序文
浜松医科大学名誉教授 阪口周吉
下肢の一次性静脈瘤は最もpopularな末梢血管疾患である.詳しい頻度は本文に書かれているので省略するが,血管外来をやっていると文句なくこのことは体感できる.しかも生活の欧風化はまぎれもない時代の風潮であるから,今後,ますますこの疾患は増加していくであろう.それにもかかわらず,わが国では本症についての専門書はこれが初めてである.その一部,例えば手術などについてならば,著者なども成書(手術アトラスNo.12,医歯薬出版,1980)を出したことがあるが,この本のように大部なものではない.のみならず,一時「○○のすべて」という本が続出したが,この本はまさに「一次性下肢静脈瘤のすべて」といってよい内容である.
しかも,近年この下肢静脈瘤の治療には有力な新法が加わるという「変革の時代」にある.そしてそれは近代医学の趨勢でもある低侵襲の要望に沿ったものであるとなれば,必然的にこの本が求められている時代であるともいえるだろう.かつて著者らが,英文の原著に教えられてBabcockやLintonの原法どおりの手術を始めたのは1952年(昭和27年)で,すでに半世紀も前のことだから変革があってしかるべきであるが,当時の一本調子の治療法からみればかなり複雑な選択肢の多いそれに変わっており,しかもまだ進行形のありさまである.それらについて,若手も含めたベテラン連中がよく勉強して仕上げられた本であって,著者らもこれを読んで,最近の診断法や硬化療法の手技などはもちろんであるが,一方で古典的な歴史や事実などについてもなるほどと教えられる部分が多いのである.最近は何事も手軽に知識を得る手引書のような本が汎濫している世の中だが,周到な臨床を行うには少なくともこの程度の基本知識を身につけてもらいたいという願いを込めた本でもある.したがって,ある項目のみを拾い読みして終わるという読み方はしないで,関連する項目をもじっくり読んで,全般的にそれに関する知識を向上させるようにしてもらいたいと願っている.
しかし,上述したように下肢静脈瘤の治療などは,明らかにまだ進行形の様式であり,その意味ではこの本はタイトルどおり最前線を語っているに過ぎない.一応EBMが基調となっている記述が多いが,結論はまだまだ先と断言できる.また,より難症の多い二次性静脈瘤や慢性静脈不全症は触れられている程度であるから,今後の課題であろう.すなわち,これらの問題についてこの本から今後の新しい研究の方向を見いだすことも十分に可能である.それによって静脈学(phlebology)がより一層盛んになるだろうというのが,この本の著者らの望みでもあると考えている.
2002年4月 浜松にて
浜松医科大学名誉教授 阪口周吉
下肢の一次性静脈瘤は最もpopularな末梢血管疾患である.詳しい頻度は本文に書かれているので省略するが,血管外来をやっていると文句なくこのことは体感できる.しかも生活の欧風化はまぎれもない時代の風潮であるから,今後,ますますこの疾患は増加していくであろう.それにもかかわらず,わが国では本症についての専門書はこれが初めてである.その一部,例えば手術などについてならば,著者なども成書(手術アトラスNo.12,医歯薬出版,1980)を出したことがあるが,この本のように大部なものではない.のみならず,一時「○○のすべて」という本が続出したが,この本はまさに「一次性下肢静脈瘤のすべて」といってよい内容である.
しかも,近年この下肢静脈瘤の治療には有力な新法が加わるという「変革の時代」にある.そしてそれは近代医学の趨勢でもある低侵襲の要望に沿ったものであるとなれば,必然的にこの本が求められている時代であるともいえるだろう.かつて著者らが,英文の原著に教えられてBabcockやLintonの原法どおりの手術を始めたのは1952年(昭和27年)で,すでに半世紀も前のことだから変革があってしかるべきであるが,当時の一本調子の治療法からみればかなり複雑な選択肢の多いそれに変わっており,しかもまだ進行形のありさまである.それらについて,若手も含めたベテラン連中がよく勉強して仕上げられた本であって,著者らもこれを読んで,最近の診断法や硬化療法の手技などはもちろんであるが,一方で古典的な歴史や事実などについてもなるほどと教えられる部分が多いのである.最近は何事も手軽に知識を得る手引書のような本が汎濫している世の中だが,周到な臨床を行うには少なくともこの程度の基本知識を身につけてもらいたいという願いを込めた本でもある.したがって,ある項目のみを拾い読みして終わるという読み方はしないで,関連する項目をもじっくり読んで,全般的にそれに関する知識を向上させるようにしてもらいたいと願っている.
しかし,上述したように下肢静脈瘤の治療などは,明らかにまだ進行形の様式であり,その意味ではこの本はタイトルどおり最前線を語っているに過ぎない.一応EBMが基調となっている記述が多いが,結論はまだまだ先と断言できる.また,より難症の多い二次性静脈瘤や慢性静脈不全症は触れられている程度であるから,今後の課題であろう.すなわち,これらの問題についてこの本から今後の新しい研究の方向を見いだすことも十分に可能である.それによって静脈学(phlebology)がより一層盛んになるだろうというのが,この本の著者らの望みでもあると考えている.
2002年4月 浜松にて
序 阪口周吉・浜松医科大学名誉教授
序論 星野俊一
第1章 下肢静脈瘤の基礎
1 下肢静脈瘤の歴史 折井正博
2 下肢静脈の解剖と生理
1.下肢静脈の解剖 矢野 孝
2.下肢静脈の生理 松尾 汎
3 下肢静脈瘤の種類と疫学
1.一次性静脈瘤と二次性静脈瘤 小代正隆
2.一次性静脈瘤の疫学と種類 藤岡顕太郎
トピックス「陰部静脈瘤・内腸骨静脈系静脈瘤」 桜沢健一
トピックス「副伏在静脈瘤」 岩田博英・平井正文
トピックス「Klippel-Trenaunay症候群」 太田 敬
トピックス「saphena varix」 折井正博
トピックス「venous aneurysm」 井尾昭典
トピックス「加齢と静脈瘤」 坂田雅宏・志田 力
トピックス「妊娠産褥期と下肢静脈瘤」 石原康守
4 下肢静脈瘤の病態生理
1.伏在静脈瘤の病態生理 佐戸川弘之
トピックス「弁不全の発症機序」 高瀬信弥
2.クモの巣状静脈瘤・網目状静脈瘤 藤原 修・野崎幹弘
3.不全交通枝 福田篤志・岡留健一郎
4.深部静脈逆流の意義 佐々木久雄
第2章 下肢静脈瘤の診断
1 診断法の選択 岩井武尚
2 下肢静脈瘤の症状と他覚的所見 大橋重信
トピックス「下肢静脈瘤とこむら返り」 平井正文・岩田博英
トピックス「下肢静脈瘤からの出血」 安野憲一
トピックス「潰瘍のできるメカニズム-1 一次性静脈瘤に起因する下腿潰瘍」 白方秀二
トピックス「潰瘍のできるメカニズム-2」 吉村耕一
トピックス「エコノミークラス症候群」 古田凱亮
3 理学的検査 森 彬
4 他覚的診断法
1.ドプラ法 小谷野憲一
my way ドプラ法でどこまでわかるか? 石川雅彦
2.超音波断層法(B-mode,duplex,カラードプラ) 菅野範英
3.脈波法 松下昌裕・櫻井恒久
4.静脈造影
(1)上行性静脈造影 古森公浩・古山 正・杉町圭蔵
(2)下行性静脈造影 竹内典之・太田 敬
トピックス「varicography」 小代正隆
トピックス「MR venography」 白石友邦
トピックス「3DCT検査」 折井正博・金子智彦
トピックス「サーモグラフィ」 林 富貴雄
トピックス「近赤外分光法」 細井 温
第3章 一次性下肢静脈瘤の治療
1 治療法の変遷(治療の歴史と現状) 應儀成二
2 治療の目的,適応 重松邦広,重松 宏
3 日常生活指導,圧迫療法 松本孝一
my way 枕子の工夫 田代秀夫
4 ストリッピング手術
1.ストリッピング手術とは(総論) 松橋 亘・梅津荘一
2.麻酔法 杉山 悟・清水康廣
3.ストリッピング手術(伏在静脈抜去)
(1)選択的ストリッピング手術 小谷野憲一
my way 限局的ストリッピング手術 赤羽紀武・戸谷直樹・石井義縁・田代秀夫
(2)内翻式ストリッピング手術 清水康廣・杉山
トピックス「内視鏡補助下伏在静脈切除術」 廣恵 亨
my way 日帰りストリッピング手術-1 小窪正樹
my way 日帰りストリッピング手術-2 PIN stripping 白石恭史
4.静脈瘤の摘出方法 新見正則
トピックス「ストリッピング手術と肺塞栓症」 佐久田 斉・古謝景春
5.ストリッピング手術の合併症 内田發三
5 不全交通(穿通)枝の治療
1.不全交通枝結紮術 高木正剛・大曲武征
2.内視鏡的筋膜下穿通枝切離術(SEPS) 八杉 巧・大西克幸
6 硬化療法
1.硬化剤の種類と作用機序 松原純一
2.硬化療法の基本手技 八巻 隆・野崎幹弘・藤原 修・吉田栄香
3.硬化療法の合併症とその対処・予防法 東 信良・笹嶋唯博
7 結紮術併用硬化療法 平井正文
1.ストリッピングと結紮術併用硬化療法の選択(1) 折井正博
2.ストリッピングと結紮術併用硬化療法の選択(2) 太田 敬
3.ストリッピングと高位・穿通枝結紮術併用硬化療法の選択 森 彬
トピックス「弁形成術」 佐戸川弘之
トピックス「高周波伏在静脈焼灼術」 金岡 保
トピックス「下肢静脈瘤の漢方療法」 大熊守也
トピックス「ダイレーザによるweb type下肢静脈瘤の新しい治療」 立原啓正
my way カテーテル硬化療法-1 赤羽紀武・立原啓正・石井義縁・戸谷直樹
my way カテーテル硬化療法-2 伏在静脈本幹にカテーテルを挿入する方法 東 信良・笹嶋唯博
8 静脈瘤の合併症に対する治療 磯ノ上正明・山口裕史
my way うっ滞性潰瘍の局所治療法 掛札敏裕
第4章 再発性静脈瘤
再発のメカニズムとその対応 大谷則史
下肢静脈瘤治療の展望 上山武史
序論 星野俊一
第1章 下肢静脈瘤の基礎
1 下肢静脈瘤の歴史 折井正博
2 下肢静脈の解剖と生理
1.下肢静脈の解剖 矢野 孝
2.下肢静脈の生理 松尾 汎
3 下肢静脈瘤の種類と疫学
1.一次性静脈瘤と二次性静脈瘤 小代正隆
2.一次性静脈瘤の疫学と種類 藤岡顕太郎
トピックス「陰部静脈瘤・内腸骨静脈系静脈瘤」 桜沢健一
トピックス「副伏在静脈瘤」 岩田博英・平井正文
トピックス「Klippel-Trenaunay症候群」 太田 敬
トピックス「saphena varix」 折井正博
トピックス「venous aneurysm」 井尾昭典
トピックス「加齢と静脈瘤」 坂田雅宏・志田 力
トピックス「妊娠産褥期と下肢静脈瘤」 石原康守
4 下肢静脈瘤の病態生理
1.伏在静脈瘤の病態生理 佐戸川弘之
トピックス「弁不全の発症機序」 高瀬信弥
2.クモの巣状静脈瘤・網目状静脈瘤 藤原 修・野崎幹弘
3.不全交通枝 福田篤志・岡留健一郎
4.深部静脈逆流の意義 佐々木久雄
第2章 下肢静脈瘤の診断
1 診断法の選択 岩井武尚
2 下肢静脈瘤の症状と他覚的所見 大橋重信
トピックス「下肢静脈瘤とこむら返り」 平井正文・岩田博英
トピックス「下肢静脈瘤からの出血」 安野憲一
トピックス「潰瘍のできるメカニズム-1 一次性静脈瘤に起因する下腿潰瘍」 白方秀二
トピックス「潰瘍のできるメカニズム-2」 吉村耕一
トピックス「エコノミークラス症候群」 古田凱亮
3 理学的検査 森 彬
4 他覚的診断法
1.ドプラ法 小谷野憲一
my way ドプラ法でどこまでわかるか? 石川雅彦
2.超音波断層法(B-mode,duplex,カラードプラ) 菅野範英
3.脈波法 松下昌裕・櫻井恒久
4.静脈造影
(1)上行性静脈造影 古森公浩・古山 正・杉町圭蔵
(2)下行性静脈造影 竹内典之・太田 敬
トピックス「varicography」 小代正隆
トピックス「MR venography」 白石友邦
トピックス「3DCT検査」 折井正博・金子智彦
トピックス「サーモグラフィ」 林 富貴雄
トピックス「近赤外分光法」 細井 温
第3章 一次性下肢静脈瘤の治療
1 治療法の変遷(治療の歴史と現状) 應儀成二
2 治療の目的,適応 重松邦広,重松 宏
3 日常生活指導,圧迫療法 松本孝一
my way 枕子の工夫 田代秀夫
4 ストリッピング手術
1.ストリッピング手術とは(総論) 松橋 亘・梅津荘一
2.麻酔法 杉山 悟・清水康廣
3.ストリッピング手術(伏在静脈抜去)
(1)選択的ストリッピング手術 小谷野憲一
my way 限局的ストリッピング手術 赤羽紀武・戸谷直樹・石井義縁・田代秀夫
(2)内翻式ストリッピング手術 清水康廣・杉山
トピックス「内視鏡補助下伏在静脈切除術」 廣恵 亨
my way 日帰りストリッピング手術-1 小窪正樹
my way 日帰りストリッピング手術-2 PIN stripping 白石恭史
4.静脈瘤の摘出方法 新見正則
トピックス「ストリッピング手術と肺塞栓症」 佐久田 斉・古謝景春
5.ストリッピング手術の合併症 内田發三
5 不全交通(穿通)枝の治療
1.不全交通枝結紮術 高木正剛・大曲武征
2.内視鏡的筋膜下穿通枝切離術(SEPS) 八杉 巧・大西克幸
6 硬化療法
1.硬化剤の種類と作用機序 松原純一
2.硬化療法の基本手技 八巻 隆・野崎幹弘・藤原 修・吉田栄香
3.硬化療法の合併症とその対処・予防法 東 信良・笹嶋唯博
7 結紮術併用硬化療法 平井正文
1.ストリッピングと結紮術併用硬化療法の選択(1) 折井正博
2.ストリッピングと結紮術併用硬化療法の選択(2) 太田 敬
3.ストリッピングと高位・穿通枝結紮術併用硬化療法の選択 森 彬
トピックス「弁形成術」 佐戸川弘之
トピックス「高周波伏在静脈焼灼術」 金岡 保
トピックス「下肢静脈瘤の漢方療法」 大熊守也
トピックス「ダイレーザによるweb type下肢静脈瘤の新しい治療」 立原啓正
my way カテーテル硬化療法-1 赤羽紀武・立原啓正・石井義縁・戸谷直樹
my way カテーテル硬化療法-2 伏在静脈本幹にカテーテルを挿入する方法 東 信良・笹嶋唯博
8 静脈瘤の合併症に対する治療 磯ノ上正明・山口裕史
my way うっ滞性潰瘍の局所治療法 掛札敏裕
第4章 再発性静脈瘤
再発のメカニズムとその対応 大谷則史
下肢静脈瘤治療の展望 上山武史