やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 歯の喪失原因として,歯周病は齲蝕とともに口腔領域における2大疾患と称されてきましたが,齲蝕が減少傾向を示す一方で,歯周病はいまだ高い有病率を示しています.ところで,近年の歯周病学に関する研究の進展とエビデンスの集積によって,歯周病が糖尿病や心血管系疾患,また早期低体重児出産や呼吸器疾患などと深い関連性があることが明らかとなり,歯周病と全身疾患との関連が大きな注目を集めています.さらに,医療界におけるゲノム研究の発展によって,歯科界においてもゲノムにかかわる歯周病の検索が進められ,歯周病の発症機構の遺伝子レベルでの解明,リスク遺伝子を有する個人の生活習慣への介入による1次予防などが可能になることが予測されています.
 このように近年,歯周病学における基礎分野での研究の進展に伴い,歯周療法の開発が期待されています.そこで日本歯周病学会では,歯周病の予防,治療を通して国民の健康な生活を確保するための各種ガイドライン,たとえば『歯周病の診断と治療の指針─2007』『歯周病の検査・診断・治療計画の指針─2008』を作成して,国民にわかりやすい治療法の手引きを提示してきました.また,歯科医師の育成のために,学会認定による歯周病認定医,歯周病専門医制度を設けるなど,さまざまな活動を行っています.認定歯科衛生士制度もその一環であり,本学会では,歯科医師がよりよい歯周病治療を行う際のよき治療協力者として歯科衛生士をとらえ,歯科衛生士の専門的知識と技術を確保し,歯周病治療の発展及び向上を図り,国民の口腔保健の増進に貢献することを目的として,「日本歯周病学会認定歯科衛生士制度」を2005年に発足しました.
 本書は,この認定歯科衛生士制度をより普及させ,コデンタルスタッフとしてより多くの優秀な歯科衛生士を誕生させるための手引き書です.そこで,認定歯科衛生士試験(1症例についてケースプレゼンテーションを行い,試験委員による口頭試問を受ける)において,その症例を通して口頭試問される歯周病学ならびに治療に関する基礎的事項を,1章「歯周治療と歯科衛生士」から8章「歯周病と全身疾患や加齢についての基礎知識」で整理しました.一方,9章「症例のまとめ方とプレゼンテーション」では,認定歯科衛生士試験で行うケースプレゼンテーションのために,上手な症例のまとめ方のカンどころを掲載しました.
 本書が十分に活用されて多くの優秀な認定歯科衛生士が誕生し,歯科医師とともに歯周病の予防・治療を通して国民の健康な生活に寄与してくださることを願ってやみません.
 2009年8月
 特定非営利活動法人日本歯周病学会 前理事長 山田 了
1章 歯周治療と歯科衛生士(伊藤公一・高阪利美)
 1 歯周病とは
  1 歯周病の定義
  2 歯周病の罹患状況
  3 歯周病の分類
  4 生活習慣病
  5 リスクファクターとしての歯周病
 2 歯周治療の流れと歯科衛生士の役割
  1 歯周治療における歯科衛生士
  2 歯周治療の流れと役割
 3 認定歯科衛生士とは
  1 目的
  2 認定歯科衛生士までの道のり
  3 認定資格の更新
  4 認定を取得した歯科衛生士
 4 歯周治療と保険診療
  1 保険診療と自由診療
  2 歯科における保険診療
2章 歯周病患者への医療面接と検査(野村正子・川浪雅光)
 1 医療面接の基本と押さえておくべき患者の情報
  1 医療面接とは
  2 医療面接の基本
  3 押さえておくべき患者の情報
 2 歯周組織検査の方法と得られる情報
  1 プロービングによってわかること
  2 口腔衛生状態を把握する
  3 歯の動揺度を調べる
  4 根分岐部病変を探る
  5 プラークリテンションファクターを把握する
 3 規格性のある口腔内写真の必要性と撮影法
  1 規格性のある口腔内写真の必要性
  2 撮影法
  3 よい写真のイメージ
  4 撮影時の姿勢と撮影に用いる機材
 4 エックス線写真からわかること
  1 歯周治療で用いられるエックス線写真
  2 デンタルエックス線写真の読影の基本
  3 読影上の注意点
 5 咬合性外傷の診査
3章 治療計画と歯科衛生士の関わり(小田 茂・坂井雅子・岩崎剣吾・秋月達也)
 1 歯肉炎
  1 歯肉炎の治療
  2 症例
 2 軽度慢性歯周炎
  1軽度歯周炎の治療
  2症例
 3 中等度慢性歯周炎
  1 中等度歯周炎の治療
  2 症例
 4 重度慢性歯周炎
  1 重度歯周炎の治療
  2 症例
 5 侵襲性歯周炎
  1 侵襲性歯周炎の治療
  2 症例
 6 咬合性外傷
  1 咬合性外傷の特徴
  2 咬合性外傷の治療
4章 歯周基本治療を成功させるためのポイント(鈴木基之・鍵和田優佳里)
 1 モチベーションをアップさせるためのコツ
  1 患者とは
  2 コミュニケーションとは
 2 歯周病患者にしてもらうこと
  1 患者のプラークコントロールを向上させるには
  2 生活習慣を改善してもらう
 3 歯科衛生士による炎症のコントロール
  1 専門家による口腔清掃
  2 SRPをマスターする
  3 歯周治療に活かすPMTC
  4 局所薬物配送システムの応用と留意点
5章 サポーティブペリオドンタルセラピーとメインテナンス(村上恵子・秋月達也・和泉雄一)
 1 歯周病における再評価・病状安定と治癒
  1 再評価
  2 病状安定と治癒
 2 サポーティブペリオドンタルセラピー
  1 サポーティブペリオドンタルセラピーとは
  2 SPTの内容
  3 歯科衛生士がSPT施行時に留意すべき臨床ポイント
  4 歯周組織検査結果に基づいた対応の実際
 3 メインテナンス
  1 メインテナンスの意義
  2 メインテナンスの内容
  3 歯科衛生士がメインテナンス施行時に留意すべき臨床ポイント
  4 もう一つのキーポイント
6章 歯周外科治療とアシスタントワーク(澁谷俊昭)
 1 患者に伝えるべきこと
  1 歯周外科治療についての理解
  2 術前の説明
 2 手術をスムーズに行うためのアシスタントワーク
  1 術前の準備
  2 術中のアシスタントワーク
  3 術後の処置
7章 インプラント治療(申 基普E林丈一朗)
 1 インプラント治療の利点と注意点
  1 インプラントシステム
  2 インプラント周囲組織の特徴
  3 歯周治療におけるインプラント治療の利点
  4 インプラント治療の適応症
  5 インプラント周囲炎
 2 インプラント治療の実際とアシスタントワーク
  1 インプラント治療の流れ
  2 術前検査
  3 インプラント埋入(一次)手術
  4 二次手術
  5 インプラント補綴処置
 3 インプラントのメインテナンス
  1 インプラント治療後のメインテナンス
  2 メインテナンスの内容
8章 歯周病と全身疾患や加齢についての基礎知識(西村英紀・河野隆幸・吉江弘正・山本幸司・古市保志・佐藤 聡・柴正悟・曽我賢彦)
 1 糖尿病
  1 急激に増加している糖尿病
  2 糖尿病の基礎知識
  3 歯周治療が糖尿病に影響を与えるメカニズム
  4 糖尿病患者の歯周治療
 2 循環器系疾患
  1 循環器系疾患とは
  2 循環器系疾患の基礎知識
  3 循環器系疾患と歯周病のかかわり
  4 歯科治療時の歯科衛生士の役割
  5 治療上注意すべき点
 3 早産・低体重児出産
  1 早産・低体重児出産とは
  2 歯周病との関連
 4 喫煙
  1 喫煙による生体への影響
  2 歯周病に対する喫煙の影響
 5 加齢変化
  1 高齢化が進行する社会における歯科衛生士の役割
  2 高齢者の口腔に関係する加齢変化
  3 高齢者の歯周治療
9章 症例のまとめ方とプレゼンテーション(鈴木基之・茂木美保)
 1 情報の収集と整理
  1 主観的情報
  2 客観的情報
 2 プレゼンテーションの基本
  1 プレゼンテーションで考慮する三つのP
  2 プレゼンテーションの準備
 3 ケースプレゼンテーションの実際
  1 パワーポイントの使い方
  2 リハーサルとスライドの修正
  3 合格へ導くケースプレゼンテーションのテクニック
コラム
 初めて義歯装着する患者への指導のポイント(坂井雅子)
 歯科における禁煙指導のポイント(坂井雅子)
 インプラントのスケーリング(申 基普E林丈一朗)
 歯周病と糖尿病の関係について(文献的考察)(西村英紀・河野隆幸)
 高血圧症患者で歯肉増殖がある場合は,薬を変更してもらう必要がありますか?(吉江弘正・山本幸司)
 妊娠中に歯周治療を行ってもよいか?(古市保志)
 妊娠性歯肉炎の原因とその対処法は?(古市保志)
 特別養護老人ホーム入所者に口腔ケアを行うことで誤嚥性肺炎を予防できるか?(高柴正悟・曽我賢彦)
 より表現力豊かなスライドを作成するには(茂木美保)
 合格が遠のくケース〜失敗した受験生から学ぶ〜(茂木美保)

 索引