やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

普及版の序
 本書を出版してから約20年が経過した.初版の序文でも示したように,神経学の基礎と臨床の全域を網羅し,しかも症状に対する基礎病変を豊富な図と写真で解説したものとしては類書がなく,この間,広く多くの読者に活用していただいたことに感謝したい.
 医学の進歩は著しい.殊更,画像診断,さらにはDNAによる遺伝子診断技術の発展は,基礎・臨床を問わず,神経疾患の医学をも大きく変化させてきている.しかし,本書発刊当初の目的である「基礎と臨床の関連をわかりやすく有機的に解説すること」,「脳の肉眼,組織および臨床所見の典型例を画像で示し,病理と臨床のギャップを埋めること」の意義は,いまだ変わることはない.また,本書に収載した組織および臨床例の多くの画像は,神経疾患の臨床に携わる医師および学生,これから専門認定医を目指す若い臨床医,さらに神経科学の専門家へのテキストとして,現在でも十分にその使命を果たすことができると考えている.
 以上の経緯から,さらに多くの学生・臨床家に手軽にご購読いただけるように考え,体裁を変えるとともに,一部の画像に修正を加え,書名も『普及版グラフィック神経学』として,新しく出版することになった.これを機に,多くの方々にご活用いただけることを願っている.
 今回の『普及版グラフィック神経学』の刊行にあたって,医歯薬出版株式会社の塗木誠治ならびに竹内 大両氏のご尽力に対して厚く感謝する.
 2010年1月
 田中順一
 岩田 誠

序文
 近年,CT,MRI,SPECT,PETなど画像技術の目ざましい進歩は神経学の臨床診断に画期的な福音をもたらし,病巣の経時的追跡を可能にしたが,その質的変化については未だ十分に説明しえない.
 1993年8月から1994年7月まで月刊誌JOURNAL OF CLINICAL REHABILITATION(臨床リハビリテーション)(医歯薬出版)に,臨床医が脳病変を理解するのに役立てるために画像所見に対応する病理所見を取り入れた「目で見る神経病理シリーズ」を12回にわたって連載した.
 連載を終える頃,読者から寄せられた励ましの言葉は,症状に対応する基礎病変を図説した書物が必要であることを痛感させ,シリーズで割愛した項目を補って神経学の全域をカバーするテキストを作ることを勇気づけた.
 しかし,基礎と臨床を一人の著者が執筆するのは不可能に近いと思われたので,早速,神経内科の第一人者である東京女子医科大学の岩田 誠教授に共著をお願いしたところ快諾を頂き,書名は画像を豊富に盛り込んだ「グラフィック神経学」に決まった.
 本書の目的は神経学の基礎と臨床の関連を有機的に分かりやすく解説することにある.すなわち,脳の肉眼,組織および画像の典型的な所見を図示して読者の視覚に訴え,病理と臨床のギャップを埋めたいと考える.これが神経科学の専門分野,例えば神経内科,リハビリ科,脳神経外科,小児神経科,精神科,病理科などの認定医試験を目指している若い臨床医,あるいは臨床基礎医学を学んでいる高学年の医学生に少しでも役立てば幸いである.
 1990年に米国上院で決議された「脳の10年」は後半に入り,わが国でも欧米に遅れながら脳のキャンペーンが進められている.臨床神経学の歴史は,前世紀の半ば,Charcotが種々の神経疾患の病理解剖を丹念に検索し,臨床症状と責任病巣を対比したことに端を発する.
 その後,脳波,気脳撮影,脳血管撮影の開発,さらにCTやMRIなど画像解析の進歩は臨床診断の精度を向上させた.一方では分子生物学の発展は遺伝性神経疾患の遺伝子診断を可能にし,近い将来,治療法の開発も夢でなくなってきた.
 本書に掲載した写真の殆どは著者が過去に自ら経験した症例から撮影したものであるが,一部は提供されたものもあり,関係諸氏のご厚意に深く感謝の意を表す.また,資料の収集に協力を惜しまれなかった東京慈恵会医科大学神経病理福田隆浩講師,東京女子医科大学神経内科竹内恵博士をはじめ,医歯薬出版の編集スタッフに心から謝辞を述べる.
 1997年3月
 田中順一
 岩田 誠
 序文
 図版目次
I.脳と脊髄
 1.正常像
  1.脳
   1)肉眼所見
   2)組織所見
  2.脊髄
 2.病理総論
  1.肉眼変化
  2.組織変化
  3.細胞変化
  4.Waller変性
  5.頭蓋内圧亢進症
 3.代表的疾患
  1.奇形
   1)皮質形成異常
   2)Arnold-Chiari奇形
   3)透明中隔欠損・Verga腔
   4)透明中隔嚢胞(cavum septi pellucidi)
   5)Down症候群
   6)水頭症
   7)脊髄空洞症
   8)頭蓋頸椎移行部骨奇形
   9)周産期脳障害
   10)脳動脈の奇形
  2.血管障害
   1)動脈硬化
   2)脳梗塞
    (1) 脳梗塞の病理
    (2) 脳梗塞の画像診断
     a) 画像所見の基礎
     b) 脳梗塞の部位診断
   3)脳出血
    (1) 脳出血の病理
    (2) 脳出血の画像診断
     a) 画像診断の基礎
     b) 高血圧性脳出血の画像診断
   4)脳動脈瘤
   5)脳動静脈奇形
   6)もやもや病
   7)アミロイドアンギオパチー
   8)静脈洞血栓症
   9)脊髄動静脈奇形
   10)側頭動脈炎・脳動脈炎
  3.外傷
   1)脳挫傷
   2)急性硬膜外血腫
   3)慢性硬膜下血腫
   4)変形性脊椎症
   5)脊椎靱帯骨化・石灰化症
   6)脊椎椎間板ヘルニア
   7)頭部外傷続発症
   8)脊髄損傷
  4.感染症
   1)髄膜炎
   2)脳膿瘍
   3)ウイルス脳炎
   4)プリオン病
  5.脱髄
   1)多発性硬化症
   2)急性播種性脳脊髄炎
   3)白質ジストロフィー
   4)Nasu-Hakola病
  6.変性
   1)Alzheimer型痴呆
   2)Parkinson病
   3)Huntington病
   4)多系統萎縮症
   5)進行性核上性麻痺
   6)脊髄小脳変性症
   7)筋萎縮性側索硬化症
   8)Kennedy-Alter-Sung症候群
   9)Werdnig-Hoffmann病
   10)平山病
  7.栄養障害・中毒
   1)無酸素脳症
   2)一酸化炭素中毒
   3)Wernicke脳症
   4)Marchiafave-Bignami病
   5)ペラグラ脳症
   6)亜急性連合脊髄変性症
   7)スモン
   8)フェニトイン中毒
   9)トルエン中毒
   10)水俣病
   11)重金属中毒
   12)放射線壊死
  8.代謝障害
   1)蓄積症
   2)脳腱黄色腫症
   3)Lafora病
   4)Wilson病
   5)肝性脳症
   6)Menkes病
   7)ミトコンドリア脳筋症
  9.腫瘍
   1)髄膜腫
   2)神経鞘腫
   3)血管芽腫
   4)グリオーマ(星膠腫,乏突起膠腫,脳質上衣腫,膠芽腫,髄芽腫)
   5)悪性リンパ腫
   6)鼻咽頭腫瘍
   7)下垂体腺腫
   8)頭蓋咽頭腫
   9)転移性腫瘍
   10)脊髄腫瘍
II.末梢神経
 1.正常像
 2.病理総論
  1.軸索変性(axonal degeneration)
  2.節性脱髄(segmental demyelination)
 3.代表的疾患
  1.脳神経麻痺
   1)眼筋麻痺(ophthalmoplegia)
   2)顔面麻痺(facial palsy)
   3)副神経麻痺(accessory nerve paralysis)
   4)舌下神経麻痺(hypoglossal paralysis)
  2.単ニューロパチー(mononeuropathy)
   1)橈骨神経麻痺(radial nerve palsy)
   2)手根管症候群(carpal tunnel syndrome)
   3)尺骨神経麻痺(ulnar nerve palsy)
   4)長胸神経麻痺(long thoracic nerve paralysis)
   5)総腓骨神経麻痺(common peroneal nerve palsy)
  3.様々なニューロパチー
   1)結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa)
   2)アミロイド・ニューロパチー(amyloid neuropathy)
   3)遺伝性運動感覚性ニューロパチー(hereditary motor sensory neuropathy)と遺伝性感覚根性ニューロパチー(hereditary sensory radicular neuropathy)
   4)脱髄性ニューロパチー(demyelinating neuropathy)
   5)Crow-Fukase症候群
   6)糖尿病性ニューロパチー(diabetic neuropathy)
   7)アルコール性ニューロパチー(alcoholic neuropathy)
   8)n-ヘキサンニューロパチー(n-hexane neuropathy)
   9)ソーセージ様ニューロパチー(tomaculous neuropathy)
III.筋肉
 1.正常像
 2.病理総論
  1.神経原性筋萎縮
  2.筋原性筋萎縮
 3.代表的疾患
  1.筋ジストロフィー
   1) 進行性筋ジストロフィー(progressive muscular dystrophy)
   2)筋強直性ジストロフィー(myotonic dystrophy)
  2.様々なミオパチー
   1)縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(distal myopathy with rimmed vacuole)
   2)ミトコンドリアミオパチー(mitochondrial myopathy)
   3)ネマリンミオパチー(nemaline myopathy)
   4)重症筋無力症(myasthenia gravis)
   5)筋無力症候群(Lambert-Eaton myasthenic syndrome)
   6)多発筋炎(polymyositis)と皮膚筋炎(dermatomyositis)
   7)その他の炎症性ミオパチー
索引