やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版序文
 「EBM漢方」の初版本は2003年3月に上梓した.幸いにして多くの方々から好評をいただき,心から嬉しく思っている次第である.さらに初版本は韓国の友人(慶煕大学・韓医科大学)゙基湖教授によって韓国語に翻訳され,ソウルから出版された.
 それから3年間が経過したが,この間にさらに多数のエビデンスが集積されている.社団法人・日本東洋医学会もEBMに積極的に取り組んでおり(委員長・秋葉哲生先生),2002年の『漢方治療におけるEBM』中間報告(日本東洋医学雑誌,53(5))に引き続いて,2005年には『漢方治療におけるエビデンスレポート』(同誌,56(EBM別冊号))を発刊した.
 改訂第2版は日本東洋医学雑誌の情報も取り込み,さらに,この雑誌に採用されなかった相対的にランクの低いエビデンスも収載することにした.しかし,次々に集積される情報を単純に追加してしまうと,本書の頁数が大部な物になってしまう.そこで,エビデンスのランクによって,極めて高い水準のもの,高い水準のもの,参考とすべき水準のものの3群に分類し,記述する頁数を規定した.したがって,初版本で詳細に記されたエビデンスも,相対的に低いものは記述が簡略化されている.これによって全体の頁数は初版本とほぼ同じになっている.どうか,この間の事情をご理解いただきご寛恕の程をお願い申し上げる次第である.
 周到に文献検索を行ったと自負しているが,漢方医学に直接関連しない各種専門領域の機関誌あるいは雑誌などに公表された「漢方薬のエビデンス」は調査から漏れた可能性は否めない.このような事例があれば,ぜひ出版社宛ご一報いただければ幸いである.
 2003年に医学教育のコア・カリキュラムが策定され「和漢薬を概説できる」ことが医学生が卒業までに修得すべき知識として規定された.またこれに連動して,薬学教育のコア・カリキュラムにおいても「漢方の概括的理解」が明記された.時代が大きく変わってきたと実感している.「個の医療」を基本理念とする漢方ではあるが,薬物としての臨床的有用性も客観的に呈示する必要があることもまた事実である.本書が臨床の現場だけでなく,広く医学・薬学教育の場でも活用され,漢方の一層深い理解に役立つことを念願し,第2版の序文とする.
 2007年2月
 編著者代表 寺澤捷年

第1版序文
 医療用漢方製剤が医療保険の薬価基準に収載されてから25年が経過した.そして,その臨床応用も,かつてのように「慢性肝炎に小柴胡湯」というような病名対応から,患者の体質傾向や自他覚症状に応じて漢方製剤を選択するという,漢方医学の本質的な理解を基盤とした方向へとシフトしている.
 このような医療界,そして国民のニーズに呼応して,医学教育のコア・カリキュラムの中に「和漢薬を概説できる」という一項目が記された.これからの医学生は卒業までに和漢薬あるいは漢方医学の基本的な理念について,そのアウトラインを修得することになる.
 このような動きの中で,漢方製剤の質の高いエビデンスを構築することも急務となっている.それは「経験知」を「形式知」に置き換える作業であり,漢方医学の普遍化を押し進めるひとつの有力な方法論である.
 しかし,漢方医学の治療体系の魅力は,個々の患者の病態に合わせた「個の医療」の実践であり,また,症状・病態の流動的変化に応じた逐次修正を行って,最終的によい結果を得る点にある.
 他方,エビデンスの構築とは,一般的には「集団」を対象として推計学的有意差を求める作業であって,「個の医療」や「流動性を認識する治療体系」を評価するのには本質的になじまない.本書はこのジレンマを前提としつつ,現時点で得られている漢方製剤のエビデンスを精選した.さらに,漢方医学の視点から治療戦略を概説した.いまだ「経験知」の部分が多いのが現状であるが,今後のエビデンス構築のための事項を整理したものとご理解いただきたい.
 ここから東西医学融和への第一歩が始まることを信じ,あえて本書を世に問うゆえんである.
 寺澤捷年
 第2版の序文
 初版の序文
 編集者・執筆者一覧
 本書の目的
 凡例
 証診断における4つの病態概念の用語解説

第1章 総論
1.エビデンス(根拠)に基づく医療(EBM) 寺澤捷年
2.漢方医学の特質とEBMの意義 寺澤捷年
3.漢方医学における質の高いエビデンスの構築 寺澤捷年
4.漢方製剤のプラセボ開発の諸課題 寺澤捷年
5.本書におけるエビデンスのランク付けと治療戦略 寺澤捷年

第2章 各論
1.循環器
 心不全と木防已湯 田原英一
 高血圧・高血圧症随伴症状と釣藤散・黄連解毒湯 新谷卓弘,田原英一
 起立性低血圧と五苓散 新谷卓弘,田原英一
 レイノー現象と当帰四逆加呉茱萸生姜湯・黄連解毒湯・当帰芍薬散 新谷卓弘,田原英一
 リンパ浮腫と牛車腎気丸 新谷卓弘
2.呼吸器
 かぜ症候群と小柴胡湯・麻黄附子細辛湯・麦門冬湯 伊藤 隆
 気管支炎と小青竜湯 伊藤 隆
 副鼻腔気管支症候群と葛根湯加川きゅう辛夷 伊藤 隆
 気管支喘息と柴朴湯・小青竜湯・麦門冬湯 伊藤 隆
 睡眠呼吸障害と補中益気湯 伊藤 隆
 慢性閉塞性肺疾患(COPD,慢性肺気腫)と補中益気湯・小柴胡湯・柴朴湯・清肺湯 伊藤 隆
3.消化管
 上腹部不定愁訴と六君子湯 小暮敏明
 急性胃炎・慢性胃炎・消化性潰瘍と半夏瀉心湯・三黄瀉心湯・黄連解毒湯 小暮敏明
 胃下垂症と補中益気湯 小暮敏明
 潰瘍性大腸炎と柴苓湯 小暮敏明
 クローン病における腸閉塞と大建中湯 小暮敏明
 虚血性大腸炎と大建中湯 萬谷直樹
 過敏性腸症候群と桂枝加芍薬湯・平胃散 萬谷直樹
 腹痛と当帰四逆加呉茱萸生姜湯・芍薬甘草湯・甘草湯 萬谷直樹
 便秘症と大黄甘草湯・防風通聖散 萬谷直樹
 肛門疾患と乙字湯・芍薬甘草湯 萬谷直樹
4.肝・胆・膵
 慢性ウイルス性肝炎と小柴胡湯・十全大補湯・麻黄湯・柴胡桂枝湯 柴原直利
 肝硬変と十全大補湯・人参養栄湯・五苓散 柴原直利
 肝硬変に伴う腓腹筋痙攣と芍薬甘草湯・八味地黄丸・牛車腎気丸 柴原直利
 肝硬変からの肝癌移行と小柴胡湯・十全大補湯 柴原直利
 胆石症と大柴胡湯 柴原直利
 閉塞性黄疸と茵陳蒿湯 柴原直利
5.血液
 鉄欠乏性貧血と当帰芍薬散・六君子湯 小尾龍右
 術前自己血貯血と十全大補湯・人参養栄湯 柴原直利
 特発性血小板減少性紫斑病と加味帰脾湯 柴原直利
 再生不良性貧血と人参養栄湯 柴原直利
 骨髄異形成症候群と人参養栄湯 柴原直利
6.腎・泌尿器
 慢性糸球体腎炎・ネフローゼ症候群と柴苓湯 三潴忠道
 糖尿病性腎症と柴苓湯 三潴忠道
 特発性血尿と柴苓湯・きゅう帰膠艾湯 三潴忠道
 保存期腎不全患者・維持透析患者の掻痒症と黄連解毒湯・温清飲 貝沼茂三郎
 透析患者の筋痙攣と芍薬甘草湯 三潴忠道
 透析関連骨関節症と柴苓湯 三潴忠道
 前立腺肥大・高齢者排尿障害と柴苓湯・八味地黄丸・牛車腎気丸 貝沼茂三郎
 腎・尿管結石と猪苓湯 貝沼茂三郎
 尿道症候群と猪苓湯・猪苓湯合四物湯 古田一史
 男性不妊症と補中益気湯・牛車腎気丸 古田一史
7.内分泌・代謝
 糖尿病と清心蓮子飲 高橋宏三
 糖尿病性神経障害と牛車腎気丸 藤永 洋
 高脂血症と大柴胡湯・柴胡加竜骨牡蛎湯 高橋宏三
 脂肪肝と大柴胡湯 高橋宏三
 肥満症と防風通聖散・防已黄耆湯 藤永 洋
8.免疫
 混合性結合組織病(MCTD)におけるレイノー現象と人参養栄湯 高橋宏三
 シェーグレン症候群と麦門冬湯・人参養栄湯 高橋宏三
 ベーチェット病と温清飲 藤永 洋
 関節リウマチと柴苓湯・防已黄耆湯 高橋宏三
 慢性疲労症候群(CFS)と補中益気湯 藤永 洋
9.神経
 頭痛と釣藤散・葛根湯・呉茱萸湯・桂枝人参湯・九味檳榔湯・川きゅう茶調散 嶋田 豊,野崎和也
 認知症と八味地黄丸・抑肝散・黄連解毒湯・釣藤散・当帰芍薬散 嶋田 豊,野崎和也
 脳血管障害と黄連解毒湯・真武湯・釣藤散・八味地黄丸・当帰芍薬散・桂枝茯苓丸 嶋田 豊
 パーキンソン病と黄連解毒湯・川きゅう茶調散・六君子湯 嶋田 豊
10.精神
 うつ病・抑うつ状態と補中益気湯・加味帰脾湯・半夏厚朴湯・六君子湯・小建中湯・人参養栄湯・柴胡加竜骨牡蛎湯 喜多敏明
 神経症と加味帰脾湯・半夏厚朴湯・抑肝散加陳皮半夏・柴胡加竜骨牡蛎湯・加味逍遙散 喜多敏明
 統合失調症と黄連解毒湯・八味地黄丸 喜多敏明
 不眠症と酸棗仁湯 喜多敏明
11.骨・関節
 骨折による腫張と桂枝茯苓丸 喜多敏明
 骨粗鬆症と桂枝加朮附湯・人参養栄湯・牛車腎気丸 喜多敏明
 上肢痛・しびれと五苓散・牛車腎気丸 林 克美
 変形性膝関節症と防已黄耆湯・越婢加朮湯・柴苓湯 喜多敏明
 腰下肢痛と八味地黄丸・牛車腎気丸 喜多敏明
12.皮膚
 アトピー性皮膚炎と柴胡清肝湯・消風散・補中益気湯・黄連解毒湯・梔子柏皮湯 新谷卓弘,田原英一
 ざ瘡と十味敗毒湯・黄連解毒湯・荊芥連翹湯 新谷卓弘,田原英一
 掌蹠膿疱症と温清飲・黄連解毒湯 新谷卓弘,田原英一
 老人性皮膚?痒症と黄連解毒湯・牛車腎気丸・八味地黄丸 新谷卓弘,田原英一
13.眼科
 サルコイドーシスの眼病変と柴苓湯 小林 豊
 ドライアイと人参養栄湯 小林 豊
 黄斑浮腫と柴苓湯 小林 豊
 糖尿病性角膜障害と牛車腎気丸 小林 豊
 眼瞼痙攣と抑肝散 小林 豊
14.口腔
 口腔乾燥症と人参養栄湯・白虎加人参湯 小林 豊
 口内炎と黄連湯 小林 豊
 歯周病の急性発作と排膿散及湯・黄連解毒湯 川俣博嗣
 舌痛症と黄連湯・柴朴湯・加味逍遙散 小林 豊
15.耳鼻咽喉科
 アレルギー性鼻炎と五虎湯・小青竜湯・麻黄附子細辛湯・苓甘姜味辛夏仁湯 関矢信康
 喉頭アレルギーと麻黄附子細辛湯 関矢信康
 咽喉炎と桔梗湯 関矢信康
 咽喉頭異常感症と柴朴湯・半夏厚朴湯・香蘇散 関矢信康
 耳鳴と牛車腎気丸・柴胡桂枝湯・釣藤散 関矢信康
 滲出性中耳炎と柴苓湯・小青竜湯/越婢加朮湯併用 関矢信康
 慢性副鼻腔炎と葛根湯加川きゅう辛夷・辛夷清肺湯 関矢信康
 末梢性顔面神経麻痺(Bell麻痺)と柴苓湯 関矢信康
 めまいと半夏白朮天麻湯 関矢信康
16.産婦人科
 黄体血腫嚢胞と芍薬甘草湯 巽 武司
 不育症と柴苓湯 巽 武司
 月経前症候群 (PMS)と五苓散 地野充時
 冷え症と温経湯 地野充時
 産褥期うつときゅう帰調血飲 南澤 潔
 機能性子宮出血・過多月経ときゅう帰膠艾湯・きゅう帰調血飲 巽 武司,長坂和彦
 月経困難症と桂枝茯苓丸・芍薬甘草湯 巽 武司,長坂和彦
 更年期障害と桂枝茯苓丸・加味逍遥散当帰芍薬散・八味地黄丸・女神散・柴胡桂枝乾姜湯・柴胡加竜骨牡蛎湯・釣藤散・温経湯 巽 武司,長坂和彦
 高テストステロン血症・高プロラクチン血症と芍薬甘草湯 巽 武司,長坂和彦
 骨盤内うっ血症候群と温経湯 巽 武司,長坂和彦
 子宮筋腫と桂枝茯苓丸 巽 武司,長坂和彦
 無排卵・多嚢胞性卵巣症候群と柴苓湯・温経湯 巽 武司,長坂和彦
 乳腺症と桂枝茯苓丸・桃核承気湯・四逆散・加味逍遥散・通導散 巽 武司,長坂和彦
 老人性膣炎と六味丸 巽 武司,長坂和彦
17.麻酔科
 三叉神経痛と五苓散・柴苓湯・小柴胡湯/桂枝加芍薬湯併用 喜多敏明
 帯状疱疹後神経痛(PHN)と補中益気湯・桂枝加朮附湯・柴苓湯 喜多敏明
18.小児科
 期外収縮(不整脈)と炙甘草湯 酒井伸也
 起立性調節障害と柴胡桂枝湯・半夏白朮天麻湯・小建中湯・補中益気湯 酒井伸也
 上気道炎と小柴胡湯加桔梗石膏 酒井伸也
 かぜ症候群に伴う鼻閉と麻黄湯 酒井伸也
 反復気道感染症と柴胡桂枝湯 酒井伸也
 気管支喘息と柴朴湯・小青竜湯 酒井伸也
 急性胃腸炎に伴う嘔吐と五苓散・柴苓湯 引網宏彰
 感冒性胃腸症に伴う下痢と五苓散・柴苓湯 引網宏彰
 便秘症と大建中湯 引網宏彰
 肛門周囲膿瘍・痔瘻と十全大補湯 引網宏彰
 慢性糸球体腎炎・ネフローゼ症候群・IgA腎症と柴苓湯 引網宏彰
19.薬物による副作用
 インターフェロン+リバビリン療法時の貧血と十全大補湯 酒井伸也
 SSRIによる嘔気と五苓散 後藤博三
 NSAIDsによる消化器症状と六君子湯 後藤博三
 頻尿改善薬(塩酸オキシブチニン)による口腔内乾燥症と人参養栄湯 後藤博三
 子宮収縮抑制剤(塩酸リトドリン)による頻脈と柴胡加竜骨牡蛎湯 後藤博三
 抗癌剤(塩酸イリノテカン)による下痢と半夏瀉心湯 後藤博三
 抗癌剤(パクリタキセル)による痛みと芍薬甘草湯 新沢 敦
 抗癌剤(化学療法)による副作用と十全大補湯・補中益気湯 後藤博三
 抗癌剤による粘膜障害と小柴胡湯・黄連解毒湯 二宮裕幸
 向精神薬による口渇と五苓散・麦門冬湯・柴苓湯・白虎加人参湯 後藤博三
 向精神薬による排尿障害と猪苓湯 後藤博三
 向精神薬による便秘と大建中湯 後藤博三
 Gn-RHアナログ療法による副作用と桂枝茯苓丸 後藤博三
 放射線療法による副作用と人参養栄湯・麦門冬湯 後藤博三
20. 術後
 術後イレウス・術後排便障害と大建中湯 小暮敏明
 肝切除後の高アンモニア血症・腸管麻痺と大建中湯 小暮敏明
 癌術後の免疫抑制と十全大補湯 藤永 洋
 胃癌切除後の消化器症状と六君子湯・半夏瀉心湯 並木隆雄
 胆道閉鎖症術後の肝線維化と茵陳蒿湯 並木隆雄
 経尿道的前立腺切除術(TUR-P)後の疼痛・不快感(PTPD)と竜胆瀉肝湯 笠原裕司
 人工膝関節置換術(TKA)後感染と人参養栄湯 笠原裕司

 事項索引
 方剤索引