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深井保健科学研究所第11回コロキウム 開催される

  7月15日(日),東京国際フォーラム(東京都千代田区)にて,深井保健科学研究所第11回コロキウムが,「“開かれた社会”における口腔保健・健康増進の展開」とのテーマのもと,80名の参加者を集め開催された(主催:深井保健科学研究所所長・深井穫博氏).

 第一部「ヘルスサイエンス・ヘルスケア最新トピックス」では,8名のプレゼンターが登壇.
 岡本悦司氏(国立保健医療科学院)は,RCTに拠らない因果関係証明の手法として,既存データを活用するプロペンシティスコア(傾向得点)法を紹介.その他,山本龍生氏(神歯大)は,高齢者の歯数および義歯使用の有無と転倒との関係について,現在進行中の大規模コホート研究からみえてきた傾向を紹介.野村義明氏(鶴見大)は,iPS細胞を用いた歯根膜再生の最新研究動向について紹介するなど,さまざまな視点からの健康をめぐる諸課題が報告された.

 続くシンポジウムⅠ「歯の喪失をどう防ぐか-リスクファクターへのアプローチ」では,4名の演者により,さまざまな視点での歯の喪失リスクの分析と,求められるアプローチについての検討が行われた.
 花田信弘氏(鶴見大)は,齲蝕という現象を,ECC(Early Childhood Caries)と根面カリエスに分けて考える必要性を説き,8020が達成されるなかでの齲蝕対策としては,後者をターゲットとした専門職としてのアプローチが重要になると結んだ.
 深井氏は,その自然史の分析なしに,歯の喪失のリスクファクターの検証は不可能であることを強調.歯科的介入のほとんどないネパールにおける追跡調査からみえてきた,歯の喪失パターンの現実を紹介した.
  吉野浩一氏(横浜銀行)は,歯が喪失するほど,新たな歯の喪失が生じやすいことを,歯科疾患実態調査データより報告.なかでも,臼歯部の咬合支持歯の喪失が大きなリスクとなることを報告した.
  相田潤氏(東北大)は,歯の喪失にかかわる社会決定要因に着目し,健康格差是正のための取り組みとして,学校におけるフッ化物洗口に代表される社会的アプローチの必要性を説いた.

 シンポジウムⅡ「国民皆保険達成50年:歯科医療・口腔保健の新たなチャレンジ」では,我が国の口腔保健向上の要因について,さまざまな視点からの検証が試みられた.
 安藤雄一氏(国立保健医療科学院)は,歯科疾患実態調査データをさらに深く読み解くことでみえてくる,日本人の口腔内の状況と医療提供体制の今後を俯瞰.恒石美登里氏(日歯総研)は,医療費の推移から歯科が見据えるべき方向性を示唆された.瀧口徹氏(新潟医療福祉大)は,口腔は健康状態のインディケーターとなる可能性を提示し,歯科口腔保健法の具体的な施策化が今後のキーポイントとした.上野尚雄氏(国立がん研究センター)は,がん治療における医科歯科連携の取り組みからみえてきた,地域歯科医師会のもつ可能性と課題を整理した.
 神原正樹氏(大歯大)は,歯磨き回数の増加などに代表されるように「社会が健康になった」ことが,我が国の口腔保健向上の大きな要因であることを示した.また,これからの日本の高齢化医療モデルの動向は,世界が注目するチャレンジであるとし,そこでは「疾病」ではなく「健康」をどう評価するのかが問われていると結んだ.

 最後に,本コロキウムのStatementが深井氏より提案され,会場の賛同を得て発信されることとなった.以下がその内容である.
 
…………………………………………………………………………………
歯の喪失防止と健康増進
(深井保健科学研究所第11回コロキウム.2012年7月15日.東京,日本)
 
 口腔の健康は,全身の健康増進およびQOLの向上に不可欠な要素であり,その取り組みは,歯科医療関係者ばかりでなく,医療,健康,教育など関連する他職種との連携によってその効果および効率性は高まる.
 その際,口腔の健康度のoutcomeとして,口腔機能にとどまらず,全身の健康への影響度で評価するための指標設定に関する研究を推進する必要がある.
 このような観点から,以下の提言を行う.

(1)口腔の健康は,NCDs(non-communicable diseases)のリスク低減に寄与するという科学的根拠の蓄積,および口腔保健とNCDsの共通リスクへのアプローチの具体的取り組みを促進する.
(2)歯の喪失は,口腔機能の低下の直接的な原因にとどまらず,全身の健康増進を阻害する要因である.歯を保存する医療技術の進歩と共に,「歯の喪失(tooth loss)または現在歯数(tooth number)」を他分野の専門職および国民レベルで共有できる健康指標のひとつとなるための研究の促進を図る.
(3)歯の喪失の要因(リスクファクター)を特定するための研究を推進する.すなわち,口腔保健関連要因(口腔疾患,咬合状態,全身の健康,加齢的変化等)およびの社会的決定要因(social capital,保健医療制度等)に関する科学的根拠の蓄積を図る.
(4)歯の喪失防止に関して,地域保健と歯科医療を一体的に提供する社会システムの追究を図る.そして,医療を含むより効果的な口腔保健提供体制を構築していくための働きかけを行う.
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 また,開会に先立ち,同研究所顧問であり我が国の疫学研究の柱石であられた重松逸造氏の逝去にあたり,参加者により黙祷が捧げられた.


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