やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 近年の数多く開催され盛況な講演会や次々と出版される臨床書籍をみると,歯内療法に関する感心の高まりを感じる.自分の歯を保存したいという患者の要望や高度な補綴処置を行うために,その土台となる歯内療法の重要性を歯科医師が再認識したという外部環境的な要素のほか,ニッケルチタンファイルやマイクロスコープ,コーンビームCTなどの最新機器の導入により,治療の過程が明確になり,精度が向上したという歯内療法自体の進歩が,相乗的に作用した結果であろう.
 これまでさまざまな歯内療法の臨床に関する書籍が発刊されてきたが,根管形態の予想もせずにニッケルチタンファイルを挿入するとどのような結果が待っているだろうか.マイクロスコープで根管口を観察したとしてもどのような解剖学的形態がそこに存在するか知らずに覗いていても,それに気づくことはできるだろうか.コーンビームCTは毎回撮影するわけにはいかないし,三次元で観察できるとしても,実際に頭のなかに三次元の根管形態が浮かんでくるでだろうか(駅構内の立体地図をみて,どれだけの人が目的地に間違いなくたどり着けるだろうか).筆者としては,こうした疑問を抱かずにはいられなかった.
 歯内療法は,主として根管系を対象とする学問であり治療である.その根管系の基本情報である解剖学的形態を理解せずして,治療を行うことはあってはならないはずであり,良好な結果は期待できない.もちろん,大学教育で歯の解剖学を習うわけであるが,学生のカリキュラムでは解剖学の一部として骨学や筋学などの並びで教育されるため,どうしても暗記の学問として捉えてしまい,その知識を臨床に活かすことが難しいようだ.
 1920 年代のHessの透明墨汁注入標本などをみると,根管系は複雑に分岐しており,そのすべてを拡大・形成することは不可能である,と思わざるを得ない.しかし,複雑だからといって根管形態の理解を放棄してはいないだろうか.現実に器具を挿入して操作できる太さは10 号,すなわち0.1mmレベルである.これよりも細い根管分岐や側枝を気にしても臨床的にはあまり意味はないのである(もちろん,洗浄や貼薬などにより微細な形態に存在する歯髄や感染源に対処はする).いわゆる主根管といわれる根管形態を理解することが臨床的に重要となる.
 そこで,本書では各歯種に現れる主根管の代表的な根管形態をCGを用いて構築し,それを利用者にソフト上で自由に動かしてもらうことにより,本当の意味での三次元の根管解剖の感覚を養ってもらうことを目的とした.
 根管の形態は千差万別であり,二つとして同じ形態は存在しない.そして,今回のCGで描かれた歯は代表的な形態ではあるが,すべてではない.たとえるなら,日本地図の上に新幹線の路線図を載せた程度であり,実際にはさらに細かく張り巡らされている鉄道網は無視していると考えてもらってもよい.しかしまず,主要な形態を押さえてから歯内療法の旅に出発していただきたい.
 本書の歯や根管の形態については,実際の抜去歯,治療用に撮影したコーンビームCTやデンタルエックス線写真,抜去歯のコーンビームCT,治療中のマイクロスコープ像,各種論文などを提供して,CADのプロにCGの作成をお願いをして一から形態を組み上げてもらった.CADのプロは歯科のプロではないので,筆者とのやり取りの中で細かい形態の調整を行った.三次元のCG像を二次元の平面で切り出した図でみると違和感を覚える箇所もあるかもしれないが,平面による切り口の錯覚のようなものであることが多いので,なるべく三次元のCGを動かして形態を捉えるようにしていただいたほうがよいと考えている.
 さまざまな歯内療法の知識やエビデンスも,それを適用する根管を知ってこそ活かされる.歯内療法の第一歩である根管解剖の面白さを知り,さらに興味を持っていただければ幸いである.
 平成29 年6 月
 木ノ本 喜史
 はじめに
 本書を利用するにあたっての注意事項
 CGソフトウエアの利用について
上顎
1 上顎中切歯
 (1) 外形の特徴 (2) 歯髄腔の形態 (3) 髄腔開拡 (4) 髄腔開拡〜根管形成
 コラム:トランスポーテーションとは コラム:根管形成の進め方
2 上顎側切歯
 (1) 外形の特徴 (2) 歯髄腔の形態 (3) 髄腔開拡 (4) 髄腔開拡〜根管形成
3 上顎犬歯
 (1) 外形の特徴 (2) 歯髄腔の形態 (3) 髄腔開拡 (4) 髄腔開拡〜根管形成
4 上顎第一小臼歯
 (1) 外形の特徴 (2) 歯髄腔の形態 (3) 髄腔開拡 (4) 髄腔開拡〜根管形成(2根管) (5) 髄腔開拡〜根管形成(2-2-1タイプ)
 コラム:加藤の分類
5 上顎第二小臼歯
 (1) 外形の特徴 (2) 歯髄腔の形態 (3) 髄腔開拡 (4) 髄腔開拡〜根管形成(1 根管) (5) 髄腔開拡〜根管形成(2 根管)
 コラム:イスムスの形成
6 上顎第一大臼歯
 (1) 外形の特徴 (2) 歯髄腔の形態 (3) 髄腔開拡 (4) 髄腔開拡〜根管形成
7 上顎第二大臼歯
 (1) 外形の特徴 (2) 歯髄腔の形態 (3) 髄腔開拡 (4) 髄腔開拡〜根管形成
下顎
8 下顎中切歯
 (1) 外形の特徴 (2) 歯髄腔の形態 (3) 髄腔開拡 (4) 髄腔開拡〜根管形成
9 下顎側切歯
 (1) 外形の特徴 (2) 歯髄腔の形態 (3) 髄腔開拡 (4) 髄腔開拡〜根管形成
10 下顎犬歯
 (1) 外形の特徴 (2) 歯髄腔の形態 (3) 髄腔開拡 (4) 髄腔開拡〜根管形成
11 下顎第一小臼歯
 (1) 外形の特徴 (2) 歯髄腔の形態 (3) 髄腔開拡 (4) 髄腔開拡〜根管形成
12 上顎第二小臼歯
 (1) 外形の特徴 (2) 歯髄腔の形態 (3) 髄腔開拡 (4) 髄腔開拡〜根管形成
13 下顎第一大臼歯
 (1) 外形の特徴 (2) 歯髄腔の形態 (3) 歯髓腔の形態(遠心根の状況) (4) 髄腔開拡 (5) 髄腔開拡〜根管形成
14 下顎第二大臼歯(樋状根でない形態)
 (1) 外形の特徴 (2) 歯髄腔の形態 (3) 髄腔開拡 (4) 髄腔開拡〜根管形成
15 樋状根
 (1) 樋状根の分類と外形の特徴 (2) 歯髄腔の形態 (3) 歯髄腔の形態その2 (4) 根管形成

 文献
 索引