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249巻12号 2014年6月21日
麻酔と脳障害
はじめに
AYUMI 麻酔と脳障害 はじめに 松本美志也
  現代の麻酔のスタイルの起源を1846年のエーテル麻酔の成功とすると,現代の麻酔には約170年の歴史があることになる.麻酔学は広い意味での外科学とともに進歩し,手術時の安全な全身管理を担ってきた.著者自身が経験しているこの30年間を振り返っても,麻酔の安全性は飛躍的な進歩を遂げている.そして,いまでは麻酔の対象患者は胎児から超高齢者まで広がっている.
 従来,全身麻酔薬の中枢神経作用は通常の使用量であれば可逆的であると信じられてきた.しかし最近になって,麻酔薬自体の脳に及ぼす非可逆的な影響に関心が高まっている.本特集では麻酔と脳障害について考えるが,@麻酔薬の脳に対する直接作用と,A麻酔管理などに伴う間接的変化が脳に与える影響,の2つを分けて考えると理解しやすい.ここでは歴史的な流れを中心に麻酔と脳障害について概説したい.
 1960年代前半に,頸動脈内膜切除術を全身麻酔で行うと脳障害の発生率が低い可能性があることが報告された.同じころ,現在でも全身麻酔の導入に使用されている静脈麻酔薬のチオペンタールがヒトで脳代謝を低下させることが報告された.これらの研究から,麻酔薬による脳代謝抑制が,たとえば脳虚血時にATP枯渇までの時間を延長し,脳保護につながるという可能性が示唆されはじめた.薬物による脳保護研究の歴史が麻酔薬からはじまったといわれるゆえんである.その後の麻酔薬の脳保護作用の研究には紆余曲折があり,残念ながら,いまだに麻酔薬の脳保護作用がヒトで明確に証明されてはいない.しかし,すくなくとも1990年代後半までは動物実験の結果から推測すると,麻酔薬は限定的であるが弱い脳保護効果を有する可能性があるという考え方が一般的であった.
 この流れを変えたのが,1999年に『Science』誌に発表された,発達段階の脳に対する麻酔薬の障害作用である.生後7日のラットにある種の麻酔薬を投与すると,脳の広範な領域で神経細胞死(アポトーシス)が増強されることが報告された.その後,同様の研究が数多く報告され,さらにはサルでも同様の現象が確認されている.たしかにいままでの研究結果から,動物でのこの現象は間違いのない事実と思われるが,脳の発達速度が異なるヒトにあてはまるか否かは現時点では明らかではない.また,ラットでも生後7日目では麻酔薬による脳障害が確認されるが,生後14日目ではそのような現象は観察されない.アメリカFDAは麻酔・鎮静薬が乳幼児の認知力へ与える影響を検討するプロジェクトを立ちあげており,その結果が注目される.
 発達段階の脳に対する麻酔薬の障害作用の研究が注目されはじめたころより,麻酔薬の高齢者の脳に対する障害作用も報告されるようになった.この点に関してはアルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)の機序の解明が進んだおかげで,その機序に及ぼす麻酔薬の直接的な影響に関心が高まっている.ADの進行は年単位の緩徐なものであるが,その長い経過に比べるとごく短時間の全身麻酔がADの進行にどれほどの影響を及ぼすかを今後慎重に検討する必要があると思われる.
 ところで,上記の話はほとんどが培養神経細胞や動物実験に基づいた理論である.一方,実際の臨床で麻酔と脳障害に関連して注目されているのは高齢者の全身麻酔後のせん妄と認知機能(高次脳機能)低下である.とくに,人工心肺装置を用いる心臓血管外科手術の麻酔では1990年代より,麻酔・手術後の高次脳機能の低下が研究されてきた.これらの現象には麻酔薬の直接作用以外に,麻酔(および人工心肺)に伴う脳循環の変化や手術に伴う炎症の影響,さらには患者側の因子としてADに代表される認知症が大きな影響を与えている可能性がある.
 本特集では,麻酔後のせん妄と高次脳機能障害の理解にはADの病態の理解が必要と考え,最初に解説をお願いした.また,最近の動物実験では麻酔薬の毒性ばかりが注目されている感があるが,麻酔薬の保護作用についても現時点でどのように理解すべきか,最後に解説をお願いした.麻酔薬も薬である以上,高用量ではかならず毒性があるであろう.その安全域が狭い病態はどのような病態であるかを今後解明していく必要がある.いたずらに麻酔を怖がらず,しかし,精力的に進められている動物実験の結果を,種差を根拠に軽視しない姿勢が大切と思う.本特集が現時点での麻酔と脳障害の理解に役立てば幸いである.
目 次
アルツハイマー病の病態と全身麻酔薬……井原涼子・井原康夫 詳細
全身麻酔後のせん妄と高次脳機能障害(POCD)……石田和慶・松本美志也 詳細
心臓手術後の高次脳機能障害――高齢者に潜在する脳虚血性病変と認知機能低下が危ない!……馬場知子 詳細
発達段階の脳に対する麻酔薬の影響……森本裕二・他 詳細
高齢者の脳に対する麻酔薬の影響……祖父江和哉・山本直樹 詳細
麻酔薬の脳保護作用……井上聡己・川口昌彦 詳細
TOPICS
【細胞生物学】
パーキンソン病における神経細胞内輸送異常:LRRK2と低分子量G蛋白質……桑原知樹 
【薬理学・毒性学】
Alzheimer型認知症治療薬の現状……鳥悠記 
【免疫学】
HLA-Gによるコラーゲン誘導性関節炎抑制効果……黒木喜美子 
連載
【エコヘルスという視点】
9.環境DNA:エコヘルス研究の新しいツール……源利文 
医学史
【近代医学を築いた人々】
30.コレージュ・ド・フランスの教授となった医学者(3)近代生理学の父・ベルナール……安室芳樹 
学会レポート
Coronary Revascularization based on Evidence Based Medicine―Comparing PCI and CABG―reality and ideal……平山篤志 
フォーラム
【ゲノム人類学の最先端】
11.KIR遺伝子とHLA遺伝子の共進化……平安恒幸 
麻酔と脳障害
249巻12号 2014年6月21日
週刊(B5判,70頁)
発行時参考価格 1,000円
注文コード:924912
雑誌コード:20473-6/21
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