やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 曽根博仁
 新潟大学大学院医歯学総合研究科血液・内分泌・代謝内科,同健康教育イノベーションセンター,同ビッグデータアクティベーション研究センター
 機能性表示食品として販売されていた紅麹サプリメントが,大規模かつ深刻な健康被害を引き起こした事件は,勃発から1年が経過した.この問題は,市場規模拡大が続いていた健康食品やサプリメント全体にとって大きな警鐘となったが,同時に医療者にとっても,健康食品による健康被害が避けて通れない課題であることを改めて突きつけたという点も含め,多くの課題を明らかにした.
 機能性食品を含む健康食品はあくまで食品であるため,本来,食薬区分に基づき,医薬品として疾患治療に使われてはならないはずである.しかし,わが国には“医食同源“あるいは“和漢医療”などの伝統もあり,さらに抽出・濃縮され,錠剤・顆粒形態のものも多いため,患者を含む一般消費者にとっては区別することが難しい.しかも“健康“食品は,その名からも“健康”的なイメージがあり,さらに“食品”であるため,薬より安全と思われがちである.一方,医師をはじめとする医療従事者側にとっても,実は患者の多くがさまざまな健康食品を常用していても,無数の健康食品について詳しい知識を持つのは困難であるという現実がある.
 これまで食品の健康増進機能は盛んに研究され,無数の健康食品が開発上市され一大産業ともなっている.しかし当然ながら,安全性は効用以前の最優先事項である.利用者,事業者,研究開発者,行政のいずれも,光の部分(有効性)と比べ,影の部分(健康障害)に対しては消極的になりやすい.また医療者も,わからないものには触れたくないという心理が働きやすい.
 今回の紅麹サプリメント事件は,まさにそのような間隙を突いて,起こるべくして起きた事件であるとともに,今後も再発しうる問題であり,風化させてはならない.今回の事件を機に対策が強化されたものの,飛行機事故と同様,将来の健康被害を完全になくすことはできない.しかし,その発生リスクと発生後の被害の両方を最小化するために,利用者,事業者,研究開発者,行政,そして医療者ともにできることは多いことも明らかになった.
 本特集が,その教訓を共有することを通じて,そのための一助となり,上記すべての関係者にとって役立つことを期待してやまない.
特集 健康食品・サプリメントによる健康被害を防ぐ
 はじめに(曽根博仁)
 “紅麹サプリメント事件”が投げかけた課題(曽根博仁)
 わが国の保健機能食品制度の課題と展望─消費者の健康をかなえるためのヘルスクレームの最適化(種村菜奈枝)
 錠剤やカプセル剤などの形状を持つ食品の品質と安全性確保(穐山 浩)
 国内外のデータベースからみた健康食品の重症健康被害の実態(鈴木浩史・曽根博仁)
 機能性表示食品等を含むいわゆる「健康食品」の安全性確保に係る国の取り組み(三木 朗)
 健康食品・保健機能食品の安全性担保に対する一般社団法人健康食品産業協議会の活動(西村栄作)
 健康食品をめぐるリスクコミュニケーションのあり方─医療従事者と生活者の役割から考える(堀 里子)
 安全な機能性食品・サプリメントの開発・普及(浸透)・使用に向けて(吉田 博)

TOPICS
 神経精神医学 家族を支える子どもたち:ヤングケアラー経験が人生にもたらす影響(松崎裕香)
 循環器内科学 リアルワールドデータで問い直す,心電図スクリーニングと心血管疾患予防─健診心電図は必要か?(八木隆一郎・他)

連載
ケースから学ぶ臨床倫理推論(21)
 終末期でない場合の人工呼吸器の中止(門岡康弘)

イチから学び直す医療統計(13)
 診断精度指標の評価:感度,特異度,ROC曲線(尾崎達郎・他)

医療分野におけるブロックチェーンとNFTの活用(3)
 ブロックチェーンとNFTを活用した医療データ共有システムの可能性(面 和成)

医師の働き方改革─取り組みの現状と課題(2)
 医師の働き方改革前後の取り組み─勤務環境改善のピットフォール(小島博己)

FORUM
 司法精神医学への招待─精神医学と法律の接点(16) 精神科医と法曹関係者との対話と協働(柏木宏子)

 次号の特集予告