やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 日常臨床の多くは,基本歯冠修復治療と呼ばれるような比較的単純な処置のみで終了する1本の歯の治療である.多数の欠損が存在するような複雑な症例も,若年の頃には歯が存在していたはずであり,1本の歯の治療からスタートして時間の経過とともに再治療を重ねるうち,治療形態は大きくなり,やがて抜歯に至り,複雑な治療の円環に入った結果として難度の高い治療になってしまったのであろう.
 日常臨床を通じての個人的な感触ではあるが,歯科治療というものは細かなレベルで成り立つものであると思っている.生体は10μm程度の誤差まで感じ取り,反応し,ひとときも安定することなく変化し,組織は死ぬまで動き続ける.その一方で,口腔内に装着された修復物は,生体の変化にみずから意図的に対応することはできず,細菌と外力などの影響を受け続ける.大きな治療になるほど誤差は大きくなり,治療の精度の低下は免れない.そのため,長期間にわたって安全にコントロールすることが難しくなり,再治療までの時間が短くなる.フルマウスリコンストラクションのような多数歯の治療がなかなか成功しないのは,このような構造論的理由も背景にあるのではないかと思われる.
 そうであるならば,治療がそれほど難しくなく成功に導ける1本の歯の治療のとき,しっかりとした診断と十分に卓越した手技で治療をすませることができれば,予知性は高くなり再治療の危険性が大きく減少するのではないかと思う.
 本別冊はそのようなコンセプトを基にして,基本歯冠修復治療であるシングルクラウンのプロビジョナルレストレーションをテーマとし,明日からの臨床ですぐに実践できるように,その作製方法,形態修正,リカントゥアリングについて,症例を交えて詳述した.また,天然歯の形態についての詳しい観察と,プロビジョナルレストレーションの形態修正のDVDは,歯科医師にとってはもちろんのこと,歯科技工士にとっても非常に有益なものであると確信する.
 2010年12月
 西川義昌
 桑田正博
 はじめに
 プロビジョナルレストレーションとは何か
Part1 プロビジョナルレストレーションを作製する際の基本となる概念
 クラウン外形を構成する基準点
  上顎中切歯
  下顎大臼歯
 カントゥアガイドライン
 スリープレーンコンセプト
 ファンクショナリーディスクルーデッドオクルージョン
 エマージェンスプロファイル
 サブジンジバルカントゥア
 ティッシュリテンション
Part2 プロビジョナルレストレーションを作製する際に必要な天然歯の観察
 修復治療に必要な歯列と歯の形態における要点
 上顎中切歯
 上顎犬歯
 上顎第一小臼歯
 上顎第一大臼歯
 下顎中切歯
 下顎第一小臼歯
 下顎第一大臼歯
Part3 プロビジョナルレストレーションの作製法
 口腔内直接法でのプロビジョナルクラウンの作製法
 支台歯形成量
Part4 プロビジョナルレストレーションの形態修正
 作業姿勢と指使い
 プロビジョナルレストレーション歯肉縁下部のリカントゥアリング
 臼歯プロビジョナルレストレーションの形態修正
 前歯プロビジョナルレストレーションの形態修正
 単冠の研磨
 連結歯における隣接の研磨
Part5 症例から見るプロビジョナルレストレーション
 症例1:診断用ワックスアップを基にしてより安全な修復治療形態を模索した症例
 症例2:形態修正を行い審美性の回復を図った症例
 症例3:歯肉の炎症への対応を図った症例
 症例4:咬合面接触点を回復することで咀嚼障害に対応した症例
 症例5:咬合構成の7要素に基づき顎機能に調和した修復を行った症例
 症例6:顎関節症状の消退を図った症例

 おわりに
 文献
 使用器材
 執筆者一覧
 付録DVDビデオ 臼歯プロビジョナルレストレーションの形態修正