やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 月日のたつのは実にはやいもので,「腎生検アトラス」を刊行してからはや13年がたとうとしている.この間,腎組織やDNAを用いた分子生物学的手法・遺伝因子解析が盛んに行われ,腎臓病研究はますます精力的になされている.腎生検の実施には,informed consentはもとより,施行後の合併症に対する速やかな対応や手技の熟達が要求される.腎生検には,リスクも伴うことから診断や障害の程度を腎生検なしで判断できないか,治療を優先し治療に反応した場合には,腎生検を行わないなどとする指針の検討もなされている.しかし,糸球体疾患や尿細管・間質性疾患の確定診断や予後判定・治療効果の判定に,腎生検で得られた腎組織の検索が有用であることに変わりはない.
 本書では,これまでの「腎生検アトラス(第2版)」をもとに,総論として腎臓病の診断(主症状,尿所見異常,検査の進め方,糸球体腎炎の臨床的分類),生活指導と食事療法をとりいれた.各論では,腎病理診断に基づいた薬物治療,とくに代表的処方例を記載し,臨床の場ですぐに応用できるように工夫した.つまり,外来診療でよく遭遇する尿所見異常からどのようにして検査を進め,腎生検の適応を決めていくのか,また腎病理所見をどのように読み,治療を考えていくのかを一つの流れとして理解しうるように構成した.
 本書は,これまでにない企画であり,一般臨床医,研修医,病理学の若手研究者,臨床検査技師はもとより,医学生や臨床検査技師学校の学生諸君にも腎臓病学を理解するうえで十分役立つものと確信している.読者各位の本書に対する忌憚のないご意見,ご叱正を期待する.
 最後に,順天堂大学医学部腎臓内科学講座の仲間達に心からお礼申し上げる.また,本書の発行にご尽力いただいた医歯薬出版の関係各位に深謝する.
 2004年 新春
 神田川のほとりにて
 富野康日己
新版 腎生検アトラス−腎組織からみた治療へのアプローチ− 目次



■総論
I.腎臓病の診断
 1.腎臓病の主な症状
 2.腎臓病と尿所見の異常
 3.検査の進め方
 4.糸球体腎炎の臨床的分類
II.生活指導と食事療法
III.腎生検
 1.腎生検の意義および適応
 2.腎生検の手技
 3.腎生検施行前の検査
 4.腎生検の禁忌
IV.用語と病的所見の見方
 1.用語の説明
 2.光顕(LM)所見観察のポイント
 3.蛍光抗体(IF)所見観察のポイント
 4.電顕(EM)所見観察のポイント
V.病理組織学的分類

■各論
I.主に蛋白尿と血尿を示す疾患
 びまん性管内増殖性糸球体腎炎
 びまん性半月体形成性糸球体腎炎
 Goodpasture症候群
 溶血性尿毒症性症候群
 びまん性メサンギウム性毛細血管性糸球体腎炎
 びまん性メサンギウム増殖性糸球体腎炎
 IgA腎症(炎)
 IgA腎症の診断基準
 IgA腎症予後判定基準
 IgA腎症の治療指針
 Henoch-Scho¨nlein purpura(HSP)腎炎
 Wegener肉芽腫症
 結節性多発動脈炎
 肝性糸球体硬化症
 高密度沈着物性糸球体腎炎
 ループス腎炎
 尿細管・間質性腎炎
II.主に蛋白尿を示す疾患
 リポイドネフローシス
 巣状分節性糸球体硬化症
 びまん性膜性糸球体腎炎
 糖尿病性腎症
 進行性全身性硬化症
 妊娠中毒症
 Fabry病
 アミロイドーシス,アミロイド腎症
 多発性骨髄腫,骨髄腫腎
 マクログロブリン血症
 本態性クリオグロブリン血症

TOPICS最近注目されている腎疾患
 1.リポ蛋白糸球体症
 2.Immunotactoid glomerulopathy/Fibrillary glomerulonephritis
III.主に血尿を示す疾患
 良性反復性血尿
 Alport症候群

文献
索引