やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 最近の画像診断技術の発達で一目瞭然の所見が得られる他の臓器,骨・関節に比べ,末梢神経の傷病については画像では捕え難く,神経学的所見が有用であるが,ともすれば等閑視される傾向にある.しかし四肢の愁訴の多くは痛みや麻痺で末梢神経にかかわることが多く,神経学的知識は臨床医としてことのほか重要である.
 いわゆる“しびれ”や神経の傷病の診断と治療に興味をもち,電気生理学検査に携わるようになって病理組織検査の行い難い末梢神経を,臨床所見や神経学的所見だけでなく,いかに電気生理学的所見として捉えるか腐心した.同時に神経内科的疾患やリハビリテーションの多数の患者を診察し,電気生理学検査を行う機会に恵まれた.
 末梢神経の臨床の実際に当たって,とくに診断は解剖学的知識と神経生理学の基礎を理論的に活用することで解決できることが多く,本書ではこのために臨床で役立つ基礎的事項を多く取り入れている.また神経傷病については臨床・神経学所見,手術所見と電気生理学的知見から,急性神経麻痺と慢性神経障害は明らかに異なった部分があり,慢性障害について新たな分類を記述している.
 本書の診断・治療では多くの自験例を用いて理解しやすくしており,末梢神経傷病を診断,治療するうえで,とくに配慮すべき脊髄神経,血管などの関連する傷病についても詳述した.治療法では理論的にも臨床の場でも有用である方法,とくに外科的治療法に関しては著者がマイクロサージャリー手技で施行し結果が得られている手術法についても記述した.
 やや外科的治療に偏ったきらいはあるが,末梢神経の傷病を広く網羅しており,この分野を取り扱う機会の多い整形外科をはじめ,内科とくに神経内科,救急医療,リハビリテーション分野で受け容れられることを望んでいる.
 10年以上前から構想を温めてきたが,医歯薬出版の斎藤和博さんのご助力を得て出版できたことを記して謝する.
 2007年10月
 山野慶樹
 序文
I.末梢神経の構造とその損傷
 第1章 末梢神経の構造
  1.神経細胞:neuron
   1)神経細胞
   2)軸索:axon
   3)軸索流:axoplasmic transport
    (1)順行性の速い流れ (2)遅い流れ (3)逆行性の軸索輸送
  2.神経線維の周囲組織
   1)神経上膜:epineurium
   2)神経周膜:perineurium
   3)神経内膜:endoneurium
  3.シュワンSchwann細胞
  4.神経束:fascicle,funiculus
  5.神経筋接合部
  6.神経への血流
  7.運動神経系
   1)脊髄前角細胞
   2)運動単位:motor unit(NMU)
  8.知覚神経系
   1)メルケル(触)小体
   2)マイスナー小体
   3)パッチーニ小体
   4)神経自由終末
 第2章 末梢神経の損傷と障害
  1.神経断裂
   1)Waller変性
   2)神経細胞:neuron
   3)軸索再生
   4)神経再生の特異性
   5)神経損傷後の機能回復
   6)筋肉の回復
  2.神経麻痺の分類
   1)急性神経損傷
    (1)第1度傷害:neurapraxia (2)第2度傷害:axonotmesis (3)第3度傷害 (4)第4度傷害 (5)第5度傷害:neurotmesis
   2)慢性神経障害
II.診断
 第3章 部位・レベルの診断
  1.解剖学的判断
   1)脊髄性障害
   2)髄節性障害
   3)末梢神経障害
  2.臨床神経検査
   1)知覚神経検査
    (1)触覚,圧覚 (2)痛覚 (3)温度覚 (4)振動覚(位置覚) (5)2点識別覚 (6)Tinel徴候 (7)軸索反射
   2)運動神経検査
    (1)徒手筋力テスト (2)握力検査 (3)squeeze test(スクイーズテスト)
   3)反射
    (1)生理的反射 (2)病的反射
  3.電気生理学的検査
   1)一般筋電図(EMG)
   2)神経伝導検査(NCSs)
    (1)MAP(M波) (2)SNAP(知覚神経活動電位) (3)SEP(体性感覚誘発電位) (4)SCEP(脊髄波)
  4.自律神経検査
  5.画像検査
   1)MRI
   2)神経造影:neurography
 第4章 鑑別診断
  1.神経疾患
   1)Guillain-Barre´症候群(GBS)
   2)若年性片側麻痺(平山病)
   3)神経痛性筋萎縮症:neuralgic-amyotrophy
   4)Charcot-Marie-Tooth病
   5)脊髄性筋萎縮症
   6)筋萎縮性側索硬化症
   7)脳梗塞による単麻痺:monoplegia
  2.筋疾患
   1)Duchenne型筋ジストロフィー
   2)肢帯limb-girdle型筋ジストロフィー
   3)顔面肩甲上腕facio-scapulo-humeral型筋ジストロフィー
  3.筋・腱断裂その他による運動障害
   1)関節リウマチ(RA)による腱断裂
   2)皮下筋・腱断裂
   3)その他
  4.血流傷害による運動・知覚障害
   1)阻血による神経障害
   2)慢性血行障害による知覚障害
   3)コンパートメント症候群
III.治療法とリハビリテーション
 第5章 保存的治療
  1.薬物療法
  2.注射療法
  3.理学療法
   1)運動療法
  4.装具療法
 第6章 手術的治療
  1.神経縫合:neurorrhaphy,nerve suture
   1)手術時期
    (1)一期的縫合:acute primary suture (2)二次的縫合:secondary delayed suture
   2)縫合方法
    (1)神経上膜縫合:epineurial suture (2)神経周膜縫合:perineurial suture,神経束縫合:fascicular suture (3)上膜・周膜縫合:epineurofascicular,epiperineurial suture (4)神経束間縫合:interfascicular guide suture (5)その他 (6)著者の勧める方法:神経束グループgroup fascicular縫合 (7)神経縫合後の回復に影響する因子
  2.神経移植:nerve graft
  3.神経除圧:decompression
  4.神経剥離:neurolysis
   1)神経上膜剥離
   2)神経内剥離
  5.神経移所術:nerve transposition
  6.神経移行(神経交差縫合):nerve transfer
  7.その他特に有痛性神経断端腫に対する手術
 第7章 リハビリテーション
  1.麻痺期
    (1)関節拘縮の予防 (2)麻痺筋の過伸長防止 (3)麻痺筋の萎縮予防
  2.回復期
   1)神経筋単位活動の促通
   2)筋収縮力の増大
   3)知覚再教育
   4)協調性訓練
IV.各種の神経損傷・神経障害
 第8章 頚椎疾患
   1)頚椎椎間板ヘルニア
   2)頚椎症
   3)頚部脊柱管狭窄症
   4)Keegan型神経根症
   5)椎骨動脈不全症
   6)転移性骨腫瘍
   7)脊髄半側障害:Brown-Sequard syndrome
   8)急性中心性脊髄損傷
 第9章 頚神経叢
   1)副神経
   2)横隔神経
   3)知覚神経
 第10章 上肢の神経
  1.腕神経叢
   1)外傷性腕神経叢麻痺
    (1)根引き抜き損傷:root avulsion injury (2)上位型根引き抜き損傷 (3)叢部損傷:plexus injury (4)その他の腕神経叢傷害,放射線障害:radiation-induced brachial plexopathy,Pancoast syndrome(主に下神経幹)などがみられる
   2)肩甲胸郭解離損傷:scapulothoracic dissociation
   3)分娩麻痺
  2.胸郭出口症候群:thoracic outlet syndrome;TOS
   1)二次性TOS
   2)一次性TOS
  3.長胸神経〔C5,6 (7)〕
  4.肩甲背神経〔C4,5 (6)〕
  5.肩甲上神経〔C4,5,6〕
  6.腋窩神経(C5,6)
  7.筋皮神経(C5,6,7)
  8.橈骨神経〔(5)6,7,8,T1〕
   後骨間神経(深枝)麻痺
  9.正中神経〔(5)6,7,8,T1〕
   1)前骨間神経麻痺
   2)円回内筋症候群:pronator syndrome
   3)手根管症候群
  10.尺骨神経
   肘部管症候群
  11.指神経
 第11章 下肢の神経
  1.坐骨神経(L4-S3)
   梨状筋症候群
  2.大腿神経(L2,3,4)
   1)大腿神経
   2)伏在神経
   3)膝蓋下枝
  3.閉鎖神経(L2,3,4)
  4.大腿外側皮神経(L2,3)
  5.脛骨神経(L5〜S2)
   1)足根管症候群
   2)モートン病:Morton neuroma
  6.総腓骨神経(L4-S2)
  7.腓腹神経(S1,2)
 第12章 機能再建術
   1)筋腱移行
   2)関節固定
   3)知覚再建
   4)組織移植による再建
   5)その他
 第13章 疼痛疾患
  1.複合局所疼痛症候群(CRPS)
   1)typeI
   2)typeII(カウザルギー)
  2.肩手症候群:shoulder hand syndrome,Steinbrocker
  3.帯状疱疹
 第14章 神経腫瘍

 索引