やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 保健・医療・福祉・教育をはじめ,NPO,住民活動,組織管理,地域計画,行政,国際支援などにおいても,当事者主体のケア推進のキーワードとして,エンパワメントが大いに注目されている.本書はこれを関係性の視点から意味付け,ケア技術として展開する一助とすることを意図している.すなわち,当事者の力を引き出すコミュニケーション,当事者参加型チームワーク,ネットワーク形成などの技術を体系的に整理し,実践への活用を図るものである.
 エンパワメントは,ひとことで言えば「元気にすること」「力を引き出すこと」,そして「好奇心を共感ネットワークでつなぐこと」である.自らの力を発見し,新鮮な気持ちでものごとに出会い,驚きを感じる「知ることへの情熱:好奇心」の発展型である.仲間の力を感じつつ,好奇心,すなわち知のエネルギーがつながり,互いに増幅し協働する仕組みがエンパワメントである.
 そもそもケアとは,世話する,大切にする,関心,配慮,気遣い,などを意味する.人間を含め生命の営みすべて,さらには環境や生物以外のものに対しても「慈しむ働き」がケアである.ある意味では,「思いやりのエネルギー」の共有と言えよう.当事者主体チームワーク・ケアの基盤はここにある.それを活性化するのがエンパワメントである.
 ケア科学とは,ケアに関する普遍的な法則性を追求すること,経験的あるいは実証的な合理性を明らかにすることである.いわば,ケアのまなざしで捉えた日常生活の奥に潜む,人間や自然の法則を解読することがケア科学である.
 一方ケア技術とは,その解読した知識を,日々の生活の中で実際に適用できるよう,実践を通じて効率化することである.つまりケア技術とは,実践するために単純化したケア科学といえよう.
 本書では,ケア科学のひとつの切り口として,当事者をケアチームの一員として,共感ネットワークによりパワーアップするエンパワメントを取り上げる.
 本書は,理論の実践活用に向けた3部構成になっている.
 第I部ではエンパワメントとは何かを,理論に基づき整理し,セルフ・エンパワメント,ピア・エンパワメント,コミュニティ・エンパワメントについて説明した.
 第II部ではエンパワメントの技術について,創造・適応・維持・発展の段階別に,またコミュニケーション,チームワーク,マネジメント,評価,ネットワークの各機能に焦点を当てて解説した.
 第III部ではエンパワメント技術適用の具体例として,われわれが15年間取り組んできた地域ケアのエンパワメントへの活用の実例を示した.
 これは,実践から得られたエキスをフレッシュなまま束ね,今後の理論と実践展開への議論の礎石となることを意図したものである.
 本書が,ケアに携わるすべての人にとって,スキルを磨く上での何らかのエンパワメントのきっかけとなれば幸いである.
 2004年8月 安梅勅江
当事者主体チームワーク・ケアの技法 もくじ

■I エンパワメントとは何か
第1章 エンパワメントとは
 第1節 理論背景
 第2節 エンパワメントの原則
 第3節 エンパワメントのキーワード
第2章 エンパワメントの過程
  エンパワメントの必要性に関する把握
  アセスメントとケアプランの作成
  当事者のセルフ・エンパワメントへのサポート
  連携・調整・ネットワーク(ピア・エンパワメント,コミュニティ・エンパワメントへの展開)
  モニタリング・評価
第3章 エンパワメントの評価
 第1節 エンパワメントの評価とは
 第2節 エンパワメントの成果評価
 第3節 エンパワメントの過程評価
第4章 エンパワメントの種類
 第1節 セルフ・エンパワメント
  セルフ・エンパワメントとは
  セルフ・エンパワメントの方法
 第2節 ピア・エンパワメント
  ピア・エンパワメントとは
  ピア・エンパワメントの方法
 第3節 コミュニティ・エンパワメント
  コミュニティ・エンパワメントとは
  コミュニティ・エンパワメントの方法
第5章 エンパワメントの関連理論
 第1節 システム理論
 第2節 動機付け理論
 第3節 意思決定理論
 第4節 グループダイナミクス(集団力学)理論
 第5節 マネジメント理論
  トップマネジメント論
  近代管理論
  管理者行動論
 第6節 組織理論

■II エンパワメントの技術
第6章 段階別・機能別エンパワメント技術の考え方
  「創造」段階
  「適応」段階
  「維持」段階
  「発展」段階
第7章 段階別エンパワメント技術
 第1節 創造エンパワメント技術
  目標・戦略創造技術
  過程・組織創造技術
  情報創造技術
  効率創造技術
  成果創造技術
 第2節 適応エンパワメント技術
  目標・戦略調整技術
  過程・組織調整技術
  情報調整技術
  効率調整技術
  成果調整技術
 第3節 維持エンパワメント技術
  目標・戦略遂行技術
  過程・組織遂行技術
  情報追求技術
  効率追求技術
  成果追求技術
 第4節 発展エンパワメント技術
  目標・戦略展開技術
  過程・組織展開技術
  情報統合技術
  効率統合技術
  成果統合技術
第8章 機能別エンパワメント技術
 第1節 目標・戦略エンパワメント技術:コミュニケーション
 第2節 過程・組織エンパワメント技術:チームワーク
 第3節 情報エンパワメント技術:ネットワーク
 第4節 効率エンパワメント技術:マネジメント
  エンパワメント技術におけるマネジメントの種類
  ケアマネジメントとは
  エンパワメント技術としてのケアマネジメントの特徴
 第5節 成果エンパワメント技術:評価
  エンパワメントにおける評価の考え方
  エンパワメントにおける評価の過程
  エンパワメントにおける評価の方法

■III エンパワメント技術適用の具体例
第9章 地域ケアのエンパワメント
 第1節 創造エンパワメント
 第2節 適応エンパワメント
 第3節 維持エンパワメント
 第4節 発展エンパワメント
  個の領域
  相互の領域
  地域システムの領域
今後の展開に向けて
Column
  エンパワメントは力量と学習のたまもの
  ホリスティック・ケアとエンパワメント
  期限なくしてエンパワメントなし?

 謝辞
 参考文献
 索引