やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

原著序文──Preface
 今日の世界において,医療の進歩によって,不健康や病気に苦しむ人々の死亡率が低下したことは疑う余地のない事実である.その一端は,かつては不治と考えられていた疾病に対する研究の発展と医薬品の開発によることも事実であろう.しかしながら,その結果,人の生命の質と長さを改善するために使われる薬物が,実は身体の他の機能を傷つける作用をもちうることもわかってきた.多くの言語聴覚士,理学療法士,作業療法士,医師,臨床栄養士,看護師,薬剤師は,薬物が摂食・嚥下に悪影響を及ぼす可能性があることに気づいている.本書の著者の一人であるPeter R.Johnson(言語聴覚士)は,これまでに,薬物によって引き起こされたり,あるいは症状が悪化した,非常に多くの摂食・嚥下障害患者に遭遇してきた.彼は,SID13Dysphagia(特定領域13部会)newsletterのコラム・エディターを務めたことがあり,また薬物の摂食・嚥下障害に対する影響についての論文も発表している*.彼が,もう一人の著者であるLynette L.Carl(薬剤師)の『摂食・嚥下に対する薬物の作用』についての講演に出席した際,「薬物」を主体にまとめられた摂食・嚥下障害に関する参考書籍が全くないことに気づいた.そこで,この講演の直後,二人は,摂食・嚥下障害に対する薬物の影響についてまとめた本書を編纂することを決心したのである.
 この参照ガイド“Drugs and Dysphagia:How Medications Can Affect Eating and Swallowing”(『薬と摂食・嚥下障害─作用機序と臨床応用ガイド』)は,臨床における参考書として,また,摂食・嚥下障害に対する薬の作用について関係者と必要なコミュニケーションをはかる際の,正当かつ根拠ある効果的な資料兼情報源となる書である.
 日本語版訳者の序
 原著緒言
 原著序文・原著謝辞
 原著はじめに
 略語一覧
 日本語版のご使用にあたって
第1部 基礎的事項
 1章 神経薬理学概説
  神経系機能の概説
  神経伝達物質の役割
   中枢神経系の神経伝達物質 末梢神経系の神経伝達物質
  内分泌系と代謝
  外部からの影響
 2章 摂食・嚥下のプロセスと摂食・嚥下障害
  摂食・嚥下障害の定義
  正常摂食・嚥下の5期
   第1期:先行期 第2期:口腔準備期 第3期:口腔期 第4期:咽頭期 第5期:食道期
  摂食・嚥下における脳神経の役割
   三叉神経(第5脳神経) 顔面神経(第7脳神経) 舌咽神経(第9脳神経) 迷走神経(第10脳神経) 舌下神経(第12脳神経)
  摂食・嚥下における神経伝達物質の役割
  摂食・嚥下障害の病因論
   神経学的疾病 構造上の問題 口腔乾燥症 食道の障害
  摂食・嚥下障害の全身健康への影響
 3章 摂食・嚥下障害に対する薬物の作用
  薬物起因性摂食・嚥下障害
  薬物起因性摂食・嚥下障害の病因[論]
  中枢神経系に悪影響を及ぼす薬物
  医薬品有害作用
  副作用
  投薬[処方]再評価計画
第2部 中枢神経系に悪影響を及ぼす薬物
 4章 精神病治療に用いられる薬物
  この章に関係する薬物一覧
  精神病の定義
  抗精神病薬の作用機序
  服薬に関して
  副作用
   鎮静 抗コリン性副作用 錐体外路性副作用 抗精神病薬(神経遮断薬)関連性窒息 抗精神病薬のその他の副作用
  抗精神病薬の効果と副作用のモニタリング
  抗精神病薬の効果と副作用をモニタリングするための手段
  薬物相互作用
   抗痙攣薬,抗うつ薬との相互作用 鎮静的あるいは抗コリン性の特性を有する薬剤との相互作用 心血管系疾患患者における薬物相互作用
 5章 うつ病の治療に用いられる薬物
  この章に関係する薬物一覧
  うつ病(抑うつ[症])の定義
  抗うつ薬の分類
   モノアミンオキシダーゼ阻害薬(MAOIs) 三環系抗うつ薬と四環系抗うつ薬 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs) 非定型抗うつ薬
  服薬(用量)に関して
  抗うつ薬の副作用
   摂食・嚥下障害 鎮静 抗コリン性副作用 消化管性副作用
  抗うつ薬選択のガイドライン
  医薬品有害作用と薬物相互作用
   心臓性反応 モノアミンオキシダーゼ阻害薬との薬物相互作用
  抗うつ薬との薬物相互作用
   モノアミンオキシダーゼ阻害薬と食物・薬物との相互作用 SSRIsと三環系抗うつ薬に作用するチトクロムP-450肝臓酵素系に関係する薬物相互作用 三環系薬の相互作用 三環系薬の副作用 SSRIsに関係する薬物相互作用とセロトニン症候群
 6章 不安と不眠[症]に用いられる薬物
  この章に関係する薬物一覧
  不安の定義
  不眠[症]の定義
  不安と不眠[症]に対する薬物療法の歴史
   鎮静薬(トランキライザー) 催眠薬
  現在の薬物療法の選択肢
   ベンゾジアゼピン 新・非ベンゾジアゼピン系抗不安薬 新・非ベンゾジアゼピン系催眠薬
  副作用
   摂食・嚥下障害を引き起こす一般的な副作用 その他の副作用
  薬物相互作用
  ベンゾジアゼピン拮抗薬
 7章 痙攣の治療に用いられる薬物
  この章に関係する薬物一覧
  てんかんの定義
  痙攣の神経生理学
  痙攣の分類
   タイプ1:部分発作 タイプ2:全身発作(全般発作) タイプ3:非分類性発作 タイプ4:てんかん(痙攣)重積状態
  抗痙攣薬
  抗痙攣薬選択のガイドライン
  服用に関して
  副作用
   摂食・嚥下障害 鎮静 胃腸系症状 筋機能不全 歯肉増殖 過敏性反応 体重変化
  薬物相互作用
 8章 疼痛治療に用いられる薬物
  この章に関係する薬物一覧
  疼痛の定義
  疼痛のアセスメント(疼痛評価)
  疼痛の管理
  疼痛治療薬(鎮痛薬)の分類
  WHO除痛ラダー
  非オピオイド鎮痛薬
   カテゴリー1薬剤 非オピオイド鎮痛薬の服用 非オピオイド鎮痛薬の副作用 NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の副作用 薬物相互作用
  オピオイド鎮痛薬
   用語集 弱オピオイド 強オピオイド オピオイドの作用機序・分類 使用オピオイド類の変更,オピオイド投与経路変更のための用量ガイドライン 交叉耐性 オピオイドの用量と投与 オピオイド鎮痛薬の副作用 医薬品有害作用
  鎮痛補助薬
   神経因性疼痛に用いられる補助薬 神経因性疼痛に使用する抗痙攣薬の用量ガイドライン 抗痙攣薬の副作用 三環系抗うつ薬 カプサイシンの局所使用
 9章 双極性障害の治療に用いられる薬物
  この章に関係する薬物一覧
  双極性障害の定義
  病因
  薬物療法
   躁的興奮症状に用いられる薬物 双極性病的状態の長期マネジメントに用いられる薬物
 10章 パーキンソン病の治療に用いられる薬物
  この章に関係する薬物一覧
  パーキンソン病の定義
  病因
  治療の選択肢
   各種療法 薬物療法
  パーキンソン病治療薬の分類,用量と使用法
   抗コリン薬 ドパミン増強薬 直接ドパミン受容体作動薬 ドパミン代謝酵素阻害薬 カテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害薬 副作用 抗コリン薬 ドパミン増強薬 直接ドパミン受容体作動薬 セレギリン COMT阻害薬
  食物と薬物の相互作用
   レボドパ entacapone(Comtan)
 11章 アルツハイマー病の治療に用いられる薬物
  この章に関係する薬物一覧
  認知症とアルツハイマー病の定義
  発生率
  症状
  病態生理学
  病因
  遺伝的要因
  評価
  Minimum Data Set(MDS)
  薬物療法
   アセチルコリンエステラーゼ阻害薬の用量漸増法 tacrine ドネペジル rivastigmine galantamine memantine その他の治療選択肢 非ステロイド性抗炎症薬 イチョウ エストロゲン補充療法 高脂血症療法
  通常用量と薬物相互作用
第3部 胃腸系に悪影響を及ぼす薬物
 12章 食欲,味覚,嗅覚に悪影響を及ぼす薬物
  この章に関係する薬物一覧
  嗅覚の生理学
  味覚の生理学
  嗅覚と味覚の変化
  食欲の変化
  体重減少に関係する薬物
   セロトニンレベルに影響する薬物 ノルエピネフリン受容体に影響する薬物 セロトニン,ノルエピネフリン,ドパミンを増加させる薬物 食物脂肪の吸収を阻害する薬物
  体重増加に関係する薬物
  抗精神病薬 抗うつ薬 特異的食欲刺激増進薬
 13章 薬物起因性の口腔乾燥症と口内炎
  この章に関係する薬物一覧
  口腔乾燥症の定義
  口腔乾燥症の病因
  薬物起因性の口腔乾燥症
  口腔乾燥症に対する治療的介入
  口内炎の定義
  口内炎の発生率
  口内炎の病因
  化学療法起因性の口内炎
  口内炎治療の選択肢
   栄養 口腔ケア 寒冷療法 口内炎の薬物療法
 14章 急性・慢性胃腸管傷害の原因となる薬物
  この章に関係する薬物一覧
  薬物起因性食道傷害の症状
  薬物起因性食道傷害の病因とリスク要因
   アルコール誘発性の自動運動性障害と摂食・嚥下障害 食道傷害の原因となる薬物
  胃腸管への停滞と閉塞
  薬物起因性胃腸管傷害の予防
  慢性の胃腸管傷害
   胃食道逆流性疾患(GERD) GERD症状の治療に用いられる薬物
 15章 胃自動運動性機能不全の治療に用いられる薬物
  この章に関係する薬物一覧
  胃自動運動性機能不全の定義
  アカラジア
  アカラジアの治療に用いられる薬物
  胃不全麻痺と偽性閉塞
  胃不全麻痺と偽性閉塞の治療に用いられる薬物
  胃食道逆流性疾患(GERD)
  GERDの治療に用いられる薬物
  便秘[症]
  便秘治療に用いられる薬物
  過敏性腸症候群(IBS)
   IBS治療に用いられる薬物 IBS治療新薬
  悪心と嘔吐
   腫瘍患者に関連する悪心と嘔吐 悪心・嘔吐の薬物療法
  動揺病(乗り物酔い)と術後悪心

 文献
 用語解説集
 著者について
 薬物索引
 項目索引