やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 「なぜ,若い人でも慢性胃炎の進行した人がいる一方,高齢になってもほとんど胃炎のない人もいるのか?」
 これは少しでも内視鏡を扱ったことのある医師なら誰もが抱いていた疑問ではなかったでしょうか.
 それが,WarrennとMarshallという二人の若い研究者がヘリコバクター・ピロリ菌を発見したことによって,この疑問が氷解しました.「目からうろこ」とはこのことでした.ピロリ菌の発見は,まさしく消化器病学の体系を塗り替える20世紀後半の一大発見だったのです.
 本書は,私が日々の診療のなかで患者さんにお渡ししていた解説パンフレットをもとに内容を深めたものです.ですから,ピロリ菌やその除菌療法の知見について体系的に解説したものではなく,よく尋ねられる質問に対する私なりの回答を中心に構成しています.特に2000年11月から消化性潰瘍についてはピロリ菌除菌療法が医療保険の適応になったことを受けて,診療を受ける際の具体的な注意点に重点をおいてあります.そして一般の解説書とは違って,私なりの意見もずいぶんと入れさせていただきました.
 約10年前から診療や内視鏡検査の合間に患者さんの協力を得ながらピロリ菌に関する仕事を進めてまいりましたが,一臨床家にすぎない私の見解には,当然,誤謬や偏りがあろうかと思います.先輩諸先生,患者さんの皆さんからの忌憚のないご意見ご批評を願う次第です.
 本書がピロリ菌除菌療法の理解の一助となれば,私にとって望外の喜びです.
 2001年 盛夏 京都民医連第二中央病院 消化器内科 寺尾秀一

発刊に寄せて

 本書の著者の寺尾秀一先生は医療の第一線で活躍しておられる先生ですが,お付き合いをしていると,ご専門の消化器病について非常に深い経験と知識をもっておられることがよくわかります.
 特にヘリコバクター・ピロリと消化器病の関係については以前から興味を示され,臨床医の視点から学会発表も多数されてきました.彼はいつも,患者さんに対していかによい治療ができるか,という視点をもっていますが,今回の彼の Q and A形式の著書はまさにこの視点で貫かれています.さらのご本人が第一線で医療を行っていることから,ヘリコバクター・ピロリに対する最も新しい知見をふんだんに交えて,かつ臨床医にとってきわめてわかりやすく書かれています.
 ヘリコバクター・ピロリの除菌療法が保険適応となった現在,特にその診断と治療に対して,今まで以上に正確で幅広い知識が要求されるようになってきました.本書はこうした要求を満たしてくれるものとして,臨床医にとってまさにタイムリーなハンドブックとなるものと私も大いに期待しています.
 2001年7月 京都大学大学院医学研究科 臨床器官病態学(消化器病態学)教授 千葉 勉

発刊に寄せて
Q&A

  Q1 ピロリ菌とはどんな菌で,胃にどのような影響を与えているのですか?
  Q2 ピロリ菌の胃粘膜に与える障害について教えていただけませんか?
  Q3 ピロリ菌には病原性の強い菌とそうでない菌があるとききました.どういうことですか?
  Q4 ピロリ菌の感染はどうして起こるのですか? 日本人はどれくらいの人が感染しているのですか?
  Q5 キスでもピロリ菌がうつるというのは本当ですか?
  Q6 ピロリ菌がいるかどうかはどうすればわかるのですか?
  Q7 ピロリ除菌療法の後にはどんな検査を受けたらよいのですか?
  Q8 簡単にピロリ菌がチェックできる呼気テストというのがあるとききました.どのような検査ですか?
  Q9 呼気テストの原理や注意点について教えていただけませんか?
  Q10 呼気テスト以外の検査についてもう少し詳しく教えてもらえませんか?
  Q11 胃カメラはいやです.簡単な検査だけで除菌してもらうことはできないのですか?
  Q12 ピロリ菌の感受性試験はどんなときに行ってもらうとよいのですか?
  Q13 保険診療では,1種類の検査しか認められていないとききました.どれを行ってもらえばよいでしょうか?
  Q14 どんな病気がピロリ菌を除菌すると治るのですか?
  Q15 潰瘍以外にもピロリ菌の除菌の適応範囲を広くとらえる考え方があるときいています.どういうことでしょうか?
  Q16 除菌療法とは具体的にどうするのですか?
  Q17 ピロリ菌の除菌率は何%ぐらいですか?
  Q18 確実に除菌するために注意することは何ですか?
  Q19 除菌治療が終わった後,それまで服用していた潰瘍の治療薬はどうしたらよいのですか?
  Q20 私は愛煙家です.ピロリ菌の除菌を希望しますが,除菌中タバコをやめていられる自信がありません.どうしたらよいでしょうか?
  Q21 除菌判定時,中止する「静菌作用のある薬」とはどんな薬ですか?
  Q22 他に飲んでいる薬があります.飲みあわせが心配です.どうしたらよいでしょうか?
  Q23 除菌の薬がよく効く人と効きにくい人があるというのは本当ですか?
  Q24 薬剤の二次耐性とはどういうことですか?
  Q25 心臓病の治療を受けています.胃カメラの1週間前から薬をやめるように言われました.なぜですか?
  Q26 除菌療法には副作用の心配はないのですか?
  Q27 除菌療法の副作用は減らすことができるとききました.本当ですか?
  Q28 緑茶やヨーグルトでもピロリ菌に効果があるとききますが,事実ですか?
  Q29 もし除菌に失敗したらどうしたらよいのですか?
  Q30 保険でも一度だけは再除菌できるとききました.どういうことでしょうか?
  Q31 再除菌の方法についてもう少し教えていただけませんか?
  Q32 除菌が成功した後,注意することがありますか?(1)
  Q33 除菌が成功した後,注意することがありますか?(2)
  Q34 除菌が成功した後,注意することがありますか?(3)
  Q35 副作用や,除菌後の合併症の話をきくと,ピロリ菌を除菌しないほうがいいのではないかという気がしてきますが?
  Q36 ピロリ菌を除菌するのとしないのとでは,どのくらい潰瘍に対する効果が違うのですか?
  Q37 ピロリ菌の除菌に成功したのに潰瘍が再発しているといわれました.そんなこともあるのですか?
  Q38 ピロリ菌をもっているとみんな潰瘍になるのですか?
  Q39 鎮痛解熱剤を飲んでいると,ピロリ菌に感染していなくても潰瘍になることがあるとききました.本当ですか?
  Q40 胃の粘膜は部位によって異なった働きをもっているとききました.どういうことでしょうか?
  Q41 同じピロリ菌感染なのに,なぜ十二指腸と胃と2つの異なった部位に潰瘍ができるのですか?
  Q42 日本人も,欧米人のように胃潰瘍よりも十二指腸潰瘍が増えているとききました.その理由は?
  Q43 ピロリ菌が感染して起こる胃炎について教えてください.また胃炎と胃癌との関係についても教えていただけませんか?
  Q44 ピロリ菌を除菌すると胃炎が治るのですか?
  Q45 ピロリ菌感染で胃癌になるというのは本当ですか?
  Q46 ピロリ菌と胃癌との関係や,胃癌の発生原因・胃癌予防の可能性について,もう少し詳しく教えていただけませんか?
  Q47 ピロリ菌除菌で消失するというMALTリンパ腫とはどのような病気ですか?
  Q48 お腹の調子が悪いのですが胃炎だけで潰瘍はないといわれました.ピロリ菌の除菌でこの症状は治りますか?
  Q49 私はピロリ菌は陰性と判定されましたが,ずっと胃炎で苦しんでいます.これはどういうことですか?
  Q50 消化器以外の病気でもピロリ菌が関係していることがあるとききました.本当ですか?
    ピロリ菌に関する基本事項と臨床上の問題点