やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに

 富山医科薬科大学・和漢診療学講座には,開設以来,一つの命題があります.それは,「大儀,信義,縁のいずれを重んずべきか」ということです.講座を支えてきた,三瀦忠道先生は大儀,今田屋章先生は信義,土佐寛順先生は縁が一番大切だといいます.寺澤捷年先生は,ご自身の考えを述べられていません.
 私は,「縁」を最も大切にしたいと考えています.私が富山医科薬科大学に入学したのも何かの縁でしょうし,和漢診療学講座に入局したのも縁です.この本を手にするのも縁,東洋医学センターを受診するのも縁です.
 現在,諏訪中央病院・東洋医学センターを受診する患者さんの八五%は口コミです.漢方薬を飲んでよくなった人が,新たな患者さんを紹介してくれます.東洋医学センターでお会いする「縁」を大切にすることが,この地に漢方医学を根ざしていくための近道であると考えています.
 本書は一人でも多くの人に,漢方医学のすばらしさを知っていただきたいと思い,執筆しました.漢方医学の知恵が,皆さんの健康に役立つことを願っています.
 最後に,挿し絵を描いて下さいました名取利平さん,資料を提供して下さいました播磨一成さん,今日まで漢方医学を指導していただきました,寺澤捷年先生をはじめとする同門の先生方に感謝いたします.

本書を利用するにあたって

 本書は,長野日報の紙面に掲載したものを中心に構成されています.これに,漢方医学の理解を深めるために必要なものを,「コラム」として加筆しました.この本では,一つひとつの処方にはほとんど触れていません.漢方医学の根底にある精神や考え方に重点をおきました.
 本書に出てくる症例は,これまでに東洋医学センターに勤務された,土佐寛順先生,川俣博嗣先生,田中伸明先生,萬谷直樹先生,巽武司先生,松岡明子先生と現在勤務している引網宏彰先生,田中節雄先生,名取通夫先生,横井昌隆先生,みんなで力を合わせて治療にあたったものです.
冷え症と漢方
 冷えとは
 現在の生活スタイルと冷え症
 冷え症を防ぐ生活
 冷え症と食事
 冷え症の漢方治療
漢方医学のものさし
高齢者への補気剤の応用
 MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
 褥瘡
 コラム 帰耆建中湯加附子(きぎけんちゅうとうかぶし)
 コラム 千金内托散(せんきんないたくさん)と帰耆建中湯加附子(きぎけんちゅうとうかぶし)
 糖尿病性壊疽
 脳血管障害とうつ状態
 コラム 気を高める漢方処方
 コラム 漢方薬の基本骨格
 コラム 名は体を表す-漢方処方の名称
誇大広告にご用心
どのようなときに受診すべきか
 諏訪中央病院について
 受診患者の基礎疾患と処方
 漢方診療の問題点
 諏訪中央病院・東洋医学センターの目指す医療
癌・老化の原因物質,活性酸素-フリーラジカルの秘密
 酸素は諸刃の剣
 貴方はジョギング派? それともウォーキング派?
 活性酸素を減らす食事
 活性酸素を防ぐ漢方薬
 コラム 五臓論(ごぞうろん)
 コラム 駆C血剤(くおけつざい)
 活性酸素を除去する植物の成分
 コラム 脳血管性痴呆と釣藤散(ちょうとうさん)
 活性酸素から体を守ろう!
緑茶の効用-フリーラジカルの秘密
便秘と病気
 便秘と癌
 便秘はお肌の大敵
 便秘の漢方治療
 コラム 滋陰降火湯(じいんこうかとう)は何の薬?
 漢方薬の便通作用
 コラム 甘草(かんぞう)の意味
 コラム 大小の意味
 コラム 二面性
肝癌と肝炎ウイルス
 肝癌の主因は肝炎ウイルス
 格段に進歩した肝硬変の治療
 肝癌と小柴胡湯(しょうさいことう)
 小柴胡湯(しょうさいことう)の使い方
 コラム 漢方医学の重要なものさし
 コラム 白虎湯(びゃっことう)と黄連解毒湯(おうれんげどくとう)の違いは?
 コラム 陰陽虚実(いんようきょじつ)を規定するもの
 コラム 駆お血剤(くおけつざい)の肝疾患への応用
 小柴胡湯(しょうさいことう)と間質性肺炎
杏林(きょうりん)
アレルギーと漢方
 龍虎相搏(りゅうこあいうつ)
 アレルギーと免疫
 小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
 コラム 小青竜湯(しょうせいりゅうとう)の効果を高めるには
 スギ花粉状況
 口腔乾燥症
 コラム 白虎湯(びゃっことう)の効果を高めるには
 コラム 春の鼻炎と秋の鼻炎
 アトピー性皮膚炎
 ステロイド軟膏をやめたらどうなる?
 アレルギー疾患の本質
 体質改善とは
 コラム 「未病(みびょう)を治す」と「体質改善」の関係
 温泉の効用
赤痢から市民を守った黄連(おうれん)
痛みと漢方
 漢方医学でいう痛み
 リウマチの漢方治療
 コラム 麻黄(まおう),附子(ぶし),石膏(せっこう)の疼痛疾患への応用
 コラム 苓姜朮甘湯加附子(りょうきょうじゅつかんとうかぶし)を用いる病態
 コラム 白朮(びゃくじゅつ)と蒼朮(そうじゅつ)
学と術
 コラム 日本全国気虚
風邪とインフルエンザ
 大いなる誤解
 風邪の漢方治療
 コラム 感染症の漢方治療
 コラム 葛根湯(かっこんとう)
 コラム 竹じょう温胆湯(ちくじょうんたんとう)
 インフルエンザの治療が変わった
 驚異のインフルエンザ治療薬,ノイラミニダーゼ阻害薬
 解熱剤と小児の脳症
明治以後の漢方
 浮世絵と漢方
 衰退した漢方
 明治天皇と漢方
漢方医学を学ぶことの意義
漢方一貫堂医学の世界
 三大証とは
 五方による運用
 五方以外の一貫堂頻用処方
 時代と随証治療

あとがき
参考文献
索引
おわりに