やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 本書は,「お茶の水摂食・嚥下研究会(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科高齢者歯科学分野主催)」における講演内容を基に編集したものである.本会が発足したのは,1999年3月のことであり,以後,毎月1回その道のエキスパートを講師に迎え勉強会を行ってきた.約7年が経過した現在,開催回数はすでに76回を数えようとしている.
 このような積み重ねのなか,金子芳洋先生にお話いただいた最初の14回の記録は,「摂食・嚥下リハビリテーションセミナー/講義録I正常機能の理解,II機能障害とその対応」の2冊(いずれも医学情報社刊行)として既に発行した.そこで本シリーズでは,その後の多くの講演の再現を狙うとともに,新たに読者の便を考えテーマ別に整理,加筆等を行い,さらには書き起こした章も加え編纂したものである.そのような特性から,本書での内容は敢えて重複を避けてはいない.その分,有機的に関連して,内容がよく理解できるようになっているのではないだろうか.講演会の内容を土台としているため,このように通常の教科書では不可能な構成を可能とすることができた.
 摂食・嚥下障害は,我が国の高齢化の進展につれて,これからますます重要な課題となることは間違いない.なぜなら,加齢に伴って(1)喉頭の下降,(2)嚥下にかかわる筋力の低下,(3)摂食に対する集中力の低下などがみられるようになり,摂食・嚥下機能の低下が発生するからである.さらに,高齢者は生活習慣病に罹患する比率が高いが,その中には脳血管障害のように深刻な後遺症として摂食・嚥下機能障害を残す疾病がある.これに対する医療および介護の体制は,決して十分とはいえないのが現状である.
 このようななかで,いかにして摂食・嚥下機能を評価するのか,そしていかにして摂食・嚥下障害に対処するのか,そもそも摂食・嚥下機能とは何か,機能回復というリハビリテーション医学の根源的理念を随所に散りばめつつ,本書では食べる機能の障害と向き合っていく.また,摂食・嚥下障害への対処ではチームアプローチが必須であるが,本書では摂食機能療法に関連した多くの職種の方々が,それぞれの持つ現場での苦労,その対処法を出し惜しみしないで書いて下さった.教科書では書けない試行錯誤の記録もある.貴重な情報が目前に提示されている.あとは本書を読んだ読者がどのようにこれを利用し,目の前の患者さんに応用してくださるかである.
 本書で焦点をあてられなかった講演演題も多々あるが,それらのなかから体系立てられるものについては,時をおかずに世に出すことができるよう,既に編集作業に掛かっている.これらの講演の記録が多くの人を摂食・嚥下の領域に導き,そしてこの領域を盛り上げて下さる力となることを願って,監修の言葉を結びたい.
 平成17年8月
 植松 宏
 ・序文
 ・カラーグラフ

I編 摂食・嚥下の基礎
 1 摂食・嚥下障害とは
  1.はじめに
  2.背景
  3.入院患者の口腔内
  4.リハビリテーションに必要な概念
  5.摂食・嚥下障害とは
  6.まとめ
 2 摂食・嚥下のメカニズム
  1.はじめに
  2.摂食・嚥下器官の解剖とメカニズム
 3 加齢・疾患による口腔機能の変化
  1.はじめに
  2.高齢者の多様性
  3.健康を維持するための口腔の機能
  4.脳血管障害後遺症者と口腔の機能
  5.そして,歯科医師としての立場から
II編 摂食・嚥下障害の評価法
 4 摂食・嚥下障害治療の流れ
  1.はじめに
  2.症状,病歴,スクリーニングテストなど
  3.検査
  4.リスク管理,ゴール,カンファレンス
  5.リハビリテーションの考え方
 5 どのような場合に摂食・嚥下障害を疑うか
  1.はじめに
  2.摂食・嚥下障害を疑う主たる症状
  3.誤嚥性肺炎はさまざまな因子の重なり
  4.問診・診察(医療面接)時に大切なこと
 6 機能評価の重要性と簡単にできるスクリーニング
  1.機能評価の重要性
  2.機能評価はどのように行うか
  3.スクリーニング・検査
 7 頸部聴診法による摂食・嚥下障害のスクリーニング
  1.頸部聴診法とは
  2.頸部聴診法に用いる器具
  3.頸部聴診法による判定
  4.頸部聴診法の判定精度
  5.頸部聴診法の判定精度を上げるには
 8 VFを利用しない摂食・嚥下障害の評価法
  1.はじめに
  2.VFを利用しない摂食・嚥下機能評価法の位置づけ
  3.VFを利用しない摂食・嚥下機能の評価法
  4.まとめ
 9 VFを利用した摂食・嚥下障害の評価法
  1.はじめに
  2.VFの概要と必要な機器
  3.VFの弊害
  4.評価項目
  5.VFを用いて評価した症例
  6.まとめ
 10 言語聴覚士の立場からみた機能評価
  1.はじめに
  2.的確な評価の意義
  3.いつ,どのような評価を行うか?
  4.評価項目
 11 Functional Independence Measure(FIM)によるADLの評価
  1.はじめに
  2.帰結研究の重要性と評価尺度
  3.ADLの評価
  4.FIMの概要
  5.今後の展開
III編 摂食・嚥下障害への対処法
 12 摂食・嚥下リハビリテーションをはじめる前に
  1.はじめに
  2.食べる場面を観察しよう
  3.患者さんを支える医療,福祉スタッフや社会資源を知ろう
 The Supplementary Lecture 摂食・嚥下訓練の代表的手法
  1.はじめに
  2.間接訓練
  3.直接訓練
  4.まとめ
 13 対象疾患別にみた摂食・嚥下リハビリテーション
  1.はじめに
  2.疾患ごとの実例
  3.おわりに
 14 口腔がんと摂食・嚥下障害
  1.はじめに
  2.口腔がん術後に生じる摂食・嚥下障害の特徴
  3.摂食・嚥下リハビリテーションは術前より開始される
  4.口腔がんの患者さんに起こる摂食・嚥下障害の原因について
  5.口腔がんの患者さんに対するリハビリテーション
  6.嚥下障害に対する手術的介入
  7.歯科補綴物による対応
  8.メディカル・メイク・アップ
 15 地域における摂食・嚥下障害への対処の実際―管理栄養士としての立場から
  1.地域における現状と課題
  2.地域における在宅栄養サポートシステム
IV編 摂食・嚥下リハビリテーションの現状
 16 摂食・嚥下リハビリテーションの現状と今後の展望
  1.世界で発展してきた摂食・嚥下リハビリテーション
  2.摂食・嚥下研究の現状
  3.摂食・嚥下に関する今後の展望
  4.要介護状態と摂食・嚥下障害

 ・文献
 ・索引