やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

巻頭言
 さまざまなタイプの不正咬合や患者一人ひとりの個性・社会性を理解し,高質な矯正歯科治療を実現させるためには,われわれ矯正歯科医は幅広い知識や深い倫理観はもちろんのこと,臨床の場面において選択可能ないくつかの優れた技術をもち合わせている必要がある.
 特に,最近では矯正用固定源としてのミニインプラントの利用,ローフリクションブラケットや超弾性極細ワイヤーの開発,透明なアクリリックフィルムを成形したマウスピースによる治療など,新しい治療法・材料が目白押しである.
 そのなかにあって,表からは全くみえない「リンガルブラケット矯正法」は,唇側面のエナメル質や歯肉にダメージを与えずに治療ができ,バイオメカニクスの面でも従来の唇側からの矯正と比較して有利な点が多い.この矯正法は,1976年に日本の藤田欣也(元神奈川歯科大学教授)が世界に先がけてリンガル専用ブラケットを考案し,マシュルームアーチワイヤーを使用した歯列内側器械的矯正法として実用化をはかったことに端を発している.1996年には日本舌側矯正学術会(現 日本舌側矯正歯科学会)の会長であった森康典が代表訳著者となり『舌側矯正Dr.Gormanテクニック』を医歯薬出版より刊行したが,その後の十数年間にリンガルブラケット矯正法の進歩・発展は続き,CBCT(Cone beam CT)を利用した三次元診断,CAD/CAMを使った矯正技工,STbやIncognitoなどの新しいリンガルブラケット矯正装置の開発,ミニインプラントの応用など,さまざまな変化が起こっている.
 そこで,最新のリンガルブラケット矯正法をできるだけ多くの矯正歯科医に理解していただき,実際の矯正臨床に活用していただきたく,『矯正臨床ジャーナル』(東京臨床出版)に連載した内容をもとに加筆・修正を加えて本書を発刊することにした.多くの矯正歯科医に手にとっていただき,日々の臨床にご活用いただけることを切に願うとともに,皆様のご意見・ご感想やご提案・ご助言を賜りたい.
 なお,舌側からのマルチブラケットシステムによる矯正治療については,「歯列内側機械的矯正法(フジタメソッド)」「舌側矯正」「舌側からの矯正治療」などさまざまに称されているが,本書では『歯科矯正学専門用語集』(日本矯正歯科学会編,医歯薬出版発行)に基づき,「リンガルブラケット矯正法」とよぶこととした.
 2009年4月
 編著者を代表して 居波 徹
 巻頭言
PART1 リンガルブラケット矯正法の特徴(居波 徹,義澤裕二)
 1.リンガルブラケット矯正法の長所と短所
  1)リンガルブラケット矯正法の長所
  2)リンガルブラケット矯正法の短所
 2.リンガルブラケット矯正法の適応症と禁忌症
  1)リンガルブラケット矯正法の適応症(初心者向きの症例)
  2)リンガルブラケット矯正法の禁忌症
PART2 装置について(相澤一郎)
 1.リンガルブラケット矯正装置の特徴
  1)スロットタイプについて
  2)リンガルブラケット矯正装置の大きさとブラケット間距離について
  3)各種リンガルブラケット矯正装置の特徴
 2.リンガルブラケット矯正法のアーチワイヤー
PART3 診査,診断,治療計画,治療評価(吉田哲也,居波 徹)
 1.問診表と初診相談
  1)医科・歯科病歴
  2)主訴,期待(社会的・行動的因子)
   ・心理的ケアの重要性
   ・拒食症と歯の移動
   ・抜歯基準
   ・矯正治療終了後の形態の修復および審美処置
 2.臨床診査と各種分析
  1)顔貌に関する診査と分析
  2)頭部エックス線規格写真分析
  3)三次元分析(Three dimensional analysis)
  4)顎・口腔内の診査と模型分析
   ・矮小歯抜歯に関して臨床上考慮すべき事項
  5)顎機能と咬合機能に関する診査
 3.診断,治療計画
  1)治療目標の設定
  2)治療計画の立案,治療方針の設定
 4.予後評価
   ・三次元データの技工への応用
PART4 バイオメカニクス(義澤裕二,椿 丈二)
 1.上顎におけるバイオメカニクス
  1)上顎第一小臼歯抜歯の場合
  2)上顎非抜歯の場合
 2.下顎におけるバイオメカニクス
  1)下顎非抜歯の場合
  2)下顎第一小臼歯抜歯の場合
   ・ガミースマイルの改善
 3.固定の考え方
  1)上顎の固定
   ・ドリフトドンティクス
  2)下顎の固定
   ・ハーフリンガルブラケット矯正法
   ・スライディングメカニクスとループメカニクスの相違
PART5 技工操作(重枝 徹,佐奈正敏)
 1.リンガルブラケット矯正法の技工指示
  1)リンガルブラケット矯正法の歯科技工指示書
  2)技工指示の注意点
   ・歯の舌側面形態,不良補綴物の修正と萌出不十分な舌側面への対応
 2.リンガルブラケット矯正法の技工操作
  1)ブラケットポジショニングのための技工操作
  2)各種インダイレクトボンディング法
PART6 装着手順(佐奈正敏,重枝 徹)
 1.歯面清掃
 2.エッチング,水洗,乾燥
 3.ボンディング
   ・補綴された歯へのボンディング
   ・咬合挙上処置
 4.トレーの除去
 5.イニシャルアーチの装着
   ・ワイヤーエンドの処理
 6.ブラケットの撤去
 7.ブラケットの再装着
   ・個歯トレー以外での装着
   ・エステティックポンティックの装着
PART7 治療の実際(居波 徹,吉田哲也)
 1.リンガルブラケット矯正法の基本的な治療手順
 2.タイポドント
 3.リンガルブラケット矯正法で使用する器材
PART8 患者管理・マネージメント(相澤一郎)
 1.成人矯正の特徴
 2.口腔清掃指導
 3.コンサルテーション
PART9 包括治療(椿 丈二,布川隆三)
 1.リンガルブラケット矯正法とホワイトニング
  1)日本におけるホワイトニングの現状
  2)リンガルブラケット矯正法とホワイトニングの関係
 2.リンガルブラケット矯正法と包括治療
   ・Fillionのフリクションレスメカニクス
    包括治療の実際 Case 1
    包括治療の実際 Case 2
    包括治療の実際 Case 3
    包括治療の実際 Case 4
    包括治療の実際 Case 5
    包括治療の実際 Case 6
    包括治療の実際 Case 7
   ・ミニインプラントを使用した顎間固定
    包括治療の実際 Case 8
   ・上顎前歯部の審美性に関する評価事項
症例集
 Class I Non-Ext
  正中離開を伴う過蓋咬合症例(佐奈正敏)
 Class I Ext
  補綴治療を考えた末にリンガルブラケット矯正法に移行した叢生症例(宇津照久)
  上顎前歯部の唇側傾斜を伴う叢生症例(重枝 徹)
  上下顎前歯部の叢生を伴う上下顎前突症例(市川充男)
  上顎右側乳犬歯の晩期残存を伴う叢生抜歯症例(上野拓郎)
  上下顎前歯部叢生を伴う過蓋咬合症例(竹元京人)
  叢生を伴う上下顎前突症例(竹元京人)
  叢生を伴う上下顎前突症例(古谷直樹)
  著しい歯槽性の上下顎前突症例(橋場千織)
  前歯部交叉咬合を伴う叢生症例(吉田哲也)
 Class II-1 Ext
  上下顎前突を伴うローアングル症例(小川晴也)
  上顎前歯部の著しい唇側傾斜を伴う開咬症例(酒井昭行)
  上顎犬歯低位唇側転位を伴う叢生症例(酒井昭行)
  著しい唇側傾斜を伴う上顎前突症例(相澤一郎)
  上下顎前歯部の叢生を伴う上顎前突症例(古谷直樹)
 Class II-2 Ext
  上顎片顎抜歯の叢生症例(義澤裕二)
  著しい叢生を伴う過蓋咬合症例(佐奈正敏)
 Class III Non-Ext
  上顎前歯部の叢生を伴った反対咬合症例(義澤裕二)
  ミニインプラントを使用した顎偏位を伴う開咬症例(布川隆三)
 Class III Ext
  上下顎の叢生を伴う反対咬合症例(椿 丈二)
  著しい叢生を伴う切端咬合症例(松野 功)
 OPEN BITE
  上下顎前歯部叢生を伴う開咬症例(椿 丈二)
  ハイアングルに起因するオトガイの後退と前歯部の開咬を呈する叢生症例(宇津照久)
  ハイアングルを伴った骨格性II級症例(相澤一郎)
 UNUSUAL
  側方歯部開咬を伴う叢生症例(吉田哲也)
  下顎枝矢状骨切り術を併用した骨格性反対咬合症例(重枝 徹)
  下顎枝矢状骨切り術を併用した下顎前歯部先天性欠如を伴う下顎前突症例(酒井昭行)

 参考文献
 索引