やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 私は大学卒業後,九州大学歯学部口腔外科学教室に入局し,田代英雄主任教授(現在,九州大学名誉教授)のもとで学んだ.
 その後,熊本県本渡市(現 天草市)で開業したが,1986 年スイス・ワルデンブルグ開催のITIコングレスに大信貿易株式会社の中島 勲氏(当時,社長)のご厚意で故添島義和氏と一緒に参加し,幸運にもその直後にITI(ストローマン)インプラント指導者養成コース(世界から40 名が選抜)を受ける機会を得た.それを機に近代インプラント治療に取り組むことになったわけであるが,当時,補綴法にインプラントといった新しい概念が加えられたことで,欠損補綴分野での新時代の到来を予感し,感動と興奮を覚えながら帰国したことを鮮明に覚えている.
 その後,今日まで努力を惜しまずにインプラント治療に没頭してきたが,インプラント治療は無歯顎のオーバーデンチャー,ボーンアンカードブリッジから部分欠損症に至るまで咬合再建に欠かせない手法となり,さらには審美も実現するなど,多岐にわたる治療法としての地歩を築くことになる.
 私のインプラント治療におけるターニングポイントは,
 (1) 1990 年に,日本で初のGBR症例を手がけることができ,今日,GBR-Newのテクニックまでも提案できたこと
 (2) 2002 年から,モディファイドスカンジナビアブリッジからAll-on-4 に至る即時荷重法を臨床に定着させたこと
 (3) 2006 年から,トップダウンの3Dプランニング,ガイデッドサージェリー,CAD/CAM補綴といった一連のデジタルソリューションの活用を臨床の基盤として実践できたこと
 である.特に,即時荷重とデジタルソリューションの分野では,ノーベルバイオケア社のシステムと情報提供が大きな力となったことも事実である.
 本書は,私が目指した低侵襲で確実性のあるインプラント治療にやっとの想いで到達した軌跡をまとめあげたものである.是非,皆様のインプラント治療成功のための参考にしていただけたら幸いである.
 2017 年7 月
 中村社綱
Opening Case Presentation インプラント治療の効果
Chapter 1 インプラントの基礎知識
 1 オッセオインテグレーションの達成条件
 2 インプラントの生物学的特徴
  1)インプラント周囲組織のプラークに対する抵抗性
  2)インプラントの生物学的幅径
 3 インプラントの基本構造(補綴装置の連結様式について)
  1)ボーンレベルコネクション
  2)ティッシュレベルコネクション
 4 治療の選択肢
  1)治療についての説明
Chapter 2 インプラントのリスクファクターとその解決策
 1 インプラントのリスクファクター
  1)糖尿病
  2)喫煙
  3)BP製剤投与
 2 局所的リスクファクター
  1)骨形態,骨量
  2)骨密度,骨質
  3)骨の病変
 3 補綴的リスクファクター
  1)インプラントと天然歯の被圧変位量の差
  2)非軸方向荷重(傾斜埋入,カンチレバー,オフセットロード)
  3)天然歯との連結
  4)パラファンクション
 4 インプラント手術時のリスクファクター
  1)大きな血管の損傷
  2)神経への穿孔
  3)歯根への穿孔
  4)上顎洞への穿孔,インプラント迷入
  5)不正確な埋入
Chapter 3 デジタルソリューションの活用
 1 骨支持のサージカルガイドの活用
 2 歯牙支持のサージカルガイドの活用
 3 新しいソフトウェア(Nobel Guide)の活用
 4 インプラント治療のデジタル化
 5 デジタル化したインプラント治療の実際
Chapter 4 インプラントの治療計画
 1 インプラント治療の手順
  1)診査・診断
  2)患者の選択と患者とのコミュニケーション(インプラント治療の除外基準)
  3)インプラント埋入計画
 2 1歯欠損の治療計画
  1)上顎臼歯部1歯欠損
  2)下顎臼歯部1歯欠損
  3)上顎前歯部1歯欠損
  4)下顎前歯部1歯欠損
 3 少数歯欠損の治療計画
  1)臼歯部遊離端欠損
  2)前歯部中間欠損
  3)グラフトレスのインプラント治療
 4 多数歯欠損の治療計画
 5 無歯顎の治療計画
  1)ボーンアンカードブリッジ
  2)インプラントオーバーデンチャー
Chapter 5 インプラントと歯周治療・修正治療
 1 プラークコントロールの重要性
 2 歯周治療における咬合支持の重要性
 3 歯周環境の改善策
 4 抜歯の基準
Chapter 6 荷重時期に対する考え方
 1 部分欠損における即時荷重
 2 無歯顎における荷重時期
  1)早期荷重
  2)即時荷重
Chapter 7 インプラント手術
 1 手術の準備
  1)インプラント手術の準備
  2)清潔域の獲得と滅菌
  3)患者の準備
  4)術者,メインアシスタントの準備
  5)患者のドレ-ピング
  6)基本的アシスタントワーク
 2 基本的なインプラント手術
  1)麻酔
  2)粘膜骨膜弁の剥離
  3)インプラント埋入窩の形成(侵襲性の低い術式)
  4)手術
  5)インプラント手術後からの管理
 3 アドバンスなインプラント手術
  1)フラップとフラップレス
 4 ガイデッドサージェリー
  1)ガイデッドドリルキットの整備,サージカルガイドの固定
  2)ドリルプロトコール
  3)デジタル化の流れ
 Column 審美的な補綴のためのティッシュスカルプティングの方法
Chapter 8 インプラントの骨造成法
 1 骨造成
  1)骨再生のメカニズム
  2)自家骨移植
  3)GBRによる骨造成
  4)CGFによる骨再生
 2 GBR-New
  1)GBR-Classic
  2)GBR-New
 3 サイナスリフト,低侵襲のソケットリフト
  1)サイナスグラフトにおける治癒のメカニズム
  2)サイナスグラフトのリスクファクター
  3)手術の難易度と関わる解剖学的因子
  4)低侵襲のソケットリフト
Chapter 9 さまざまな骨形態への対応
 1 Class 0:フラップレスのガイデッドサージェリー
 2 Class 1:ソケットプリザベーション
 3 Class 2,3:GBR-New
 4 Class 4: GBR-New変法(ステージドアプローチ)
 5 Class 5:骨ブロック移植
Chapter 10 補綴装置
 1 補綴装置に求められる要件
  1)理想的補綴装置の選択
  2)適合精度
  3)強度があり,たわみのないデザイン
  4)上部構造の材質
 2 補綴装置製作時に知っておくべきこと
  1)横ネジシステム
  2)サブストラクチャーシステム
  3)天然歯とインプラントの連結補綴
 3 インプラントオーバーデンチャー
  1)インプラントオーバーデンチャーに利用するアタッチメントの選択
 4 咬合について
Chapter 11 インプラントのメインテナンス
 1 メインテナンスについての説明
 2 メインテナンスの手順
  1)診査・診断(再評価)
  2)モチベーションとTBI
  3)プロフェッショナルケア
 3 メインテナンスの間隔
 Column 累積的防御療法(CIST法)
Cases 症例
 抜歯即時埋入を行った症例(半澤栄一)
 上下顎のリッジプリザべーション後にインプラント治療を行った症例(白鳥清人)
 ディープバイトにおいてインプラント治療前に解決すべきこと(城井かおり)
 Columnインプラント生存率の分析(高山賢一)
 インプラント治療により咬合支持を回復した症例(田中道子)
 自家歯牙移植の活用〜ソケットリフトを用いた上顎臼歯部への欠損補綴〜(甲田和行)
 インプラントポジションと矯正治療(稲留裕士)
 Columnコンピュータガイドシステムを用いた歯科医師とコデンタルのコラボレーション(木津康博)
 スプリントを用いて下顎位を模索し咬合再構成を行った症例(藤本 博)
 欠損歯列のリスクマネジメントを考慮したインプラントを用いた咬合再構成(西山 敦)
 ザイゴマインプラントにより高度に萎縮した上顎骨に抜歯即時埋入を行った症例(下尾嘉昭)
 Column咬合崩壊症例におけるクロスアーチスプリントの有用性(永田省藏)
 先天性欠損部への骨造成とインプラント(小谷武司)
 GBR-Newの経験(山田陽子)
 遊離端欠損症例へのプロビジョナルレストレーションの重要性(松永 久)
 Columnダブルサージカルテンプレートテクニックとトリプルアンカーピンテクニックによる手術(三好敬三)
 残存歯利用のプロビジョナルレストレーションと硬・軟組織造成による審美的なインプラント治療(藤浪 敦)
 Column上顎抜歯後のインプラント治療におけるサブストラクチャー有無の予測(古野義之)