やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 質の高い補綴臨床を遂行するには,高い機能性を有し,そしてこの機能が長期にわたり持続する補綴物を患者さんに提供しなければなりません.そのためには,正しい知識と技術をもって各臨床ステップを正確・緻密に行い,精密な補綴物を作製,そして最終補綴物装着後には適切にメインテナンスを行うことが重要です.
 しかしながら,実際の臨床では治療中あるいは補綴物装着後に予期せぬ何らかのトラブルに遭遇し,悩まされることが多々あります.さらにトラブルの中には経年的な材料の劣化や生体側の変化など避けることの難しい事項が存在することも事実です.予期せぬトラブルに対しては冷静に対処し,正しくリカバリーすれば,治療の質を保つことができます.また避けることのできない事項については,補綴物装着時に患者さんに将来起こりうる内容を十分に説明し,定期的に歯科医院を受診するよう指導し対処する必要があります.事前に説明することにより,患者さんに安心感を与え,信頼も厚くなるものと思います.
 このような背景のもと,本別冊では「補綴臨床のトラブルシューティング」と銘打ち,Part1クラウンブリッジ編,Part2インプラント編,Part3デンチャー編と大別し,それぞれ頻繁に起こりうるトラブルの原因とその解決法について,臨床例と理論的根拠を提示しながら解説しています.クラウンブリッジ編では緊急処置,印象,形成,ホワイトニング,プロビジョナルレストレーション,支台築造,装着,インプラント編では緊急処置,印象,デンチャー編では製作過程,装着時,装着後,メインテナンス時と,多種多様なトラブルをそれぞれ分類し検索しやすくしました.できるだけ多くの項目を解説するため,トラブルの原因と解決法を中心に簡潔にまとめ,さらに種々の原因が複雑に絡んでいる項目につきましては詳細な解説を心がけました.また内容によっては,トラブルを防ぐための適切な患者指導や材料の取り扱い方についての説明も加えています.その結果,本書では合計86項目のトラブルについて取り上げ,計66名の学識および臨床経験豊富な先生方に執筆していただき,充実した内容にすることができました.とくにトラブルに関しては一般の成書では詳細に記載されていないことが多く,この観点からも本書の利用価値は高いものと考えます.
 最後に,ご多忙の折にもかかわらず,快くご執筆していただきました多くの著者の先生方に深く感謝申し上げます.
 本書は,研修医をはじめ歯科医師になって間もない先生方はもちろん,ベテランの先生方や学生さんにも,有益な座右の書となり,明日からの臨床に役立つものと確信しています.
 2011年5月
 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科歯科補綴学分野
 村田比呂司
 東京都千代田区・土屋歯科クリニック&works
 土屋賢司
 1 序文
Part1 クラウンブリッジ編
 Chapter1 緊急処置
  1.クラウンのポストごとの脱離・脱落(坪田有史)
  2.セラミックインレーの破折・脱離(貞光謙一郎)
  3.術後の咬合痛(新藤有道)
  4.補綴物周囲歯肉の腫脹,疼痛(松本邦夫)
 Chapter2 印象にまつわるトラブル
  1.マージンが出ない(新藤有道)
  2.圧排コードが巻けない(新藤有道)
  3.圧排コードの選択(新藤有道)
  4.圧排コードが印象材にくっついてくる(西山英史)
  5.印象が固まっていない(西山英史)
  6.出血でうまく印象がとれない(中田典光)
  7.シリコーン印象時に印象材が外れなくなった(加部聡一)
  8.印象の変形(トレーの選択) (加部聡一)
  9.気泡が入る,フローがよすぎて流れてしまう(内山徹哉)
  10.印象面の荒れ(山崎 治)
  11.印象材のギャップ(山崎 治)
 Chapter3 形成にまつわるトラブル
  1.辺縁歯肉,鬆ー粘膜へのダメージ(松本邦夫)
  2.除金属の歯肉への迷入(加部聡一)
  3.形成後の知覚過敏(中田典光)
 Chapter4 ホワイトニングにまつわるトラブル
  1.術後の予測がたたない(西山純加)
  2.白くならない(西山純加)
  3.痛みの対処(西山純加)
  4.歯肉がただれてしまった(西山純加)
 Chapter5 プロビジョナルレストレーションにまつわるトラブル
  1.歯肉の炎症がとれない(松尾幸一)
  2.ポーセレンラミネートべニアのプロビジョナルが取れる,色調が悪い(大河雅之)
  3.すぐ割れてくる(原田和彦)
  4.すぐすり減る(原田和彦)
  5.ウォッシュの際,レジンが固まらない/プロビジョナル表面になじまない(構 義徳)
  6.ウォッシュをしたら,取れなくなってしまった(構 義徳)
 Chapter6 支台築造にまつわるトラブル
  1.ファイバーポストの脱離(天川由美子)
  2.レジン支台築造のポイント(天川由美子)
  3.支台歯天然歯部の変色(天川由美子)
  4.オールセラミッククラウンの透過性への影響(坪田有史)
  5.歯根破折(坪田有史)
  6.メタルコアの取り方(内山徹哉)
 Chapter7 補綴装着時にまつわるトラブル
  1.歯肉の変色とブラックマージン(北原信也)
  2.コンタクトがすいている(松川敏久)
  3.咬合が低い(松川敏久)
  4.クラウンとポーセレンラミネートべニアとの色調の違いをどのように調和させるか(大河雅之)
  5.仮着中のクラウンが取れない(松川敏久)
  6.セメンテーションによる浮き上がり(松川敏久)
  7.ポーセレンラミネートベニアのセメンテーション(貞光謙一郎)
  8.ブラックトライアングルへの対応(日高豊彦)
  9.ブリッジが入らない(メタル・ジルコニア)(松尾幸一)
Part2 インプラント編
 Chapter1 緊急処置
  1.ヒーリングアバットメント装着時のフィステル(白鳥清人)
  2.インプラント補綴装着後のスクリューの緩み(白鳥清人)
  3.上部構造の破折・ポーセレンのチップ(植松厚夫)
  4.スクリューの破折(植松厚夫)
 Chapter2 印象にまつわるトラブル
  1.インプラントの印象採得について(林 丈裕)
  2.アバットメント装着後の最終印象(日高豊彦)
  3.インプラント埋入角度による印象採得における問題への対応(日高豊彦)
Part3 デンチャー編
 Chapter1 製作過程のトラブル
  1.印象採得時の注意点(阿部泰彦,赤川安正)
  2.嘔吐反射の強い患者の印象採得(木原優文,山ア 陽,古谷野 潔)
  3.フラビーガムを有する患者の印象採得(西 恭宏,長岡英一)
  4.咬合が不安定な患者の咬合採得(丸山浩美,長岡英一)
  5.陟沂`歯試適時の咬合のずれ(鈴木哲也,小林琢也)
  6.重合時のトラブル-レジン内部の気泡-(福井淳一,今井秀行,村田比呂司)
  7.金属アレルギー患者の義歯(黒木唯文,村田比呂司)
 Chapter2 装着時のトラブル
  1.義歯装着時の咬合のずれ(鈴木哲也,古屋純一)
  2.セット時,部分床義歯の装着が困難(佐藤裕二,北川 昇)
  3.義歯装着による嘔吐反射(本釜聖子,永尾 寛,市川哲雄)
 Chapter3 装着後のトラブル
  1.義歯床の破損(橋 裕)
  2.人工歯の破折,脱落,咬耗(橋 裕)
  3.クラスプの破損,大連結子の破損(橋 裕,清水博史)
  4.義歯使用中の咬合音(黒田知沙,丸尾幸憲)
  5.咀嚼時の疼痛,食品の咀嚼ができない(金澤 学,佐藤佑介,水口俊介)
  6.部分床義歯の維持安定の不良(佐藤裕二,北川 昇)
  7.会話や咀嚼中の上顎全部床義歯の脱落(秋葉徳寿,水口俊介)
  8.会話や咀嚼中の下顎全部床義歯の浮き上がり(飼馬祥頼,水口俊介)
  9.鉤歯の疼痛,動揺,喪失(木原優文,坂本佳名子,古谷野 潔)
  10.部分床義歯への食物残渣の混入(阿部泰彦,赤川安正)
  11.装着した義歯で話しにくい(洲脇道弘,皆木省吾)
  12.義歯装着後,顎関節部に違和感や疼痛が生じた(鱒見進一,槙原絵理)
  13.義歯装着による味覚障害(兒玉直紀,皆木省吾)
  14.義歯装着による下口唇のしびれ感(西村正宏,村田比呂司)
  15.補強線を応用しても破折を繰り返す義歯(佐藤裕二,北川 昇)
  16.義歯性線維症への対策(阿部泰彦,赤川安正)
  17.オーバーデンチャーの破折(長岡英一,丸山浩美,西 恭宏)
  18.マグネットデンチャーに関するトラブルと注意点(鱒見進一,槙原絵理,河野稔広)
  19.義歯による咬傷(咬頬,咬舌)(木原優文,島田 昂,古谷野 潔)
 Chapter4 メインテナンス時のトラブル
  1.ティッシュコンディショナーに関するトラブル(村田比呂司)
  2.リラインに関するトラブル(村田比呂司)
  3.リベースに関するトラブル(鱒見進一,有田正博,永富勝広)
  4.義歯洗浄剤に関するトラブル(二川浩樹)
  5.義歯安定剤の誤使用による弊害(村田比呂司,濱田泰三)
  6.義歯のセルフケア(東岡紗知江,永尾 寛,市川哲雄)
  7.義歯のプロケア(柏原稔也,後藤崇晴,市川哲雄)