やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版 発刊にあたって
 早いもので,1999年に本書の初版が出てから10年以上の歳月が経ちました.本書を発刊したとき,実践家の人々にこの本が本当に役に立つだろうか,という不安をもっていたのですが,私の当初の予想とは異なり,読者の皆様からは勇気づけられるような感想をたくさんいただくことができました.しかし,この12年間に,高齢者援助の仕事にたずさわる人々にとって,さまざまな変化がおこり,初版では触れることができなかった内容に言及する必要性が出てきました.
 この12年間に日本の高齢者援助を取り巻く環境は大きく変化しました.2000年には公的介護保険が始まり,介護支援専門員という新たな資格ができ,より多くの方が高齢者援助にたずさわるようになりました.この公的介護保険は2011年版には2度の改定を経ており,介護予防ケアマネジメントや地域包括支援センターといった,新たな制度や組織をつくりだしてきました.このような変化のなかで,介護支援専門員の方々の研修にかかわらせていただきながら,援助職者が直面している新しい課題もみえてきました.公的介護保険ができた当初からケアマネジメントの仕事を対人援助職として位置づけ,一所懸命クライアントとかかわってきた人々が,疲れ切って職場を離れていく現実も,まのあたりにしてきました.
 今回の改訂第2版では,初版の8章「専門の援助職者としての向上」を削除し,新たに8章「援助職者の「燃えつき」を防ぐためには」から9章「高齢者介護の現実」,10章「ケアマネジメント」までを書き加えました.これらの章では,高齢者援助にたずさわる人々が,「相談面接」の力をつけることだけでは乗り越えていくことができない課題があることを認識し,そのような課題に直面したとき問題対処に役立つだろうと思われる,理論や調査結果を盛り込みました.対人援助職者がよい仕事をするために,相談援助面接の力をつけることの必要性は言うまでもありませんが,自分自身がどのようなシステムのなかで仕事をし,そのシステムがどんなふうに自分自身の実践にかかわっているかを見極める力も必要になってきます.クライアントに対して実施する「アセスメント」と同時に,援助職者として自分自身が置かれている状況の「アセスメント」をも適切に行わなければ,相談援助面接の力は十分に生かしきれないと考えます.また,対人援助職者が自分の仕事の知識基盤がどこにあるかを,しっかりと理解しておく必要性を強く感じ,燃えつき,ソーシャルサポート,スーパーヴィジョン,ケアマネジメントなどに関する理論とともに,これまでの私の研究結果から,わかってきたこともご紹介しています.理論や研究というと,実践家の人にはとっつきにくく思われるかもしれません.しかし,これらは実践に深くかかわっているので,ご自分の経験と結びつけながら読んでいただきたいと思います.
 改訂第2版では,あえて1章から7章までの変更を最小限に抑えました.初版が出版されてから制度が変わったこともあり,その制度の変化を反映させたほうがよいのかという思いもあったのですが,相談面接の基本は制度によって変化することはないため,あえて制度の変化にかかわりなくもとのままの事例を使用しました.本来,相談面接で実施するべき基本は,制度が変わっていってもそのたびにぐらつくものであってはなりません.クライアントとしっかりと向き合い,適切な援助関係を形成し,アセスメントを行うという基本は変わりません.そのうえで支援計画を立てるさいに,制度が提供してくれるサービスとの関連性を考え,援助職者ができること,できないことを,援助職者個人の可能性と限界を考えていくのが望ましいやりかただと考えます.8章から10章での変更の詳細は続く「はじめに」(1頁)で説明いたします.
 本改訂第2版がみなさまにとってお役に立つことを願っています.
 2011年4月10日
 日本女子大学人間社会学部教授
 渡部律子
 第2版 発刊にあたって
はじめに
  なぜ私は援助職を選んだのか?
  私の「青い鳥」
  他者に対する援助が「小さな親切,大きなお世話」にならないために
  面接技術は学習できる
  本書の全体構成について
1章 援助職者の基礎を形成する視点―援助行動のモチベーションと基本的姿勢
 1.人はなぜ人を助けようとするのか?―「想像力」と「共感的感情の認知力」
 2.職業としての援助―「意志的」職業選択と「偶然的」職業選択
 3.援助の専門家に要求される基本的姿勢と職業選択の動機の明確化の関係―価値観,倫理観,情緒的客観性
  援助職者の価値観
  援助職者の守るべき倫理
  援助職者の情緒的客観性
 4.ふたたび援助職者にとっての職業選択の動機
  まとめ
2章 援助関係を形成するもの―援助すること・されること
 1.援助関係とは
  援助されるとは? 被援助者の気持ちを理解すること
 2.援助関係形成にかかわるプロの援助職者としての態度―バイステックの援助関係形成のための7原則再考
  バイステックによる援助関係形成における7原則
 3.ソーシャルサポート理論の応用―援助職者とクライアントとのあいだに「援助関係」が形成されれば何が起こり得るのか
  サポートの主観的評価
   [6つのサポートの機能]
    (1)自己評価サポート
    (2)地位のサポート
    (3)情報のサポート
    (4)道具的サポート
    (5)社会的コンパニオン
    (6)モチベーションのサポート
   [サポート機能以外の側面]
    (1) サポーターの種類
    (2) サポートをしてくれる人の種類とサポート機能との関連
    (3) サポートの交換・歴史的経緯
    (4) ストレスに対処しようとしている人の問題の解決度合いとサポート
    (5) ネガティブソーシャルサポート
   [援助職者にとってソーシャルサポート研究結果がもつ意味]
   まとめ
3章 アセスメント―要援護者がおかれている状況の総合的な理解
 1.アセスメントの重要性
 2.個人の歴史と現在の問題との関連を理解するための個人アセスメント
  アセスメントとは何か
  アセスメント実践の構成要素
   [実施に要求される援助職者の知識と技術]
  一般アセスメントに必要なクライアントのデータ
   [アセスメント項目とその解説]
   [クライアントから得たデータの整理]
 3.家族というシステムのアセスメント
  この家族は何の問題を抱えているか
  家族のあいだにはどのような規則があるか
  家族システムと外界とのかかわり
  家庭内の境界とサブシステム
  家族パワー保持者
   [家族力動理解と援助方法との関連]
   [アセスメント面接を実施するさいの注意事項]
  まとめ
4章 相談面接業務の全プロセス
 1.典型的な流れ―インテーク,アセスメント,援助のゴール設定と援助計画づくり,援助計画の実施,評価,終結
 2.アセスメント面接
 3.援助計画作成
 4.事例を使った援助過程の理解
  援助過程理解のための事例
   [アセスメント]
   [山本さんおよび村岡さんの面接の様子]
    (1)面接に入るまでのやりとり
    (2)面接の実際
   [援助のゴールと援助計画]
   [援助関係,アセスメントの重要性]
   [短期ゴール・長期ゴール・具体的な援助方法]
   [具体的な援助法:公的介護保険との関連において]
   [計画実施,援助効果のチェック]
  まとめ
5章 面接における言語技術
 1.日常生活での会話:話し手と聞き手とのあいだに成立する会話の種類―一方通行対双方通行
 2.面接における言語技術
  クライアントの話に耳を傾けること
  相手を理解しようとして真剣に人の話を聴くこと
   [言語以外(非言語)の表現]
   [言語表現]
  言語反応の3つの種類分け
    (1)中立的発言
    (2)傾聴反応
    (3)積極的な言語介入
   [感情の反射,質問,要約に関して]
  事例を通してみる相談面接を構成する言語技術
    (1)聴く
    (2)問題を明確にしていく
  面接で気をつけるべき事柄とそこで使用される言語・非言語技術のまとめ
   [クライアントの態度や言葉を読み取る]
   [面接の流れに関して]
  まとめ
6章 相談面接の実際:インテーク面接の実際
 1.面接に必要な基礎知識の実践における応用
 2.面接の進行と相談員の思考:電話による初回面接の流れと留意点―段階を追った面接応答練習:援助職者の思考プロセスの再現
  クライアントの話を正確にとらえる
  インテーク面接のポイント
 3.問題面接から学ぶ
  自分の所属機関における役割に関して
  「情報収集」と「クライアントの気持ちの理解」のバランス
  情報提供
  アセスメントの意味に関して
  まとめ
7章 高齢者を対象とする援助職の意味―クライアントが高齢者の職場で仕事をすることとは
 1.高齢者のイメージ
 2.だれが高齢者を対象とした援助の仕事を選択するのか―アメリカの社会福祉系大学院生たちの高齢者福祉職に対する考えかた
  調査の背景
  調査対象者と方法
   [調査に含まれた質問と回答]
   [調査の結果]
 3.高齢者施設で働く若い職員は何を考えているのか―日本の高齢者施設職員の調査から
 4.認知症の高齢者とともに仕事をしていくさいのストレスとその解決に関する要因―アメリカのナーシングホームにおける職業満足度に関する調査結果
  認知症高齢者施設の職員が直面する問題
  スタッフの職業満足度あるいは燃えつきに関係すると思われる要因
   [これまでの研究より抽出された要因]
    (1)ソーシャルサポート
    (2)高齢者を好きであるかどうか
    (3)専門知識
    (4)職種の違い
    (5)個人の問題処理の仕方
    (6)と(7)収入と年齢
  職業満足度の調査
   [調査対象者]
   [職業満足度とそれに関連する要因の測定の仕方]
   [調査の結果]
  まとめ
8章 援助職者の「燃えつき」を防ぐためには―燃えつき,ソーシャルサポート,スーパービジョン,組織分析の視点を通じて考える
 1.対人援助者はなぜ燃えつきやすい?―研究結果のレビュー
  1987年に出版された研究から
   [対人援助職者要因]
   [サービスを提供する組織の要因]
   [クライアント要因]
  1900年代に出版された研究から
  2000年代に出版された研究から
 2.自立した援助職者になるためには,どのようなサポートがあればよいのか?―スーパービジョン
  スーパービジョンのゴールとそのゴールを達成するために必要な機能
  スーパーバイザーとは?
   [管理的機能]
   [教育的機能]
   [支持的機能]
  どうやって援助職者としての力を判断する?
   I.「専門職としての人間関係」を形成・維持していく能力
   II.ソーシャルワークプロセスに必要な知識と技術
   III.専門職として適切な特質と態度を保持
 3.所属している組織の全体的な理解―燃えつきを防ぎ,より大きな視野から仕事を見つめるために
  組織理解と分析―自分のおかれている状況を整理する
   [組織のなかの自分]
   [組織分析]
  まとめ
9章 高齢者介護の現実―アンケート調査と処遇困難事例からみる介護職員の課題とその課題解決法
 1.アンケートデータからみる特別養護老人ホーム介護職員の現状と課題―「燃えつき(バーンアウト)」「上司・先輩,同僚からのサポート」
  介護職員はどのくらい疲れているのか?―燃えつきを測定した尺度
  介護職員はどの程度先輩・上司,同僚からサポートしてもらっているのか?
  「燃えつき」の予測要因:重回帰分析
 2.事例検討会を使った施設における処遇困難事例へのアプローチ
  事例検討会の背景
  介護職にソーシャルワークの知識や技術がどう役立つのか
  事例検討会の意義
  日常業務でぶつかる問題の解決と事例検討会の関連
  事例の概要
  アセスメントをもとにした相談援助の方向性
  クライアントとのやりとり
  まとめ
10章 ケアマネジメント
 1.ケアマネジメントとは本来,だれに対して何をすることを意図して始められたのか?
  ケアマネジメント登場の背景
  ケアマネジメントモデル
  ソーシャルワーク,ケアマネジメント,ケアマネジャーの役割の関係
  ケアマネジャーがよく直面する課題
  理想的なケアマネジメントとは
 2.ケアマネジャーの燃えつきとストレス―アンケート調査の分析を通して
  調査の背景とサンプル
  使用された尺度
  結果
  燃えつきを予測するストレス
  アンケート調査結果からみえる課題
  まとめ

 付録資料
 あとがき

 その他の目次
  図3―1 アセスメントを構成する3つの要素とおのおのの要素に必要な技術
  図3―2 エコマップ(ビジュアルアセスメントツール)
  図4―1 モデルとしての援助過程:インテーク・アセスメント,援助ゴールと援助計画の作成・援助実施・援助の効果測定
  図4―2 家族構成図(ジェノグラム)
  図7―1 老人施設新任研修会参加者が考える仕事に必要な知識(総回答数=385)
  図9―1 上司サポートの平均値(N=491)
  図9―2 同僚サポート平均値(N=491)
  図9―3 援助で問題に遭遇した場合の解決方法のプロセス
  図9―4 利用者の一日の生活
  表1―1 援助の専門家に要求される基本的姿勢
  表1―2 価値観の異なるクライアントに出会ったときの問題解決のプロセス
  表1―3 あなたはどのタイプ? 自分の職業選択の動機を知るために
  表1―4 援助の仕事をする人たちに必要とされる6つの資質とその評価表
  表2―1 ある電話相談の例
  表2―2 ソーシャルサポートの機能別6分類とそれらのサポートを提供するのに必要な技術
  表4―1 インテーク面接で援助職者が達成すべき4つのポイント
  表4―2 3つの可能なインテーク面接の終了の例
  表4―3 山本さんに関する基本的なデータ
  表4―4 山本さんの課題
  表5―1 聞き手の話し手に対する反応の種類とその会話のもたらし得る効果
  表5―2 面接における言語反応のバラエティー
  表7―1 家族・児童,保健・精神衛生,高齢者の3種類のクライアントの専攻学生たちの「自分の専攻コース」の専攻理由
  表7―2 「高齢者福祉」以外を専攻した学生たちの想像した高齢者福祉学生の専攻理由の平均点と,自分の専攻理由の平均点の比較(N=117)
  表7―3 高齢者施設新任研修参加者が考える仕事に必要な知識(複数回答合計385回答項目)
  表7―4 ダットワイラーの内的コントロール指標
  表7―5 ナーシングホームの職員の職業満足度に影響を与える要因(重回帰分析の結果)
  表8―1 CourageとWilliamsによる「燃えつき」に影響を与える3要因の整理
  表8―2 スーパービジョンのゴール・スーパーバイザーが果たす3つの機能とその機能を最大限に発揮する方法
  表8―3 援助職者に必要な姿勢・知識・技術
  表8―4 組織分析でカバーすべき項目一覧
  表9―1 基本属性別燃えつきの3つの下位尺度得点
  表9―2 情緒的消耗感,脱人格化,個人的達成感の3つの情緒的消耗感の下位尺度を従属変数とした重回帰分析の結果(N=425)
  表9―3 処遇困難事例検討会のゴール
  表9―4 クライアントの問題を理解するための必要不可欠な情報
  表9―5 クライアントの問題を理解するための情報
  表10―1 理想的なケアマネジメント実践の特徴
  表10―2 バーンアウト(燃えつき)尺度の因子分析結果
  表10―3 ストレス尺度の因子負荷量(39項目)
  表10―4 バーンアウト得点
  表10―5 ストレス得点
  表10―6 バーンアウトを目的変数,ストレス因子を説明変数とした重回帰分析結果
  表10―7 バーンアウトとストレスの関係
  研究ノート2―1 より援助したい人とそうでない人
  研究ノート2―2 効果的なサポートの時間的変化―適切な機能・サポーターが変化していくことを示した研究例
  研究ノート5―1 面接で避けたい15の応答パターン
  研究ノート7―1 高齢者に対する態度の変化に関連する要因
  研究ノート10―1 ケアマネジメントと4つのジレンマ
  演習1―1 7つの動機別援助職タイプとそれぞれの仕事上の留意点
  演習2―1 自分が他人に助けを求めたときを振り返る
  演習2―2 情報サポートの機能
  演習2―3 サポートのもつ複数の側面の分析
  演習4―1 電話によるインテーク
  演習4―2A 山本さんのアセスメント面接の準備
  演習4―2B 山本さんの訪問面接における応答
  演習5―1 傾聴とは
  演習5―2 非言語表現の影響の理解
  演習6―1 インテーク面接応答(パート1)
  演習6―2 インテーク面接応答(パート2)
  演習6―3 入院相談対応
  演習6―4 問題探し
  演習7―1 職業満足度に関連する要因
  演習8―1 本章を読み始める前に考えていただきたいこと
  演習8―3 自分の働く組織の力と構造,そして組織内での自分の立場を理解する
  演習8―4 組織を理解するための質問項目
  演習9―1 介護職者の現状に関する演習
  演習9―2 介護職者の燃えつきに関する演習
  演習9―3 以下の(A)と(B)の「上司・先輩サポート尺度」にお答えください
  演習9―4 事例を読んで何が本当に問題なのか,どんな情報がさらに必要なのかを考える
  演習9―4の回答例 演習の質問に関して,次のような答えができると考えられます
  演習10―1 ケアマネジメントとは?
  演習10―2 ケアマネジメントとは?
  事例1―1 老親扶養に関する価値観をめぐる問題
  事例1―2 死生観に関する価値観をめぐる問題
  事例1―3 秘密保持の倫理観をめぐる問題
  事例1―4 「情緒的客観性」に関して
  事例2―1 情報サポートの例
  事例3―1 アセスメントの重要性
  事例4―1 電話による初回面接
  事例8―1 所属組織要因の6つの構成要素
  事例8―2 クライアント要因の5つの構成要素
  事例9―1 認知症の進行にともない,生活意欲の低下をみせる88歳女性
  事例10―1 サービス提供者主導モデルによるケアマネジメント例
  事例10―2 ケアマネジメント実践をソーシャルワーカーの役割からみる
  エピソード1―1 愛情表現とは?
  エピソード6―1
  エピソード6―2
  エピソード6―3 エピソード6―1と6―2のやり直し
  エピソード6―4
  エピソード6―5
  エピソード6―6
  エピソード6―7
  エピソード8―1
  エピソード8―2
  会話例5―1
  会話例5―2
  会話例5―3(前半)
  会話例5―3(後半)
  会話例6―1 電話によるインテークでの相談員とクライアントの第一声
  会話例6―2 その後のやりとり―1
  会話例6―3 その後のやりとり―2
  会話例6―4 その後のやりとり―3
  応答例6―1
  応答例6―2