用性筋萎縮
  5.筋萎縮症の臨床検査所見
  6.発症年齢からみた筋萎縮を呈する主な疾患
 7 歩行障害
  1.概念
  2.歩行障害の種類
 8 感覚障害
  1.感覚の分類
  2.感覚の伝達
  3.感覚障害とその検査
  4.感覚障害の種類
  5.特殊感覚の障害
 9 疼痛
  1.概念
  2.疼痛の経路と痛体験
  3.頭痛
  4.神経痛
  5.特殊な疼痛
 10 脳神経障害
  1.眼球運動障害
  2.三叉神経障害
  3.顔面神経麻痺
  4.副神経麻痺
  5.舌下神経麻痺
 11 構音障害,嚥下障害,球麻痺症候
  1.構音障害
  2.嚥下障害
  3.球麻痺症候
 12 意識障害
  1.概念
  2.発現機序
  3.程度と種類
  4.障害レベルの評価法
 13 めまいと失神
  1.めまい
  2.失神
 14 睡眠障害
  1.概念
  2.不眠
  3.過眠(睡眠過剰)
  4.睡眠時無呼吸症候群
  5.睡眠時ミオクローヌス症候群
  6.不穏脚症候群
  7.周期性四肢運動症
  8.レム睡眠行動障害
 15 精神症状
  1.知能障害
  2.情動障害
 16 高次脳機能障害
  1.概念
  2.大脳半球優位性
  3.失語
  4.失読と失書
  5.失認
  6.失行
 17 自律神経症候
  1.概念
  2.主な自律神経症候

第3章 臨床検査(杉村公也)
 1 画像検査
  1.単純X線検査
  2.造影撮影
  3.CT(computed tomography)
  4.MRI(magnetic resonance imaging 核磁気共鳴画像)
  5.SPECT(single photon emission computed tomography)
  6.PET(positron emission tomography)
  7.脳磁図(MEG)
 2 電気生理学的検査
  1.筋電図
  2.末梢神経伝導速度検査
  3.誘発筋電図
  4.神経筋伝達試験(Harvey-Masland試験)
  5.微小神経電図
  6.脳波(EEG)
  7.誘発電位
  8.事象関連電位
  9.運動関連脳電位
  10.経皮的運動皮質刺激法
 3 その他の臨床検査
  1.運動学的分析法
  2.自律神経機能検査
  3.組織病理学的検査法
  4.生化学的検査
  5.分子遺伝学的検査
  6.免疫学的検査
  7.心理・知能検査
  8.神経耳科学的検査
  9.眼科学的検査
  10.神経泌尿器科学的検査
 4 障害評価
  1.運動障害評価
  2.ADL,APDL
  3.QOL

第4章 主な神経疾患
 1 脳血管障害(杉村公也)
  1.種類と分類
  2.成因と病態
  3.症候
  4.臨床検査
  5.主要疾患
  6.脳血管障害のリハビリテーション
 2 脳腫瘍(杉村公也)
  1.分類
  2.症候
  3.検査所見
  4.治療と予後
 3 頭部外傷(杉村公也)
  1.臨床症候
  2.続発症と後遺症
  3.検査所見
  4.治療とリハビリテーション
 4 中枢神経感染症(安藤一也)
  1.髄膜炎
  2.急性脳炎
  3.遅発性ウイルス感染症
  4.レトロウイルス感染症
  5.プリオン病
  6.神経梅毒
 5 パーキンソン病(安藤一也)
  1.病理
  2.原因
  3.病態生理
  4.症候
  5.自然経過
  6.治療
  7.レボドパ時代の経過と予後
 6 パーキンソニズム(安藤一也)
  1.若年性パーキンソニズム
  2.薬剤性パーキンソニズム
  3.血管性パーキンソニズム
  4.正常圧水頭症(NPH)
  5.線条体黒質変性症(SND)
  6.進行性核上性麻痺(PSP)
  7.びまん性レヴィ小体病(DLBD)
  8.大脳皮質基底核変性症(CBD)
 7 不随意運動症(安藤一也)
  1.ハンチントン病
  2.その他の舞踏病
  3.片側バリズム
  4.アテトーゼを呈する疾患
  5.変形性筋ジストニー(捻転ジストニー)
  6.遺伝性進行性ジストニー(HPD)
  7.痙性斜頚(攣縮性斜頚)
  8.メージュ症候群
  9.遅発性ジスキネジー
  10.トゥレット症候群
  11.本態性振戦症
  12.動作性ミオクローヌス(ランス・アダムス症候群)
 8 痴呆性疾患(安藤一也)
  1.老年痴呆の頻度
  2.主要な痴呆性疾患
 9 てんかん(杉村公也)
  1.臨床型と症候
  2.二次性てんかん
  3.検査所見
  4.治療
  5.主要疾患
 10 脊髄小脳変性症(安藤一也)
  1.孤発性のもの
  2.遺伝性のもの
 11 運動ニューロン疾患(杉村公也)
  1.筋萎縮性側索硬化症(ALS)
  2.家族性筋萎縮性側索硬化症(FALS)
  3.遺伝性脊髄性筋萎縮症
  4.運動ニューロン疾患のリハビリテーション
 12 脱髄性疾患(杉村公也)
  1.多発性硬化症(MS)
  2.急性散在性脳脊髄炎(ADEM)
  3.adrenomyeloneuropathy
 13 脊椎・脊髄疾患(杉村公也)
  1.変形性脊椎症
  2.脊椎椎間板ヘルニア
  3.腰部脊椎管狭窄症
  4.後縦靭帯骨化症(OPLL)
  5.前脊髄動脈症候群
  6.脊髄出血
  7.アーノルド・キアリ奇形
  8.頭蓋底陥入症
  9.二分脊椎
  10.脊髄腫瘍
  11.脊髄空洞症
  12.若年性一側上肢筋萎縮症
 14 末梢神経疾患(杉村公也)
  1.分類
  2.末梢神経障害の一般症候
  3.主要疾患
  4.末梢神経疾患のリハビリテーション
 15 ミオパチー(杉村公也)
  1.進行性筋ジストロフィー(PMD)
  2.筋強直性ジストロフィー
  3.先天性ミオパチー
  4.ミトコンドリアミオパチー
  5.多発筋炎(PM)
  6.重症筋無力症(MG)
  7.筋無力症様症候群(Eaton-Lambert症候群)
  8.周期性四肢麻痺
 16 自律神経疾患(杉村公也)
  1.純粋自律神経不全症(PAF)
  2.シャイ・ドレーガー症候群
  3.パーキンソン病を伴う自律神経不全症
  4.急性・亜急性汎自律神経異常症
  5.アディー症候群
 17 先天異常(杉村公也)
  1.染色体異常症
  2.神経・皮膚症候群
 18 代謝性疾患(杉村公也)
  1.リピドーシス
  2.アミノ酸代謝異常
  3.プリン代謝異常
  4.ポルフィリン症
  5.ウィルソン病
  6.アミロイドーシス
  7.ビタミン欠乏症
  8.糖尿病性神経障害
  9.尿毒症性神経障害
 19 中毒性疾患(杉村公也)
  1.鉛中毒
  2.有機水銀中毒(水俣病など)
  3.有機リン中毒
  4.一酸化炭素中毒
  5.アルコール性神経障害
  6.麻薬中毒
  7.スモン
  8.有機溶剤中毒

第5章 神経難病(安藤一也)
 1.難病の定義
 2.神経難病の種類
 3.神経難病の疫学
 4.神経難病の治療と予後
 5.神経難病のリハビリテーションと福祉施策
 6.特定疾患の制度改正

第6章 神経疾患のリハビリテーション(安藤一也)
 1.リハビリテーションにおける障害
 2.能力低下の評価
 3.社会的不利の評価
 4.ADLとQOL
 5.新しい障害の分類
 6.疾患の種類とリハビリテーションの目標
 7.神経疾患と転倒,骨折
 8.脳血管障害のリハビリテーション……(杉村公也)
 9.パーキンソン病のリハビリテーション
 10.脊髄小脳変性症のリハビリテーション
 11.筋萎縮性側索硬化症のリハビリテーション
 12.多発性硬化症のリハビリテーション
 13.痴呆のリハビリテーション
 14.末梢神経疾患のリハビリテーション……(杉村公也)
 15.ミオパチーのリハビリテーション……(杉村公也)
  1)進行性筋ジストロフィーのリハビリテーション
  2)多発筋炎のリハビリテーション

文献
和文索引
欧文索引