やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 耳鼻咽喉科領域では近年,疾患構造の変化が著しく,たとえば,ワクチンの普及やガイドラインの遵守により急性中耳炎と滲出性中耳炎が減少し,難治例や遷延例も激減した.一方,慢性副鼻腔炎は増加傾向にあり,これは好酸球性副鼻腔炎の増加を反映している.頭頸部癌では狭帯域光観察により咽頭表在癌が発見されやすくなり,中咽頭癌では乳頭腫ウイルスによる発癌が増加している.このウイルス性中咽頭癌は若年発症で,高い奏効率が特徴であり,治療戦略やステージ分類も見直されている.このような疾患構造の変化に加え,超高齢社会を反映して手術年齢の高齢化も進んでいる.たとえば,鼓室形成術や人工内耳手術など,最近は後期高齢者の受ける頻度が増えている.
 新しい診断・治療法も着々と臨床応用されてきている.小児難聴や進行性感音難聴では原因診断に遺伝子検査が保険収載され,さらに次世代シークエンスによる研究も進んでいる.人工聴覚器は人工内耳に加え,聴力温存型人工内耳(EAS)や人工中耳が保険収載された.従来治療成績の不良であった外耳道閉鎖では形成外科的手技の進歩による手術法の改良で治療成績が向上し,癒着性中耳炎に対する再生技術を用いた手術も臨床研究されている.平衡障害では内リンパ水腫を画像で確認することが可能となり,両側平衡機能障害に対しては前庭のノイズ電気刺激による治療が臨床研究されている.好酸球性副鼻腔炎は再発しやすい難治性疾患であるが,抗体療法などの臨床研究がなされており,その他の治療法も開発が進んでいる.頭頸部癌では化学放射線療法の治療成績が向上し,分子標的薬やがん免疫療法などの登場により治療の選択肢が増えている.一方,高齢化に伴い循環器疾患や糖尿病などの合併症を罹患する患者も増加し,治療強度の見直しなど個別化医療も求められている.今後のゲノム医療を見据え,研究体制の整備も進められている.
 本書では,耳鼻咽喉科領域の最近の進歩について,わが国の第一人者の方々に執筆をお願いした.最新情報の理解が深まれば幸いである.
 2018 年5 月
 山岨達也(東京大学医学部耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教室)
 序(山岨達也)
聴覚・耳
 1.遺伝性難聴の診断の進歩(松永達雄)
 2.先天性CMV感染による難聴:疫学,診断,治療(小川 洋)
 3.突発性難聴の治療:最新エビデンス(神崎 晶)
 4.加齢性難聴:疫学,リスク要因,認知機能との関係(内田育恵)
 5. 第三の内耳窓(third mobile window):前半規管裂隙症候群,前庭水管拡大症(鈴木光也)
 6.CTP検査による生化学的外リンパ瘻診断(池園哲郎・松田 帆)
 7.ANCA関連血管炎性中耳炎(OMAAV)(岸部 幹・原渕保明)
 8.小児人工内耳医療(樫尾明憲)
 9.聴力温存型人工内耳(EAS)(東野哲也)
 10.人工中耳(Vibrant Soundbridge(R))(土井勝美)
 11.骨固定型補聴器(BAHA)(喜多村 健)
 12.内視鏡下耳科手術(TEES)(欠畑誠治)
 13.穿通枝皮弁を用いた小耳症・外耳道閉鎖術の手術(成島三長・他)
 14.中耳粘膜の再生医療(山本和央・小島博己)
 15.耳鳴に対する新規治療:耳鳴の音響療法(新田清一)
めまい
 16.前庭誘発筋電位によるめまい疾患診断の進歩(室伏利久)
 17.video Head Impulse Testによる半規管機能検査の進歩(新藤 晋)
 18.メニエール病:画像診断と水療法(寺西正明・曾根三千彦)
 19.良性発作性頭位めまい症:新分類と治療(今井貴夫)
 20.ノイズ前庭電気刺激による体平衡機能障害の治療(藤本千里)
 21.前庭機能障害に対するリハビリテーション(新井基洋)
鼻科
 22.好酸球性副鼻腔炎の病態生理と治療(藤枝重治)
 23.アレルゲン免疫療法の治療戦略(岡野光博・野口佳裕)
 24.嗅覚障害の診断と治療―診療ガイドラインの活用(三輪高喜)
 25.鼻内内視鏡手術の進歩と頭蓋底手術(児玉 悟)
口腔・咽頭
 26.小児の閉塞性睡眠時無呼吸:診断と治療(安達美佳・鈴木雅明)
 27.唾液腺管内視鏡治療(松延 毅)
 28.IgG4 関連疾患(高野賢一)
気管食道・喉頭
 29.声帯瘢痕・加齢性発声障害の治療(平野 滋)
 30.成人喉頭乳頭腫に対するワクチン治療(牧山 清・松崎洋海)
 31.音声障害診断における高速度デジタル撮像検査(山内彰人)
 32.痙攣性発声障害:チタンブリッジを用いた甲状軟骨形成術2 型(讃岐徹治)
 33.高解像度マノメトリーを用いた嚥下機能検査(河本勝之)
 34.経口的嚥下機能改善手術(千年俊一)
頭頸部
 35.上顎洞癌に対する動注化学療法(本間明宏)
 36.HPV関連中咽頭癌の診断と治療(猪原秀典)
 37.咽頭癌のロボット手術(楯谷一郎)
 38.唾液腺癌の個別化医療(多田雄一郎)
 39.頭頸部癌に対する免疫療法(岡本美孝)
 40.甲状腺癌の個別化治療(森谷季吉)