臨床医マニュアル編集委員会 代表 小畑達郎先生の顔写真

著者が語る本書の魅力

■8年振りの大改訂

第4版の発刊後8年を経過し,「第5版はいつ頃?」という,読者の皆さんからの少なくない問い合わせをお寄せ戴いておりました.その第5版をようやくお届けできるようになりました.今版では新たに多臓器にまたがる項目関連の章として,第6章「オンコロジー」,第7章「多臓器系統にまたがる症候」を新設すると同時に,臓器別の症候・疾患編となる各章も全面的に見直し,一般臨床で頻度が高いものを優先して項目数を大幅に(約60項目)増やしました.

■全人的な,プライマリケア重視の医師教育への一つの回答

小畑達郎先生の顔写真

2004年に始まった卒後臨床研修制度も10年以上がたちました.医師偏在化などいくつかの課題は残してきましたが,大学病院中心のストレート研修だった卒後研修からプライマリケア重視の臨床研修指定病院中心の研修に変わりました.本書は,その構成・内容が全人的な,プライマリケア重視の医師教育の在り方に対する一つの回答になっていると自負しています.

専門分化した現代医療のなかにあって,患者を「病をもつ人間」として捉えることは,より一層重要になってきているといえます.さらに社会的存在である病人の全体像を捉える姿勢が臨床医にますます求められてくるでしょう.この,自然科学的観点にとどまらず「生物・心理・社会モデル」で患者を捉えていく視点は,大学病院で行われていた(かつてのストレート)研修では欠けていた部分ではないでしょうか.本書第1章から第4章にまとめた,臨床研修制度で「行動目標」にあたるこれらの部分は,いかなる臨床医を育てるべきかというわれわれの実践的回答と考えています.

■忙しい臨床医の手元に最適の実践マニュアル本

紙面サンプル

本書は臨床医が日常遭遇する疾患(common disease)の診断と治療について,何をなすべきかを示した実践マニュアル書です.一般臨床医が現場で遭遇する重要な疾患・病態であれば,内科・外科・小児科・婦人科といった基幹科でなくとも取り上げたことが特徴の一つです. さらに,本書の最大の特徴は,各項目において単にやるべきことの羅列(to do list)にとどまらず,診断と治療の基礎となる疫学や病態なども述べていることです.実践的なto do list(ホワイトページ)に加え,その背景にある疫学・病態・その疾患を巡る論争なども記載し,両者の区別が一目でわかるように,グリーンページ( 印)としてto do list の背景となる事項を示しました.臨床現場で必要最小限の情報を得たければ,グリーンページを飛ばして読んでいただければよい.患者さんからインフォームドコンセントを得る場面など,より詳しい知識の整理が必要なときにグリーンページを含めて熟読をお勧めします.

■あの『当直医マニュアル』の編集会議から生まれた本

当直医マニュアル,外来医マニュアルの商品画像

本書初版(2000年)の企画は『当直医マニュアル』『プライマリケアマニュアル』(現『外来医マニュアル』に書名変更)(ともに医歯薬出版)の編集会議の中から生まれたものです.両マニュアルを企画した当時(1980年代後半),われわれは,まだ駆け出しの研修医でした.数多くの文献を読まないと自分の知識・診療に自信がもてず,時間的制約の多い当直帯に迅速に指示が出せないもどかしさが,両マニュアルを作った出発点でした.手分けして数多くの文献を読みあさり,その中から実践的で無難な初期診断と治療を常に携帯できるサイズにまとめたのは,文献を読むまでの時間を生み出すためでした.幸い両マニュアルは予想以上の好評を得て版を重ね続けて,われわれの病院の研修医たちも愛用してくれています.

■この1冊で実用的でかつ根拠も示してくれる本

研修医マニュアルの商品画像

その後,われわれが指導医の立場におかれるようになって感じたのは,研修医たちがマニュアル書に頼り,基礎的文献を読む余裕もなく診療に追われていることでした.われわれが研修医時代を過ごした頃と比べ,医学が大きく進歩しているので,身につけるべき知識は増えており(自分の専門外の領域のことを考えても) ,無理からぬ面もあると思われます.しかし,ひとつの診断や治療方法の背景にある疫学や病態の理解,薬剤や検査法の基礎的知識がないのでは,よき臨床医になれるはずはありません. 改めて医学書を探してみて,この目的を1冊でかなえる臨床書が意外なことに見あたらないのに気づきました.多くの医師が専門分野以外の知識を求めるときに参考にしている本は,診断か治療検査か薬剤のどれかに限定されていたり,to do list にとどまっているように思えます.

「実用的でかつ根拠も示し,忙しい臨床医の必要を1冊で満たすマニュアル書がほしい」.第一線の臨床医が中心となり,そんな思いを形にしたのが,この『臨床医マニュアル』の最大の特徴であり強みです. 多忙な日常臨床の合間を縫っての執筆・編集作業を行い,複数の編集委員で繰り返し原稿に目を通してきましたが,いまだ不十分な点を残していることを危惧しています. 願わくば今後も改訂を続け,より多くの第一線で活躍の臨床医に使っていただけるマニュアルに育てていきたいと考えています.読者の皆さまの率直なご意見・ご批判をお寄せいただければ幸いです.

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