やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

いま,試みのとき
 人間のあらゆる意欲は,「口腔」からつくられ,「口腔」からなくなる…….
 たとえ口腔内に問題があっても,それは問題ではなく,その問題をどう解決するかが真の問題であると考えます.それへのかかわりかたやそのプロセス次第でその問題解決は可能となります.結果だけを問題としないかかわりは,人間性とのかかわりから生まれ,それこそがケアの基本といえます.
 口腔の問題の解決は,食事がとれることから始まるといっても過言ではないと思います.毎日かかさずあるその食事に,当然のことですが,不満や問題が出ることがあってはいけません.
 場合によっては口腔ケアが求められることになりますが,その意味においては口腔……といっても,単に口腔の清掃やプラーク除去を目的にしたブラッシングを行うことだけにとどめず,口腔にある問題や障害を取り除き,それらを克服できる「口腔のリハビリテーションブラッシング」があることをまず知ってほしいのです.
 そして問題意識をもって口腔の問題や障害になっているマイナスを軽減し,さらにプラスを増やすことができることが可能なブラッシングであれば,これは口腔のリハビリテーションブラッシングとなりえます.
 口腔に問題をもっている一人ひとりに,従来のブラッシングにはないリハビリテーションの意味をもつブラッシングを試みるときが今なのだと思うのです.
 初版(『別冊総合ケア:摂食の基本とリハビリテーションブラッシング』)を発行してから7年が経過しました.「食」のことも含め「口腔」の働きに関する問題や障害に対する質的な対応への移行がようやく現実的な課題となってきたと思える今,本書全体を見直し,さらに新たな文や写真等を加え,より力を入れた内容で全面改訂し,標題も「柴田浩美の摂食の基本と口腔のリハビリテーションブラッシング」として新しい本をまとめることができました.
 まだまだ書き足りない部分もありますが,このような機会を設けていただきました医歯薬出版をはじめ,本書への写真掲載について快く許諾をいただきました皆様,そのほか何かとご協力いただきました多くの皆様に心から感謝申し上げます.
 2003年12月 柴田浩美



 私たちが毎日の生活にかかすことのできない「食事」や「歯磨き」は,当然のこととして誰もが「よくできるように」「気をつけなければ」という意識をもってきました.しかしいま,この時期に「食事」をとる口,「歯磨き」をする口を考え直し,幅のある意味づけをもった考えをする必要があると思います.それは障害をもつ子どもたちや高齢者との出会いから,「人間としての口」の役割を教えられてきたからです.
 発達過程にある子どもたちから感じ,気づかされた「口」の役割は,障害者や高齢者の「口」の問題を解決するのにも大きく役立つことを知ったからともいえます.ちょうど合わせ鏡のように2つの鏡がよい角度で合わさると,今までみえなかったものがみえはじめ,気づかなかったものに気づくようになったようなものです.そして,これらの人々へのかかわりの手段は,相手に合わせる「自然体で」が基本になっています.
 人と人とにかかわることに一喜一憂しながら考えてきましたが,その知り得た結果は,私の試行錯誤の結果ともいえます.そのひとつが本書で紹介する「リハビリテーションブラッシング」なのです.
 いま,文明社会のなかで,人が人に求めているもの,人が人に与えるものがすべて一致するとは限りません.少なくとも専門分野においてのかかわりは,人による人のかかわりに大きく差を生じないようになれば,人にかかわる者共通の課題がみえてくるように感じます.
 人にかかわりをもちはじめて,まだ日の浅い入口付近の内容といえますが,それでも本書をまとめたのは,ぜひ知ってほしいことのほんの少しの部分でも,それが困っている人たちに役立つと思うからにほかありません.私にとってこの時期は,まだまだたくさんの人たちの励ましや協力をいただきながら,日々の仕事をつづけるなかで,やっと少しだけ形にさせていただいたようなわけです.
 こころより感謝申しあげます.
 1996年6月 宇都宮にて 柴田浩美
柴田浩美の摂食の基本と口腔のリハビリテーションブラッシング もくじ

 いま,試みのとき
 序

Part 1 摂食の基本-「食べること」と「食べられること」
 はじめに
 食べる「口」を知る
 摂食へのかかわり
 観察のポイント
 摂食のメカニズム
 食する能力とは
 幼児期の摂食へのかかわり
 ◆摂食の実際例
 食品別にみた摂食例
  1.ご 飯
  2.みそ汁
  3.刺 身
  4.たくわん
  5.寿 司
  6.ヨーグルト
  7.牛 乳
  8.吸いのみ
 ◆幼児や高齢者の摂食例
 3歳5か月児-幼児期にみられる特徴的な摂食・嚥下行動
  おにぎり
  スパゲッティ
  飲み物
 3歳8か月児-手食と道具による特徴的「食」行動
  りんご
 70歳代の女性(義歯使用)-完成された目,手,口の連携動作による個性豊かな「食」行動
  ご飯
  肉じゃが
  みそ汁
  オレンジ
  お茶
 摂食のしかたのまとめ

Part 2 口腔のリハビリテーションブラッシング
 1.口腔のリハビリテーションブラッシングとは
  いま,どうして「口腔のリハビリテーションブラッシング」?
  リハビリテーションとは
  従来のブラッシングとの違い
  口腔のリハビリテーションブラッシングを始める前に
  脳卒中患者の口腔ケアとは?
  口腔のリハビリテーションブラッシングの特徴
 2.基本的アプローチの考えかた
  リハビリテーションの基本的アプローチ
  口腔のリハビリテーションアプローチの基本(考えかた)
 3.口腔のリハビリテーションを考えたブラッシングの具体的展開
  口腔のリハビリテーションを考えたブラッシングとは
  口の状態と機能の関係を知る
  口腔のリハビリテーションを考えたブラッシングの具体的展開
  基本的な問題を解決するには
 4.口腔のリハビリテーションブラッシングの効果
  どのような場合に有効であるか
  口腔のリハビリテーションブラッシングの注意点
  口腔のリハビリテーションブラッシングの指導法
 5.事例による口腔のリハビリテーションブラッシング活用法
  事例1 摂食障害を乗り越えたケース
  事例2 脳梗塞の後遺症を改善したケース
  事例3 経口摂取を取り戻したケース
 6.現場で使える口腔のリハビリテーションブラッシング
  口腔のリハビリテーションブラッシングの基本
  口腔のリハビリテーションブラッシングの応用
 7.口腔ケアと口腔のリハビリテーションブラッシング
  口腔ケアを考えた義歯の取り扱い
 8.口腔のリハビリテーションブラッシングQ&A
  おわりに
  参考文献