やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

訪問診療の輪を広げよう
 歯科医師として一番の幸せを感じられること,そして歯科医師冥利につきることは,患者さんから喜ばれ感謝されることでしょう.私たちは患者さんからの「ありがとう」に背を押されて診療をしていると言っても過言ではないように思います.
 超高齢社会を迎えたわが国のこれからの歯科医師の仕事として,「生涯自分の口からおいしく食べる!」という,人として当然の願いをかなえてさしあげることが,そして「終生あなたのお口の健康は私が守ります!」という姿勢を示し続けることが,患者さんとの信頼を築くうえでの「礎」となると考えています.
 私も開業して35年が経ち,たとえば60歳から診ている患者さんは95歳になります.当然のことながら認知症を患っている方,運動機能の低下によりお家から出られなくなってしまった方,寝たきりになってしまった方もおられて,そうした患者さんはそれぞれの暮らしの場で歯科治療や口腔ケアを待ち望んでいるのです.そして,行動の範囲がせまくなってしまった方々は,いっそう食べることに楽しみを求め,終生自分の口からおいしく食べたいと切望しているのです.
 これぞ歯科医師の出番!!歯科医師冥利につきる仕事がここにあるのではないでしょうか?
 私たちは,ニーズがあり,患者さんが求めてくださっているのであれば,患家へ出向き,必要な治療を行い,おいしく食べられるようにしてさしあげる,誤嚥を防ぎ,摂食機能を低下させないようトレーニング法をお伝えする,唾液腺機能を低下させないよう唾液腺マッサージをする等々の役割を果たす必要があります.これらは「かかりつけ歯科医師」として「当然すべきこと」「歯科医師としての責務」だと考えています.
 「あなたの“食”は私が生涯守ります!」これほど患者さんにとってインパクトのある言葉はないはずです.そして,これを追求することは,歯科医師としての矜持なのです.
 本書は,訪問歯科の専門ではない一般の歯科医院が,患者さんから求められ,迷い悩みながら一歩一歩訪問歯科に参画し,大変ではあるけれど,患者さん,そしてそのご家族から喜ばれ,感謝され,やりがいのある訪問診療を行ってきた実践記録でもあります.理想をいえばきりがありませんが,まずは出かけてみて,在宅の患者さんとふれあうことをはじめてみませんか?
 これまでの通院できる患者さんだけを診ていた時代から脱却して,「在宅」という「無歯科医地域」を放置せず,全身の健康状態に大きな影響をもつ口腔を少しでもよい状態にすべく,訪問診療に取り組む歯科医師,歯科医院の輪が広がることを心から願っています.
 2013年 盛夏
 高橋英登
第1編 なぜ,いま,訪問診療なのか
 1章 この国の行方
  ・日本の人口構造
  ・平均寿命と健康寿命
  ・医療費や介護給付の自然増
 2章 医療の転換
  ・急性疾患から慢性疾患へ
  ・介護保険
 3章 歯科の現場では
  ・診療室の現状
  ・これから目指すべきは?
 4章 発想の転換が必要
  ・社会のニーズに応えているだろうか?
  ・「治す」から「守る」へ
  ・メインテナンスは21世紀の医療
 5章 歯科医師は真のかかりつけ医
  ・「一生あなたの歯を守ります」という決意
  ・「はじめの一歩」を踏み出してみよう
  ・これ,どうしたらよい?
 6章 構えずにまずは行ってみよう
  ・最小限の器材でスタート
  ・全身疾患についての理解
  ・喜んでいただけるのは?
  ・訪問診療の基本方針と,費用を請求することの意味
 7章 地域で信頼される歯科医院に/地域ネットワークへの参加
  ・地域の歯科医院に
  ・歯科的支援を地域に届ける
第2編 訪問診療事務の基礎知識
 1章 訪問診療前の情報収集
  ・訪問診療の依頼
  ・依頼を受けたら聞いておくこと
  ・地理的条件と訪問可能な施設
 2章 具体的なステップ
  ・訪問の日時を決定するまで
  ・訪問前日の確認事項
  ・当日(初診時)の事務手続きのチェックポイント
  ・2回目以降の手続き
 3章 訪問先から戻ってきたら/各種文書の作成
  ・文書作成チェックリスト
  ・作成が必要な文書
 4章 訪問診療の保険制度とは
  ・訪問診療の保険請求のしくみ
  ・居宅療養管理指導とは
  ・訪問診療の医療保険・介護保険の請求項目
 5章 医療保険・介護保険の請求
  ・請求先
  ・請求書式
 6章 医療保険・介護保険Q&A
  ・よくある質問
  ・医療保険Q&A
  ・介護保険Q&A
第3編 前準備と訪問診療Q&A
 1章 在宅で行う診療行為
  ・どんなことをすればよいのか?
  ・最低これだけは準備したい
 2章 器材の準備
  ・各診療に必要な器材
  ・目的別必要器材
  ・ステップアップした場合の器材の一例
 3章 こんなことが不安/訪問診療Q&A
  ・はじめての訪問診療
  ・こんな場合はどうするか?
第4編 行ってみよう!訪問診療
 1章 患者さんの状態の把握
  ・診療時の患者さんの体位は?
  ・うがいはできるのか?
  ・急に患者さんの具合が悪くなったら?
 2章 行ってみました訪問診療・
  ・はじめての訪問診療
  ・事例にみる訪問診療の流れ
 3章 当院の訪問診療の現在
  ・さらなる診療内容の充実
第5編 全身疾患について知っておこう
 1章 全身疾患の理解をどうするか?
  ・訪問診療と全身疾患
  ・事前の情報取得
  ・緊急事態のために
 2章 虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)
  ・こんな病気
  ・訪問診療時の注意点
  ・その他の注意点
 3章 脳血管障害(脳卒中)
  ・こんな病気
  ・訪問診療時の注意点
 4章 糖尿病
  ・こんな病気
  ・訪問診療時の注意点
 5章 高血圧
  ・こんな病気
  ・訪問診療時の注意点
  ・その他の注意点
 6章 認知症
  ・こんな病気
  ・訪問診療時の注意点
 7章 喘息
  ・こんな病気
  ・訪問診療時の注意点
 8章 骨粗鬆症とビスフォスフォネート使用患者
  ・こんな病気
  ・訪問診療時の注意点
  ・その他の注意点
 訪問診療に携わってみて