やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 「どうせ歯科医になったのなら,ちゃんとした歯医者になりなさい」――90 歳になろうという榊原悠紀田郎先生(故人)はそのとき“さらり”と言い切った.
 「歯科医としての生涯研修とはそう言うことなんだよ」――頷きながらもしばらく,“ちゃんとした”歯科医とはどんな顔をしているのか考えてみたが浮かばなかった.
 先生にも聴けずにお別れすることになってしまった.生涯研修だから目標へは到達しなくても許されるのかもしれない.到達してしまうと生涯研修の行き場が失われる.自分なりの“ちゃんとした”を創っていく過程こそが生涯研修という道行きなのかもしれない.
 先生の言葉を聴いたときはすでに還暦を過ぎてしまっていた.もう少し,いやいやもっともっと若いときに聴きたかった.でも待てよ,卒直後に聴けたとして,その言葉をうまく受け止められただろうか.還暦は耳順,他人の言葉を素直に受け入れられるようになる年だそうだ.卒直後ではそうはいくまい.
 生涯研修の最大のネックはそこにある.
 「日暮れて始めて先輩の言葉の大きさを知るが,最大のチャンスであったはずの卒直後には,多くのアドバイスを自分とは無縁か遠い話として聞き流してしまう.まだちゃんとした歯医者ではないかもしれないが,そのうちにそうなるだろう,どちらに向かってどうやって一歩を踏み出すか,あまり関心がない,時間はたっぷりある」――これは若かった頃を思い出しての自己懺悔だが,だいたいそんなものだろう.
 本別冊に登場する編者や執筆者は東京歯科大学同窓会主催の若手歯科医師を対象としたセミナーにおいて指導的立場で携わっているメンバーであり私より一回りも二回りも若い世代だが,早い時期からそして正面から自己研鑽に向き合ってきたメンバーだ.そして誰も皆,臨床をレベルアップさせるのは【X線写真・口腔内写真・プレゼンテーション】の3 つだと異口同音にいう.単に自分たちの昔話ではない,卒後研修セミナーや症例検討会など長年後輩をサポートしてきての実感なのだ.ここからスタートすれば「ちゃんと」に近づくと保障してくれている.
 この別冊を創り上げた執筆者たちの気持ちを代弁すると,読んだままではなく,ぜひ臨床で生かしてほしい.そしてその成果を次の後輩に伝えてほしい.
 “ちゃんとした“歯科医には“後輩を支援”していくことも含まれているはずだからだ.
 2016 年11 月 編者を代表して
 宮地建夫
Part1 臨床記録
 デンタルX線写真の撮影・現像・管理(鷹岡竜一)
  デンタルX線写真は何のために撮影する?
  このデンタルX線写真,何が問題?
  デンタルX線写真では何を見るの?
   Column 01 デンタルX線写真の規格性を求めて
 パノラマX線写真の撮影・現像・管理(藤関雅嗣)
  パノラマX線写真では何が見える?
  何でこんなパノラマX線写真に?
 口腔内写真の撮影・管理(野嶋昌彦)
  口腔内写真は何のために撮るの?
   Column 02 口腔内写真撮影に必要な機材を知ろう
  どうしてこんな写真に……?
   Column 03 「 絞り」を見直しましょう
   Column 04 5 枚法の撮影を確実にできるようにしましょう
 こんなときは高次医療機関へ紹介します(野正行,藤関雅嗣)
 CT画像を効果的に活用しよう(藤関雅嗣)
 歯科用デジタルX線画像システムとどう向き合うか(小林 顕)
 《座談会》臨床記録は何のために(宮地建夫,藤関雅嗣,野嶋昌彦,山本雅通,鷹岡竜一)
Part2 プレゼンテーション
 プレゼンテーションの心得(鷹岡竜一)
  プレゼンテーションは何のために?
  プレゼンテーションをやってみよう
   「1 枚の口腔内写真から」
   「1 枚のX線写真から」
   「10 年が経過した,咀嚼を観察した一症例」
 プレゼンテーション実地指導(藤関雅嗣,野嶋昌彦,鷹岡竜一,山本博貴,山本茂樹)
   「インプラントによる咬合支持の獲得と欠損の分類を再考した症例」
   「垂直性骨吸収に対してGTR法を応用した慢性歯周炎患者の一症例」
 《座談会》症例報告は何のために(宮地建夫,藤関雅嗣,野嶋昌彦,山本雅通,鷹岡竜一)
   Column 05 症例報告から何が得られるか
Part3 生涯研修
 《座談会》若い歯科医師へ(宮地建夫,藤関雅嗣,野嶋昌彦,山本雅通,鷹岡竜一)

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