やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第3版の序

 本書は京都府立医科大学名誉教授の故長花 操先生によって編著され,1982年に第1版が,1986年には改訂版として第2版が,医歯薬出版株式会社より発行されました.
 今回,第2版までの分担執筆者(西田 弘,松尾喜久男,佐藤淳夫,初鹿 了)の了承のもとに第3版の改訂が行われましたが,寄生虫学そのものは,先達の努力によりほぼ完成されていますので,その後の新知見による若干の追加・修正がなされました.すなわち,今回の改訂では,第2版までの内容をなるべく保持しつつ,時代の変化に対応した改訂をいたしました.

 寄生虫学,その今日的意味
 日本で寄生虫疾患が減少した事は確かです.しかしこれは根絶を意味するものではなく,対策を怠ると再び,増加します.多くの寄生虫疾患が個人的,社会的衛生対策により防止できるものでありますので,これからの若い世代も引き続いて寄生虫学を学ぶ必要があります.
 今,社会情勢の変化は驚異的です.疾病はその社会情勢と密接に結びついており,寄生虫疾患もまた例外ではありません.寄生虫疾患の様相が,日本の国際化,自然環境や住宅環境の変化により変わりつつあります.
 また,電子機器,遺伝子工学の発達により,寄生虫感染の診断も進歩をとげつつあります.したがって,このような意味でも新しい寄生虫学が求められています.

 学生諸君,やはり,今は学問をする時期です
 医学部の教育では,学生が体系づけられた医学を学問として学び,医師になってから医療技術を学ぶものと考えられています.したがって,新米医師は実際の患者を目の前にして,医学部で習った医学知識が実務に直接役立つものではない事に気づきます.研修医は先輩医師から見よう見まねで技術を学び,足りない所はマニュアル本を読んで補います.
 これでは医学部を卒業しても聴診器さえ使えない,といった批判があります.そして学問に偏り過ぎた医学部の講義に飽きて,学生が6年の間にやる気を失ってしまうという指摘もあります.そこで医療技術に重点を置き,卒業直後から一人前の医師として活動できる教育を行う事もできます.この場合,最初の2〜3年の間は,他の医大卒業生を明らかに上回る活躍をできるでしょうが,たちまち追いつかれ,「それ以後はどうなるのでしょうか?」と心配になります.
 技術革新の早い現代にあっては,最新の技術であってもすぐに時代遅れになります.現在,医療技術のマニュアル本が次々に発刊されますが,体系づけられた知識なしでマニュアル本に頼りますと,マニュアル通りの症例では乗り切れても,ちょっと目先が変わった症例には対処できません.
 若いときに体系づけられた学問を学んだ人は技術革新の荒波を乗り切る事ができるので,やはり医学部では,学問としての医学教育を続けるのが基本だと思います.卒業後,少なくても30年くらいは,第一線で活躍ができる能力の基礎を学生時代に作るべきでしょう.

 医療実務者の皆さん,この本をマニュアル本として使って下さい
 寄生虫疾患の患者は数が少ないので,医療実務者といえども寄生虫感染の診断,治療を常に記憶しておくのには,無理があります.しかし,患者はまれながらも来ます.そしてペットからの感染の恐れ,海外旅行に行く人からの相談,医療実務者のあなたは専門家と見なされて質問がどんどん来ます.その時に,学生時代に使った教科書をはじめから読み直すのは,実際的ではありません.
 この本の裏表紙から始まるページには,想定される質問を網羅してその回答を記載しましたので,これをマニュアルとしてお使い下さい.臨床医師,臨床検査技師,獣医師,看護婦のみならず保健所職員,海外旅行関係者などにも役立つはずです.
 マニュアルの回答には,万全を期したつもりです.しかし,あらゆる事に対処できるほどには完成されていません.したがって,あなたが周辺の学問知識を頭に入れて臨機応変に判断せざるを得ない場合もあります.このマニュアル本には,周辺の学問知識がどこに記載されているかを「参照」で示してあります.そこを読んで下さい.忙しいあなたの貴重な時間をセーブできます.

 そしてマルチメディアの時代
 CD-ROMに驚くべき量の情報を安価に蓄えられる時代になりました.そして電子情報のリンク機能は,「参照」を簡単,かつ便利にしました.この指数関数的な発展を遂げるスーパ-道具を教育に利用するのは当然です.
 この本ではCD-ROMを付録としてつけました.基本的にはCD-ROMに本の内容が入っていますが,プラスアルファも入れました.印刷本は費用がかかりますので記載できる量には制限がありますが,CD-ROMにはそのような制限がありませんので,カラ-写真などを中心にプラスアルファが豊富です.ですから本だけでは,物足りないと思われる方は,是非CD-ROMで寄生虫学に深入りして下さい.

 教科書,マニュアル本,CD-ROMの合体
 これからの本はすべてデジタル化され,従来の紙印刷の本は生き残れないとの予想さえあります.しかしこれにも弱点があります.電子情報を閲覧するのにテレビの画面みたいな物を流用していますが,これでは情報を一覧するという機能に欠けます.一覧性は,今読んでいる情報の全体に対する位置づけからも大切であり,一覧性に優れた情報は,読む人の思考さえ助けます.
 以上の考えの結果作り出されたのが,今回の基本人体寄生虫学第3版です.教科書,マニュアル本,CD-ROMが合体し,弱点を相互に補完しつつ,その利点を最大限生かす事を狙っています.

 謝辞
 付録のCD-ROMに収められたhtml作成にあたっては,以下の会社の出版物から画像ファイルをコピーして使用しました.C&R研究所デジタル梁山泊:ホームページ素材集7000.ナツメ社,1997.C&R研究所デジタル梁山泊:ホームページ素材集9000.ナツメ社,1998.C&R研究所デジタル梁山泊:GIFアニメーション2800.ナツメ社,1997.駒形文隆:ホームページ素材集.工学社,1999.小出裕明:ホームページデザイン.工学社1997.
 CD-ROM版の作成にあたっては,有限会社 クラウン開発に技術的御援助を頂きました.また同社の大江隆彦氏には並々ならぬ御協力を頂きました事に感謝いたします.また,岐阜大学医学部寄生虫学の秘書富田千里嬢,沢田牧子嬢の御助力に深く感謝いたします.CD-ROM版に貴重な資料の提供をいただきました琉球大学の宮城一郎博士,三重大学の安藤勝彦博士,奈良の中山正成博士,浜松医科大学の石井明博士,徳島の馬原文彦博士,岐阜大学の北島康雄博士,市橋直樹博士,江崎智香子博士,長谷川核三博士,清島真理子博士,森俊二博士,後藤裕夫博士,川口真平博士,梅津医師会病院の可知宏隆博士,茨城県の西村正信博士,毎日新聞社,メリアル日本全薬株式会社,カリフォルニア大学のシャーマン博士に深く感謝いたします.出版にあたり医歯薬出版株式会社の関係各位,とくに 木伸夫氏には企画の段階からの御協力を頂きました事に深く感謝いたします.
 平成12年3月 岐阜にて 高橋優三
1.人体寄生虫学総論
 I.人体寄生虫学
 II.宿主・寄生虫相互関係
  A.宿主特異性
  B.寄生部位特異性
  C.人畜共通寄生虫
 III.寄生虫
  A.形態と生理
  B.生活史
  C.学名と分類
 IV.寄生虫症
  A.疫学
   I.感染と感染経路
    1.感染
    2.感染経路
   II.発生・分布状況
  B.病害と症状
   I.病害
    1.人体への加害
     a.機械的傷害
     b.化学的傷害
    2.人体の反応
     a.局所の反応
     b.免疫とアレルギー
   II.症状
  C.診断と治療
    1.診断
     a.直接検査法
     b.間接検査法
    2.治療
  D.防除
    1.寄生虫,有害動物の駆除
    2.保虫動物の処置
    3.寄生虫の寄生防止

蠕虫類/線形動物
2.線虫類
    1.形態
    2.生活史
    3.種類
 I.成虫が人体に寄生する線虫類
  A.腸管寄生線虫類
    1.回虫
    付)ブタ回虫
    2.蟯虫
    3.鞭虫
    4.フィリピン毛細虫
    5.旋毛虫
    6.ズビニ鉤虫
    7.アメリカ鉤虫
    8.セイロン鉤虫
    9.東洋毛様線虫
    10.糞線虫
    11.桿線虫類
  B.臓器・組織寄生線虫類
    1.バンクロフト糸状虫
    2.マレー糸状虫
    3.回旋糸状虫
    4.ロア糸状虫
    5.常在糸状虫
    6.東洋眼虫
    7.腎虫
    8.メジナ虫
 II.幼虫が人体(臓器・組織)に寄生する線虫類
    1.イヌ回虫
    2.ネコ回虫
    3.アニサキス類
     a.アニサキス属線虫
     b.シュードテラノーバ属線虫
    4.旋毛虫
    5.ブラジル鉤虫
    6.イヌ鉤虫
    7.イヌ糸状虫
    付)熱帯好酸球症
    8.広東住血線虫
    9.有棘顎口虫
    10.剛棘顎口虫
    11.ドロレス顎口虫
    12.日本顎口虫
    13.旋尾線虫幼虫

蠕虫類/扁形動物
3.吸虫類
    1.形態
    2.生活史
    3.種類
 I.成虫が人体に寄生する吸虫類
  A.肝臓寄生吸虫類
    1.肝吸虫
    2.タイ肝吸虫
    3.ネコ肝吸虫
    4.肝蛭
    5.巨大肝蛭
  B.腸管寄生吸虫類
    1.横川吸虫
    2.高橋吸虫
    3.有害異形吸虫
    4.肥大吸虫
    5.棘口吸虫類
     a.浅田棘口吸虫
     b.イロコス棘口吸虫
  C.肺寄生吸虫類
    1.ウエステルマン肺吸虫
    2.その他の人体寄生肺吸虫類
  D.血管寄生吸虫類
    1.日本住血吸虫,血吸虫
    2.ビルハルツ住血吸虫
    3.マンソン住血吸虫
 II.幼虫が人体に寄生する吸虫類
    1.宮崎肺吸虫
    2.スクリヤビン肺吸虫
    3.鳥類などの住血吸虫類
     a.ムクドリ住血吸虫
     b.カモなどの鳥類住血吸虫類

4.条虫類
    1.形態
    2.生活史
    3.種類
 I.成虫が人体(腸管)に寄生する条虫類
  A.裂頭条虫類(擬葉類)
    1.広節裂頭条虫
    2.大複殖門条虫
  B.テニア類(円葉類)
    1.無鉤条虫
    2.有鉤条虫
    3.小形条虫
    4.縮小条虫
    5.瓜実条虫
    6.有線条虫
 II.幼虫が人体に寄生する条虫類(ヒトが中間宿主になる条虫類)
    1.マンソン裂頭条虫
    2.有鉤条虫
    3.単包条虫
    4.多包条虫

原生動物
5.原虫類
    1.形態
    2.生活史
    3.分類
    4.種類
 I.腸管寄生原虫類
  A.腸管寄生アメーバ類(根足虫類)
    1.赤痢アメーバ
    2.大腸アメーバ
    3.小形アメーバ
    4.ヨードアメーバ
    5.歯肉アメーバ
  B.腸管寄生鞭毛虫類
    1.ランブル鞭毛虫
    2.腸トリコモナス
    3.口腔トリコモナス
  C.腸管寄生繊毛虫類
    1.大腸バランチジウム
  D.腸管寄生胞子虫類
    1.コクシジウム類
   I.クリプトスポリジウム
   II.イソスポーラ類
    戦争イソスポーラ
   III.肉胞子虫類
    1.ヒト肉胞子虫
    2.ブタ肉胞子虫
 II.性尿器寄生原虫類
    1.腟トリコモナス
 III.血液および組織寄生原虫類
  A.血液・組織寄生アメーバ類
    病原性自活アメーバ類
  B.血液・組織寄生鞭毛虫類
   I.トリパノソーマ類
    1.ガンビアトリパノソーマ
    2.ローデシアトリパノソーマ
    3.クルーズトリパノソーマ
   II.リーシュマニア類
    1.ドノバンリーシュマニア
    2.熱帯リーシュマニア
    3.ブラジルリーシュマニア
  C.血液・組織寄生胞子虫類
   I.マラリア原虫類
    1.三日熱マラリア原虫
    2.熱帯熱マラリア原虫
    3.四日熱マラリア原虫
    4.卵形マラリア原虫
   II.コクシジウム類
    1.トキソプラズマ
    2.リンデマン肉胞子虫
  D.血液・組織寄生所属不明の原虫類
    ニューモシスチス・カリニ

検査法
6.寄生虫検査
 I.検査の基礎的事項
  A.検査材料の採取と保存
  B.糞便の肉眼的観察
  C.顕微鏡的検査(鏡検)
  付1)メカニカルステージ(標本微動装置)の使い方
  付2)顕微鏡的計測法
 II.蠕虫類の検査
  A.蠕虫卵の検査
   I.虫卵鑑別の要点
   II.糞便内虫卵の分布
   III.糞便検査で虫卵検出が不可能な場合
   IV.糞便内寄生虫卵の検査
    1.直接塗抹法
     a.カバーグラス塗抹法
     b.セロファン厚層塗抹法
    2.集卵法
     a.遠心沈殿法
     b.浮遊集卵法
    3.虫卵数算定法(ストール法)
  V.喀痰内寄生虫卵の検査
    1.塗抹検査法
    2.集卵検査法
  VI.肛囲検査
  B.虫卵の孵化培養
   I.鉤虫卵などの培養法
   II.普通寒天平板培地法
   III.ミラシジウムの孵化法
  C.血液内ミクロフィラリアの検査
   付)陰嚢水腫液,乳糜尿内ミクロフィラリアの検査
  D.虫体の検査
   I.微小な虫体の検査
    1.圧平法
    2.人工消化法
    3.固定標本検査法
   II.やや大きい虫体の検査
    1.線虫類の検査法
    2.吸虫類,条虫類の検査法
 III.原虫類の検査
  A.腸管寄生原虫類の検査
   I.検査材料の取り扱い
   II.直接塗抹法(生鮮標本検査法)
   III.ヨード染色法
   IV.固定染色検査法
    コーン染色法
   V.集シスト法
  B.性尿器寄生原虫類の検査
   I.直接塗抹法
   II.培養法
  C.血液および組織寄生原虫類の検査
   I.マラリア原虫の検査
    1.薄層塗抹法
    2.厚層塗抹法
   II.トキソプラズマの検査
    1.トキソプラズマ検出法
     a.塗抹標本検査法
     b.マウスによる虫体の分離
    2.免疫学的検査法
 IV.免疫学的検査
   I.皮内反応
     a.即時型反応
     b.遅延型反応
   II.血清反応
    1.ゲル内沈降反応
     a.二重拡散法
     b.免疫電気泳動法
    2.補体結合反応
    3.凝集反応
    4.標識抗体法
     a.間接蛍光抗体法
     b.ラジオイムノアッセイ
     c.酵素抗体法
    5.虫体,虫卵を用いる反応
     a.色素試験
     b.虫卵周囲沈降試験

衛生動物
7.衛生動物
 I.衛生動物による病害
 II.主な衛生動物
  A.節足動物
   I.昆虫類
    1.双類
     a.蚊類
     b.ハエ類
     c.ブユ類
     d.アブ類
     e.ヌカカ類
     f.チョウバエ類
    2.シラミ類
    3.ノミ類
    4.半類
    5.鱗類
    6.甲虫類
    7.ゴキブリ類
    8.ハチ類
   II.蛛形類
    1.ダニ類
     a.ツツガムシ類(前気門類)
     b.マダニ類
     c.中気門類
     d.ヒゼンダニ類(無気門類)
    2.クモ類
    3.サソリ類
   III.甲殻類
    1.カニ類
    2.ミジンコ類
    3.オキアミ類
   IV.ムカデ類
  B.軟体動物
  C.脊椎動物
   I.ヘビ類
   II.ネズミ類
   III.衛生害虫の防除
  A.防除法
    1.環境的防除
    2.物理的防除
    3.化学的防除
    4.生物的防除
  B.殺虫剤
   I.殺虫剤の種類
    1.塩素系殺虫剤
    2.有機燐系殺虫剤
    3.ピレスロイド系殺虫剤
    4.その他
   II.使用済型
    1.粉剤
    2.油剤
    3.乳剤
    4.水和剤
    5.その他
    要約

参考文献
和文索引
欧文索引

医療従事者のマニュアル編
 医療関係者からの質問 (3)
 患者・一般人からの相談 (8)
 症状,所見別の検索
 疾患別の検索