やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

推薦のことば
 本書は,内科入院患者のコモンな諸疾患を診断・治療するために書かれた「Pocket Medicine」の訳である.著者のほとんどが,マサチューセッツ総合病院(MGH)内科部門で働く研修医・フェロー・若手指導医である.原著の読者層は,米国のインターンや内科研修医である.
 原著も本書も通読させてもらったが,誠に簡にして要を得ている.引用文献も新しい.句や単語が頻用され,文章が少ない.文章は,あっても,ごく短い.図や表やアルゴリズムが多用されている.この分野で40年以上の歴史をもつ「The Washington Manual of Medical Therapeutics」と比べても,文章が少ないだけに随分読みやすく,忙しい現場で実用的である.本書は,原著よりも活字がやや大きく,一層読みやすく工夫されている.ただし,およそ2倍の頁数になっているので,ポケット版と言いにくいのは,日本語の宿命であろう.
 さて本書の読者層だが,内科後期研修医が最も恩恵を受けるだろう.ついで,内科指導医が知識を整理するのにもうってつけかと思われる.新医師臨床研修制度が発足して2年が経過するが,必須である内科を回る初期研修医一般にはかなり歯ごたえがあるだろう.
 訳者代表の高木幸夫先生は,かなり以前からよく存じ上げている.1998年春以降,京都大学医学部総合診療科で月に一度開かれている「京都GIMカンファレンス」の有力メンバーの一人である.約10の病院から総合診療に携わっている医師たちが集まり,「興味ある症例」を呈示・検討し合う.多いときは,40人くらいが集う.そこでの症例呈示の基本は,“H & P”(History and Physical Examination)の重視である.諸検査を実施する前に,「どういう病気が考えられやすく,どういう病気は考えられないか」を徹底的に討論する.そしてはじめて,「したがって,どういう検査をする意義があり,どういう検査は意味がない」かが検討される.ことさらにEBM,EBMと騒がなくとも,EBMの手法や用語(検査前確率,検査後確率,感度,特異度,尤度比)が症例検討の現場に生きている.
 なお,高木先生が本書の校正刷りを携えて私の許に来られたとき,たまたまMGHの2年次内科研修医がごく短期間ながら当院で研修していた.御主人が日本人でもあり,とても達者な日本語で,彼女が「MGHではPocket Medicineがあるので,Washington Manualは使いません」と言った丁度そのときに,高木先生が現れたのである.地球は本当に狭い!
 松村理司 洛和会音羽病院院長

監訳者の序
 2004年に卒後臨床研修が必須化され,研修に関わる制度や環境が整備されるとともに,その指導方法に関しても講習会が開催されるなど質の充実が図られています.しかしながら内科の指導医や上級医が,各疾患分野にまたがって,ジェネラルに研修医を指導できるかというと,なかなか難しいのが現状ではないでしょうか? このような内容がコンパクトにかつEBMにのっとり,出典となっている文献までたどって表記されている本がこの“Pocket Medicine:MGH Handbook of Internal Medicine”です.
 もちろん,研修指導のためだけではなく,一定年数の臨床経験後に診断,治療に関する統計学的な根拠や文献を参照するにあたっても有用です.指導医から内科専門医試験をうけるために知識の整理をしたいという人まで活用できると思います.
 今回この翻訳に関わった医師は京都民主医療機関連合会(京都民医連)の臨床研修指導の中心メンバーです.卒後臨床研修必修化の以前から独自に研修カリキュラムを作成し,多くの研修医の育成に関わってきました.Pocket Medicineの第一版が出版された当時に日本にはないタイプの携帯可能な本として注目して,何人かの指導医が購入し,携帯していました.今回2004年に第二版が出版され,神経内科領域の内容も加わり内容がさらに充実したことから,日本でもさらに普及して臨床研修などにも貢献できるものと考え,翻訳するに至りました.
 最後に推薦の言葉をお書きいただきました洛和会音羽病院の松村理司先生,翻訳中途の段階でご協力をいただきました京都民医連の先生方,臨床医マニュアル編者の先生方,そして出版に御尽力くださった医歯薬出版株式会社に深く感謝いたします.
 2006年3月
 監訳者一同

原著第1版の序
 最大の熱情をもって本Pocket Medicineを紹介する.情報が満ち溢れる時代において,なぜレジデントのためのさらなるマニュアル書なのか,【訊】ねられるであろう.莫大な情報が様々なテキストやコンピュータのキーボードをたたけば入手可能であるが,苦悩するレジデントが望んだ以上に鑑別診断や治療における理解の手助けになることが少ないことがしばしばある.
 本Pocket Medicineはレジデントと多くの専門家の間の橋渡しとなる.こうした橋渡しが,頻回にレジデントが遭遇する医学的問題に対してすばやくかつ思慮深く解決していく入口となる.回診時専門科からレジデントにしばしば尋ねられる質問は予想されており,診断に到達するための筋道と初期治療がそれに該当する.このことが患者の問題点を追跡していく際に証拠に基づいた討論へとつながる.この十分に考慮されたハンドブックによりレジデントは的確にすばやく患者を評価して,診断や治療的介入の根拠を考えていけるようになる.本Pocket Medicineは医学教育や患者治療に恩恵をもたらしてくれるであろう.
 Dennis A.Ausiello,MD
 Physician-in-Chief,Massachusetts General Hospital
 Jackson Professor of Clinical Medicine,Harvard Medical School

原著第2版の序
 本Pocket Medicineはレジデント,フェロー,アテンディングによって書かれ,その役割は可能な限り簡潔な方法で,多くの入院患者の問題点を解決するためにレジデントに情報を供給することである.
 第1版に対して多くの反応がよせられ,我々は臨床家の要求を満たす手伝いができていることがわかった.第2版ではいくつかの主な改善点があるが,ひとつはすべての題目を全体的に更新すること,また最近の文献や2004年初めまでに出された重要な研究を載せること,また神経疾患の項を追加すること,大きな読みやすい書体とすることなどである.さらなる改善のためのご意見を歓迎する.
 医学は分野があまりにも多岐に広がり,テキストにまとめていくことが極めて難しくなっている.テキスト全体は討論された多くの項目にさかれている.本Pocket Medicineはより多くの確実な情報源にあたるまでの初期の診断・治療の開始点となる.可能な限り証拠に基づくことが薦められるが,医学は科学的であり,芸術的である.臨床的判断は,あらゆるシナリオに適応しなければならない.
 私はMGHにおけるレジデント,フェロー,アテンディングの援助に感謝している.彼らは友人であり,仲間であり,教師である.私のかつての仕事で最もよい仕事はチーフレジデントのときであった.このような賢明で専心的で,情熱的な仲間と仕事をすることは名誉なことであった.傑出した盟友に感謝する.(Hansan Bazari,Denny Ausiello,Larry Friedman,Lloyd Axelrod,Nesli Basgoz,Mort Swartz,Eric Isselbacher,Bill Dec,Mike Fifer Peter Yurchar,Roman DeSanctis)両親の励ましと愛情に感謝する.また外科医であり,親密な助言者である妻Jennifer Tsengに感謝する.
 本Pocket Medicineがあらゆる点でレジデントの困難であるが言いがたいほど価値のある日々に役立つことを望む.
 Marc S.Sabatine,MD,MPH
 推薦のことば
 監訳者の序
 原著第1版の序
 原著第2版の序
第1章 循環器(Annabel A.Chen,Sahil A.Parikh,Sekar Kathiresan,Marc S.Sabatine)
 1.心電図
 2.胸痛
 3.冠動脈疾患の非侵襲的評価
 4.急性冠症候群
  不安定狭心症/非ST上昇型心筋梗塞
  ST上昇型心筋梗塞
 5.肺動脈カテーテル
 6.心不全
 7.心筋症
  拡張型心筋症
  肥大型心筋症
  拘束型心筋症
 8.弁膜症
  大動脈弁狭窄症
  大動脈弁閉鎖不全症
  僧帽弁狭窄症
  僧帽弁閉鎖不全症
  僧帽弁逸脱症
  置換弁の疾患
 9.心膜疾患
  心外膜炎と心嚢水
  心タンポナーデ
  収縮性心膜炎
 10.高血圧
  高血圧クリーゼ
 11.大動脈解離
 12.不整脈
  徐脈,房室ブロック,房室解離
  上室性頻拍
  副伝導路
  幅広いQRS頻脈
 13.心房細動
 14.失神
 15.ペースメーカー
 16.非心臓手術に対する心機能評価
  ACC/AHAガイドライン
第2章 呼吸器(Ednan K.Bajwa,Majd Mouded,Atul Malhotra,David M.Systrom)
 1.呼吸困難感
 2.肺機能検査
 3.気管支喘息
  急性増悪
 4.慢性閉塞性肺疾患
  急性増悪
 5.間質性肺疾患
  間質性肺疾患の原因
  間質性肺炎における診断指針
 6.胸水
 7.静脈血栓塞栓症
  治療
 8.喀血
 9.孤立性肺内結節
 10.肺高血圧症
 11.呼吸不全
 12.人工呼吸管理
 13.急性呼吸窮迫症候群
第3章 消化器(Andrew S.Ross,David G.Forcione,Lawrence S.Friedman)
 1.胃・食道疾患
  嚥下困難
  ディスペプシア(消化障害)
  胃食道逆流症
  胃疾患・胃炎
  消化性潰瘍
 2.消化管出血
 3.下痢
  病因
 4.憩室疾患
  憩室症
  憩室炎
  憩室出血
 5.炎症性腸疾患
  潰瘍性大腸炎
  Crohn病
  治療
 6.腸間膜虚血
  小腸
  虚血性腸炎
 7.急性膵炎
 8.肝機能異常
 9.肝炎
  ウイルス性
  自己免疫性肝炎 肝炎+グロブリン↑自己抗体
  他の原因による肝炎あるいは肝毒性
 10.急性肝不全
 11.肝硬変
  まれな病因による肝硬変
 12.腹水
 13.胆道疾患
  胆石症
  胆嚢炎
  総胆管結石症
  胆道炎
第4章 腎臓(Ishir Bhan,Karen V.Smirnakis,Myles S.Wolf)
 1.酸塩基平衡異常
  概論
  代謝性アシドーシス
  代謝性アルカローシス
  呼吸性アシドーシス
  呼吸性アルカローシス
 2.ナトリウムと水平衡
  総論
  低ナトリウム血症
  高ナトリウム血症
  多尿
 3.カリウム濃度異常
  総論
  低カリウム血症
  高カリウム血症
 4.尿検査
  蛋白尿
  血尿
 5.腎不全
  急性腎不全
  慢性腎不全
  透析
 6.糸球体疾患
  総論
  腎炎症候群
  ネフローゼ症候群
 7.尿路結石
第5章 血液・腫瘍(Ina P.Rhee,Levi A.Garraway,Daniel J.DeAngelo,Michael V.Seiden)
 1.貧血
  一般的な事項
  小球性貧血
  正球性貧血
  大球性貧血
  汎血球減少
  溶血性貧血
 2.止血異常
 3.血小板の異常
  血小板減少
  血小板機能の異常
 4.凝固異常
 5.過凝固状態
 6.白血球異常
 7.輸血治療
 8.骨髄増殖性疾患
  真性多血症
  本態性血小板血症
  骨髄線維症を伴う特発性髄様化生
  慢性骨髄性白血病
 9.白血病
  急性白血病
  急性骨髄性白血病
  急性リンパ性白血病
  慢性骨髄性白血病
  慢性リンパ性白血病
 10.リンパ腫
  Hodgkin病
  非Hodgkinリンパ腫
 11.形質細胞疾患
  多発性骨髄腫
  良性単クローン性免疫グロブリン血症
  Waldenstro¨mマクログロブリン血症
 12.造血幹細胞移植
 13.肺癌
 14.乳癌
 15.前立腺癌
 16.大腸癌
 17.膵癌
 18.腫瘍救急
  好中球減少時の発熱
  脊髄圧迫
  腫瘍融解症候群
  機能状態尺度
第6章 感染症(Anne G.Kasmar,Salvatore A.Cilmi,Benjamin T.Davis)
 1.肺炎
  真菌感染
 2.尿路感染症
 3.軟部組織と骨の感染
  蜂巣炎
  糖尿病の足病変
  壊死性筋膜炎
  クロストリジウム筋壊死(ガス壊疽)
  骨髄炎
  硬膜外膿瘍
 4.髄膜炎
  急性細菌性髄膜炎
  無菌性髄膜炎
  ウイルス性脳炎
 5.感染性心内膜炎
 6.結核症
 7.HIV/AIDS
  HIV/AIDSの合併症
 8.ライム病
 9.不明熱
第7章 内分泌(Deborah J.Wexler,Juan C.Pallais,F.Richard Bringhurst)
 1.下垂体疾患
  下垂体機能低下症候群
  下垂体機能亢進症候群
  多発内分泌機能異常
 2.甲状腺疾患
  甲状腺機能低下症
  甲状腺機能亢進症
  甲状腺炎
  病的甲状腺機能正常症候群
  アミオダロンと甲状腺疾患
  甲状腺結節
 3.副腎疾患
  Cushing症候群(高コルチゾール血症)
  高アルドステロン症
  副腎機能不全
  褐色細胞腫
  副腎偶発腫
 4.カルシウム代謝異常
  高カルシウム血症
  低カルシウム血症
 5.糖尿病
  糖尿病性ケトアシドーシス
  高血糖性高浸透性非ケトン性症候群
  低血糖
 6.脂質代謝異常
第8章 リウマチ病(Alyssa K.Johnsen,Karen H.Costenbader,Karen V.Atkinson)
 1.関節炎―概観
 2.関節リウマチ
 3.結晶沈着性関節炎
  痛風
  ピロリン酸カルシウム沈着性疾患
 4.血清陰性脊椎関節症
  概説
  強直性脊椎炎
  反応性関節炎
  乾癬性関節炎
  腸炎性IBD(炎症性腸疾患)関連
 5.感染性関節炎
  非淋菌性
  播種性淋菌感染
  治療
 6.結合組織病
  強皮症(全身性強皮症)
  多発筋炎/皮膚筋炎
  Sjogren症候群(Sicca症候群)
  混合性結合組織病
  Raynaud現象
 7.全身エリテマトーデス
 8.血管炎
  大血管炎
  中血管炎
  ANCA関連小血管炎
  免疫複合体関連小血管炎
 9.クリオグロブリン血症
 10.アミロイドーシス
第9章 神経(David M.Greer)
 1.意識の変化
 2.痙攣
 3.脳卒中
  虚血性
  出血性
 4.筋力低下と神経筋機能障害
  末梢神経障害
  Guillain-Barre症候群
  重症筋無力症
  ミオパチー
 5.頭痛
  片頭痛
 6.腰部・脊髄疾患
  ヘルニア症候群
  脊髄圧迫
  脊柱管狭窄
第10章 付録
 1.ACLSアルゴリズム
 2.集中治療に用いられる薬剤
 3.抗生剤
 4.公式と参照
  心臓
  肺
  腎
  血液
  その他
  事項和文索引
  事項英文索引
  薬剤和文索引
  薬剤英文索引