やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 医業に関する税制は,純粋に租税制度の研究の対象として考えれば非常に興味深いものがあります.医療法人は一般に公益法人の一種であると考えられていますが,法人税法上の区分は会社と同じ普通法人というグループに入れられており,所得のすべてが法人税の課税対象になっています.公益法人等というグループに入っている他の公益法人,宗教法人,学校法人,労働組合などは,所得のうち収益事業とされている事業にかかる所得だけが課税を受けます.
 わが国の法人税制は,法人税を個人への利益配当に対する所得税の前取りであるとする法人擬制説に立って,利益配当のない公益法人等の本来の事業には課税を行わず,普通法人と競合する収益事業に対してだけ課税しています.医療法人は利益配当が禁止されているのに課税されるというのはどういうことでしょうか.
 医療法人も公益法人等に含めて,医業のうち社会保健診療報酬は公益的な性格を有していますので,これを収益事業から除外し自由診療報酬だけを収益事業とする方法も考えられそうなものです.それでも,課税上はそんなに問題はないはずです.医療法人から役員である医師等に支払われる給与に課税すればいいわけです.他の公益法人等はそれに類する課税方式を採っています.
 しかし,医療法人の場合はその方法を採れない特別の事情があります.個人開業の医師・歯科医師の存在です.他の公益法人等には個人開業というのがありません.それで,もし社会保健診療報酬を非課税とすることになると,社会保健診療報酬だけを行っている個人開業の医師・歯科医師には一切の課税が行われないことになってしまいます.
 医業に対する税制には,わが国の税制や医療制度の特殊な面が現れていることは,ご理解いただけたでしょうか.
 2000年版を出すに当たり,特に「医療法人制度」や「介護関係のQ&A」を書き加えました.インターネットでの相談も下記のとおり継続しておりますのでご活用ください.
 http://www.din.or.jp/~yossi/
 最後に,本書の発行に際し,日頃よりご指導・ご助言をいただいている公認会計士の斎藤力夫先生,細部に渡って目配りをいただいた医歯薬出版に心よりお礼申し上げます.
 2000年8月 田中義幸
序文…iii

I.個人病医院の事業所得
 1.医師・歯科医師の税金
  1.税金の種類
   Q1.医業にかかる税金
  2.開業届と納税地・納税者
   Q2.開業届と納税地
   Q3.親子開業の場合の納税者
  3.事業所得
   Q4.医師の所得
   Q5.事業所得の計算方法
 2.収入金額
  1.医業収入の範囲
   Q6.医業収入の種類
   Q7.休日診療による手当
   Q8.嘱託医の手当
   Q9.各種委員会の委員手当
  2.保険診療と自由診療
   Q10.保険診療と自由診療の区分
   Q11.保険診療収入の範囲
   Q12.自由診療収入の範囲
   Q13.自賠責保険・労災保険・公害補償収入と自由診療
  3.リベート
   Q14.医薬品の仕入リベート
   Q15.添付品と仕入値引き
  4.収入の計上時期
   Q16.診療収入の計上時期
   Q17.歯列矯正料の計上時期
 3.必要経費
  1.医師課税の特例
   Q18.医師課税の特例制度の概要
   Q19.特例による必要経費の計算
   Q20.特例による所得の計算
   Q21.保険診療と自由診療との経費区分
  2.必要経費の範囲
   Q22.一般的な必要経費の範囲
   Q23.売上原価の計算方法
   Q24.たな卸の必要性
   Q25.医薬品等のたな卸資産破損の扱い
   Q26.必要経費にできる税金
   Q27.賠償金や交通反則金等の扱い
   Q28.接待・交際費
   Q29.福利厚生費の取扱い
   Q30.医師会会費や学会・研修会の参加費
   Q31.研究費と図書費
   Q32.医師年金の掛け金・健康保険料
   Q33.火災・盗難の損失
   Q34.親族から借りている診療所敷地の地代の扱い
  3.家事関連費
   Q35.家事に関連する経費
   Q36.住宅兼診療所の水道光熱費の扱い
   Q37.患者給食材料を使った家族の食事
  4.減価償却
   Q38.減価償却とは
   Q39.減価償却できる資産
   Q40.少額の器具備品
   Q41.3年一括償却資産の必要経費算入
   Q42.診療所を建て替えた場合
   Q43.借地権の更新料
   Q44.月賦購入やリースの扱い
   Q45.下取り資産の扱い
   Q46.医療用機器の特別償却
   Q47.電子機器利用設備の特別償却
   Q48.パソコン税制
  5.修繕費
   Q49.診療所の修理改修
   Q50.資本的支出と修繕費の区分
  6.引当金
   Q51.診療収入の徴収不能
   Q52.貸倒引当金
   Q53.退職給与引当金
  7.青色事業専従者の給与等
   Q54.青色申告の事業専従者
   Q55.青色事業専従者の適正給与
   Q56.青色事業専従者の退職金

II.所得税の申告
 1.所得税の計算
  1.計算方法
   Q57.所得税の計算式
  2.医業外所得の種類
   Q58.課税されない所得
   Q59.定期預金や貸付金の利子
   Q60.株式などの配当
   Q61.ゴルフ会員権の譲渡
   Q62.医療法人退職時の出資払戻し金
   Q63.貸家からの収入
   Q64.講演料や原稿料の扱い
   Q65.勤務医としての報酬
  3.所得控除
   Q66.所得控除とは
   Q67.青色事業専従者と配偶者控除・扶養控除
   Q68.妻に収入がある場合
   Q69.貴金属等が盗まれた場合
   Q70.医科大学の入学寄付金の扱い
  4.税額控除
   Q71.税額控除の種類
   Q72.配当控除とは
 2.申告と納税
  1.確定申告と納付
   Q73.所得税の確定申告と納付の期限
  2.青色申告
   Q74.青色申告とは
   Q75.青色申告の特典
   Q76.申請・申告の方法と必要書類
  3.修正申告と更正・決定
   Q77.修正申告
   Q78.税務調査の内容
   Q79.更正・決定

III.源泉徴収
 1.給与
   Q80.源泉徴収制度
   Q81.源泉所得税の納期と手続
   Q82.源泉徴収義務者
   Q83.源泉徴収税額表の種類と使用区分
   Q84.宿直料と日直料の扱い
   Q85.看護婦などの通勤費・残業夜食代
   Q86.看護婦などの寮の家賃・食事代
 2.報酬・料金
   Q87.嘱託医に支払う報酬
   Q88.従業員の保険料の扱い

IV.医療法人の税務
 1.医療法人の特徴
   Q89.個人開業医と医療法人
   Q90.医療法人と一般の会社の相違点
   Q91.特定医療法人
   Q92.医療法人の会計制度
   Q93.医療法人の相違点
   Q94.特別医療法人
 2.設立と出資
   Q95.医療法人の設立手続
   Q96.医療法人設立の留意点
   Q97.財団医療法人
   Q98.一人医療法人
   Q99.医療設備法人
   Q100.租税特別措置法第40条における国税庁長官の承認
   Q101.医療法人の出資の評価
 3.損金(必要経費)の範囲
   Q102.医師課税の特例
   Q103.役員の給与
   Q104.引当金の取扱い
   Q105.交際費の限度額
   Q106.寄付金
   Q107.使途不明金の取扱い

V.消費税
 1.課税される取引
   Q108.消費税のあらまし
   Q109.医療報酬の課税・非課税
   Q110.副収入の課税・非課税
 2.消費税の会計処理
   Q111.税込処理と税抜処理
 3.消費税の計算・申告・納税
   Q112.消費税の納付税額計算の仕組
   Q113.消費税の納付税額の計算方法
   Q114.簡易課税制度
   Q115.消費税の申告納付と届出(個人事業主の場合)
   Q116.消費税の申告納付と届出(法人の場合)

VI.相続税と贈与税
 1.相続税
   Q117.相続財産の範囲
   Q118.相続税の計算方法と申告
   Q119.配偶者や子供の相続分と相続税額
   Q120.配偶者が有利な相続方法
   Q121.納期の延期と物納
 2.贈与税
   Q122.贈与財産の範囲
   Q123.子供が父の土地に家を建てた場合
   Q124.配偶者名義での住宅の購入
   Q125.障害児への贈与

VII.不動産の税金
 1.不動産取得税
   Q126.不動産取得税のあらまし
   Q127.住宅・住宅用土地の特例
   Q128.不動産取得税の計算・納税
 2.固定資産税・都市計画税
   Q129.固定資産税のあらまし
   Q130.固定資産税の納税
   Q131.都市計画税とは
 3.個人の不動産の譲渡
   Q132.譲渡所得の範囲
   Q133.診療所用建物とその敷地の譲渡
   Q134.診療所の買換

VIII.その他の税金
 1.印紙税
   Q135.印紙税のあらまし
 2.事業税と住民税
   Q136.事業税と住民税の申告
   Q137.個人医師の社会保険診療にかかわる所得と事業税

IX.介護関係
   Q138.介護保険制度
   Q139.介護サービスと法人税・事業税
   Q140.介護サービスと消費税

付録
 付1.税額速算表
   1.所得税
   2.個人の住民税
    (1) 均等割…171  (2) 所得割
   3.個人事業税
   4.法人税
   5.法人の住民税
    (1) 均等割…172  (2) 法人税割
   6.法人事業税
   7.相続税
   8.贈与税
 付2.所得控除の早見表
   1.事業主本人に適用される所得控除
   2.事業主の配偶者に適用される所得控除
   3.事業主の扶養親族に適用される所得控除

索引