Ishiyaku Dent Web

歯科医師・歯科技工士・歯科衛生士のポータルサイト

第76回 日本矯正歯科学会学術大会開催される
 10月18日(水)~20日(金)の3日間,さっぽろ芸文館およびロイトン札幌,札幌市教育文化会館(いずれも札幌市中央区)において標記学会が開催され,約4,600名の参加者を集めた(大会長:溝口 到氏/北医大).
 サテライトセミナー1「3次元分析を矯正臨床でどう生かす―有効性と限界を考える―」では,出口 徹氏(オハイオ州立大)が「米国矯正歯科臨床の3次元分析・診断における最新事情」としてアメリカの歯科矯正治療に応用されている口腔内スキャナ,ソフトウェア,3Dプリンタの各機種について特徴と現状の課題を整理した.谷川千尋氏(阪大病院)は「3次元画像解析の基礎と矯正歯科治療への応用」と題し,3次元画像解析を理解するための基礎知識として計測法,術前後の顔貌変化等の予測への応用,データの出力法について解説した.後藤多津子氏(東歯大)は「高解像3D MRIを用いた非侵襲的で企画的な顎変形症の形態と機能診断:下顎側方偏位症例について」との演題で,骨格性下顎側方偏位症例における偏位側と非偏位側の違いや正常者との違いについて,3D MRI画像を用いて分析・考察した(座長;上岡 寛氏/岡大,髙橋一郎氏/九大).
 臨床セミナー1「埋伏歯の診断と治療」では,飯田順一郎氏(北大)が「埋伏歯の診断と治療の背景」と題し,北大病院矯正歯科診療室の受診患者における埋伏歯の発生頻度や歯種分布,原因についての調査結果を披歴し,頻度の高い上顎埋伏犬歯に限局した対応について臨床例を供覧した.「上顎犬歯萌出障害に起因する切歯歯根吸収の早期診断法とその臨床応用について」と題して登壇した稲毛滋自氏(神奈川県)は,日本臨床矯正歯科医会神奈川支部学術委員会が考案したパノラマX線写真を用いた定性的数値解析法を紹介し,上顎埋伏犬歯による切歯歯根吸収が認められた103症例に応用した解析結果に対する考察を加えた(座長;齋藤 功氏/新潟大,宮澤 健氏/愛学大).
 特別講演1「HyperdivergentのⅡ級患者に関する考えと治療のための新しいアプローチ」ではPeter H. Buschang氏(テキサスA&M大)が,Hyperdivergent(high-angle)のⅡ級は歯列のみならず骨格性すなわち発達の問題であることから治療が可能であり,これを踏まえた治療目的を設定することが重要であると指摘.True Rotation(前頭蓋底を基準とした際の下顎骨コアの回転)について正しく理解することでHyperdivergentのⅡ級患者(特に混合歯列期)の非外科的治療による良好な治療効果が見込めるとした(座長;溝口氏).
 特別シンポジウム「東アジアからの新たな知と技の発信」ではアジア4カ国の演者による症例報告が行われた.中国からはYuxing Bai氏(中国矯正歯科学会 会長)が登壇,3組の一卵性双生児へ異なる手法(抜歯・非抜歯,抜歯種の違い,異なった矯正システム,等)を用いた治療結果を報告・考察した.韓国からはHee-Moon Kyung氏(大韓歯科矯正学会 会長)が,矯正治療における現実的な歯牙移動のシミュレーションとしてタイポドントシステム(誘導加熱システム)についてを,台湾からはEric Liou氏(中華民国歯顎矯正学会 前会長)が,装置メカニクスやテクニックを応用した顔面非対称に対する矯正治療についてを,日本からは本学会理事長の清水典佳氏(日大)が,下顎前突症例におけるアンカースクリュー(TADs)による治療効果についてを解説した.

 特別講演2「革新的な次世代歯科再生治療の開発」では辻 孝氏(国立研究開発法人理化学研究所)が登壇.器官原基法をもとにした歯胚移植・歯胚分割や,周囲に歯根膜組織を維持する次世代インプラント開発,再生唾液腺の研究結果等について報告.歯科領域が先駆けとなって,次世代器官再生医療にはたす可能性や展望について解説した.
 大会2日目のスタッフ&ドクターセミナーでは星野由香里氏(イエテボリ歯周病専門クリニック/歯科衛生士)が登壇.「歯周治療における歯科衛生士の役割」と題し,スウェーデンにおける歯科医療の実態,歯周治療における歯科衛生士の役割を解説したうえで,矯正治療中の軟組織管理の要点,患者指導や情報提供時のポイントを述べた.矯正治療中に歯周病による炎症があると著しい歯牙移動を招くため,徹底したバイオフィルムおよび炎症の除去,ブラケット装着中の口腔衛生管理(プロケア,セルフケア),患者の動機づけの重要性を訴えた.
 臨床セミナー 2「包括歯科医療における矯正歯科治療」では,中村芳樹氏(鶴見大),不島健持氏(神歯大),菅原準二氏(仙台青葉クリニック)が登壇.中村氏はInterdiscipilinary Treatment(他科連携)として,矯正歯科と歯周病科との連携治療例や,矯正領域を越えたTransdisciplinary Treatment(代替治療)として,補綴治療の代替としての治療例について解説した.不島氏は,成人矯正における歯周組織について考察.炎症のコントロール,歯冠-歯根比を考慮したメカニクスの選定,歯槽骨における適正位置への排列といった基本原則を守ることを前提に,矯正中の歯周治療は必須であり,個性正常咬合の確立に有効とした.菅原氏はマルチブラケットシステム(MBS),外科矯正,TADs(インプラント矯正)といった治療システムの発展を臨床例にて呈示.単科的アプローチ(Unidisciplinary Therapy)での治療には限界があることから,IDT(Interdiscipilinary Treatment;顎顔面包括歯科治療)を推奨,その治療効果と難しさについて解説した.
 「JOSフォーラム」では,本学会におけるトピックスが取り上げられた.専門医制度に関しては,現在,厚生労働省指導による5団体矯正歯科懇親会(日本矯正歯科学会,日本成人矯正学会,日本矯正歯科協会,日本臨床矯正歯科医会,日本歯科矯正器材協議会)が開催され,協議を進めている.また,認定医・専門医の標榜についてや,院内ホームページにおける広告内容,消費者庁による特定継続的役務提供における課題等についても取り上げられ,国民から納得の得られるクリアな矯正歯科医療の実現のための情報周知・協力を学会員に訴えた.

■他のニュース記事をさがす

日付から記事をさがす
<2024年4月>
31123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
2829301234
567891011
キーワードから記事をさがす

人気の歯科書籍(キーワード別)

歯科雑誌 最新号