やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 昨今のデジタル化に伴い,さまざまな情報が「0」と「1」の2進数で扱われ,グローバルネットワークによって瞬時に世界中に転送することも可能になっている.歯科界においても,デジタル技術は診査・診断をはじめとして,審美補綴や技工作業における労力軽減にも活かされている.
 しかしながら,そのような現代にあって,歯科臨床の現場においては,わずか数十mmほどの補綴物を製作し,患者の口腔内に装着する過程の中で「なぜ,補綴物が高く仕上がってしまうのか?」「どのようにすれば,適合精度が向上するのか?」といった,ある意味でアナログな悩みを抱え続けている.そして,このような疑問に対して的確な回答を用意できる歯科医師や歯科技工士も,決して多くはないように感じる.その結果,チェアサイドでの調整という非生産的な作業によって術者を悩ませたり,不本意なまま補綴物が装着されていたりするという現実もある.
 現状においては,精密な補綴物ほど間接法による製作に頼らざるをえないのであるが,その際の“原点”としての石膏模型は生体を正確に模倣しているわけではなく,さらに使用される多くの材料や各作業工程にも,誤差はつきものである.すなわち,精密な補綴物を求めて間接法を採用しながら,それらの誤差によって必ずしも期待(要求)される結果が得られていないという,皮肉にも逆説的な結果となっている.
 当然,補綴物製作時に生じる誤差のつけは,チェアサイドでの調整量として否応なく現れる.それゆえチェアサイドでは「誤差の発生要因」に関する知識を得ることで問題解決の糸口を見つけやすくなり,ラボサイドでは「生体の挙動」を知ることで歯科医師と同じ目線でコミュニケーションや補綴物の評価を行うことができると考えた.そこで本書では,『“誤差”を埋めるクラウンブリッジの臨床・技工』との標題のもと,それらの対策の体系化を試みた.
 Part1では誤差発生の諸要因を分類し,「機能時の生体の挙動」や「使用材料による誤差」について解説した.
 Part2では「作業用模型製作時の注意点や技法」「咬合器装着.研磨までの技工作業の要点」「歯科医師とのコミュニケーション法」など,ラボサイドワークから誤差を埋める術式を紹介した.
 Part3では,ハイレベルな補綴物製作に従事する歯科技工士諸氏による「チェアタイムの短縮に寄与する取り組み」をアトラス形式で供覧した.
 本書は知識偏重の机上論的な書ではなく,実践で役立つ書を目指した.本書が読者諸氏にとって「目から鱗」となり,自分の臨床技工にさっそく取り入れたいとの意欲が湧き上がる一冊となることを目標に編集にあたった.その結果としてチェアサイドでの調整量を可及的に減らし,チーム医療への貢献に資する「困ったときの紙(神)頼み」として,診療室や技工室の傍らに備えられんことを願って止まない.
 大山儀三 大山デンタルラボ
 玉置博規 デンタルラボ玉置
Part1 間接法における誤差発生の諸要因
 生体の挙動と材料の物性に起因する誤差の検証(大山儀三)
Part2 “誤差”を埋めるラボサイドワーク
 1.作業用模型製作
  (1) 作業用模型製作の基礎知識と注意点(玉置博規・堀内治彦・福島恵美子)
  (2) 分割復位式模型(小須田 満)
  (3) 副歯型式模型(大山儀三)
  (4) ジロフォーム模型(久野富雄)
  (5) 貼付型模型(金井正行)
 2.模型調整
  バイト材による誤差の解消法(大山儀三)
 3.咬合器装着,ワックスアップ,鋳造・埋没,研磨
  工程ごとの誤差を縮めるための取り組み(青木啓高)
 4.ラボサイドを起点としたチェアサイドとのコミュニケーションメソッド
  歯科医師に情報と意図を的確に伝えるための取り組み(玉置博規)
  Column その模型は正確で,しかも安全か?(今牧 謙)
Part3 CASE PRESENTATION
 1.前歯部症例
  プレスセラミックスの精度と色調再現(赤坂政彦)
 2.前歯部,臼歯部症例
  前歯部,臼歯部の隣接面コンタクトの調整法(小澤達也)
 3.インプラント全顎補綴症例
  インプラント治療における誤差低減のためのデジタルツールの活用(志田和浩)
 4.咬合印象法を用いた症例
  バイトトレーを用いたワンステップでの咬合印象法(榎本耕一)
 5.鑞付けを行ったインプラント補綴症例
  プロビジョナルレストレーションを活用した取り組み(五十嵐 智・江川朋宏・柏原智章)