やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2 版 発刊に寄せて
 この度,日本口腔顔面痛学会編として『口腔顔面痛の診断と治療ガイドブック第2 版』を上梓することとなりました.編集委員会の皆様,ご執筆いただいた先生方の努力の賜物であり,心から感謝申し上げます.とりわけ矢谷編集委員長のご尽力に敬意を表します.また医歯薬出版株式会社には企画・編集で大変にお世話になり,改めて感謝申し上げます.
 さて,本学会では平成25 年7 月に,『口腔顔面痛の診断と治療ガイドブック』を発刊しました.わが国初の口腔顔面痛の教科書であり,これまで体系づけて記されていなかった口腔顔面痛,非歯原性歯痛のメカニズム,診断と治療を解説した成書として大きなインパクトを歯科界にもたらしました.その結果,皆様ご存知のように,歯科医師国家試験出題基準にも神経障害性疼痛,非歯原性歯痛が収載され,実際の出題もなされるようになりました.コアカリキュラムの改訂に当たっても,当然のことながら本領域がしっかりと包含されるようになります.またすでに各大学においては口腔顔面痛の教育が進められています.
 そのため第1 版は,上梓から3 年足らずで既印刷分が売り切れる事態となりました.増刷するか,改訂する,医歯薬出版株式会社と学会執行部で何度か話し合いを持ちました.第1 版は皆で手分けして全力で執筆・編集いたしましたが,少々気にかかっていたところがあったため,発刊からまだ3 年しか経っておりませんが全面改訂を行うこととした次第です.
 改訂に当たっては,まずは掲載事項を吟味し,臨床的に必要な口腔顔面痛の領域を網羅しております.そのため掲載項目は第1 版と比べ格段に充実しているものと思います.また目次も整理し,体系的な学習,知識の習得が可能となるようになっております.さらに何といっても,各項目の内容が大変に充実していることに,読者の皆様はお気づきになられることでしょう.
 歯学生諸君には,本書から歯科にとって大きな領域を占める口腔顔面痛への理解を深めていただきたいと思います.さらに,口腔顔面痛に専門的に対応する歯科医師への道へ誘うことができればとも思います.また本書を手に取っていただきました諸先生方におかれましては,本書を活用していただき,口腔顔面痛でお困りの患者様へ,適切な医療を提供されるよう祈念いたします.
 最後になりますが,日本口腔顔面痛学会理事長として第1 版に引き続き,第2 版の発刊に際しても巻頭言を書く機会を持てたこと,大変に光栄に思っております.本学会は会員数も少ない小規模の学会ですが,本書の発刊も含め,会員の皆様の情熱で大変にアクティブに,また効果的に活動をしていることを誇りに思います.
 平成28 年9 月
 日本口腔顔面痛学会理事長
 佐々木啓一

第2 版 序文
 この度,『口腔顔面痛の診断と治療ガイドブック』を全面的に改訂し,第2 版を上梓することができました.編集に力を注いでくださいました日本口腔顔面痛学会のガイドブック委員会の皆様ならびにご執筆の労を取っていただいた諸先生方に厚くお礼申し上げます.
 本書は,ICOP 2016(第21 回日本口腔顔面痛学会学術大会,第16 回アジア頭蓋下顎障害学会学術大会,国際疼痛学会Special Interest Group on Orofacial Pain2016共催学会)に合わせて発刊することとしたため,執筆者の皆様には短期間での執筆ならびに編集校正作業を強いることとなりましたが,すべての方々に全面的な協力をいただき,何とかICOP 2016開催前に発刊にこぎつけることができました.ここに改めて執筆者の方々ならびに医歯薬出版株式会社の関係各位に深謝いたします.
 編集にあたっては,歯科医学生やこれから顎口腔顔面領域の疼痛について学ぶ方々の学習の便宜を図るため,各章に学習目標を設けるとともに,日本口腔顔面痛学会の認定医取得を目指す方々や口腔顔面痛の各領域の専門家の方々まで幅広く活用いただけるように図表を多く取り入れ,最新のエビデンスを記載することを執筆者の方々にお願いしました.その結果,第1 版と比較してより包括的で充実した内容となり,口腔顔面痛に関する成書として他に比類のない完成度となりましたことは委員長として望外の喜びです.
 本書が痛みの初学者の学習を助け,痛みの研究者の研究に役立ち,さらに痛みの臨床の最前線に立っている方々の臨床に活用されることを願い,さらに口腔顔面の痛みに苦しむ人々の快癒につながることを願って序文とします.
 平成28 年9 月
 日本口腔顔面痛学会ガイドブック委員会委員長
 矢谷博文

第1 版 発刊に寄せて
 このたび多くの先生方のご尽力と医歯薬出版株式会社のご協力により,日本口腔顔面痛学会編として『口腔顔面痛の診断と治療ガイドブック』を発刊することができました.疼痛の機序から具体的な口腔顔面痛治療までを系統立ててまとめた,わが国では初の口腔顔面痛の教科書となります.このようなときに理事長を務めさせていただき大変光栄に思うとともに,諸先生方のご貢献に深く感謝申し上げます.
 皆様ご存じのように,分子生物学や分子イメージングをはじめとして生命科学領域の研究手法が大きく発展し,疼痛に関する理解は近年,著しい進歩をみています.それに伴い口腔顔面部の疼痛に関する考え方も大きく転換し,歯痛を含めた口腔顔面痛という概念が形成されました.しかしながら,今なお疼痛,特に慢性疼痛に関する考え方は日々進化しており,口腔顔面痛への理解,そして治療法も日進月歩しています.そのため口腔顔面痛の病態,機序,治療法を正しく理解することは,長らく治療,研究に携わってきた者にとっても難しく,ましてやこれから口腔顔面痛の臨床,研究に取り組もうとする若い歯科医師,医師には大変ハードルの高いものとなっていました.
 そのようななかで,たしかにこれまでにも口腔顔面痛について記した書籍はありましたが,最新の知見に基づいて系統立った学習を行ううえでは適さないものとなっています.そこで日本口腔顔面痛学会では,わが国唯一の専門学会の使命として,口腔顔面痛に対する正しい知識を口腔顔面痛に対応する歯科医師,医療者へ供与し,口腔顔面痛に苦しむ患者が有効な治療を享受し得ることを目的として,本書を編纂しました.
 口腔顔面痛そのものが,いまだすべてが解明された疾患ではなく,日々新たな知見が見出されている状況ですので,本書の記載が必ずしも十分であるとはいえません.学問の進歩に応じ,順次改訂していく必要性を認識しています.しかし,これまで多くの口腔顔面痛患者が原因不明とされたり,あるいは誤った診断がなされ,不適切な治療がなされてきた不幸な状況を脱却するためには,より多くの歯科医師,医師が口腔顔面痛への正しい認識を持つことが重要です.本書は,現在まで口腔顔面痛に対応されてきた方々がこれまでの知識を整理するうえで,またこれから学習される方々が系統立った知識を得るうえで大変有用であるものと確信しています.
 歯科医師国家試験出題基準の平成24 年度改訂により,口腔顔面痛が出題項目として初めて採用されました.本書が口腔顔面痛のスタンダードな教科書として育ち,人々の安寧な生活の保障,QOL向上に資することを祈念しております.
 平成25 年7 月
 日本口腔顔面痛学会理事長
 佐々木啓一

第1 版 序文
 平成21 年に日本口腔顔面痛学会が合併発足以来,わが国の実情に合ったテキストの作成を活動項目の一つとしてきました.平成23 年度,厚生労働省の科学研究費活動として「慢性の痛み対策研究事業」における“「 痛み」に関する教育と情報提供システムの構築 ”で,大阪大学医学部の柴田政彦先生らが中心となり医療関連の教育コンテンツの構築が始まりました.24 年度重点項目として歯学部向けの疼痛教育コンテンツの整備にも着手することとなり,急ピッチで顎口腔顔面領域の疼痛教育コンテンツの制作が推進されました.この作業と並行して,新たな顎口腔顔面領域の痛みについての教科書作成の企画が日本口腔顔面痛学会の理事会・評議員会で決定されました.それを受け教育啓発委員会が中心となり,教科書のコンセプト,体裁,項目立てと執筆者の選出などを企画・立案し推進しました.
 平成25 年2 月24 日には,制作された歯学部向けの疼痛教育コンテンツの評価セミナーが慶應義塾大学病院大会議室で開催され,70名あまりの参加者のもと, コメント, 提案,修正指摘など白熱したやり取りが行われました.この際に出た各種意見を参考に疼痛教育コンテンツと教科書を修正し完成度の高いものに仕上げました.
 『口腔顔面痛の診断と治療ガイドブック』の編集にあたり,歯科医学生をはじめ,これから顎口腔顔面領域の疼痛について学ぶ方々,日本口腔顔面痛学会の認定医を目指す方々,各領域の専門家の方々まで幅広く活用いただけるように図表を多く取り入れ,簡潔明瞭に記載することを執筆者の方々にお願いしました.また,さらに執筆依頼に際して,発刊を第18回日本口腔顔面痛学会(会長 柿木隆介先生.平成25 年7 月開催)に合わせたため,短期間での執筆ならびに編集校正作業を強いることとなり,関係された方々に多大なるご迷惑をおかけ致しました.私どもからの無理難題な依頼にも快諾いただき,発刊に向けて多大なるご尽力とご協力をいただきました執筆者の方々と,医歯薬出版株式会社はじめ関係各位に深く感謝を申し上げます.
 最後に本書が多くの方々の学習・臨床や研究のお役に立ち,活用され,そのなかから更なる新たな知見が見つかり,痛みで苦しむ多数の人々が1 日も早く痛みから解放されることをお祈り申し上げます.
 平成25 年7 月
 日本口腔顔面痛学会
 『口腔顔面痛の診断と治療ガイドブック』編集委員会
 今村佳樹,岩田幸一,金銅英二,佐久間泰司,谷口威夫,松香芳三,矢谷博文,和嶋浩一(委員長)
 教育啓発委員会
 篠田雅路,谷口威夫,矢谷博文,和嶋浩一,金銅英二(委員長)
第1章 痛みの発生メカニズム
 1.痛みの定義(岩田幸一)
  1)痛みの特殊性
  2)侵害刺激と痛み感覚
  3)痛みの分類
 2.口腔顔面痛の神経解剖(金銅英二)
  1)末梢神経系
  2)中枢神経系
 3.痛みの末梢メカニズム(武田 守,田代晃正)
  1)侵害受容器における活動電位の発生
  2)侵害受容線維(感覚線維)
  3)三叉神経節ニューロンの興奮性に対するエストロゲンの影響
 4.痛みの中枢メカニズム
  1)延髄および上部頸髄(岩田幸一,田代晃正)
  2)腕房核(岩田幸一,田代晃正)
  3)視 床(岩田幸一)
  4)大 脳(岩田幸一)
 5.痛みに伴う脳活動変化(柿木隆介)
  はじめに
  1)Aδ線維を選択的に刺激する方法
  2)C線維を選択的に刺激する方法
  3)事象関連fMRIの結果
  おわりに
 6.痛みの修飾機構(金銅英二,奥村雅代)
  1)末梢性感作
  2)中枢性感作
  3)上位中枢神経からの制御
 コラム ヒト脳機能測定装置を用いた舌感覚情報処理メカニズムの検索(坂本貴和子,柿木隆介)
第2章 痛みの病態生理学
 1.炎症性疼痛(田代晃正)
  1)末梢性機序
  2)中枢性機序
 2.神経障害性疼痛(岡本圭一郎)
  1)痛みのメカニズム
  2)神経障害性疼痛モデル
  3)末梢神経系の病態生理
  4)中枢神経系の病態生理
 3.がん性疼痛(小野堅太郎)
  1)末梢性機序
  2)中枢性機序
 4.関連痛(篠田雅路)
  1)発症機構
  2)口腔顔面領域にみられる関連痛
 5.心理状態と痛み(今村佳樹)
  1)痛みの定義としての精神・心理軸
  2)精神軸に関わる要因
  3)痛みの治療における精神・心理的側面からのアプローチ
 6.性差と痛み(岡田明子)
  1)性差が生じる痛みについて
  2)性差のある痛みが生じる主な疾患
 7.睡眠と痛み(石垣尚一)
  1)痛みが睡眠に及ぼす影響
  2)睡眠が痛みに及ぼす影響
  3)痛みの臨床における睡眠の評価
 8.痛みの個人差(福田謙一)
  1)生理的要因
  2)遺伝的要因
第3章 口腔顔面痛の評価と診断
 1.痛みの構造化問診(村岡 渡)
  1)痛みの構造化問診とは
  2)痛みの構造化問診の目的と評価
  3)痛みの構造化問診の実際
 2.痛みの測定・評価(瀬尾憲司)
  1)総 論
  2)各 論
 3.脳神経の診察(大久保昌和)
  1)なぜ脳神経の診察が必要か
  2)脳神経の検査法
 4.口腔顔面痛の分類と臨床診断推論(和嶋浩一)
  1)口腔顔面痛の分類
  2)口腔顔面痛の診断
第4章 口腔顔面痛の治療法
 1.薬物療法
  1)総 論(福田謙一)
  2)鎮痛薬(野間 昇)
  3)鎮痛補助薬(佐久間泰司)
  資料 口腔顔面痛治療に用いる薬剤(今村佳樹)
 2.局所麻酔薬(岡田明子)
  1)局所麻酔薬の作用機序
  2)局所麻酔薬としての局所作用とNaチャネル阻害薬としての全身作用
  3)局所麻酔薬を用いた鑑別診断
 3.神経ブロック(椎葉俊司)
  1)星状神経節ブロック
  2)三叉神経ブロック
  3)トリガーポイント注射
  4)大後頭神経ブロック
  5)翼口蓋神経節ブロック
 4.東洋医学的治療法(嶋田昌彦)
  1)東洋医学における基礎概念
  2)診察および診断法
  3)漢方治療
  4)鍼・灸治療
 5.物理療法(築山能大,古谷野 潔)
  1)温熱療法
  2)寒冷療法
  3)マッサージ療法
  4)電気療法
  5)レーザー療法
  6)超音波療法
  7)鍼治療
 6.運動療法(佐々木啓一)
  1)運動療法の基礎
  2)口腔顔面痛の運動療法
  3)推奨される運動療法
 7.認知行動療法(坂本英治)
  1)認知療法,認知行動療法とは
  2)慢性痛の認知行動療法
  3)認知行動療法の実際
  4)レジリエンス
 8.スプリント療法(鱒見進一)
  1)スプリント療法とは
  2)スタビライゼーションスプリント
第5章 口腔顔面痛の管理
 1.歯原性歯痛(北村知昭)
  1)発症機序
  2)病態生理
  3)診察・検査と診断
  4)治療
 2.非歯原性歯痛(松香芳三)
  1)発症機序
  2)病態生理,診察・検査と診断,治療
 3.咀嚼筋痛障害(小見山 道)
  1)発症機序
  2)病態生理
  3)診察・検査と診断
  4)治療
 4.顎関節痛障害(矢谷博文)
  1)発症機序
  2)病態生理
  3)診察・検査と診断
  4)治療
 5.顎関節円板障害(矢谷博文)
  1)発症機序
  2)病態生理
  3)診察・検査と診断
  4)治療
 6.変形性顎関節症(前川賢治,窪木拓男)
  1)疫学と自然経過
  2)発症機序
  3)徴候,画像所見と診断
  4)鑑別診断
  5)治療
 7.三叉神経痛(井川雅子)
  1)診察
  2)診断
  3)治療
 8.帯状疱疹後神経痛(坂本英治)
  1)発症機序
  2)病態生理
  3)検査と診断
  4)治療
 9.外傷性神経障害(和嶋浩一)
  1)発症機序
  2)病態生理
  3)診察・検査,診断
  4)治療
 10.口腔内灼熱症候群(舌痛症)(大久保昌和)
  1)口腔内灼熱症候群の定義と診断基準
  2)発症機序,病態生理
  3)診察・検査と診断
  4)管理
 コラム 歯科医師が口腔顔面痛診療を行う際に注意すべき法的問題(佐久間泰司)
第6章 口腔顔面痛の関連疾患
 1.全身疾患と口腔顔面痛(松香芳三)
  1)中枢性脳卒中後疼痛
  2)心臓疾患
  3)巨細胞性動脈炎
  4)帯状疱疹後痛
  5)精神疾患または心理社会的要因
  6)腫瘍,多発性硬化症
  7)ジスキネジア・ジストニア
 2.精神疾患に起因する慢性痛(山田和男)
  1)“身体化”症状としての歯痛
  2)身体表現性障害
  3)身体表現性障害の診断
  4)身体表現性障害の治療
  5)新しい疾患概念である“身体症状症”について
 3.頭痛と口腔顔面痛
  1)一次性頭痛の診断と治療(大久保昌和)
  2)口腔顔面痛に関連する二次性頭痛(顎関節症による頭痛)(大久保昌和)
  3)持続性特発性顔面痛(和嶋浩一)
  4)有痛性三叉神経ニューロパチー(和嶋浩一)
 4.ジスキネジアとジストニア(佐々木啓一)
  1)ジスキネジアとジストニアの臨床症状
  2)国際疾病分類におけるジスキネジア・ジストニア
  3)口腔顔面領域に発現するジスキネジア・ジストニア
  4)ジスキネジア・ジストニアのマネジメント
 5.緩和ケア(佐久間泰司)
  1)緩和ケアが対象とする4つの苦痛
  2)がん性疼痛に対する鎮痛薬治療(WHO方式がん疼痛治療法)
  3)鎮痛薬治療以外の治療法

 索引