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2017 TDCアカデミア 医療教養セミナー 「人生の最期を人はどう迎えるか ~終末期における歯科医療の役割と可能性~」開催される
 11月12日(日),東京歯科大学水道橋校舎新館(東京都千代田区)にて標記会が開催された.

 はじめに,「施設における終末期での市井の歯科医のできる事」をテーマに平井基之氏(平井歯科医院)が登壇.2004年に氏が開設した介護老人保健施設(池袋えびすの郷)の理念である「口からおいしく食べる事を支援する」のもと取り組んだ,口腔ケア,口腔リハビリ,歯科的支援の具体例を動画とともに解説した.終末期にある患者に対し,歯科医療職として何ができるかについては悩む人が多いと思われるが,自分の身内に終末期の方がいれば,まずはそこから関わりを始めてはどうか,と提起した.また,氏が所属する文京区歯科医師会の「8020追跡調査」の中間報告を示し,たとえ「8020」が達成できていなくても,義歯や補綴によってしっかり咀嚼できる口腔環境を整えている高齢者では,「8020」達成者と同様の結果が得られたとした.
会場内の様子
 阪口英夫氏(医療法人永寿会 陵北病院)は「死生学と終末期における歯科の役割」をテーマに登壇.近年の研究により,「口腔ケア(Oral care)」という概念は「死生学(Thanatology)」という学問から出ており,初めて成書で用いたとされるのは米国の歯科医師(口腔外科医)・Austin H. Kutscher氏であることを紹介した.終末期に生じる口腔への影響として,「意識障害」による齲蝕や,残存歯による裂傷・褥瘡の発生,原始反射の出現,「栄養障害」による経口摂取不能や脱水症状に伴う口腔乾燥,日和見感染などがあり,この時期は歯科医師・歯科衛生士にしかできない口腔ケアが多くあるとし,終末期患者を前に尻込みすることなく関わるべきであると訴えた.
 遠藤眞美氏(日大松戸)は「終末期患者との関わりで歯科医療者が求められるもの」と題し登壇.食事・会話・呼吸といった口腔機能は“生きること”に欠かせない機能であること,終末期患者への関わりに正解はないが,患者や家族との対話を大切に,画一的ではない多様な関わりをもち共有することが重要であることを解説した.また,教育現場においては,現在の歯科医学教育では死生学について系統的に学べる機会がなく,身近な人の死を経験したり,葬儀に出た経験のない学生たちも増えているという.遠藤氏は自身の母親に起こった事例(危篤状態,その後の回復,等)を呈示しながら,終末期患者への関わりにおいて歯科医療職として求められる役割を示すとともに,形態回復・機能回復の先にある“笑顔で充実している生活”が亡くなる瞬間まで感じられるような歯科医療の実現を,と訴えた.
左から,遠藤氏,阪口氏,平井氏
  「医科は命の医療,歯科は生活の医療」といわれることが多いが,終末期の患者においては身体,心のみならず,口腔内にも大きな変化が現れ,歯科医療職としての専門的支援・関わりが強く求められている.終末期における臨床経験豊富な演者3名により,多くの問題提起がなされ,示唆に富む会となった.

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