やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の序

 医用放射線科学講座が企画され,第1巻「医療科学」が出版されてからはや4年を経過しました.その間に,診療放射線技師の4年制教育機関は着実にその数を増やし,卒業生を世に送り出してきました.そして,大学院修士課程はもとより,博士課程も設置されてきています.このような高度教育の進展は予想されたこととはいえ,非常に速度の速いものです.
 高度化された放射線技師教育において,広く医療全般を見渡し,学んでいくことはきわめて大切です.とくに今日,医療のビックバンがいわれているときにあって,若い時期に様々な知識を得ることは誰しも否定できないことです.
 私たちは世の移り変わりに対応して,この教科書も改めていく必要性を痛感していました.とりわけ,感染症新法の施行,男女雇用均等法の実施等に対応して書き改める必要が生じてきました.そして,図表や数値もできるだけ最近のものにしていかねばと考えました.そこで,第1版の枠組と精神を持続しながら,必要なところを修正し,第2版として今回世に出すことになりました.
 今後ともご批判,ご指摘をいただき,さらなる改善を目指したいと考えています.皆様の暖かいご支援を引き続きお願いいたします.
 平成12年1月 稲本一夫 早川和生



 医用放射線科学講座は,従来の診療放射線技師教育の殻を打ち破ったものとして企画し,発行されました.
 その第1巻「医療科学」は,広く医療科学のあり方を方向づけています.とくにその内容は,診療放射線技術のみならず,その関連する医療の全域にわたっているといえましょう.
 第1章の医療科学概論は医療の歴史から現在の医療,そして未来を目ざした先端医療技術,さらに国際医療協力へ及んでいます.その内容は,これから医療の世界へ入ろうとする方々にとって好適なものであることはもちろん,卒業後も読み返すことで,いろいろと想いをはせることができます.
 第2章の医療評価学は非常に内容の高いものであります.むしろ大学院学生向きかもしれません.しかしフレッシュな時期に,医療を客観的に眺め,分析し,評価する手法を学ぶことは,医療職者として自立していくのに大いに役だつと信じています.
 第3章は,公衆衛生学の広い領域を包括しています.その内容は簡潔ながら医療職者に必要なことが手際よくまとめられています.たとえば健康指標など意外と忘れがちなことも記述されていて,要領よく知ることができます.
 本書を一読していただければ,単に放射線技術教育のみならず,看護・医療技術者,そして医師の教育・研究にも役立つことがおわかりになるでしょう.ぜひ私たち,編集者の意をくみとり,ご精読,ご批判いただくようお願いする次第です.
 1996年 春 稲本一夫 早川和生
第1章 医療科学概論
 1 医療科学の歴史
  1.1 医療の歴史(大西俊造)
   1.1.1 古代医療史
   1.1.2 中世医療史
   1.1.3 近代(ルネサンス)医療史
   1.1.4 17世紀の医療史
   1.1.5 18世紀の医療史
   1.1.6 19世紀の医療史
   1.1.7 20世紀の医療史
   1.1.8 日本の医療史
   1.1.9 まとめ
  1.2 看護の歴史(松木光子)
   1.2.1 原始時代:自己ケアの時代
   1.2.2 古代:家族・家庭看護時代
   1.2.3 中世:宗教看護
   1.2.4 近世:職業的看護
   1.2.5 近代(19世紀後半):近代看護の確立
   1.2.6 現代(20世紀):現代看護
   1.2.7 まとめ
  1.3 放射線医学の誕生(稲本一夫)
   1.3.1 X線の発見
   1.3.2 日本のあけぼの
   1.3.3 軍陣医学への利用
   1.3.4 放射能の発見
   1.3.5 今日の発展
   1.3.6 まとめ
 2 病気とは(河野典夫)
  2.1 健康に対する病気
   2.1.1 病気の概念
   2.1.2 健康の概念
  2.2 病気の変遷
   2.2.1 シルクロードと痘瘡(天然痘),ペスト
   2.2.2 コロンブス航海と梅毒
   2.2.3 近代化とコレラ,インフルエンザ
   2.2.4 ライフスタイル,薬禍によるエイズ
   2.2.5 公害による病気
   2.2.6 食環境の変化による病気
  2.3 これからの病気と医療科学の役割
   2.3.1 正常と異常
   2.3.2 医療の三極構成
   2.3.3 先天性要因と後天性要因
  2.4 まとめ
 3 医療人の立場と科学性(太田宗夫)
  3.1 医療に対する科学性の要求
  3.2 医学の成立
   3.2.1 自然科学世界の成立
   3.2.2 医学の成立過程
  3.3 医療における科学性の色彩
  3.4 医学と人文科学世界とのかかわり
  3.5 医療人の専門者としての思想面
  3.6 結語
  3.7 まとめ
 4 健康を害する外的要因:微生物の感染を中心に(土肥義胤)
  4.1 生体と微生物
   4.1.1 感染とは
   4.1.2 感染の成立
  4.2 生体の防衛線
   4.2.1 皮膚および粘膜面におけるバリアー
   4.2.2 体液(血液,組織液)中での防衛
   4.2.3 食細胞(白血球,マクロファージ,単球など)による殺菌・破壊
  4.3 病原菌の性質
  4.4 まとめ
 5 臨床検査(折田義正)
  5.1 臨床検査とは
  5.2 臨床検査の歴史
  5.3 臨床検査の成立条件
  5.4 臨床検査専門職の成立
   5.4.1 わが国の臨床検査の発達
   5.4.2 臨床検査技師の誕生
  5.5 臨床検査・臨床検査技師の将来
   5.5.1 医学の進歩による成果の臨床検査への導入と普及
   5.5.2 機械化,自動化,システム化の推進
   5.5.3 診断支援システムの完成
   5.5.4 ベッドサイドテスト,在宅検査法の開発
  5.6 まとめ
 6 医療形態と医療科学の役割(松木光子)
  6.1 医療提供システム
   6.1.1 医療の提供
   6.1.2 包括的保健医療システム
   6.1.3 プライマリーヘルスケア
   6.1.4 保健医療サービスのシステム化
  6.2 医療形態
   6.2.1 地域での医療提供
   6.2.2 施設での医療提供
  6.3 チーム医療と医療科学の役割
   6.3.1 チーム医療
   6.3.2 リーダー
   6.3.3 医療科学の役割
  6.4 まとめ
 7 有終医療(松木光子)
  7.1 有終医療の意味
  7.2 ターミナル期患者のQOL
   7.2.1 ターミナル期
   7.2.2 人間の尊厳
   7.2.3 QOL
  7.3 臨終の場
   7.3.1 人生の最後
   7.3.2 病院での臨終
   7.3.3 ホスピス
  7.4 ターミナル期患者の心理過程
   7.4.1 キューブラロスの研究
   7.4.2 柏木の研究
  7.5 有終のケア
   7.5.1 QOLの意味
   7.5.2 ケアの実際
  7.6 まとめ
 8 先端医療科学技術(1)(折田義正)
  8.1 先端医療科学技術の基礎
  8.2 技術社会とそれを支えるコスト
  8.3 先端医療科学技術
   8.3.1 人工授精,体外授精・胚移植
   8.3.2 遺伝子検査,遺伝子治療,胎児診断
   8.3.3 人工臓器
   8.3.4 臓器移植の現状
   8.3.5 臓器移植の問題点
  8.4 まとめ
 9 先端医療科学技術(2)(稲邑清也)
  9.1 これからの医療科学技術の方向
   9.1.1 直接・間接貢献型医療科学技術
   9.1.2 医療科学技術の構成
   9.1.3 スターフィルドの研究
  9.2 医療費削減型の技術革新の待望
   9.2.1 過去の実例
   9.2.2 ブレイクスルー
   9.2.3 医療と科学技術の進展の関連
  9.3 経済の波と知的活動の波・技術革新波
   9.3.1 挑戦
   9.3.2 コンドラチェフの学説
   9.3.3 今後の動向
   9.3.4 テクノロジーの結合,進展,評価
  9.4 まとめ
 10 国際医療協力論(稲本一夫)
  10.1 国際協力とは
  10.2 途上国の健康状態
   10.2.1 乳児死亡率
   10.2.2 途上国の疾病構造
  10.3 保健医療協力の基本理念
  10.4 PHCの実施
   10.4.1 PHCの一例
   10.4.2 PHCと病院
  10.5 適正技術
   10.5.1 技術の条件
   10.5.2 先端医療への欲求の解決
  10.6 国際協力の仕組み
   10.6.1 政府主導型
   10.6.2 民間非営利団体
  10.7 国際協力への道
  10.8 まとめ

第2章 医療評価学(久繁哲徳)
  2.1 医療技術の発展
   2.1.1 医療技術の急速な発展
   2.1.2 求められる医療の評価
   2.1.3 医療従事者の責任
  2.2 医療の見直し
   2.2.1 健康改善に対する医療の貢献
   2.2.2 評価の歴史
   2.2.3 科学的評価の確立
  2.3 医療の効果評価
   2.3.1 効果評価の基準
   2.3.2 見せかけの効果
   2.3.3 医療の質と健康結果
   2.3.4 最適な治療法の選択
   2.3.5 画像診断の有効性の評価
  2.4 医療の効率評価
   2.4.1 臨床経済学
   2.4.2 経済的評価の方法
   2.4.3 経済的評価と優先順位決定
   2.4.4 画像診断の効率の評価
  2.5 テクノロジー・アセスメント
   2.5.1 医療のテクノロジー・アセスメント
   2.5.2 テクノロジー・アセスメントの評価枠組み
   2.5.3 テクノロジー・アセスメントの動向
   2.5.4 医療専門職の立場からの接近

第3章 公衆衛生学
 1 総論(早川和生)
  1.1 公衆衛生学の定義
  1.2 ヘルス・プロモーション
  1.3 地域保健と予防
   1.3.1 予防
   1.3.2 包括的保健医療
   1.3.3 保健医療の継続性
  1.4 保健行政
  1.5 保健医療関係職
  1.6 医療保障
 2 疫学(早川和生)
  2.1 疫学の定義・歴史
  2.2 疫学の手法
   2.2.1 記述疫学
   2.2.2 ケース・コントロール研究
   2.2.3 コーホート研究
   2.2.4 実験疫学
   2.2.5 遺伝疫学
  2.3 疫学で用いられる測定尺度,用語
  2.4 スクリーニングテスト
 3 感染症の疫学(土肥義胤)
  3.1 「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(「感染症新法」)
  3.2 検疫伝染病
  3.3 予防接種
  3.4 結核・感染症サーベイランス事業
  3.5 感染症の成立
   3.5.1 感染源
   3.5.2 感染経路
   3.5.3 宿主の抵抗力
 4 母子保健(石井トク)
  4.1 母子保健の意義
   4.1.1 母性の特質と母性保健
   4.1.2 母性保健の現状
   4.1.3 母性保健と関連法規
  4.2 母性の保健指導
   4.2.1 思春期相談
   4.2.2 性教育とエイズ
   4.2.3 妊産婦の保健指導
   4.2.4 勤労女性の健康
   4.2.5 家族計画
   4.2.6 母体保護法
  4.3 小児の特質と小児保健
   4.3.1 小児保健の現状
   4.3.2 小児の健康診査と保健指導
   4.3.3 小児保健と児童福祉法
  4.4 母子環境と生命倫理
 5 成人保健(早川和生)
  5.1 総論
   5.1.1 生活習慣病(成人病)の特徴
   5.1.2 日本人の死因順位
  5.2 悪性新生物
   5.2.1 順位
   5.2.2 国際比較
  5.3 心疾患
   5.3.1 心疾患の死亡率
   5.3.2 虚血性心疾患
  5.4 脳血管疾患
   5.4.1 脳血管疾患の死亡率
   5.4.2 危険因子
  5.5 糖尿病
   5.5.1 糖尿病の死亡率
   5.5.2 危険因子
 6 老人保健(三上洋)
  6.1 老人保健とは
  6.2 老年者の定義と高齢社会
   6.2.1 老年者の定義
   6.2.2 高齢社会の定義
  6.3 老化と寿命
   6.3.1 加齢現象
   6.3.2 老化現象の特徴
   6.3.3 平均寿命
  6.4 老人の健康と老年病
   6.4.1 老年病の特徴
   6.4.2 臨床上の問題点
   6.4.3 要介護老人と虚弱老人
   6.4.4 痴呆老人
  6.5 老人保健・福祉―その法律的側面
   6.5.1 老人保健法
   6.5.2 老人訪問看護制度
   6.5.3 老人福祉法
   6.5.4 老人保健のあり方
 7 産業保健(竹下達也)
  7.1 産業保健の定義
  7.2 労働衛生行政の歴史
   7.2.1 工場法の制定
   7.2.2 労働基準法の制定
   7.2.3 高度経済成長
   7.2.4 労働安全衛生法の制定
   7.2.5 労働安全衛生法の改正
  7.3 衛生管理体制
   7.3.1 作業環境管理
   7.3.2 作業管理
   7.3.3 健康管理
  7.4 職業性疾病の予防対策
   7.4.1 騒音性難聴
   7.4.2 振動障害
   7.4.3 じん肺
   7.4.4 有機溶剤中毒
   7.4.5 金属中毒
   7.4.6 職業癌
   7.4.7 情報処理機器による健康障害
   7.4.8 作業関連疾患
  7.5 心身両面にわたる健康保持増進
 8 学校保健(岡田加奈子)
  8.1 学校保健の目的と意義
   8.1.1 学校保健の目的
   8.1.2 学校保健の特性
  8.2 学校保健の構成
   8.2.1 健康教育
   8.2.2 保健管理
   8.2.3 組織活動
   8.2.4 保健管理(対人管理)の実際
  8.3 学校保健の担当者
  8.4 学校保健の問題点と課題
   8.4.1 学校保健の現状
   8.4.2 健康に関する問題
   8.4.3 学校保健の地域との連携
 9 食品衛生(小川博)
  9.1 食品衛生の現状
   9.1.1 食中毒の発生
   9.1.2 国際化
   9.1.3 食生活の多様化
  9.2 食中毒
   9.2.1 食中毒の総論
   9.2.2 感染型細菌性食中毒
   9.2.3 毒素型細菌性食中毒
   9.2.4 化学性食中毒
   9.2.5 自然毒食中毒
  9.3 食品添加物
  9.4 機能性食品
  9.5 食品の衛生管理
  9.6 食品の保存
 10 精神保健(北島謙吾)
  10.1 精神保健の概念
  10.2 精神保健の歴史と関連法規
   10.2.1 わが国の歴史
   10.2.2 地域ケアの推進
   10.2.3 社会生活機能の回復
   10.2.4 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
  10.3 精神障害の受療動向
   10.3.1 精神障害者
   10.3.2 精神病床
  10.4 地域での精神保健活動
   10.4.1 精神科デイケア施設
   10.4.2 保健所
   10.4.3 精神保健福祉センター
   10.4.4 精神障害者社会復帰施設
   10.4.5 グループホーム
   10.4.6 職親制度
   10.4.7 精神障害者小規模作業所
 11 環境保健(竹内亨)
  11.1 大気汚染
   11.1.1 イオウ酸化物
   11.1.2 窒素酸化物
   11.1.3 浮遊粒子状物質
   11.1.4 その他
  11.2 水質汚濁
   11.2.1 水銀
   11.2.2 カドミウム
   11.2.3 富栄養化
  11.3 騒音
  11.4 公害対策の必要性
  11.5 地球規模の環境破壊
   11.5.1 ダイオキシン関連物質
   11.5.2 オゾン層破壊
  11.6 人体に影響を及ぼす環境要因
  11.7 環境保健の今後
 12 健康指標(桂敏樹)
  12.1 前提
   12.1.1 率
   12.1.2 人口
  12.2 死亡に関する指標
   12.2.1 粗死亡率,死亡率
   12.2.2 年齢調整死亡率
   12.2.3 特殊死亡率
   12.2.4 平均余命と平均寿命
   12.2.5 人年法
  12.3 疾病に関する指標
  12.4 出生に関する指標

参考文献
和文索引
欧文索引